感想/コメント
配役がよかった映画
配役がとてもいい映画だったと思います。阿部サダヲをはじめとして、瑛太、妻夫木聡、竹内結子、松田龍平、草笛光子、山崎努といった俳優陣が個性あふれる役柄を演じきりました。
中でもよかったのが、代官・橋本権右衛門を演じた堀部圭亮です。代官と言えば、私腹を肥やす、悪代官というのが、時代劇の典型パターンですが、堀部圭亮演じる橋本権右衛門は庶民に寄り添う、とてもいい代官です。
とてもいい代官で、庶民のためにひと肌もふた肌も脱ごうという、真っ直ぐで男気のある代官ですが、深謀遠慮の人物ではありません。ですが、とても素晴らしい人物として描かれています。
この橋本権右衛門を演じた堀部圭亮の演技がとてもよかったです。
特によかったのが、大肝煎・千坂仲内演じる千葉雄大が、先代・浅野屋甚内のなしてきたことを橋本権右衛門に語る場面でした。
話が進むうちに、橋本権右衛門は先代・浅野屋甚内のなしてきたことの素晴らしさに身を乗り出し、ついには、千坂仲内の話を「ま、待て、待て」と中断させて、念押しの確認をします。千坂仲内の話が本当なのであれば、何が何でも話を上に通さなければなりません。
話を聞くうちに、徐々に驚き、やがては驚愕となり、最後に覚悟を決める、という一連の表情の変化を演じきったのは、本当に本当に素晴らしかったです。
堀部圭亮の演技につられる格好で、千葉雄大演じる千坂仲内の表情や言葉に力が増していったのも良かったです。この映画の秀逸な場面だと思います。
実話をもとにした原作
原作は磯田道史の歴史小説「穀田屋十三郎」(「無私の日本人」に収録)。
18世紀に仙台藩の吉岡宿で宿場町の窮状を救った町人達の記録「国恩記」(栄洲瑞芝著)を元にしています。
「無私の日本人」は、映画「武士の家計簿」を見た宮城県大和町の元町議・吉田勝吉が、「この話を本に書いて広めて欲しい」と手紙で託したのがきっかけになっています。
ロケ地
ロケ地は多くの場所にわたりますが、メインはスタジオセディック庄内オープンセット。
長野県でも多くの撮影が行われました。真田邸、松代城、文武学校、加賀井温泉・一陽館
新潟県でもロケが行われています。村上市塩谷にあるマルマス醤油蔵、阿賀野市にある水原代官所。
仙台藩が舞台ですが、宮城県での撮影は行われていないようです。
あらすじ/ストーリー
伝馬役
1766年(明和3年)。仙台藩の小さな宿場町・吉岡宿。
茶師・菅原屋篤平治が京から妻と共に帰郷すると、遠くから肝煎の遠藤幾右衛門らが走ってやってきた。
出迎えてくれたのかと思いきや、妻を乗せた馬を奪って吉岡宿に戻っていってしまった。
仙台藩の宿場町には宿場町間の物資の輸送を行う「伝馬役」が課せられていた。
「伝馬役」には藩より宿場町に助成金が支給されるのが通常だが、吉岡宿は藩の直轄領ではないため助成金が支給されなかった。
伝馬役にかかる費用は全て吉岡宿の住人が負担することとなり、吉岡宿は困窮し、生活が立ち行かなくなった者は夜逃げするしかなかった。
そして、残った人間にはさらに負担がのしかかるという悪循環に陥っていた。
穀田屋十三郎と菅原屋篤平治
町の窮状を嘆く造り酒屋の当主・穀田屋十三郎は、町の窮状を訴えるため、代官に訴状を渡そうとする。
だが、そばにいた菅原屋篤平治が止めた。直訴するということは命を危険にさらすことになるからである。
ある晩、未亡人のときが営む煮売り屋「しま屋」で篤平治と一緒になった十三郎は、吉岡宿を救う手立てが何かないか尋ねた。
篤平治は知恵者として知られていたので、何かいい思い付きがないかと聞いてみたのだった。
ないないと、笑っていた篤平治は、そんなことよりも浅野屋甚内の利息が高すぎるとぼやいていた。
浅野屋甚内は十三郎の弟で、造り酒屋と質屋を営んでいる。
篤平治は、ふと、利息でござる、と呟いた。そして思案したが、現実的でないと笑った。
篤平治が考えた策は、吉岡宿の有志で銭を出し合い、藩に貸して利息を取り、利息を伝馬役に使うというものだった。
千両貸せば毎年百両の利息が町に入る。しかし千両もの大金を用意出来るはずもないし、藩が庶民から金を借りるとは思えなかった。
菅原屋篤平治の策
翌年になって、篤平治は十三郎が密かに例の奇策を進めていたことを知った。
十三郎をあきらめさせるため、篤平治は吉岡宿の肝煎・遠藤幾右衛門の賛同を得ないといけないと言った。
すると、遠藤幾右衛門は我が意を得たりとばかりに同志となった。
困った篤平治は、今度はさらに上役の大肝煎も賛同を得ないといけないと言うと、十三郎は大肝煎・千坂仲内を訪ねた。
大肝煎・千坂仲内は十三郎の思いに涙を流して、すぐに同志となった。ここまで来て篤平治も後には退けなくなってしまった。
その頃の仙台藩は、7代藩主・伊達重村が官位欲しさに幕府の重役に金品を贈るなどしていたため、財政難に陥っていた。
困り果てている老中をしり目に、藩の財政を担う萱場杢は銭の鋳造を指示した。
浅野屋甚内
十三郎らの目標は千両を銭で集めること。だが、まだまだ足りない。
十三郎たちの行動は次第に吉岡宿の人々の関心を集めるようになり、周囲に諭されて銭を出す者や名誉欲に駆られて銭を出す者も現れ出した。
私財を売り払ってまで銭集めに奔走する十三郎に対し、息子の音右衛門が反発していた。
そんな中、浅野屋甚内が協力を申し出てきた。篤平治からそれを聞いた十三郎は、甚内が加わるなら自分は抜けると言い出した。
十三郎は浅野屋の長男でありながら穀田屋に養子に出されたことを気にしていた。
生家は優秀な弟が継ぐことになったと思い込み、劣等感にさいなまれていたのだ。
ようやく目標額の千両に相当する5千貫文を集めた。
千坂仲内
千坂仲内は宿場内の不和が出ないように、銭を出した商人たちに徹底的に慎みを求めた。
出資する商人が尊敬を集め、出資しない商人が蔑まれることがあってはならない。
子々孫々にいたるまで出資を自慢せず、上座に座る事もなく慎ましい生活を送る事を求めたのだった。
千坂仲内は嘆願書を持ち代官所へ向かった。代官の橋本権右衛門は上へ取り計らうと約束したが、3ヶ月後に嘆願は萱場杢によって却下されてしまった。
篤平治は諦めずに何度も訴えることを提案したが、千坂仲内は動かなくなってしまう。
先代の浅野屋甚内
ある晩、浅野屋に忍び込もうとした男が篤平治達に捕まる。捕まったのは15年も昔に吉岡宿から夜逃げした男だった。
男は、先代の浅野屋甚内に大恩があるいう。先代は借金帳消しの上、お前さんは頑張った、お前さんが悪いわけではない、そう言って銭を渡して男の夜逃げを見送ってくれたのだ。
男はそのことを忘れず、元金だけでも返すために浅野屋を訪ねたものの当代の甚内が銭を受け取ってくれないので、仕方なくこっそり返すつもりで忍び込んだのだった。
守銭奴と陰口を叩かれている浅野屋親子の真の姿を知り、篤平治らは驚いた。
皆以上に驚いた十三郎は真相を確かめるため、実家の浅野屋へ向かった。篤平治は音右衛門を連れ、幾右衛門と一緒に十三郎を追いかけた。
甚内と母は、先代主人が銭を藩に上納し、伝馬の負担を減らして貰おうと考えていたことを話した。まさに十三郎が考えていたことを父の先代・浅野屋甚内はやろうとしていたのだ。血は争えない。
先代の浅野屋甚内は、誰かに褒められたくてやるものではない、と言い、守銭奴と叩かれても密かに宿場のために銭を貯めていたのだ。
弟の当代の浅野屋甚内もその志を受け継ぎ、同じく銭をためていた。それを拠出したのだった。
この話を聞いた篤平治は急いで千坂を訪ねた。そして、まだ立場に拘る彼を一喝し、浅野屋まで千坂を連れて来て、同じ話をするよう甚内に頼んだ。
座敷に戻る甚内の足がふらついた。甚内は幼少から目が悪く、他家に養子にやるのに、甚内では申し訳ないからということで十三郎が選ばれたのだった。
初めてすべてを知った十三郎は、しっかりと弟を支えながら家に入った。
小判千両
先代・甚内に感銘を受けた吉岡宿の人々や代官の橋本権右衛門の働きかけにより、萱場は申し出を受け入れる。
しかし、藩は銭は取り扱わないので、金で納めるようにと言われる。
藩は財政難で銭を乱発していたため交換比率が下がっておりさらに800貫文が必要となった。吉岡宿の人々が各々銭を工面するが銭が足りない。
話を聞いた甚内は500貫文出すと言うが、篤平治と十三郎は浅野屋が潰れてしまうと断る。
浅野屋に行った十三郎はあまりにも静かなことに気が付いた。店の奥へ行くと、蔵人も酒もない。浅野屋はもう潰れていたのだった。
十三郎達は甚内の覚悟を決めた500貫文を受け取り、更に煮売屋の女将ときが50貫文を出し、残りは250貫文までとなった。
その250貫文は、十三郎の息子・音右衛門が心を入れ替え、仙台に奉公に出て10年分の給料を前借りして工面した。
ついに十三郎達は小判千両を揃えた。
その後
萱場は驚きつつも、報奨金を与えるために十三郎達を呼び出した。だが、甚内の姿はなかった。
甚内は父の教えを守り、牛や馬を虐げてはいけない、駕籠を使って人間を苦しめてもいけないと、この場へ来なかったのだった。
十三郎たちは萱場から報奨金を受け、浅野屋のために銭を渡そうとするが甚内はその銭さえも宿場の人々に分け与えようとして固辞した。
そこへ藩主・伊達重村が現れ、三つの酒銘を与えて浅野屋を潰さぬよう命じた。
吉岡宿には毎年藩から利息が支払われ、伝馬の負担が減った。
浅野屋は三つの酒が飛ぶように売れ、潰れなかった。甚内は酒の儲けを道の修繕などに使った。
千坂は重村に認められ、念願の侍となった。
篤平治の茶は町の名産品になった。
十三郎は、私のしたことを人前で語ってはならぬ、と遺言を残した。穀田屋は、今でも宮城県で酒屋を営んでいる。
映画情報(題名・監督・俳優など)
殿、利息でござる!
(2016)
監督 / 中村義洋
製作総指揮 / 大角正、両角晃一
原作 / 磯田道史『穀田屋十三郎』(文藝春秋刊『無私の日本人』所収)
脚本 / 中村義洋、鈴木謙一
撮影 / 沖村志宏
美術 / 新田隆之
編集 / 川瀬功
音楽 / 安川午朗
音楽プロデューサー / 津島玄一
主題歌 / RCサクセション『上を向いて歩こう』
スクリプター / 小林加苗
照明 / 岡田佳樹
装飾 / 松本良二
録音 / 松本昇和
助監督 / 佐和田惠
ナレーション / 濱田岳
出演 /
穀田屋十三郎 / 阿部サダヲ
菅原屋篤平治 / 瑛太
遠藤幾右衛門 / 寺脇康文
穀田屋十兵衛 / きたろう
千坂仲内 / 千葉雄大
早坂屋新四郎 / 橋本一郎
穀田屋善八 / 中本賢
遠藤寿内 / 西村雅彦
橋本権右衛門 / 堀部圭亮
八島伝之助 / 斎藤歩
大工の忠兵衛 / 芦川誠
三浦屋惣右衛門 / 中村ゆうじ
なつ / 山本舞香
加代 / 岩田華怜
浅野屋甚内 / 妻夫木聡
とき / 竹内結子
瑞芝和尚 / 上田耕一
穀田屋音右衛門 / 重岡大毅
伊達重村 / 羽生結弦
萱場杢 / 松田龍平
きよ / 草笛光子
先代・浅野屋甚内 / 山崎努
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