新海誠監督による、東日本大震災に影響を受けた映画の第2弾です。
前作の「君の名は。」(2016年)、そして次作の「すずめの戸締まり」(2022年)で一区切りします。
本作では「雨」がもたらす災害が描かれます。
集中豪雨、線状降水帯による水害など、毎年のように日本各地で雨による災害が起きています。
映画では、そうした災害を乗り越えていく姿を描いており、映画の副題にもその思いを込めています。
『天気の子』の副題である「Weathering With You」の「weather」は、「天気」だけではなく、「嵐や困難を切り抜ける」という意味もあり、『Weathering With You』には、「厳しい天候や困難を一緒に乗り越えよう」、という思いが込められています。
https://weathernews.jp/s/topics/202012/240115/
感想/コメント
バケツをひっくり返したような土砂降りの雨が毎年のように起きています。
雨をもたらす雲には、どれくらいの水が含まれているのかというと、ちょっとした沼や湖程度の水を含んでいるようです。
「天気の子」で気象の監修をした、 気象庁 雲研究者の荒木健太郎さんに聞いてみると、「本当です。雲の大きさにもよるんですけど茨城県の牛久沼ですとか千葉県の手賀沼とか、そのぐらいの貯水量と同じです。1つの発達した積乱雲の中に含まれている水の量は最大で600万トンあるというような研究もあります」と説明してくれた。
https://www.mbs.jp/mbs-column/maetoato/archive/2019/09/02/018257.shtml
それが一気に降れば、どのような事態になるのかは容易に想像がつきます。
一気に降らなくても、シトシトと長く降り続けば、それはそれで深刻な被害を生みます。
そして、年単位で雨が降り続けば、人は住めなくなるのではないか、と思いながら映画を見ました。
ちょうど前作『君の名は。』が上映された2016年の暑かった夏あたりから、『これからは、天気は楽しむだけのものではなくなってしまうだろう』と、不安や怖さを実感したのを覚えています。『天気の子』では、そういう今まさに激しく変化している気象現象を、どうやってエンタテイメントの形の中で扱うことができるだろうと考えました。
そんな世界をつくってしまった僕たち大人には間違いなく責任の一端がある。でも気象という現象はあまりに大きすぎて、個人としてはどうしても不安感や無力感に右往左往するだけになってしまう。でも、これからの人生を生きていく若い世代の人たちまで、大人の抱える憂鬱を引き受ける必要はないと思うんです。
異常気象が常態化している世界で生きていく世代には、それを軽やかに乗り越えて向こう側に行ってほしい。帆高と陽菜のように、力強く走り抜けて行ってほしいという思いを伝えたかったんです
https://weathernews.jp/s/topics/202012/240115/
「雨」に込めた意味
映画では雨が降り続け、一部の地域は水没してしまって、住めるような状況ではなくなります。
水没しなくても、雨しか降らない所では人は住めないと思うのですが…
さて、そうした雨は、あるものの例えだそうです。
N:そしてもう1つ。降り続ける雨は、あるものの例えでもあります。
小:降りしきる叩きつけるような雨を映像の中で見ていると、どこか時代の空気を映しているように私には見えまして。炎上という言葉が出てきて久しいですけれども、必要以上に叩かれたりとか、集中砲火を浴びて完膚なきまでに打ちのめされるという・・・
新:僕も同じようなイメージはもっていて、アニメーションの中で描くものって、やっぱりそれはただの雨ではあるんだけれども、何かの比喩だったりするんですよね。人の願いや想いというものは、誰かが制限できるわけではないと思うんですよね。でも、SNSのような「私は今怒っている、ムカついている」みたいな感情が全部透明になってしまうと、なんだか内心の自由まで侵されているような気持ちになるわけです。こういうことを考えちゃいけないんじゃないかっていう。人の内心を誰が裁けるんだろうということは作っているときにずっと考えていたんです。もちろん行動には常に責任がつきまとうし、どんなことでも許されるわけではないけれども、どんなことでも考えられる動物ではあるわけですよね。どんなことでも望むことはできる。そのことが人間の美しさだったり人間の強さにつながっているところもあると思うんです。
https://yuzubaby.hatenablog.com/entry/2020/04/29/_8
晴乞い
古来より雨乞いは世界各地で行われてきましたが、反対の晴乞いというのはあまり聞いたことはありません。
しかし、いずれの場合においても、神仏に対する「乞う」という行為は変わりません。
本作でも、鳥居という人の世界と神の世界を分ける装置を用意し、神の世界に足を踏み入れることで、特殊な力を得ます。
「君の名は。」「すずめの戸締り」においても同様のことが言えるかもしれません。
映画の時代性
映画は時代を映す鏡です。その時代の雰囲気を映像とともに後世に伝えることができるのが、映画の魅力の一つだと思っています。
新海誠監督は、この映画に2021年の東京の姿を残そうと思ったようです。
作品の舞台は2021年ですが、2020年のオリンピックが開催される前の東京についても僕は描いておきたかった。これから東京という街がよくも悪くも変わって行く前に、『今の東京』をアニメーションに残しておきたい気持ちがありました。
これまでも新宿の風景が登場する作品はありましたが、今回は新宿のほかにも有名な街がいくつも登場します。どのシーンでどの街が出てくるのかを探しながら観ていただけば『東京観光ムービー』としても楽しめるのではないでしょうか。
これは映画を観ていただいた後のことになるかもしれませんが、空を眺めたり、風が吹くのを感じたりと、天気を意識するように心がけるのもおすすめです。スマホが身近になかった僕の子ども時代は、朝、目が覚めてすることといえば、窓の外を見ることでした。
https://weathernews.jp/s/topics/202012/240115/
賛否両論
「天気の子」は賛否両論ある作品となりました。
新海監督は「この映画について『許せない』と感じる人もいるだろうと思いました。現実の世界に適用すると、主人公の帆高は社会の規範から外れてしまうわけです。弁護士の先生にもお話を聞いたんですが、法律で考えても、結構な重罪で…。帆高が空の上で叫ぶセリフも許せないし、感情移入できないという人もたくさんいると思います」と批判的な意見にも心を寄せ、「いまの社会って、正しくないことを主張しづらいですよね。帆高の叫ぶ言葉は、政治家が言ったり、SNSに書いたりしたとしたら、叩かれたり、炎上するようなことかもしれない。でもエンタテインメントだったら叫べるわけです。僕はそういうことがやりたかった」と語る。
https://moviewalker.jp/news/article/200868/
この映画を観て、不要もしく代替がありえたのではないかという違和感を感じた設定が二つあります。
ひとつは「銃」であり、もう一つは子どもだけで生活しているという設定です。
この映画に登場する「銃」は、帆高の感情の発露としての象徴なのかもしれませんが、「銃」である必要はなかったかもしれません。
そして、子どもだけで生活しているというのも、別の設定に置き換えることができたように思います。
この二つの設定が無かったとしても、この映画の根幹には影響しなかったと思います。
影響しなかったと思われるがゆえに、この二つの設定に違和感を感じたのかもしれません。
あらすじ
「あの光の中に、行ってみたかった」
https://tenkinoko.com/
高1の夏。離島から家出し、東京にやってきた帆高。
しかし生活はすぐに困窮し、孤独な日々の果てにようやく見つけた仕事は、
怪しげなオカルト雑誌のライター業だった。
彼のこれからを示唆するかのように、連日降り続ける雨。
そんな中、雑踏ひしめく都会の片隅で、帆高は一人の少女に出会う。
ある事情を抱え、弟とふたりで明るくたくましく暮らすその少女・陽菜。
彼女には、不思議な能力があった。
映画情報(題名・監督・俳優など)
監督 / 新海誠
原作 / 新海誠
脚本 / 新海誠
製作 / 市川南,川口典孝
企画 / 川村元気
プロデュース / 川村元気
エグゼクティブプロデューサー / 古澤佳寛
プロデューサー / 岡村和佳菜,伊藤絹恵
アソシエイトプロデューサー / 角南一城
アシスタントプロデューサー / 加瀬未来,堀雄太
共同製作 / 大田圭二,井上伸一郎,弓矢政法,善木準二,渡辺章仁
キャラクターデザイン / 田中将賀
絵コンテ / 新海誠
作画監督 / 田村篤
作画監督補佐 / 大橋実
演出 / 徳野悠我,居村健治
助監督 / 三木陽子
サカナ設定 / 伊藤秀次
銃設定 / 本間晃
衣装・小物設定 / 松井祐子 李周美
イメージボード / 新海誠
美術監督 / 滝口比呂志
美術監督補佐 / 渡邉丞,室岡侑奈
美術設定 / 滝口比呂志,渡邉丞,瀧野薫
気象神社絵画・天井画 / 山本二三
色彩設計 / 三木陽子
色指定検査チーフ / 吉田小百合
特殊効果 / 入佐芽詠美
CGチーフ / 竹内良貴
撮影監督 / 津田涼介
音楽プロデューサー / 成川沙世子
音響監督 / 山田陽
整音 / 山田陽
音響効果 / 森川永子
編集 / 新海誠
音楽 / RADWIMPS
主題歌 / RADWIMPS,三浦透子
制作プロデューサー / 伊藤絹恵
気象監修 / 荒木健太郎
制作プロデュース / STORY inc.
制作 / コミックス・ウェーブ・フィルム
森嶋帆高 / 醍醐虎汰朗
天野陽菜 / 森七菜
須賀夏美 / 本田翼
天野凪 / 吉柳咲良
安井刑事 / 平泉成
高井刑事 / 梶裕貴
間宮夫人 / 島本須美
須賀萌花 / 香月萌衣
スカウトマン木村 / 木村良平
カナ / 花澤香菜
アヤネ / 佐倉綾音
佐々木巡査 / 市ノ瀬加那
占いおババ / 野沢雅子
神主 / 柴田秀勝
立花瀧 / 神木隆之介
宮水三葉 / 上白石萌音
勅使河原克彦 / 成田凌
名取早耶香 / 悠木碧
宮水四葉 / 谷花音
冨美 / 倍賞千恵子
須賀圭介 / 小栗旬
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