佐伯泰英の「酔いどれ小籐次留書 第5巻 孫六兼元」を読んだ感想とあらすじ

この記事は約5分で読めます。

覚書/感想/コメント

シリーズ第五弾。追腹組の姿があまり見られなくなり、小籐次の周辺は穏やかな日々が…続くはずもなく、相変わらず事件に巻き込まれる。

本作では様々な名刀が登場する。まずは、芝神明の雨斬丸。芝神明三縁山増上寺の大門の北側にある。飯倉神明宮とも日比谷神明とも芝大神宮ともよばれているそうだ。つぎに、芝神明の大宮司・西東正継から礼として小籐次に送られた初代孫六の兼元。そして、新藤五国光。

初代孫六は室町後期に美濃国で活動した刀工である。だが、今日「孫六」といえば、二代目孫六兼元を指すことが多い。

一方、新藤五国光は孫六より時代がさかのぼり、鎌倉時代の刀工である。相州鍛冶の祖であり、相州伝という新作風を樹立した。また、行光、正宗、則重等の名工を育成した。

「悪霊退散!」と叫ぶ前に唱えられる密教の邪気を払う真言「臨兵闘者皆陣列在前」。「臨める兵、闘う者、皆、陣列れて、前に在り」といった感じになるようだが、これは密教でのこと。

本作では「兵の闘いに臨む者は皆陣列の前に在れ」という武士の心がけとして捉えられている。室町時代に流行った文言でもあったらしい。

余談だが、真言宗では「臨兵闘者皆陣烈在前」(臨める兵、闘う者、皆 陣烈れて、前に在り)。天台宗では「臨兵闘者皆陣列前行」(臨める兵、闘う者、皆陣列ねて、前を行く)となり、最後に異同が見られる。

また、おもしろいことに、最初の九字とも異同が見られる。おそらく最初の九字が一般的だと思うが、どうしてこうも異同があるのか不思議である。

密教に絡んで、というわけではないだろうが、小籐次は観右衛門らの用心棒として高尾山薬王院有喜寺へ向かう。

真言宗智山派大本山である高尾山薬王院有喜寺は、成田山新勝寺、川崎大師平間寺と共に、関東の三大本山の一角を占める名刹。

奈良時代の天平十六年(七四四)聖武天皇の勅願により、行基によって開創された。

南北朝時代、永和年間(一三七五~七六)に、俊源大徳が入山し、高尾山中で飯縄大権現を感得したと伝えている。以後、高尾山は飯縄大権現を御本尊として奉祀し、俊源大徳をもって高尾山中輿の祖としているそうだ。

戦国時代には、領主だった北条氏康・氏照親子により、寺領の寄進がされ、篤く保護されていたようである。

内容/あらすじ/ネタバレ

久慈屋の店先で大工の棟梁と職人の四人連れと剣術の道場主とおぼしき人物と門弟二人を連れ睨み合っていた。道場主は麹町に構える山野平頼母といった。どうやら、山野平らは職人どもを脅して金をせしめるつもりのようだ。そこを赤目小籐次が仲裁に入った。

小籐次は久慈屋の大番頭観右衛門と一緒に芝神明に向かった。大宮司の西東正継に災難が降りかかったという。昨日派手な友禅の長袖を着て、白塗りに紅をさした若い男が細身の剣で串刺しになって死んだ。

若い男は陰間のようだ。西東正継は陰間同士の恨み辛みだけではなく、芝神明に怨みを抱く者のしわざとして難波橋の秀次を呼んだのだとか。それが回り回って小籐次にきたのだ。

若い陰間・藤葵の喉元に刺さっていた剣は、芝神明に伝わる宝剣雨斬丸だった。この雨斬丸が消え去ってしまった…。

西東正継からの礼として、孫六初代が鍛えた兼元が送られてきた。小籐次の愛刀、次直より八分ほど長い。

小籐次が経師屋の安兵衛の所に顔を出し、研ぎ仕事を始めていたら、達次という餓鬼大将が短刀を研いでくれと頼んできた。その刀を見て驚いた。裏長屋の小僧の持ち物とは思えなかった。小刀は新藤五国光の作によるものだったのだ。

果たして後日、この達次の一家に災難が降りかかった。達次の持っている小刀が国光だと知った黒船の寅太郎という御用聞きが達次の父親を連れ去ったのだ。この黒船の寅太郎は極めて評判が悪い。

それにしても、国光は誰の持ち物だったのか…。

小籐次は観右衛門と一緒に真言宗関東三山の一つ、高尾山薬王院有喜寺に行くことになった。

その前に、小籐次は山野平頼母の門弟に襲撃され、これを何とかしなければならなかった。山野平には双子の娘がおり、二人とも今小町と呼ばれているそうだ。妹の香恵が襲撃をけしかけているようで、小籐次を打ち負かした者と嫁になると公言しているのだそうだ。

そして、もうひとつ、水戸家の江戸屋敷で久慈行灯のお披露目をすることになっている。

観右衛門と筆頭手代の東次郎、若い手代の浩介、小僧の国三の四人と小籐次らで高尾山を目指して出発した。品物を送り届けるため、大八車を引く人足達も合わせて結構な大所帯だ。途中で厄介が生じたが、それでも無事に一行は高尾山に着いた。

小籐次は孫六兼元を背負ってきていた。それは、高尾山の霊場で滝にあたり、剣を清めようと思っていたからである。そのため、小籐次は高尾山にしばらく滞在することにした。だが…。

本書について

佐伯泰英
孫六兼元 酔いどれ小籐次留書5
幻冬舎文庫 約三一五頁
江戸時代

目次

第一章 宝剣雨斬丸
第二章 裏長屋の国光
第三章 麹町の小太刀娘
第四章 奇芸荒波崩し
第五章 琵琶滝の研ぎ場

登場人物

お花…久慈屋女衆
惣吉…大工の棟梁
山野平頼母…天流道場主
菜恵…娘
香恵…娘
西東正継…芝神明大宮司
藤葵
篠田弥曾平
菊蔵…足袋問屋京屋喜平の番頭
円太郎…職人頭
達次…餓鬼大将
松五郎
馬之助
新助
磯次
黒船の寅太郎…御用聞き
多野村長常…南町奉行岩瀬伊予守氏記内与力
権ノ助…車力の親方
早乙女陣五郎…甲府勤番支配組頭
寵玄坊
日弁坊
佃埜一円入道定道…信抜流

タイトルとURLをコピーしました