佐伯泰英の「交代寄合伊那衆異聞 第4巻 邪宗」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

★★★★★★★☆☆☆

シリーズ第四弾。長崎の逗留が長くなりそうな気配である。江戸の座光寺家から手紙が来て、江戸の様子が知らされるが、江戸は遠い。

てっきり、文乃といい関係になるのかと思っていたが、長崎に来てスペイン人の父を持つハーフの美女・高島玲奈に惚れられてしまうのだから、どうなるのだか。

長崎の逗留が長くなるどころか、このまま長崎から海外へ飛び立ちそうな勢いである。

気になるのは、海外へ藤之助が行くことになるとして、どこへ行くかである。

この時期、欧米列強が清国に進出している。幕府として急務なのは欧米列強の科学技術を学び、遅れを少しでも取り戻すこと。長崎伝習所もそのために設けられている。となると、欧米列強のどこかなんだろう。

それにしても、一体全体江戸に戻ることはあるのだろうか?

さて、解説で末國善己氏が昭和三十年代の時代小説を述べている。

この時期の娯楽時代小説を支えていたのが、タイトルに「○○倶楽部」と付けられることが多かった倶楽部雑誌だった。娯楽性を前面に押し出したため、低俗、通俗と批判されることがおおく、現代では顧みられなくなったそうだ。

代表的な作家として風巻絃一、江崎俊平、佐竹申伍、颯手達治らがいる。恥ずかしながら、私はどなたの名前も存じ上げないが、その内に読んでみようと思う。

が、この伝統はとぎれたわけでなく、書き下ろしの文庫という形で受け継がれている。

倶楽部雑誌が酷評されたように、書き下ろしの文庫も、純文学やハードカバーで刊行される時代小説と比べても一段低く見られている。ハードカバー=高尚という認識が根強いというのだ。

また、小説を読むことにより、何か学べるということが重視されてきたこともあり、娯楽だけの小説は軽んじられてきた。

高尚がすばらしいのかどうかは、各人の好みなので、どうでもいいが、娯楽性が高いものが低俗かというと決してそうでもないのではないかと思っている。おそらく、解説の末國善己氏もそうした思いがあって、上記のようなことを述べているのだろう。

文学賞などを見ると、新人賞の最高峰とされる芥川賞と直木賞とでは、おそらく純文学の芥川賞の方が格上と考える人が多いのではないか。

新聞などの取扱を見るとそういう印象を受ける。大衆文学の直木賞の方が格下に見られ、大衆文学自体が俗なもののしての認識があるのだろう。

だが、実際に作家として長く活動しているのは直木賞作家の方が多い気がする。時代小説、歴史小説の分野で言えば、圧倒的に直木賞作家が幅をきかせている。それは物書きとしての実力が圧倒的に違うからだ。

芥川賞作家や純文学系の作家が娯楽系の小説に手を出すことがある。最近富みに多くなっている感じがする。作家も生活がかかっているからだろう。

ミステリーやサスペンス、時代小説や歴史小説がターゲットになるが、そのいずれもがツマラナイようで、ほとんどの場合話題にならない。

こうした作家は、娯楽系小説の読者の怖さを知らないのだ。ミステリーやサスペンス、時代小説や歴史小説の読者層は、その分野の作品に読み慣れている。面白く無ければ、どんなに有名な作家でも見向きをしないのが娯楽系小説の読者層である。

最終的には、小説とは面白いか面白くないかという単純なところに帰結するのではないか。理想は「面白くて高尚なもの」なのだろうが、まずは「面白くて」が先に来る。「高尚」が先に来てはだめだ。

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内容/あらすじ/ネタバレ

豆州戸田の船大工・上田寅吉が座光寺藤之助為清に声をかけ、ちょっと付き合ってくれないかという。連れて行った先には高島玲奈がいた。そして長崎奉行の川村修就が数人の阿蘭陀商館員を連れて現われた。江戸町惣町乙名の椚田太郎次は竹刀を持っている。

藤之助が呼ばれたのは、腕自慢の商館員と剣術勝負をさせたいという商館長の願いからであった。

この剣術勝負のあと、玲奈と二人きりになった藤之助は、玲奈が隠れきりしたんであることを知り驚く。その玲奈に連れられて向かったのは、隠れきりしたんが集まる教会だった。

その中に身分が高い女性がいた。ドーニァ・マリア・薫子・デ・ソト。玲奈の母である。玲奈はイスパニア人の父を持つ娘であった。

教会からの帰り、玲奈は老陳の船が長崎に戻ってくると告げた。

伝習所の道場に帰ると、白尽くめの五人のものが土足のまま円座を組んでいた。佐賀から来た連中で利賀崎六三郎の実弟二人と親族だという。仇を討たねば肥前武士の面目が立たないというのだ。

この騒ぎの後、椚田太郎次がやってきて、おらんが戻ってきたという噂があるという。おりしも玲奈から老陳が戻って来るという話を聞いたばかりだった。

その太郎次が藤之助をつれて紹介した人物がいる。黄武尊。長崎・唐人屋敷の筆頭差配だ。黄武尊は老陳の黒蛇頭一味と考えを異にする唐人で、同じ唐人同士でありながら敵対関係にあった。

江戸から御用船の江戸丸がついた。船には小人目付の宮内桐蔵が乗っていた。隠れきりしたん狩りの達人だそうだ。

江戸丸主船頭の滝口冶平は藤之助への手書きを持ってきていた。一通は文乃から、一通は引田武兵衛から、もう一通は陣内嘉右衛門からのものだった。

藤之助は玲奈と会った。玲奈は藤之助に亜米利加製の輪胴式連発短銃(リボルバー)の試作品を贈った。この後、藤之助は手紙を読んだ。陣内嘉右衛門からの手紙の内容は、佐賀藩の利賀崎六三郎との暗闘に端を発した事件が、佐賀からの刺客を呼び寄せているというのを教えてくれていた。

また、この手紙の中で長崎喧嘩という事件のことをいっているが、分からなかったので玲奈に聞くことにした。

伝習所の夕稽古には伝習所の候補生ばかりで、千人番所の佐賀藩士は誰もいなかった。その事は気にせずに、藤之助は江戸丸の主船頭・滝口冶平が長崎にきていることもあり、酒井栄五郎らの伝習所候補生と一緒に卓袱料理を食べに行くことにした。

玲奈が真剣なまなざしでいう。宮内桐蔵が動き出したのだ。八月十三日には善か盆といって、隠れきりしたんの祭礼が行われる。それを突き止められたのだ。

伝習所では候補生の一人・能勢隈之助が大怪我を負っていた。左の手首を切断せざるを得ない重傷だ。能勢は候補生としての務めが出来ないと判断され、江戸へ送還されようとしている。

だが、藤之助は長崎に残れるのなら、片手でも出来る学問なりなんなりを身につけることができるはずだと反対する。

そして、勝麟太郎とはかって、能勢を椚田太郎次のところに運び込んだ。

藤之助を狙う佐賀藩士の刺客団が姿を現わした。刺客団にはおらんの姿が見えた。

この闘いの中、藤之助は太股に矢を受ける。矢にはなにか毒が塗られていたようで、闘いの後、藤之助は高熱を発した。

そして藤之助は玲奈を助けるために病み上がりの体に鞭を入れて活動する。

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本書について

佐伯泰英
邪宗 交代寄合伊那衆異聞4
講談社文庫 約三二五頁
江戸時代

目次

第一章 南蛮剣法
第二章 文乃からの便り
第三章 善か盆
第四章 伝習所打ち返し
第五章 島崩れ阻止

登場人物

座光寺藤之助為清
高島玲奈…高島了悦の孫娘
椚田太郎次…江戸町惣町乙名
ドーニァ・マリア・薫子・デ・ソト…玲奈の母
上田寅吉…豆州戸田の船大工
利賀崎武雄
利賀崎七之助
黄武尊…長崎・唐人屋敷の筆頭差配
宮内桐蔵…小人目付
滝口冶平…江戸丸主船頭
早右衛門…福砂屋番頭
あやめ…福砂屋の娘
(長崎伝習所)
酒井栄五郎…御側衆酒井上総守義宗の倅
一柳聖次郎…御小姓御番頭の次男
能勢隈之助
勝麟太郎
榎本釜次郎
東郷加太義…薩摩藩士
川村修就…長崎奉行
永井尚志…海軍伝習所総監
矢田堀景蔵
光村作太郎…長崎目付
三好彦馬…外科医
お風…華月女将
老陳…黒蛇頭の頭目
おらん

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