杉本章子の「信太郎人情始末帖 第3巻 狐釣り」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

信太郎人情始末帖シリーズ第三弾。

連作短編の様な感じとなっている。それぞれの章が前の章と繋がりがある。

今回はいくつかの大きな出来事があるが、ここでは二つを挙げておく。

一つは、信太郎とおぬいの間に子が生まれ、信太郎の実家である美濃屋の中で信太郎をどうするのかという問題が生まれる。

信太郎の父・卯兵衛は己の老い先短いことを考え、後継に頭を悩ましながらも、四方が丸く収まるようにと考え、母は信太郎とおぬいを何とか別れさせようと画策する。

次に、元吉の恋模様。信太郎の幼なじみの相手が人の女房であるという噂が立ち、信太郎も本気で心配することになる。信太郎は噂が真実でないことを知って安心する。

そもそも元吉の相手のお袖は、三年前に夫であった医者が行方しれずになっており、二人が所帯を持つ障害とはなっていなかったのだ。しかし、この行方しれずにはからくりがあった…。これが物語の後半を占める。

さて、このシリーズの舞台となるのは幕末である。

「去年の夏に交易を求めてきた亜米利加国の使節が再来した。八日前の一月十六日である」という記述から、本書は嘉永七年(一八五四)ということがわかる。

この年以降、慶応三年(一八六七)の大政奉還までの間、激動の時代となる。

幕末というとどうしても「激動」という印象のある時代であるが、その当時を生きている人びとにとっては、激動とは無縁の生活を送っていたというのが真実なのかもしれない。本書を読みながらそう思った。

内容/あらすじ/ネタバレ

正月。無宿牢に病人が出て牢の外に運び出そうとした隙を狙って五人が逃げた。話はすぐに南町奉行所に知らされ、中山弥一郎は吟味与力の原善左衛門に呼ばれた。

牢破りした者の中に呉服太物店槌屋幸七方に押し入った賊の藤吉が含まれていた。一味に利助という狂言作者見習いの男がおり、それの筋書きに従っての脱獄だったようだ。だがこの利助は逃げ切れずに捕縛された。

原が中山弥一郎を呼んだのは、槌屋の一軒に絡んで手柄をあげた信太郎の身辺を固めさせるためだった。

その頃、信太郎は実家の美濃屋の番頭・仁平の愚痴話に付き合っていた。その話の最中に千代太が顔を見せ、おぬいが身ごもっており、一月後には子を産むことがばれてしまった。

信太郎の所にも牢破りの話が伝わってきた。そして早速、貞五郎に用心棒のお願いをしに行った。藤吉は信太郎に泣きを見せずにはいられないという。何を仕掛けてくるのか…。

留守中誰かが信太郎を訪ねてきたらしい。容姿を聞くとどうも父の卯兵衛の様な気がする。あの事を仁平が親父に告げたのだ。

今度いつ来るのだろうと思っていたら、信太郎を待っていたのは、元吉の母親のおとよだった。おとよは元吉の好いている相手をどうしても知りたくて信太郎を訪ねてきたのだが、元吉は信太郎にも相手のことを教えていなかった。

しかも相手は人の女房という噂が立ち、さすがの信太郎も青ざめた。ばれたら男も女も死罪だ。

元吉にあうと、素直に今夜相手にあわせてくれるという。相手の名はお袖。三年前までは小野仙安という医者の女房だったが、小野仙安は三年前の冬に行方しれずになっている。

元吉は仙安の一件を洗い直して、得心がいった所でお袖と所帯を持つつもりだという。

この帰り、信太郎は仁平の家に立ち寄り、話を聞いた。父の卯兵衛は信太郎とおぬいの事などあらましを知っていたのだという。

その上で信太郎を訪ねてきたのかと思っていたら、訪ねた節はなさそうだった。とすると信太郎を訪ねてきたのは誰だったのだ。

卯兵衛は信太郎ともども、おぬいも美濃屋に引き取るつもりでいたが、上手く納まるように搦め手から話を付けるつもりでいる。

おぬいは玉のような女の赤ちゃんを産んだ。内証勘当の身とはいえ、勘当のみ分。信太郎は義兄の庄二郎を通じて父・卯兵衛に子供の名付け親になってもらった。

子は「みち」と名付けられた。美濃屋の「み」と千歳屋の「ち」からとったのだという。

一方、卯兵衛は千代太に会うつもりでいた。そこにはある思いが込められていた。

両替屋加納屋惣八は息子の栄吉に殺された。その時に惣八を診ていたのが小野仙安だった。死の直前、惣八は栄吉を後継から外して、外でつくった子の順吉に後を継がせるつもりになっていた。

この事件は表向き病死として届けられていた…

元吉は小野仙安が行方不明になる直前に診ていた病人達からあたりを付けることにした。その時の名をとどめている帳を仙安の薬籠持ちだった峰三が持っていたので、一つずつあたりを付けることにした。その中に加納屋の名前があった。

やがて筋が見えてきた所で元吉が何者かに刺され重体の身となった。そしてそれを聞いたお袖が服毒自殺を図った。信太郎がその場に駆けつけたもののお袖は助からなかった。

かわりに、信太郎に告げたことがあった。それは元吉を刺したのは金貸しの五百蔵の手下であること、そして、小野仙安が生きていることと、その潜伏先だった。

本書について

杉本章子
狐釣り 信太郎人情始末帖3
文春文庫 約二九〇頁

目次

闇の筋書き
きさらぎ十日の客
第十四番末吉
狐釣り
死一倍

登場人物

信太郎…呉服太物店美濃屋卯兵衛の総領
おぬい…吉原仲之町の引手茶屋千歳屋の内儀
千代太…おぬいの息子
おみち…娘
元吉…幼馴染、岡っ引徳次の手下
徳次…元吉の親分
中山弥一郎…南町定廻り同心
和助…千歳屋の男衆
久右衛門…河原崎座の大札、おぬいは姪
貞五郎…囃子方、御家人
小つな…芸者、貞五郎の女
二代目河竹新七…立作者
美濃屋卯兵衛…信太郎の父
おふじ…信太郎の姉
嶋屋庄二郎…おふじの夫
おゆみ…信太郎の妹
仁平…番頭
槌屋幸七…呉服太物店
藤吉…盗賊
利助…盗賊
仁平…美濃屋番頭
彦作…千歳屋番頭
お勢…彦作の女房
おとよ…元吉の母親
お袖
小野仙安…医者
峰三…薬籠持ち
加納屋惣八…両替屋
栄吉
順吉
五百蔵…金貸し
おなみ
菊次

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