「羅生門」の紹介です。
芥川龍之介の短編小説 「羅生門」と「藪の中」を原作にしています。
脚本は橋本忍と黒澤明。
海外では黒沢明監督を代表する作品として極めて評価の高い作品です。
国内での評価は高くありませんでしたが、海外での高い評価を聞きつけ、さもありなん、と手の平を返した厚顔無恥な輩が続出したようです。
今も昔も舶来ものには弱いようで…。評論家や批評家の性根の一端が垣間見えるエピソードです。
まぁ、信用せずに、眉に唾して、己の価値観を磨くのが良いという教訓ですね。
感想/コメント
さて…
食い違う証言
殺人事件の目撃者や関係者がそれぞれ食い違った証言をします。
なぜなのでしょうか?
多襄丸は、手籠めにした女に頭を下げて、妻になることを求めました。
そうした情けない姿を隠したかったのです。
それに、夫との情けない戦いぶりも隠したかったため、嘘をつきました。
妻は、手籠めにされたまま生き続けるよりも、夫殺しの罪を負って死罪になる方がましだと考えたため、嘘をつきました。
夫は、己の恥(妻を目の前で手籠めにされたこと。そして、妻から決闘での決着を迫られた挙句に敗北したこと)を隠したかったため、自害したと嘘をつきました。
人のエゴイズムをあぶり出す
三者三様ですが、エゴ・見栄・虚栄のために嘘をついたのです。
海外で評価が高いのは、このエゴイズムを鋭く描いた作品だからです。
そして、最後のシーンの評価も高いようです。
一筋の希望の光を感じたということなのでしょう。
大雨がやめば、いつかは晴れるでしょう。
エゴを知らない無垢の赤子を引き取った杣売りには良心の再生を感じる人が多かったに違いありません。
デジタルリマスター
デジタルリマスターで映像はクリアに戻ったようですが、音楽まではクリアに戻りきらなかったようです。残念。
音楽はボレロ調。早坂文雄が手がけました。
映画は脚本と音楽が上手くかみ合わさることが大切。
脚本だけが優れていれば名作となり、脚本と音楽の両方が優れていれば傑作となります。
黒澤明監督作品の一部紹介しています。
羅城門の鬼
羅城門に鬼が棲んでいたという伝説があります。
朽ち果てた門には鬼が相応しい雰囲気だったのかもしれません。
源頼光が酒呑童子を討伐した後、頼光四天王と平井保昌とともに宴を催していたところ、羅城門に鬼がいると言う話がでました。
四天王の1人・渡辺綱は、王地の総門に鬼が住むはずがない、と確かめるために1人で羅城門へ向かいました。
羅城門に着くと、鬼が現れ、渡辺綱は鬼の片腕を斬り落とします。鬼は逃げて行きました。
これには後日譚もあり、「平家物語」剣の巻の一条戻橋の鬼の話では、鬼が渡辺綱の乳母に化けて腕を取り戻す話が伝わります。
鬼については次の本が参考になります。
あらすじ/ストーリー
ことの始まり
杣売りと旅法師が放心状態で座り込んでいた。「わかんねえ…さっぱり、わかんねえ…」
そこに雨宿りで駆け込んできた下人。二人をみて「何がわかんねえんだ?」と問うた。
二人は下人に3日前に見聞きした恐ろしくも奇妙な事件を語り始めた。
杣売りが山に薪を取りに行くと、市女笠をみつけ、踏みにじられた侍烏帽子、切られた縄、赤地織の守袋が落ちているのを見つけた。
そして、侍の死体を発見した。杣売りは恐ろしくなり、すぐさま検非違使に駆け込んだ。
検非違使の調べで、あるはずの侍の太刀と妻の短刀がなくなっていることがわかった。
同じく、侍と妻・真砂の二人を見かけたという旅法師が検非違使に呼び出され、二人が一緒に旅をしているところを見たと証言した。
多襄丸の話
下手人として、盗賊の多襄丸が捕縛された。
森の中で昼寝をしていると、男女が通りかかった。吹いた風で、笠の垂れ布で隠れていた女の顔が見えた。
瞬間的に女を手に入れることを決めた。多襄丸は女を奪うため、侍を木に縛りつけたが、殺す気はなかったという。
女を手籠めにした後、女はどちらか死んでくれ、生き残った方のものとなると言ったため、侍と一対一の決闘をすることになったのだという。
そして、多襄丸が勝った。
その間に女は逃げてしまった。
短刀の行方は知らない。
真砂の話
妻・真砂が検非違使に連れて来られた。
男が自分を手籠めにしたあと、自分と夫をそのままにして立ち去った。
真砂は夫の元に駆け寄ったが、夫の目は、真砂をさげすんだ冷たい光だった。今でも体中の血が凍るような気がする。
真砂は自分を殺すよう夫に訴えたが、夫はさげすんだ冷たい光の目のまま何も言わない。
真砂は恐怖と絶望のあまり取り乱した。気がついた時には、夫に短刀が刺さって死んでいたという…。
閑話休題
下人も二人の話を聞いていて何が何だかわからなくなってしまった。
だが、杣売りは、あの女の話も、死んだ男の話も嘘だ、と叫んだ。
下人は死んだ人間が話すのかと驚いて問いただした。
旅法師は巫女の口を借りて話したのだと語った。死人まで嘘を言うとは信じられないと述べた…。
夫の話
夫の証言を得るため、巫女が呼ばれた。
妻・真砂は多襄丸に手籠めにされた後、多襄丸に一緒に行く代わりに自分の夫を殺すようにそそのかしたという。
これを聞いた多襄丸は激こうし、真砂を踏みながら、己に、女を生かすか殺すか夫のお前が決めろと言ってきた。
恐ろしくなった真砂は逃亡し、多襄丸も姿を消し、一人残された自分は無念のあまり、妻の短刀で自害した…。
杣売りの話
大雨は続いていた。
杣売りは、三人とも嘘をついていると言った。
杣売りは事件を目撃していた。
真砂を手籠めにした後、多襄丸は真砂に頭を下げ、妻になってくれと頼んだ。
真砂は嫌がったが、夫がそんな女くれてやると言い放ち、手籠めにされた時、なぜ自殺しなかったのかと妻を責めた。
真砂が本性を出した。
夫に向かって、お前こそ男なら、私を奪われた時になぜ戦わなかった、と言い放った。
多襄丸には、お前にはこの男を殺して私を奪ってやろうという気概がないのか、と言い放った。
真砂に焚き付けられた二人はやむなく決闘を始めるが、二人ともへっぴり腰だ。
だが、ついに多襄丸が震える手で相手を貫いた。
大雨がやんで
羅生門に赤子の泣き声が響いた。赤子には綺麗な着物とお守りを持たせられていた。下人は素早く赤子の着物を奪った。
杣売りは下人を責めたが、下人は杣売りに、お前こそ嘘をついている、短刀はどこだ、お前が盗んだんだろう、図星だな、と核心をつく言葉を残して去っていった。
旅法師が赤子を抱いてあやしていると、杣売りが赤子を育てると申し出た。
杣売りのうちには六人の子どもがいるが、七人に増えても同じだ。
人を信じられなくなりそうであった旅法師は杣売りの申し出を聞き、人を信じ続けられると感じた。
映画情報(題名・監督・俳優など)
羅生門
(1950年)
監督:黒澤明
原作:芥川龍之介『藪の中』
脚本:黒澤明,橋本忍
撮影:宮川一夫
音楽:早坂文雄
出演:
多襄丸/三船敏郎
真砂/京マチ子
杣売/志村喬
金沢武弘/森雅之
旅法師/千秋実
巫女/本間文子
下人/上田吉二郎
放免/加東大介
映画賞など
- 1951年ブルーリボン賞脚本賞
- 1951年毎日映画コンクール女優演技賞(京マチ子)
- 1951年ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、イタリア批評家賞
- 1951年第24回アカデミー賞名誉賞
- 1951年ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 監督賞(黒澤明)
- 1951年全米映画評論委員会賞監督賞(黒澤明)
- 1982年ヴェネツィア国際映画祭栄誉金獅子賞(黒澤明)
映画100選
黒澤明監督作品の一部紹介しています。