「七人の侍」の紹介です。
200分を越える長編ながら、その長さを全く感じさせない作品です。
1954年度 ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞しました。
あまりにも有名な作品で、七人の腕利きが、弱者を守ったりするために結集して戦うというプロットは、「荒野の七人」や「スター・ウォーズ」などを始めとした様々な作品、監督に影響を与えました。
フランシス・フォード・コッポラは「影響を受けた映画」と言っていますし、ジョージ・ルーカスは「スター・ウォーズ・シリーズはSFという舞台で黒澤のサムライ劇を再現したかった」と言っています。
スティーヴン・スピルバーグは、映画の撮影前や製作に行き詰まったときに、もの作りの原点に立ち戻るために必ずこの映画を見ると言っています。
世界の巨匠に影響を与えた映画なのです。
感想/コメント
農民が用心棒を雇うことはあった
本作は、時代考証がしっかりしているといわれています。
作品の風景などは戦国時代の風景をよく現わしているように思われ、独特の荒々しさを感じさせてくれます。
ただし、戦国史家からは、戦国時代の農民は基本的に武装し、兵士に早変わりするので、刀を持てないなどということはあり得ないとの批判もあります。
ですが作品の質を下げるようなものではありません。
本作のように、農民に雇われた侍が野武士から村を守るという出来事は実際にあったようです。
横浜市金沢区の金沢文庫所蔵の古文書に記されており、中世の鳥取県智頭町の那岐地区で、農民が自己防衛のために用心棒を雇い、村を守る防護柵を作った費用などがつづられた文書があるそうです。
「称名寺文書」の一つ「因幡国智土師郷上村結解状」(一三四二年)に書かれています。
鎌倉時代の末期、智土師郷東方上村と呼ばれ、幕府の祈願寺であった称名寺の領土となっていましたが、南北朝の動乱期に入ると寺領の農民たちは反幕府勢力から略奪を受けるようになり、自己防衛手段を取らざるを得なかったのだそうです。
これは一例に過ぎず、全国でこのようなことは起きていたと見るのが正しいような気がしますが、史料はなかなかないのでしょう。
映画のモデルとなった武人
さて、映画の登場人物たちには、モデルとなった人物もいるようです。
志村喬演じる島田勘兵衛は上泉伊勢守信綱、稲葉義男演じる片山五郎兵衛は塚原卜伝、宮口精二演じる久蔵は宮本武蔵がそれぞれモデルだそうです。
黒澤明監督の作品
あらすじ/ストーリー/ネタバレ
農民の相談
麦の刈入れが終る頃、野伏せり(野武士)がやって来る。
去年も村は襲われた。必死の談合で命からがら助かったものの、取られるものはみな取られてしまった。
闘っても勝目はないし、負ければ村中皆殺しだ。
野伏せりは、麦が実ってきたらまた村を襲うことに決めて去ったが、その様子を偶然居合わせた村人が目撃していた。
村の百姓達の寄り合いが行われる中、利吉という若い百姓が我慢の限界に達していた
。百姓たちのまとめ役の茂助は長老の判断を仰ぐことにした。
長老の儀助はしばらく考え、「やるべし」と決意する。
村を守るために侍を雇うのだ。
長老は百姓が侍を雇って村の壊滅を防いでいたのを目撃した事があった。長老の決断によって茂助、利吉等は侍探しに出発した。
用心棒の侍探し
町に出た利吉、茂助、万造、与平の四人は町を歩く浪人たちを見て立ち尽くす。
百姓を助けてくれる侍はいないし、腕利きかどうかの区別も出来ない。
あきらめの雰囲気が漂う。
さらに、町の畑の麦が実っているのを見て、あまり時間がないことを知る。
初老の浪人・勘兵衛
そんな中、人だかりに出くわした。
何ごとかと見ていると、初老の浪人・勘兵衛が現れ、僧侶に頭を丸めてもらっている。
盗人が子供を人質に納屋に逃げ込み、立てこもって手が出せないでいる。
そこに勘兵衛が現われ、助けることを引き受けた。
勘兵衛は頭を丸め上げた後、僧侶から袈裟を借りて僧侶に化けた。
勘兵衛は一瞬の隙を付いて納屋の中へ飛び込み、盗人を倒した。
利吉達は勘兵衛の後を追う。
そこへ、騒ぎを見ていた若侍の勝四郎も勘兵衛に「弟子にしてください」と迫る。
勘兵衛に頼む農民
利吉は勇気を振り絞って勘兵衛に野伏せり退治を頼む。
勘兵衛は無理だと一蹴。そして、せめて七人の侍が必要だという。
だが、熱意が通じ、勘兵衛は引き受けることにした。
勘兵衛は百姓たちの代わりに、人柄がよく、腕の立つ浪人を捜した。
なかなか見つからない。が、ようやく五郎兵衛という浪人が見つかり、話を切り出すと、勘兵衛の人柄の好さに惹かれたと応諾してくれた。
七人の侍を集める
勘兵衛と五郎兵衛は次々と腕と正義感のある侍たちを集めていく。
物売りをしていた勘兵衛のかつての相棒七郎次、茶屋で代金代わりに薪割りをしていた平八、剣術に秀でた久蔵。五人の侍が集まった。
利吉達の強い願いで勝四郎も六人目として迎えられた。
七人に一人足りないが、勘兵衛は時間がないためあきらめて、出発することにした。
そんな中、人足達が一人の酔っ払った浪人を連れて来た。
以前勘兵衛が盗人を倒した後、帰ろうとする勘兵衛を睨み回していた浪人だった。菊千代と名乗る。
村についた侍たち
村に到着すると、村人は全く出てこない。長老に聞くと、侍達に脅えているのだという。
村に警報の拍子木が鳴り響いた。村人は外へ飛び出し、侍達にすがる。
侍達もあわてて広場へと走るが、野伏せりの姿は見えない。
菊千代が警報の拍子木を鳴らしたのだ。
菊千代は自分達が村へ来た時は遠巻きに見ていたくせに、自分が板木を叩くとすがり付いてきやがると村人を罵倒する。
これで七人揃った。
勘兵衛たちは村の周囲を回り、弱点を調べ上げて村を要塞化する案を練った。
百姓たちは堀や柵作りなど村の要塞化の普請を始め、百姓たちも戦いに加わるために組分けされ、七人の侍たちの指導により鍛え上げられる。
野伏せりの襲撃
刈入れが終ると野伏せりの襲撃が始まった。物見の三人を久蔵、菊千代が倒した。
そして、利吉の案内で久蔵、菊千代、平八が山塞に夜討に出た。
山塞には野伏せりに奪われた利吉の女房が居た。この夜敵十人を斬ったが、平八が種子島に倒れた。
夜が明けると野伏せりは村を襲って来た。野伏せりは一人また一人と倒され数が少なくなるが、侍や村人にも戦死者が出る。
村の防衛線の外にある防御の手が回らない農家も、野伏せりの焼討ちに任せるままにしてしまう。
水車小屋に残った爺様を引き戻そうとした息子夫婦が野伏せり突き殺され、助かった赤ん坊を抱きながら、菊千代は「これは俺だ。俺もこうだったんだ。」と叫んだ。
菊千代は戦に巻き込まれて死んだ百姓の孤児だったのだ。
侍を中心に百姓も鍬や丸太を持って村を死守した。
美しい村の娘志乃は男装をさせられていたが、勝四郎にその秘密を知られ二人の間には恋が芽生えた。
決戦の前夜、志乃は勝四郎を納屋に誘い二人の体はもつれ合って藁の中へ倒れた。
翌朝、十三騎に減った野伏せりの一団が豪雨の中を村になだれこんできた…。
映画情報(題名・監督・俳優など)
七人の侍
(1954)
監督:黒澤明
製作:本木荘二郎
脚本:黒澤明、橋本忍、小国英雄
撮影:中井朝一
美術:松山崇
音楽:早坂文雄
監督助手:堀川弘通、田実泰良
照明:森茂
録音:矢野口文雄
出演:
勘兵衛/志村喬
五郎兵衛/稲葉義男
久蔵/宮口精二
平八/千秋実
七郎次/加東大介
勝四郎/木村功
菊千代/三船敏郎
儀作/高堂国典
与作/左卜全
茂助/小杉義男
万造/藤原釜足
利吉/土屋嘉男
利吉女房/島崎雪子
伍作/榊田敬治
志乃/津島恵子
久右衛門の妻/三好栄子
儀作の息子/熊谷二良
儀作の息子の嫁/登山晴子
人足/多々良純
饅頭売/渡辺篤
琵琶法師/上山草人
僧侶/千葉一郎
盗人/東野英治郎
スター・ウォーズへの影響
受賞
黒澤明監督の作品
1954年公開の映画