山本周五郎の「花匂う」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

短編集。最後の二編は現代物。「出来ていた青」は推理小説、「酒・盃・徳利」はエッセイというか小説というか、その融合的なものである。

また、本書に収録されている作品はその書かれた年代にばらつきがある。

「宗太兄弟の悲劇」は昭和三年。作者二十五歳の時の作品。「秋風不帰」は昭和十四年。「矢押の樋」は昭和十六年。「愚鈍物語」は昭和十八年。「明暗嫁問答」は昭和二十年。「椿説女嫌い」「花匂う」「蘭」は昭和二十三年。

「渡の求婚」は昭和三十一年。「出来ていた青」は昭和八年。「酒・盃・徳利」は昭和九年。

若い頃の作品から作家として脂ののっている時期までの作品が同時に収録されているので、その文体や構成力の変化が一冊の中で楽しめるという不思議な短編集となっている。

印象に残ったのは「矢押の樋」。矢押監物と矢押梶之助兄弟の生き様・覚悟が印象的だ。

天候不順のため藩の中には水が足りない水田が多く、飢饉の模様を呈してきている。

矢押監物は江戸に赴き、金を借りるための交渉をするが不首尾に終わる。そして自殺するのだが、この自殺は不首尾の申訳のためではない。主命の重さを示したのだ。主家の使命を帯びたものがどう身を処すべきか、その唯一の道を示したのだ。

一方、梶之助は藩内に水がない中、唯一水がコンコンと湛えている城のお濠に目を付け、これを水田に流すことを考える。だが、「城」が神聖なものと思っている重臣たちの猛反対にあい、梶之助はある決心をする。

それぞれの生き様や覚悟は違うのだが、決死の覚悟をもってやり抜くという点ではこの兄弟は凄まじいものがある。

特に、藩の危急の時に聖域である「城」を捨ててでも水田に水を流すことを進言し、それが却下されたとなると、別の手段に訴えた梶之助の覚悟は凄い。

現在でも、なんやかんやと聖域に手を付けられないでいる政治家や官僚たち。是非、見習ってもらいたい覚悟である。

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内容/あらすじ/ネタバレ

宗太兄弟の悲劇

理に適わぬ仇討ちといわれ村上宗六は顔面蒼白に癇癪筋をきりきりと立てた。一昨年の春、宗六の父・宗左衛門が若侍に斬られた事件があったのだ。宗左衛門は皆に嫌われていたのだ。

その後、兄の宗太とともに宗六は仇討ちに出かけ首尾を遂げたのだが、このこと以後、意外なことが始まった。

秋風不帰

六年ぶりに見る故郷の姿だった。狩谷夏雄は剣術の修行から帰ってきたところだ。その帰郷すぐに、夏雄はいきなり襲われた。なにごとかが、夏雄がいない間に起きたのだ。分かったことは、一昨年の春に父が城中で乱心し、近習のものに刺殺されたということだった。

詳しい状況を知るために夏雄は七沢吉郎兵衛を訪ねることにした。

矢押の樋

勘定奉行の外村重太夫が濠の中で泳いでいる若者の姿を見かけたとき不埒な者がいると思う程度だった。折しも藩では天候不順のため作柄が悪く、飢饉状態が現れ始めていた。

そのため幕府にお貸下げを願うほかに策はなかったくらい追いつめられていた。江戸には矢押監物が赴き交渉にあたっていた。濠で泳いでいたのはこの監物の弟・梶之助だった。

この梶之助は別の日にも濠で泳いでいる姿を外村は見かけることになる。藩が大変な時というのに一体何をしているのか。だが、梶之助にはある考えがあって行っていたことなのだ…。

愚鈍物語

甥の平山三之丞が入り用だといって加地鶴所のところに来るのだが、鶴所は頬のあたりがひきつらずにはいられなかった。三之丞の父が残した金を鶴所が預かっているのだが、なにかにつけ入り用だと申してやってくるので半分も残っていない。

この帰りに三之丞は黒板猪七郎に金子を用立てた。困っているから貸しているというのだが、鶴所の息子の主水がやってきて黒板猪七郎だけは困るという。

藩では九頭竜川の治水工事を行っていたが、これが上手くいっていなかった。三之丞は治水工事自体が難しいものかと思って調べていたが、ある別のことを考えるようになっていた。

明暗嫁問答

高滝勘太夫という国家老がいた。実子がおらず、弟の所から直二郎を養子をもらうことにした。はじめのうちはよかったが、やがて金を無心するようになってきた。これは大変な者をもらったぞと溜め息をつく始末だ。

遊びの金であろうから、早くに嫁をもらえというと、逃げるように去っていく。さてこれはなにかあると思っていたら、直二郎は屋敷に引き取ってもらいたい人がいるという。

これがお笛という女だったから驚いてしまった。そして、嫁にしたいといいだす。直二郎は殿の供で江戸に行くので、その間お笛を預かってもらいたいというのだ。そして人柄を見てもらいたいと頼む。

椿説女嫌い

新任の勘定奉行・折岩弥太夫に、波尾ゆうと名乗る若い老女が畳替えの件で文句を付けにきた。財政逼迫の状況でそんな我儘は許されないと思っている弥太夫は要求をはねのけた。

弥太夫が家に戻ると隣家から木の陰が邪魔だから枝を切れといってきているという。隣家は女だらけでかしましい。女嫌いで通っている弥太夫はそれをみて眉をひそめた。

花匂う

矢部信一郎と庄田多津との縁談がきまったと聞いて直弥は眠れない夜を経験した。そして、多津に信一郎に関する秘密を話しておかなければならないと思った。だが、自分の多津に対する気持ちに気がつき、とうとう話すことが出来なかった。

直弥は風土資料をあつめていた。そうした日々を過ごしている中、旧友の竹富半兵衛がやってきて、旧交を温めることができた。

月日が流れ、信一郎が重体という話がもたらされた。

黒沢平三郎は須川生之助に会ってはっきり言うことにした。中原松子のことである。平三郎と生之助は松子のことが互いに好きだった。だから、どちらかが松子を嫁にもらうことはもう一人を苦しめることになるのは分かっていた。

こうした中、藩では脇屋藤六の横暴が目立つようになり、二人は将来のためにも今の内にどうにかしなければならないと考えていた。

渡の求婚

落合外記が平林渡を久しぶりに家に誘った。渡は縁談の話だなと思ったが、ついていくことにした。はたしてその通りだったが、このとき挨拶に出てきた外記の妹・ゆみの姿を見て渡は放心状態になる。嫁に欲しいのかと聞くと渡はぎょっとした表情をしたが、外記はゆみには婚約者がいるといった。

その後、渡は決心したように落合家を訪れ、婚約者がいるのを知っているが、ゆみを嫁に欲しいと懇願した。

出来ていた青

山手の下宿屋街にある柏ハウスの二階十号室で殺人事件が起こった。殺されたのはマダム絢というアメリカ人ヂェムス・フェルドの妾であった。

マダム絢は花骨牌を高野信二、吉田龠平、木下濬一の三人とやっていた。

酒・盃・徳利

荒廃した田舎屋の中。青年はせっせとものを書いていた。そして、五年後…。

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本書について

山本周五郎
花匂う
新潮文庫 約三〇〇頁

目次

宗太兄弟の悲劇
秋風不帰
矢押の樋
愚鈍物語
明暗嫁問答
椿説女嫌い
花匂う

渡の求婚
出来ていた青
酒・盃・徳利

登場人物

宗太兄弟の悲劇
 村上宗太
 村上宗六

秋風不帰
 狩谷夏雄
 お高
 七沢吉郎兵衛
 井上銀之丞
 若林善之助
 町子…善之助の妹
 小野欣弥

矢押の樋
 矢押梶之助
 矢押監物
 外村重太夫…勘定奉行
 塩田外記…国家老
 吉井幸兵衛
 加世…幸兵衛の娘

愚鈍物語
 平山三之丞
 黒板猪七郎
 加地鶴所
 美代…娘
 加地主水

明暗嫁問答
 高滝勘太夫
 直二郎
 お笛
 長吉

椿説女嫌い
 折岩弥太夫…勘定奉行
 波尾ゆう

花匂う
 瀬沼直弥
 庄田多津
 矢部信一郎
 竹富半兵衛


 黒沢平三郎
 須川生之助
 中原松子
 脇屋藤六

渡の求婚
 平林渡
 落合外記
 ゆみ…外記の妹
 勝田敬之助

出来ていた青
 マダム絢
 ヂェムス・フェルド
 高野信二
 吉田龠平
 木下濬一

酒・盃・徳利
 青年

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