佐伯泰英の「交代寄合伊那衆異聞 第5巻 阿片」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第五弾。題名のとおり、阿片の密輸を巡り、藤之助らが活躍する。

長崎に着いてから度々語られたのが、隣国清国のたどった道である。

知られるように、清は阿片の密輸を全面的に禁止することによって、イギリスと戦争をする羽目に陥る。阿片戦争と呼ばれるもので、一八四〇年から二年間行われ、南京条約で終戦となる。

犯罪をとがめられたのを逆ギレしてイギリスが戦争を仕掛けるという悪質なものであったが、結果だけを見ると、清は多額の賠償金、香港の割譲、広東、厦門、福州、寧波、上海の開港を認めさせられる。

翌年には虎門寨追加条約で、治外法権、関税自主権の放棄、最恵国待遇条項の承認などを余儀なくされる。香港などはつい最近になって中国に返還されるなど、この戦争の影響は現代まで続いたことになる。

このイギリスとの不平等条約を皮切りに、他の列強とも条約を結ぶことを強いられ、清は列強諸国による切り取り合戦がなされ、清王朝は事実上その機能を失い、列強諸国の属国の地位に落ちる。

この清のたどった道を象徴するのが、題名となっている「阿片」である。

日本を危機に陥れる可能性のある阿片の密輸入を、幕府は阻止できない。その阻止に動き出すのは座光寺藤之助為清と長崎会所の面々である。

この長崎で藤之助は徳川幕府体制が大きく揺らいでいることを実感する。阿片に関連することもそうしたことの一つだろう。

そして、藤之助には、幕府の倒壊は既定の路線に思えている。その時、日本はどうなるのか。清国と同じ運命をたどり、属国に落ちるのか。

現在の日本でも、欧米勢に好き勝手にやられている分野がある。株式市場などが代表的だろう。欧米勢は毎度のように同じ手口で仕掛け、ガッポリと儲けている。

逆に毎度同じ手口に引っかかる日本も愚かといえば愚か。だが、株式市場での振る舞いは欧米勢の方に一日の長がある。日本はこれから学ばなければならないことが沢山ある。それは日本の行政や機関投資家のみならず、個人もである。

このように、海外勢に好き勝手にやられるというのは、他の分野にもあるはずである。

海外勢に好き勝手にやられるというのは、一種の危機的な状況である。本書を読みながら、現代に通じる部分を感じた。

さて、江戸から藤之助とともにやってきた伝習所の候補生十二人。その一人、能勢隈次郎は鉄砲の暴発によって左手首を失う。

だが、藤之助の励ましなどにより、気力を取り戻し、右手だけで出来ることを探すために異国の地へ飛び立つと決意をする。行く先はイギリスのロンドンである。伝習所の者達よりも一足先に海外へ飛び立つ。

前作までの勢いから藤之助も早い段階で海外へ行くのだろうと思っていたが、本作を読んで、一端江戸に戻るのではないかと感じた。

というのは、長崎で藤之助が感じたのは日本に迫り来る危機であり、それを感じさせるために老中首座の堀田正睦や堀田の重臣・陣内嘉右衛門が藤之助を長崎に送り込んだと思えるからである。

とすると、長崎で感じたことを老中首座の堀田正睦や堀田の重臣・陣内嘉右衛門に報告するために江戸に戻らなければならない。

それに、座頭寺家には代々継がれた隠された使命がある。本書ではそれを強調していたので、やはり江戸に戻るのだろう。

さて、この予想が当たるのかどうか。

それにしても、おらんはしぶとい…。

内容/あらすじ/ネタバレ

旧暦七月も終わり。江戸町惣町乙名の椚田太郎次は座光寺藤之助為清と会っていた。三日前の明け方、若い遊女の若葉が死体で見つかった。阿片にやられて死んだのだ。

この話の後、藤之助は高島玲奈のいる鼠島に向かった。阿片を誰が長崎に持ち込むのかを確かめるのだ。

目の前に黒々とした巨船が浮かび上がり、黒蛇頭の老陳の船が阿片の抜け荷にも関わっているようだ。すると、薩摩藩の船が現われ、その後にもう一隻現われた。船には二人の姿が見える。

一人は薬種問屋福江左吉郎。もうひとりは長崎ものではなかった。福江左吉郎一行は十九袋の阿片を買い付けたようだ。

外科医・三好彦馬も阿片の流入を気にしていた。阿片で五人の遊女が命を失っている。三好も阿片の流入を阻止してくれと藤之助に頼んだ。

椚田太郎次のところへ訊ねるには早かろうと藤之助は丸山町へと向かった。その時藤之助を狙う者がいた。女剣客であった。

この夜、太郎次は能勢隈之助に引き合わせることになっていた。能勢は唐人屋敷に身を移され、黄武尊大人と一緒に藤之助らを出迎えた。左手首を失った心痛から立ち直り、能勢は右手だけで出来る仕事を探しに異国へ渡ると決意していた。南蛮に渡りたいという。

能勢の旅費を肩代わりする代りに、黄武尊は阿片の行方をつかみ、始末してくれと頼む。期限は能勢が乗る船が出帆するまでである。期限はあと十日。

阿片の行方がつかめないのは背後に長崎会所の人間が関わっているからではないかと藤之助は考えた。となると、探し出すのは難しい。

ゆさぶりをかけることにした。藤之助は阿片で死んだ遊女がいた丸山町へ向かい、あからさまに探索していることを示した。すると芳造という渡世人が姿を現わして藤之助を脅した。芳造は両手に拳銃を握っている。

藤之助は近日中に英吉利の倫敦に向けて出発する能勢隈之助と、一柳聖次郎、酒井栄五郎らとの別れの席を設けた。聖次郎と栄五郎は能勢の決意に驚きを隠せなかったが、快く盃を上げて送り出した。

一方、藤之助を襲った刺客がわかった。利賀先六三郎と一緒に藤之助を襲って返り討ちにあった茂在宇介の許婚・池添亜紀とその弟・池添隆之進の姉弟だ。そして、もうひとつ、福江左吉郎と一緒にいたものは、上方の薬種問屋・畔魂堂の主・耀右衛門ということがわかった。

黄武尊との約束の期限が近づいている。玲奈も一つ動いてみるという。長崎名物のハタ揚げをして大鼠を動かしてみせるという。

藤之助を狙う刺客の池添姉弟は目の前で藤之助の実力を見せつけられ、呆然とした。二人は藤之助らに伴われ、高島家に預けられた。

湊に英吉利の艦隊が入ったというので、大騒ぎである。これにあわせるかのように玲奈の画策したハタが揚げられた。果たして大鼠は動くのか。

本書について

佐伯泰英
阿片 交代寄合伊那衆異聞5
講談社文庫 約三二五頁
江戸時代

目次

第一章 鼠島の鳥船
第二章 姉弟の刺客
第三章 両手撃ちの芳造
第四章 長崎ハタ合戦
第五章 稲佐の女

登場人物

座光寺藤之助為清
高島玲奈…高島了悦の孫娘
稲葉佐五平…高島家用人
おけい…えつの末娘
えつ
椚田太郎次…江戸町惣町乙名
お麻…太郎次の内儀
髪結の文次
風助…若い衆の頭分
上田寅吉…豆州戸田の船大工
福江左吉郎…薬種問屋
芳造…渡世人
耀右衛門…畔魂堂の主
福田孝右衛門…常行司
黄武尊…長崎・唐人屋敷の筆頭差配
早右衛門…福砂屋番頭
あやめ…福砂屋の三女
みずき…福砂屋の長女
かえで…福砂屋の次女
池添亜紀
池添隆之進
(長崎伝習所)
酒井栄五郎…御側衆酒井上総守義宗の倅
一柳聖次郎…御小姓御番頭の次男
能勢隈之助
勝麟太郎
東郷加太義…薩摩藩士
川村修就…長崎奉行
永井尚志…海軍伝習所総監
光村作太郎…長崎目付
飯干十八郎…長崎奉行所隠れきりしたん探索方
三好彦馬…外科医
老陳…黒蛇頭の頭目
おらん
廷竜尖

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