佐藤賢一の「剣闘士スパルタクス」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

紀元前73年から紀元前71年にかけてイタリア半島で起きた、剣闘士と奴隷による「スパルタクスの反乱」を描いた小説。

個人の名が付く反乱というのも珍しい。有名な剣闘士であったことが反乱の名前に個人名が使われる要因となったのだろう。

この時期の拡大路線をとったローマは様々な困難に直面している。

紀元前146年、第3次ポエニ戦争でカルタゴを滅ぼしたローマだったが、この戦争の過程で、ローマ軍の中枢となっていた中小の自作農の力を低下させ、貧富の拡大とローマ軍の弱体化という結果をもたらしている。

また、依然としてローマ支配に対する抵抗というのも強く、紀元前139年の第1次シチリア奴隷蜂起、紀元前133年のペルガモンでのアリストニコスの蜂起、紀元前100年の第2次シチリア奴隷蜂起と反乱が続いた。

これは属州民に対する搾取が苛烈であったのも原因となっている。

だが、こうした反乱をローマは迅速に鎮圧できないでいた。各地で起きるローマに対する反乱は、イタリア本土における奴隷の条件を悪化させ、奴隷が蜂起せざるをえない条件を作りだしていった。

こうした結果起きたのがスパルタクスの反乱である。恐らく、スパルタクスら剣闘士が脱走して反乱を起こさなくても、誰かが反乱を起こしていただろう。条件はそろっていたのだ。

スパルタクスら剣闘士は小説の中にも登場するレントゥルス・バティアトゥウスの養成所に所属していた剣闘士であった。そして、剣闘士の指導者的な立場としてスパルタクス、オエノマウス、クリクススがいた。

最初は脱走した剣闘士七十名から八十名から始まった反乱が、7万を超える奴隷軍となる。当時の人口を考えると、とんでもない規模の反乱である。

反乱にスパルタクスの名が付くのは、結局の所、反乱の最後までいた指導者がスパルタクスだったということでしかないような気がする。他の二人は途中の戦いで倒れてしまったのだから。

そのため、この反乱は剣闘士(グラディエーター)戦争とも呼ばれる。

この時期のローマを一言で言うなら「堕落」した体制として小説では描かれている。食べるために吐いて、吐いては食べて…。することのなくなったローマ貴族はまさに地に落ちた生活をしていたと書かれている。

そもそも剣闘士が殺しあいをする闘技場で見物をする事自体が感覚が麻痺しているとしかいいようがない。

こうしたローマの政治状況に対してはもっと厳しく書かれている。

全てにおいて「無責任」。ローマでは年ごとに政務官が選ばれるとはいえ、実権は元老院議員が握っている。連帯責任の下に、全てを背負い込もうとは誰も考えない。保身に汲々として、全体の結果などおかまいなし。

あらゆる状況が現在とだぶって見えるのは気のせいだろうか。

文明や政治体制というのはすべからく滅びるもしくは移り変わるということを、歴史は教えてくれている。我々が馴染んでいる文明というのも必ず滅びるし、政治体制も必ず変わる。それがいつなのかは分からない。

だが、滅びる文明は似たような末路をたどっている。巨大な政治体制を誇っている国に置いても、必ず政変は起きている。

今生きている時代が、そうした中でどのポジションにあるのか。過去の例に鑑みて検証していけば、もう少し我々の文明や政治体制というのも長持ちするのかもしれない。

ちなみに、ローマは紀元前60年にカエサル、ポンペイウス、クラッススによる三頭政治が始まり、政治的に安定した。

その後、東西ローマ帝国にわかれ、イタリアにある西ローマ帝国が476年に滅びるまで約500年生き延びることが出来た。

が、注意しなくてはいけないのは、ローマが生き延びたのは共和政から帝政へ移行したためであり、政治体制はスパルタクスの反乱が終わった後しばらくしてから根本的に変わってしまったのである。

さて、本書は最後の最後で含みを持たせている。完全に読者の判断にゆだねられ、どちらとでも解釈できるようになっている。

スパルタクスの乱を扱った書籍。
塩野七生の「ローマ人の物語 第3巻 勝者の混迷

スパルタクスの乱を扱った映画。
映画「スパルタカス」

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内容/あらすじ/ネタバレ

ローマ紀元で六七九年(紀元前七三年)吉凶を占う老婆の占い師に「破壊の帝王」と断言されたスパルタクス。新人剣闘士として挑んだ初試合で、大敵と思われた相手を一方的に下してから十年が経っていた。

スパルタクスが出るといえば闘技場は満席となる。新人の剣闘士には憧れの星座であり、「一級剣闘士(プリムス・パルス)」の称号を帯びていた。群を抜いた実力と、持ち前の美貌を加え、人気は鰻登りだった。

この興行でスパルタクスが組まされたのは一対十の不利戦だった。だが、この戦いが終わるとスパルタクスは興行師のレントゥルス・バティアトゥウスに怒りながら詰め寄った。組まされたのは死刑が確定している囚人達だったのだ。

スパルタクスはウァレリアの所に嫌々ながらもご機嫌伺いに来ていた。ウァレリア。ポンペイに豪奢な屋敷を構える金持ち女だ。レントゥルスの養成所のパトロンである。養成所としては無下に出来ない相手である。

ここでスパルタクスは自分が奴隷であることを、まざまざと確認させられた。

スパルタクスはトラキアの出身である。第一次ミトリダテス戦争で故郷はローマ軍に蹂躙された。その時にスパルタクスは捕らえられ、奴隷となったのだ。

養成所で後輩の稽古を見ている時に、オエノマウスがスパルタクスに投網剣闘士とやる新人にコツを教えてあげてくれないかといってきた。オエノマウスはギリシャ人出身の剣闘士で、スパルタクスと同じ一級剣闘士である。

養成所にはトラキア人、ギリシャ人、ガリア人の三派がいる。オエノマウスはギリシャ人の顔役であり、トラキア人の顔役がスパルタクスだった。ガリア人の顔役は一級剣闘士のクリクススである。

スパルタクスとクリクススは考え方が正反対ということもあり、しっくりといっていない。そのクリクススがスパルタクスに挑戦的な態度を示した。

スパルタクスとクリクススの試合が組まれた。この大勝負は変則戦として組まれた。橋上試合である。この試合の主催者はウァレリアの夫・ガイウス・ティトゥス・パススである。令嬢の縁談が決まったことでの主催らしい。

二人の戦いは熾烈を極めた。

興行が終わり、傷をいやしてから養成所に戻ったスパルタクスは自分の個室が空になっているのを見て驚いた。

間違いなくウァレリアからの指示があったのだ。そしてあろう事かガリア人の宿坊にスパルタクスの個室は移されていた。私刑をしてくれと言っているようなものだ。

が、意外な成り行きとなった。クリクススとオエノマウスが頭を揃えてスパルタクスと相談をといってきたのだ。二人の考えは一つ。この養成所から脱走すること。この前の作為に満ちた橋上試合に怒っているのだ。

脱走計画は変更を余儀なくされた。大所帯の養成所のため、剣闘士の中から裏切り者が出始めたのだ。そこで、顔役の三人以外はいつ脱走するかを知らせないことにした。

脱走に成功したものの、とたんに衣食住に困る羽目になった。生きるためには大農場などから略奪する必要があった。

やがてローマ軍が塒としている場所を急襲してきた。かつて故郷で味わった恐怖が蘇る。ローマ軍には勝てない。骨の髄までしみこんだ感覚だ。

だが、ローマ軍は弱かった。なぜならローマ市民でなければローマ軍に入れない。訓練も知らない市民と剣闘士とでは天地の開きがあったのだ。その後も勝った。ローマ軍は弱すぎる。

次第に剣闘士の一団に逃げてきた奴隷の集団が加わるようになってきた。脱走奴隷は正直お荷物だった。虐げられた境涯ゆえに、体力からして恵まれていない。

ある戦いでオエノマウスが死んだ。脱走奴隷をかばっている内に戦死したのだ。そして、それを教訓に脱走奴隷の訓練が始まった。

奴隷軍は七万まで膨れあがった。スパルタクスは冗談ではないかと思うほどである。やがて一箇所にとどまることが出来なくなった。人が増えれば食料がそれだけ増える。今の場所ではもはや奴隷軍をまかなうことが出来ない。

さまよい続けて半島の南端まで来てしまった。

奴隷軍は北のアルプスを目指すことになった。アルプスを越え、それぞれの故郷へと別れるためにである。方々でローマに反する動きが出ており、状況は奴隷軍に味方していた。

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本書について

佐藤賢一
剣闘士スパルタクス
中公文庫 約四三〇頁
ローマ時代

登場人物

スパルタクス…トラキア人剣闘士
ヒラルス…トラキア人剣闘士
パリス…トラキア人剣闘士
オエノマウス…ギリシャ人剣闘士
クリクスス…ガリア人剣闘士
ユリア
レントゥルス・バティアトゥウス…興行師
ウァレリア…パトロン
ガイウス・ティトゥス・パスス…ウァレリアの夫
ポンティア…娘
クラッスス
ポンペイウス

目次

プロローグ
一、興行
二、女パトロン
三、養成所
四、困惑
五、死闘
六、宿舎
七、カプア
八、練習試合
九、脱走
十、街道
十一、ウェスウィウス山
十二、報復
十三、善後策
十四、冬営
十五、異論
十六、北上
十七、ルビコン河
十八、ローマ
十九、逆風
二十、突破
二十一、奇策
二十二、決戦
エピローグ

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