佐伯泰英の「吉原裏同心 第9巻 仮宅」を読んだ感想とあらすじ

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仮宅―吉原裏同心〈9〉 (光文社時代小説文庫)
光文社
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仮宅―吉原裏同心〈9〉 (光文社時代小説文庫) [文庫] [Mar 12, 2008] 佐伯 泰英

シリーズ第九弾。

前作で天明七年(一七八七)十一月九日に起きた吉原の大火が描かれた。本作では、吉原が再建されるまでの仮宅での商いの時期が舞台となっている。だから題名が「仮宅(かりたく)」なのである。

仮宅営業には面倒くさい初会だ裏を返すだという不自由な仕来りが無く、そのため飲食費が安く済み、遊女と客との直截な関わりに戻っていたようだ。そのため客側としては、日頃張り見世の中の花魁が安直に床入りしてくれるので喜んだ。通常吉原では遊ぶほどの余裕がないものまで遊ぶ事ができたそうである。

一方で妓楼の主も再建資金を得るために仮宅営業を望んでいた。三百日から長くて七百日営業がなされた。

吉原ではボヤで消し止められないと判断されると、廓内の火消しは吉原全域を焼き払う手段をめぐらしたようだ。焼け残った妓楼には仮宅営業の許可が下りないからだ。それよりも、出火すると仮宅営業を望むため、消火活動よりも、家財道具などの運び出しに力が入れられ、それがために火災の被害が大きくなる事があったようだ。

さらには、放火と伝えられる火事もあるそうである。そして、焼け太りと言うほどの賑わいを見せる事もあったようだ。

吉原は火事が多く、元吉原から新吉原に移ってから幕末までの二百年ほどのあいだに二十件以上の火災に見舞われている。およそ十年に一度は燃え尽きているのだ。

仮宅の場所は浅草付近が多かったようだが、両国、芝神明、本所深川などに散っていた。

さて、解説は読売新聞記者の長井好弘氏である。佐伯泰英氏と対談する機会があり、その時に作中に落語の手法を取り入れているという話が出た。

古今亭志ん生の十八番「黄金餅」に、貧乏長屋の葬列の場面が出てくる。下谷山崎町を出発して、麻布絶口釜無村の木蓮寺に着くまでの道順を、一気に述べるというものだ。この「道中付け」を取り入れているのだそうだ。

確かに、これまでの佐伯作品は丁寧に道をなぞる場面が色んなシリーズに登場している。

これからはこうした事も念頭に置いて読んでみる事にしよう。

内容/あらすじ/ネタバレ

天明七年(一七八七)師走。吉原は十一月九日未明に炎上し、仮宅営業を余儀なくされていた。吉原会所の面々にとっては、妓楼が浅草界隈を中心に本所深川まで広がっていたので、監督が難しくなっていた。この宵、神守幹次郎は番方の仙右衛門と若い衆の宗吉と一緒に見回りをしていた。

幹次郎は仙右衛門に花魁の花蕾の行方がまだ知れないのかを訊いた。炎上の時以来行方がわからなくなっている。上客は調べられているが、怪しいところはない。

幹次郎らが花蕾を抱える三扇楼の仮宅を訪ねると、代金を踏み倒そうとする者がいた。それを懲らしめ、主の秋左衛門と会った。だが、なんの手がかりもない。やはり足抜けなのか…。

秋左衛門の倅・冬丸が気にかかる者がいるといった。若い手代風の男なのだが、一度も上がった事はない。それなのに、いつもじいっと花蕾を見ているのだという。何か気が付いたら吉原会所に連絡してくれるように言って別れた。会所は船宿牡丹屋を拠点にしている。

汀女は薄墨太夫の仮宅を使って手習い塾を再開する事になっていた。

着流しの小太りな男が幹次郎らを襲った。男は吉原会所に恨みがあると言い残して消えた。

三浦屋の仮宅を見回ると、そこで幹次郎らはお茶のもてなしを受けた。薄墨太夫が助けられた御礼の意味合いもある。その席で、先ほどの男は田沼一派の新しい刺客かもしれないという思いがよぎった。

そして、この帰り、今度は火付けをしようとしている現場に出会う。狙われたのは国分楼の仮宅だった。

吉原会所に戻り、七代目・四郎兵衛に仙右衛門はこの日に起きた事を告げた。嫌な感じがする。吉原に恨みのあるものが姿を見せ始めているのか…。

吉原の焼け跡に人気がある。幹次郎は何者かに囲まれたのを感じた。

姿を現したのはむぐらの精蔵と名乗る男だ。妓楼の主に焼け落ちた地下の金蔵の金子を取り出して欲しいと頼まれたのだという。むぐらとは蔓が絡み合いながら生えた雑草だ。

足田甚吉が切迫した声で幹次郎を訪ねてきた。職を無くして干上がりそうだというのだ。

この甚吉が意外な情報をもたらした。花蕾の件だ。女衆のおしのが裏道で女郎が何人かの男に囲まれ、布団に巻かれて担がれていくのを見たというのだ。

おしのを訪ねて訊くと、どうも花蕾の可能性が出てきた。一味には「そうざ兄い」と呼ばれる男がいるらしい。さっそくこの話は吉原会所に持って帰った。

むぐらの精蔵は祝海老の跡地を掘り起こそうとしていたようだ。祝海老の主・青太郎の後添いおけいに連れ子がおり、名を朝助と言った。朝助は会所の立ち合いで勘当が決まり、吉原への出入りが禁じられている。これが絡んでいるようだ。

甚吉は玉藻が近々だす料理茶屋の山口巴屋で男衆として雇われる事になった。

幹次郎は身代わりの左吉佐吉を訪ねようと考えた。「そうざ兄い」を探してもらうためだ。左吉は何となく心当たりがあるようだ。

この帰りに幹次郎はむぐらの精蔵と再びあった。朝助も一緒だった。これを捕まえて会所に戻った。朝助は土中にまちがいなく金が隠してあると言い張った。なぜなら、死に際にお袋がそう言ったというのだ。

北国屋の番頭・利吉がやってきた。お職の文奈と磯千鳥の二人が足抜をしたという。今朝方の事だ。二人を待ち受けていた人物がいた事が確認されている。武家だという。だが二人には武家の馴染みはいない。

この武家を見た徳松に話を聞くと、歳をいった侍で、赤鞘の刀を差し、並鷹羽の紋を付けていたという。どうやらこの男が頭分のようだ。

花蕾が死んで見つかった。自ら命を絶ったという。ここにきて四郎兵衛らは田沼一統の仕業とは思えなくなってきた。やり方が異なるからだ。

そして再び女郎が消えた…。

それにしてもおかしい。この手の騒ぎはどこからか話が洩れてくるはずなのに、全く何も聞こえてこない。

身代わりの左吉から連絡が入った。左吉は御咎小普請の話をした。三千石以上の旗本の家柄でなにか失態をした場合、寄合席にも残れず小普請に入る。これを御咎小普請、または縮尻小普請と呼ぶ。その中に赤松傳左衛門家がある。

赤松家は船番所で荷船を監視する役目だという。賄賂を要求して御咎小普請に落とされた。赤松家は舟運にも船の扱いにも精通している。江戸の荷を上方に運んで高く売ろうとしているという噂があるそうだ。赤松家には田之上専蔵という腹黒い用人がいるそうだ。

赤松家を見張っていると怪しい船が行き来している。早速吉原会所の厳しい監督の目が注がれる事になった。

赤松家が不正に走った理由は金魚だった。熱中していたのは江戸金という種類で、かたちのいい珍魚を創り出すのに莫大な金子を必要としたのだ。

揚羽楼の染井太夫が消えた。染井太夫は薄墨と競う松の位の太夫で、今まで消えた花魁とは別格である。

これまで以上に赤松屋敷に監視の目が注がれ、そのうち、抱え屋敷の方に殿さまがいる事が分かった。幹次郎は仙右衛門らとともに抱え屋敷に忍び込んだが…。

仮宅商いの吉原各見世に師走らしい日々が戻ってきた。その中で市中でお花魁道中が催される事となった。当代の一、二を争う染井太夫と薄墨太夫がお練りの皮切りを務める。

それを見ようと集まった人々の中に、以前に襲ってきた着流しの男の姿がある事に気が付いた。その男が投げて寄こした匂い袋には紙が入っており、こうかかれていた。「名残惜しや徹三郎様 伏見町散り桜 柳里」

柳里は一年余前に首を括って死んだと偽装された遊女だ。身請け話があり、身持ちの悪い徹三郎からの目をくらますために死んだという事にされたのだ。

とすると、件の男は徹三郎という事になる。吉原会所の面々は身請けされた柳里の生活を壊さないために動き始めた。

本書について

佐伯泰英
仮宅 吉原裏同心9
光文社文庫 約三〇五頁
江戸時代

目次

第一章 長い夜
第二章 青磁の壺
第三章 御咎小普請
第四章 冬の金魚
第五章 馴染み迎え

登場人物

神守幹次郎
汀女
七代目の四郎兵衛…吉原四郎兵衛会所の主、山口巴屋主
玉藻…山口巴屋の女将、四郎兵衛の娘
仙右衛門…番方
長吉…若衆頭
宗吉
金次
薄墨…太夫
三浦屋四郎左衛門…吉原総名主
政吉…牡丹屋の船頭
身代わりの左吉
寅熊…一膳飯やの主
足田甚吉…岡藩中間、幹次郎の幼馴染
おはつ
津島傳兵衛直実…香取神道流
花村栄三郎…師範
代田滋三郎…与力
秋左衛門…三扇楼の主
おしげ…おかみ
冬丸…倅
花蕾(およう)…花魁
亀戸の寅蔵
むぐらの精蔵
朝助
おけい
青太郎
おしな…相模屋女中
光右衛門…柳島村の名主
香四郎
松三郎…駕籠屋
留次…駕籠屋
利吉…北国屋の番頭
文奈…花魁
磯千鳥…花魁
徳松
桂次郎
赤松傳左衛門
田之上専蔵…用人
総三郎
染井太夫
柳里
千菊
とわ…遣手
徹三郎
河童の権三
疋田卯之助

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