ポール・オースターが書き下ろした「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」を基に、男の中に隠された哀しいロマンティシズムを描いた作品です。
ポール・オースターは現代アメリカを代表する作家。「シティ・オブ・グラス（硝子の街、とすべきだろうが邦題はシティ・オブ・グラス）」、「幽霊たち」、「鍵のかかった部屋」のニューヨーク三部作（The New York Trilogy）が有名です。
ニューヨーク三部作は探偵を主人公としていますが、謎解きもなく問題の解決もありません。独特の乾いた文体も、新しい感覚を与える作品群です。
このニューヨーク三部作は是非読まれることをオススメします。
似た雰囲気を持つ作家として、イタリアのアントニオ・タブッキがいます。興味があれば、こちらも読まれるといいと思います。
感想/コメント
オーギーが語る14年前のクリスマスにあった話
さて、映画は、14年間毎朝同じ時刻に写真を撮り続けている煙草屋の店長オーギーと、彼の馴染みの客で事故により妻を失ってしまって以来書けないでいる作家のポール、彼が車に跳ねられそうになった所を助けた黒人少年ラシードの3人を軸に、嘘と本当を交差させながら進んでゆきます。
映画は淡々とシンプルに展開してゆきます。
ポール・オースターは「信じる者が一人でもいれば、その物語は真実にちがいない」といいます。
映画の中で、ラシード少年は嘘に嘘を上塗りします。途中でどれが嘘で真実なのか分からなくなってしまいます。ですが、ラシード少年の話をポールは信じました。そして、気がつくのです。どれが嘘でどれが本当なのかはどうでもよいことなのだと。
そして、最後にオーギーが語る14年前のクリスマスにあったという話。本当にあった話なのかどうかポールは疑ったでしょう。ですが、彼は信じることにしました。
そして、ポールが書く「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」は真実の話となっていくのでしょう。
淡々と流れる映画の中で、その雰囲気を上手くもり立てたのが、音楽のレイチェル・ポートマンです。特に、「Auggie’s Photos」「Snow Story」の2曲が秀逸でした。
レイチェル・ポートマンは他に「ショコラ（2000年）」など、数々の映画音楽を手がけています。
他のクリスマス映画として。
- 素晴らしき哉、人生！(1946年)
- ポーラー・エクスプレス(2004年)
あらすじ/ストーリー/ネタバレ
オーギー・レーンはブルックリンの街角で煙草屋を営み、毎日欠かさず同じ場所で写真を撮ることを趣味にして、4000枚以上撮影している。
店の常連で作家のポール・ベンジャミンは数年前に妻を強盗の流れ弾で失って以来、仕事が手につかない。そのポールが、ぼんやりして車にはねられそうになった時、ラシードと名乗る少年に助けられる。ポールはラシードに何かの感謝の印を与えたいといい、レモネード一杯と自分の家に泊めてやることにした。
ラシードは２日後に出ていくが、その後にラシードの叔母が来た。彼の本名はトーマスで、行方不明で心配しているという。その頃、ラシード（トーマス）は子供の頃生き別れになった父サイラスのガソリン・スタンドに行っていた。
ポールを再訪したラシード（トーマス）は、実は強盗現場で落ちていた六千ドルを拾ったのでギャングに追われていると明かす。
ポールはラシード（トーマス）を家に置き、オーギーに頼んで店で使ってもらう。だが、店番をしている時に、ラシード（トーマス）はオーギー秘蔵の密輸キューバ葉巻を台無しにしてしまう。しかし、例の六千ドルで弁償した。
オーギーの所には昔の恋人ルビーが来ていた。ルビーは二人の間に娘がいるのだという。そんな話は信じられないオーギーだが、ルビーは娘は18歳で麻薬に溺れており、心配しているのだと切実に訴える。オーギーは娘を麻薬更生施設に入れる資金にしろと、例の弁償の金をそっくりルビーに渡した。
ある晩、ラシード（トーマス）に盗んだ金を持ち逃げされたギャングがポールの家を襲う。外から様子を察したトーマスは姿を消す。負傷したポールとオーギーはラシード（トーマス）の安否を気づかう。二人はサイラスの所でバイト中のラシード（トーマス）を訪問し、彼に親子の名乗りをさせる。
晩秋、ポールにニューヨーク・タイムズ紙がクリスマス向けの短編を依頼してきた。ネタがないと困るポールに、オーギーは自分の14年前のクリスマスの体験を語って聞かせる。帰宅したポールは「オーギー・レーンのクリスマス・ストーリー」を書き始める。
映画情報（題名・監督・俳優など）
スモーク
(1995年)
監督：ウェイン・ワン
製作：ピーター・ニューマン、グレッグ・ジョンソン、堀越謙三、黒岩久美
原作：ポール・オースター
脚本：ポール・オースター
音楽：レイチェル・ポートマン
出演：
オーギー・レーン/ハーヴェイ・カイテル
ポール・ベンジャミン/ウィリアム・ハート
ラシード（トーマス・ジェファーソン・コール）/ハロルド・ペリノー・ジュニア
ルビー/ストッカード・チャニング
サイラス・コール/フォレスト・ウィテカー
/フェリシティ/アシュレー・ジャド
ジミー・ローズ/ジャレッド・ハリス
ヴィニー/ヴィクター・アルゴ
