今流行の早くてスピーディな展開でもなく、オカルトチックでホラー要素もありません。
題名から想像するに、「陰陽師」のような派手な演出があるのかと思いきやそれもありません。
そうしたものを期待してみると、がっかりするでしょう。
この映画は、「雰囲気」を楽しむ映画なのだと思います。
ですが、幻想的でゆっくりと時間が流れる幽玄な雰囲気を持つ映画は、ファンタジーとしてあるべき一つの方向性を示している感じがします。
ファンタジーとは魔法やドラゴンが活躍する世界ばかりではありません。
ファンタジーという言葉自体が本来は空想、幻想、とりとめもない想像などを意味するように、その持つ意味は幅が広いのです。
映画で写される自然の風景も、現存されている本物の古い日本を映し出すことにこだわったということで、京都、滋賀、福井などでロケが行われました。
画面から伝わってくるのは、古来から我々日本人が親しんだ原風景なのです。
そして、この原風景が失われつつある現代において、あえてそうした風景を使った点に監督の意図があるように思われます。
さて、この原風景の中から日本人はあまたの幻想的な言い伝えや伝説を生み出してきました。
それは、日本独自の風土や気候から自然発生的に生まれてきたもので、その言い伝えや伝説の奥底には自然に対する敬意や恐れというものが見え隠れするということです。
この物語はそうした日本人ならではの自然観が映し出されているような気がします。
映画の中でキーとなる「トコヤミ」という蟲と、対になる「銀蠱(ギンコ)」という蠱は生命のいとなみそのものを意味しているようにも思えます。
ギンコが出会う虹郎が追い続けている「虹蛇」もそうした生命を表現しているように思います。
ですが、100年前の日本ですら電気が普及し、徐々にこうした自然を浸食していくのは、ひとえに生命の源そのものを浸食していく過程そのものだったのではないでしょうか…
そうしたことをボンヤリと映画を見ながら感じました。
最後に、音楽は幽玄な雰囲気にマッチしており、そして、さりげなく使われているCGも好印象でした。
いかにも「CGを使っています!どうだ!!」というアホな演出が全くなく、溶け込んでいる点は良かったと思います。
個人的には好きな部類の映画ですが、ツマラナイという人も多いのではないでしょうか。
比して、プロモーションをすれば海外では評価の高くなる映画かもしれないと思っています。
あらすじ/ストーリー/ネタバレ
100年前、日本には「蟲」と呼ばれる妖しき生きものがいた。
それは精霊でも幽霊でも物の怪でもない、生命そのものであり、時に人に取り憑き、不可解な自然現象を引き起こす。
蟲の命の源をさぐりながら、謎を紐解き、人々を癒す力を持つ者を「蟲師」と呼んだ。
その「蟲師」の一人ギンコは髪が白く左目が義眼、そして蟲を引き寄せる特異体質のため、果てしない旅を続けている。
主な仕事は、蟲に悩む土地行って蟲の相談に応じることで、旅の途中で蟲にかかわる話を聞いて、その地に赴き、蟲の生態を観察・研究する。
むやみに蟲を封じるのではなく、蟲と生物とヒトとが共生できる世界を模索している。
そのため、新種の蟲と遭遇したり、研究書や記録書に書かれている方法と違う治療を試みることも多い。
雪深い山奥で一夜の宿を求めてさまよう蟲師のギンコは、ようやくたどり着いた庄屋で荷をほどいていると、庄屋夫人が片耳の聴力を失った三人の患者の診療を頼みにきた。
患者の耳の穴を覗いたギンコは、そこに音を喰う「吽(うん)」という蟲が付着しているのを見つけ、駆除に取りかかる。
そして、庄屋夫人はもう一人患者がいるという。その患者は彼女の孫娘で、角が生え騒音のような音が聞こえるのだという。
ギンコは四本の異様な角が生えた少女・真火の病の原因を探る。
その後ギンコは、蟲の力を文字に封じ込める不思議な女性・狩房淡幽に会うために彼女の屋敷を訪ねることにする。
ギンコはこの途中で虹郎と知り合う。
虹郎は病床の父親に「虹蛇」を見せるため、五年間に渡って、虹蛇を追い続けている。
淡幽の屋敷につくと、淡幽の体に異変が起きたという。
淡幽は生まれたときから右足に墨色のあざがあり、自由に動かすことができない。
狩房家には何代かに一人、体の一部に墨色のあざを持つ者が生まれる。
あざは、狩房家付きの蟲師が、狩房家の先祖の体に、すべての生命に死をもたらす強力な「禁種の蟲」を封じたために生じている。
あざを持つ者は「筆記者」となり、呪いを解くために、蟲を紙に写すための文字列を書き続ける。
すると蟲がその文字の墨となって体から出て行く。
足にできたあざから体に浮かび上がってくる文字を指で巻物に記すときに、足を苦痛が襲うが、そうして体内に宿る蟲を紙に眠らせていくことで、あざの割合は少しずつ減っていく。
淡幽の体に異変が起きたのはある女蟲師の話を聞いて、淡幽が文字で封じ込めようとした時のことである。
女蟲師が話したのは山の中の池に棲む「トコヤミ」と呼ばれる蟲の話であった。
女蟲師は、蟲を寄せる性質があり、ひとつ所に留まれず、故郷に親、夫、子供を残して蟲を払いながら里を巡る蟲師をしていた。
夫や子供に会うために足しげく故郷へ戻っていたのだが、あるとき、夫や子供、父や友人までもが山の中へ入ったまま行方不明となり、「トコヤミ」に捕らわれたことを知る。
以来、「トコヤミ」と池に光る「銀蠱(ギンコ)」の手がかりをつかむために、池のほとりに居を定めた。
「銀蠱」の光を浴びすぎたせいで、この池に棲む魚と同様に髪が白く、片目を失っている。
淡幽の異変を探るために淡幽が記したというその該当の記述を読んでいるとギンコ自身の身にも変化をもたらしてしまう…。
映画情報(題名・監督・俳優など)
蟲師
(2007)
監督:大友克洋
プロデューサー:小椋悟
原作:漆原友紀
出演:
ギンコ/オダギリジョー
虹郎/大森南朋
淡幽/蒼井優
たま/李麗仙
ぬい/江角マキコ
ヨキ/稲田英幸
庄屋夫人/りりィ
真火の母/クノ真季子
真火/守山玲愛
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