荒木飛呂彦氏の「ジョジョの奇妙な冒険」からスピンオフした作品のドラマ化です。
3シーズンに分けてNHK総合テレビ・NHK BS4Kで放映されました。
- 第1話~第3話:2020年12月28日、29日、30日の連続放送。
- 第4話~第6話:2021年12月27日、28日、29日の連続放送。
- 第7話・第8話:2022年12月26日、27日の連続放送。
- 映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」:2023年5月26日
- 第9話:2024年5月5日
主役の岸辺露伴役には高橋一生、相棒役の編集者・泉京香役に飯豊まりえ、脚本をアニメ版「ジョジョ」を手がけた小林靖子が担当し、作中の「ピンクダークの少年」の原稿は蒼木雅彦が製作しています。泉京香の個性的なファッションはすべてオートクチュールとのことです。
岸辺露伴の名は幸田露伴からとられたようです。相棒・ヒロインの泉京香も、泉鏡花からとられたのだと思います。幸田露伴と泉鏡花は、幻想文学の大家として知られます。
荒木飛呂彦氏の「ジョジョの奇妙な冒険」には多くのアメリカミュージシャンゆかりの名前が登場しますが、岸辺露伴のスタンド「ヘブンズ・ドアー」もそうです。
ボブ・ディランのKnockin’ on Heaven’s Door(天国への扉)が由来です。カバーが多い曲で、ガンズ・アンド・ローゼズのカバー曲が有名です。
「ジョジョの奇妙な冒険」でおなじみのスタンドについては「能力」「天から頂いたもの」「ギフト」として表現されました。
このドラマのテーマの一つが「境界」です。
世の中には超えてはならない様々な「境界」があります。その境界を越えてしまうと、人知を超えた何かに憑りつかれてしまうかもしれません。
岸辺露伴は「境界」をたびたび超えてしまい、ピンチに陥ります。そのピンチをいかに切り抜けるのかが見所です。
第1話から第3話は、「富豪村」と「D・N・A」、短編小説集の北國ばらっどによる「くしゃがら」を原作としています。それぞれが独立したドラマになっておりますが、このシーズンは中村倫也演じる平井太郎が3作すべてに登場します。
第4話~第6話は、「六壁坂」編というべき構成になっており、「六壁坂」をめぐる怪異が描かれます。「ザ・ラン」と「六壁坂」が原作、「背中の正面」は、「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない」の1エピソードが原作です。
第7話・第8話は、「ホットサマー・マーサ」編というべき構成です。「ホットサマー・マーサ」が原作、および「ジャンケン小僧」は「ダイヤモンドは砕けない」の1エピソードが原作です。
第8話の最後に泉京香がつぶやくセリフが、映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」につながる布石になっています。映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」は、2023年5月26日に公開されました。
第9話は「密漁海岸」がベースです。Amazon Prime Videoで15分程度のサイドストーリー「密漁海岸エピソード2」が配信されました。京香と森嶋初音の会話を描きました。
第1話「富豪村」
周囲から隔絶された山奥に豪邸が立ち並ぶ「富豪村」。所有者はいずれも各界で成功した大富豪ばかりで、20代でこの村の土地を所有して成功しているという。ただし、ある条件をクリアしないと買うことが許されないらしい。真偽を確かめるべく露伴(高橋一生)は、編集者の泉京香(飯豊まりえ)と共に富豪村に赴く。そこで課されたのは奇妙な試験だった。それは「マナー」。マナーに寛容はない。「正しい」か「正しくない」か…。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2020111242SA000/?spg=P202000226700000
「マナー」を守れないと、大切なものを一つ失うというペナルティが、岸辺露伴と泉京香に襲い掛かります。
マナーとは「型」です。型があるから型破りですが、型が無ければ、それは単なる形無しです。 戒めの言葉です。
ロケ地
岸辺露伴の家は神奈川県の葉山にある国指定登録有形文化財「葉山加地邸」です。
泉京香と平井太郎がお茶していたカフェは横浜市の「横浜山手えの木てい」です。第3話で再登場します。
岸辺露伴と泉京香が、マナーを試された屋敷は、東京都小金井市にある「大森武蔵野苑」です。
第2話「くしゃがら」
露伴(高橋一生)は同僚の漫画家・志士十五(森山未來)から奇妙な相談を受ける。担当の編集者から「くしゃがら」という言葉は使用禁止だと言われたのだ。しかしネットにもどんな辞書にも意味は載っていない。使うなと言われると使いたい。だが意味を知らないと使えない。何かにとりつかれたようになった十五を露伴がヘブンズ・ドアーで「本」にすると、そこにはうごめく何かが存在していた。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2020111243SA000/?spg=P202000226700000
「くしゃがら」という言葉が気になって仕方がなくなり、志士十五の常軌を逸していく様が見ものです。
言霊といいますが、特別な言葉には特別な力がこもっているという日本人古来の考えが表現されています。
ロケ地
岸辺露伴と志士十五が「くしゃがら」の話をしていたカフェは横浜市の「山手十番館」です。
岸辺露伴と泉京香が話しながら歩いていた坂は鎌倉市の「亀ヶ谷坂」です。
志士十五の作業場兼住居は大田区の「第一下川ビルディング」です。
泉京香と平井太郎が話していた公園は横浜市の「港の見える丘公園」です。
古本屋は横浜市にある「天保堂苅部書店」です。1916(大正5)年に開店した古書店で、野毛坂にあります。
志士十五がくしゃがら常軌を逸しつつ歩いた場所は、川崎市のJR登戸駅から歩いて500mほどの場所にある「多摩水道橋」交差点の下です。
第3話「D.N.A」
担当編集の京香(飯豊まりえ)から付き合っている写真家の平井太郎(中村倫也)の記憶喪失を“催眠術”で探ってほしいと頼まれた露伴(高橋一生)。写真家だった太郎は6年前に交通事故にあい、一命は取り留めたが、社会復帰できずにいた。京香に太郎を紹介され話しているところに娘を抱えた片平真依(瀧内公美)が通りかかる。すれ違いざま、娘の手が太郎の袖をつかみ転倒させてしまう。露伴はその瞬間、娘に異変を感じていた。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2020111244SA000/?spg=P202000226700000
臓器移植によって提供者(ドナー)の記憶の一部が受給者(レシピエント)に移るとされる記憶転移が題材です。
ロケ地
片平親子が住む家は、東京都目黒区の「STUDIO目黒本町」です。
平井太郎と片平親子が出会う坂は横浜市の元町公園の額坂です。
平井太郎が検査を受けた病院は東京のNHK放送センターです。
平井太郎と片平真央が遊ぶ公園は神奈川県立相模原公園です。
岸辺露伴と泉京香が待ち合わせていたカフェは、第1話で泉京香と平井太郎がお茶していた横浜市の「横浜山手えの木てい」と同じです。
第4話「ザ・ラン」
露伴は会員制のスポーツジムで橋本陽馬という若い男と出会う。陽馬は駆け出しのモデルで、事務所の社長から「体を作れ」と指示されてジムに通う、無気力でつかみどころのない青年だった。だがこの日を境に陽馬はランニングにのめり込むようになり、走りに対する執着は次第に常軌を逸していく。ある日、久しぶりに露伴の前に姿を見せた陽馬は見違えるほど自信に満ちあふれていた。そして陽馬は、露伴にある勝負を提案する…。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2021117628SA000/?spg=P202000226700000
第4話~第6話は六壁坂にまつわる話です。六壁坂は禁足地と言ってよいかもしれません。禁足地に何らかの形で踏み入れてしまうと、それに取り込まれてしまうのです。
ロケ地
橋本陽馬のラニングコースは、東京のJR田町駅から海側へ500mほどの「渚橋」、その後に出てくるのが川崎市の「宮前平第2公園」、そして「浮島工業地帯」です。
第5話「背中の正面」
露伴の家にリゾート開発を請け負う会社に勤める男、乙雅三が訪ねてきた。家の中に招き入れると、男はなぜか背中を壁につけたまま、ずりずりと不自然なかっこうで入ってくる。靴を脱ぐときも、椅子に座るときも、紅茶を飲むときも、愛想笑いをしながら、男は決して露伴に背中を見せようとしない。その奇妙な行動に猛烈に好奇心をかきたてられた露伴は策を弄して無理やり男の背中を見てしまう。すると背中を見られた男を異変が襲う。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2021117629SA000/?spg=P202000226700000
この回の実写はかなり難しかったと思います。荒木飛呂彦氏の漫画はかなり難しい姿勢を求められることがあるためです。
ロケ地
公衆電話は横浜市の山手本通り元町公園前バス停近くに建っています。
平坂は東京のJR神田駅北側の高架下です。
「平坂」とは黄泉比良坂(よもつひらさか)のことです。古事記に、黄泉の国(死者の国)と現世の境目として登場します。松江市東出雲町に伝承地があります。
古事記では、イザナギが亡き妻イザナミを訪ねるために、黄泉比良坂を通って黄泉の国に行きますが、変わり果てたイザナミに驚き、イザナギは一目散に逃げだします。そのイザナギを黄泉の軍勢が追いかけてくるのですが、間一髪戻ることができたという話があります。
この黄泉比良坂では振り返ってはいけないとされます。振り返ると黄泉の国(死者の国)に連れていかれるからです。
第6話「六壁坂」
露伴は妖怪伝説を取材するためだけの理由で六壁坂村の山林を買い破産してしまう。財産よりもネタが大事な露伴は妖怪伝説の謎を追って京香と村を訪れるが、手がかりは見つからない。そんな時、露伴の前に現れたのは村一番の名家の跡取り娘、大郷楠宝子だった。楠宝子は露伴が村を訪ねた理由を探ってくるが、自らも何かを隠しているようだ。楠宝子をヘブンズ・ドアーで読んだ露伴は、楠宝子と六壁坂にまつわる驚がくの真実を知る。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2021117630SA000/?spg=P202000226700000
岸辺露伴は妖怪伝説を取材するために購入した六壁坂村の山林を訪ねますが、肝心の六壁坂がどこなのかが分かっていません。
現地を訪ねて、岸辺露伴は六壁坂と思われる坂を見つけ出しましたが、そこは購入できなかった村一番の名家大郷家の土地でした。
ロケ地
多くの撮影が山梨県の赤沢宿で行われました。
大郷家は赤沢宿の大阪屋を使用していますが、大郷家本宅の離れは熱海市にある起雲閣です。
苔むしている石の階段は千葉県の鋸山です。
第7話「ホットサマー・マーサ」
長らくリアルな取材ができず、いらだつ露伴は子犬を連れて、散歩に出かける。強い日差しとマスクのせいでもうろうとしながら見知らぬ神社に迷い込むと、そこには根元が洞になった巨木があった。中は祠(ほこら)のようで、がぜん興味がわいた露伴は中に入るが、気がつくとそこにうずくまっていた。洞を出て家に戻るが、ところどころ様子がおかしい。さらには自分のベッドにシーツにくるまった女(イブ:古川琴音)がいて…。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2022124620SA000/?spg=P202000226700000
岸辺露伴が迷い込んだ「四つ辻(=交差点)」は境界で、辻や丁字路の交点には辻神がいると言われます。
辻神は人に取り憑く妖怪です。ドラマに登場する辻神は、岸辺露伴の裏の姿として、勝手気ままに行動します。
今回登場した犬のバキンは、南総里見八犬伝で有名な曲亭馬琴を由来としているのでしょうか。
ロケ地
四つ辻は、三浦市初声町三戸にある浄土宗「福泉寺」の近くにあります。
神社は、逗子市沼間にある「五霊神社」です。
第8話 「ジャンケン小僧」
京香と打ち合わせ中のところに、漫画『ピンクダークの少年』を持ったファンの少年(大柳賢:柊木陽太)が突然尋ねてきた。露伴は「仕事場にいきなり来るのは良くないね」と言って少年を追い返してしまうが、再び現れた少年は、やぶから棒にジャンケン勝負を露伴に挑むのだった。露伴の行く先行く先に現れては、執ようにジャンケンを挑んでくる少年の目的とは?
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2022124621SA000/?spg=P202000226700000
今一つピリッとしなかった感じがする回でした。
第1話から第7話までのピンチは、取材や漫画のための体験として、岸辺露伴が「境界」を超えてしまうことによって引き起こされたものでした。
この第8話はそうした流れとは異なり、岸辺露伴の意図とは関係なく襲ってくるピンチであり、受動的と言っていいと思います。受け身だったことがピリッとしないと感じた理由かもしれません。
ロケ地
タクシーを呼び止めたのは、鎌倉市の源氏山公園です。
映画 岸辺露伴 ルーヴルへ行く
NHK総合のテレビドラマ「岸辺露伴は動かない」のキャスト・スタッフで制作されました。
第9話「密漁海岸」
露伴邸の近くにひっそりとオープンしたイタリアンレストラン。その店を訪れた露伴と京香が出会ったのは、供する料理で客の体の悪いところを改善させる不思議な力を持ったシェフのトニオ(Alfredo Chiarenza)だった。トニオは露伴に、どんな病気でも治してしまうという伝説のヒョウガラクロアワビを手に入れようと密漁を持ちかける。実はトニオには、重い病気を抱えたフィアンセ森嶋初音(蓮佛美沙子)がいたのだ
https://www.nhk.jp/p/ts/YM69Q8456J/episode/te/MV2YQ11M6V/
医食同源。トニオが提供するのは伝統的なイタリア料理ですが、その料理は食べた人の悪いところを治します。
反動の激しい治り方ですが、トニオには悪意は無く、能力をいい方向に使っています。
泉京香が、次回の取材はイタリアですねぇ、と言っていましたので、次回はイタリアですねぇ。
再びの、映画でしょうか?
ロケ地
露伴とトニオがヒョウガラクロアワビを密漁しようとしたのは、三浦半島の城ヶ島の馬の背洞窟近辺。
トニオのレストランは鎌倉市にある旧華頂宮邸です。