宇江佐真理の「おちゃっぴい-江戸前浮世気質」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

★★★★★★★★☆☆

短編集。「町入能」と「概ね、よい女房」が同じ裏店を舞台にしており、「れていても」と「あんちゃん」が続き物のような感じである。

個性的なのが、「れていても」と「あんちゃん」の菊次郎。

「あん、ご隠居まで…」

だとか、

『もしや玄伯はお龍の昔の男か?(いやん)菊次郎は胸のなかで悲鳴を上げた』

とか、男兄弟がおらず、姉とばかり遊んでいた菊次郎は仕草が少々女っぽいところがある。それでいて、遊び人だというのだから面白い。

この菊次郎は感受性と知性は豊かなようで、「れていても」の最後に出てくる川柳は菊次郎の心情を上手く表しているようだ。

「れていても、れぬふりをして、られたがり」

この川柳、それぞれの最初に「ほ」をつけて読む。

さて、本書の題名となっている「おちゃっぴい」

女の子の、おしゃべりで活発な様子を指す言葉である。

暇な状態を意味する「お茶を挽く」から転じたものだといわれる。江戸時代の遊郭で、お客がない遊女のことを「お茶挽き」と呼んでいた。お客に出す茶を茶臼で挽いて粉にする作業をしている様からこのようにいわれるようになった。

お茶を挽いている遊女たちは、ぺちゃくちゃとおしゃべりでもしながら茶を挽いていたのだろう。その様子を「お茶挽き」の形容詞として「おちゃっぴい」と呼ぶようになったといわれている。

そんな「おちゃっぴい」な娘・お吉。

札差の娘の中でも、いっとう目立つ娘で、鉄火な物言いは火消だけでなく土地の男たちにも評判だ。駿河屋のおてんば娘、あるいはおちゃっぴいを知らない者はない。どうせなら、蔵前小町と呼ばれたかった。

手代の惣助との祝言を勧められ、怒り動転し、家を飛び出してしまうのだが、ひょんなことから知り合う菊川英泉という絵師に連れられて向かった先が葛飾北斎の家。そして、北斎の世話をしていたのが娘のお栄である。

このお栄も鉄火な人間で、お吉の成長した姿を見ているような感じである。

北斎は引越しの多さが有名であるが、これは北斎が絵を書くことのみに集中し、部屋が荒れたり、汚れれば引っ越していたからだという。

多くの作家が北斎を書いているが、個人的には、北斎の生活感がもっとも感じられたのが本作である。足の踏み場もない散らかった様子や、それを蹴散らしながら部屋を歩き回るお栄。妙に洒落た煙管をもつお栄の姿も、北斎の生活を感じさせる。

私は、こうした北斎の姿や、鉄火で粋なお栄、おちゃっぴいなお吉の姿を描いたこの短編が、「いっち好きだの」。

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内容/あらすじ/ネタバレ

町入能

大工の初五郎は朝な夕なに江戸城の富士見櫓を仰いで暮らしてきた。初五郎はこのお城に特別な思いがあった。

大家の幸右衛門が裏店の連中に折り入って話があるという。浪人の花井久四郎もこの集まりに来ていた。花井は仕えていた藩が取り潰しにあい、やむなく浪人になったのだ。裏店に越してきてまだ二年ほどしかたっていない。

幸右衛門は町入能をこの裏店の皆で見に行くことになったという。初五郎は思いがけずお城に行けることになり興奮した。この集まりの帰り、花井は初五郎を誘い、能について少し講釈をしてくれた。

そして、町入能の日になった。

お城に入って能を見ていると、初五郎は何者かの視線を感じた…。

おちゃっぴい

お吉に癪なのは、心底嫌なことがあった日は決まって天気がいいことである。母が死んだ時もそうだったし、父親が後添えを迎えた日もそうだった。

お吉は浅草・御蔵前の札差・駿河屋の一人娘である。

このお吉に父親の嘉兵衛は手代の惣助と祝言を挙げてはどうかと言ってきた。驚きあきれ、怒ったお吉は家を飛び出した。すぐに惣助が追いかけてきたので、お吉は見知らぬ男にトクちゃんと声をかけ、助けを求めた。

トクちゃんといきなり呼ばれて戸惑った男だが、用事があるからといなす。だが、お吉がはなれそうにないので、しかたなく用事先にお吉を連れて行った。トクちゃんは菊川英泉という絵師だ。そして、これから葛飾北斎の所に行くという。

れていても

米沢町の「人参湯」の二階で薬種問屋「丁子屋」の菊次郎がぼんやりとしていた。春先に父親の菊蔵が中風を患うと、店の一切がいきなり菊次郎にのしかかってきた。

そして驚いたことに丁子屋には存外に借金があった。この苦境を乗り切るために、意に染まない縁談を承知しなければならない。

同業者の「なり田家」の娘・おかねが昔から菊次郎に思いを寄せているということもあり、相応の持参金付で話を持ち込んできたのだ。菊次郎はおかねを思うとげんなりした。

菊次郎にはひそかに思いを寄せる人がいた。女筆指南をしているお龍という五つ年上の女だ。

このお龍とどういう関係があるのか、気になる人物がいた。それは菊蔵の中風を診てくれた医師の佐竹玄伯である。玄は医者、伯は白で素人のこと、つまり自分で素人の医者と名乗っている。

それはともかくとして、人参湯での仲間はお龍に菊次郎の思いをこの際だから言えという。

概ね、よい女房

大工の初五郎の真向かいで、前に花井久四郎が暮らしていた所に新しい店子が入ることになった。

越してきたのは実相寺泉右衛門という物々しい名を持つ侍と、おすまという女である。おすまは泉右衛門が屋敷にいた頃に奉公していた女中だという。

裏店の皆は、泉右衛門に好意を持ち始めていたが、おすまは小言がうるさすぎで敬遠されていた。

そして年越しのために餅つきをする時になり、とうとうおすまの小言に耐えられなくなったお紺が怒り出してしまった。ここで初めておすまの気持ちというものが分かったのだが…。

驚きの、また喜びの

伊勢蔵は外神田界隈を縄張りとする岡っ引きで四十五才になる。少し短気で血の気が多いのが玉に瑕だ。家には女房のおちかと十六になる娘の小夏がいる。上の息子二人は家を出て働いている。小夏に好きな人がいるようだといわれ、伊勢蔵は少し不機嫌になった。

年が明けると、江戸は五十年ぶりの大雪に見舞われていた。この雪の中、小夏は友だちと初詣に出かけたという。そして龍吉という鳶職の若者と一緒に帰ってくる姿を見て伊勢蔵は憮然とする。

唖然としたのは、この龍吉と小夏の祝言をという話を聞いた時だ。伊勢蔵は断固として反対した。

あんちゃん

薬種問屋「丁子屋」の菊次郎が同業の「なり田家」の娘おかねと祝言を挙げたのは、春のことだった。

「人参湯」の二階にはいつもの連中が集まって話が盛り上がっていた。そこに、初めて見る顔の男がやってきて、いつのまにか話の和に入っていた。

男は林家庵助といった。庵助は菊次郎が嫁にもらったおかねのことを詳しく知っているようだった。それが、少し不審だった。

この庵助はこの事があって以来、よく菊次郎の周りをうろちょろするようになった。周りの人間は庵助だから、いつのまにかあんちゃんと呼ぶようになっていた。この庵助とは一体…

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本書について

宇江佐真理
おちゃっぴい 江戸前浮世気質
徳間文庫 約三〇〇頁

目次

町入能
おちゃっぴい
れていても
概ね、よい女房
驚きの、また喜びの
あんちゃん

登場人物

町入能
 初五郎…大工
 おとき…初五郎の女房
 花井久四郎…浪人
 みゆき…花井の妻
 熊吉
 留吉
 幸右衛門…大家
 三戸三太夫

おちゃっぴい
 お吉
 嘉兵衛…父親
 お玉…継母
 惣助…手代
 菊川英泉…絵師
 葛飾北斎…絵師
 お栄…北斎の娘、絵師

れていても
 菊次郎…薬種問屋の長男
 菊蔵…菊次郎の父親
 お龍…女筆指南
 佐竹玄伯…医師
 与四兵衛…薬種屋の息子
 備前屋長五郎…貸本屋
 善兵衛…小間物屋の隠居
 豊吉…人参湯の三助
 おかね…なり田家の娘

概ね、よい女房
 おすま
 実相寺泉右衛門
 お紺

驚きの、また喜びの
 伊勢蔵…岡っ引き
 おちか…女房
 小夏…娘
 龍吉…鳶職
 末五郎…龍吉の父親
 勘助…か組の頭

あんちゃん
 菊次郎…薬種問屋の長男
 おかね…菊次郎の女房
 林家庵助
 なり田家常吉
 与四兵衛…薬種屋の息子
 備前屋長五郎…貸本屋
 善兵衛…小間物屋の隠居
 豊吉…人参湯の三助

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