覚書/感想/コメント
シリーズ第二十二弾
予想通り、箱崎屋次郎平の誘いを受け、博多に立ち寄った磐音とおこん。平穏無事に博多観光というわけにも行かず、なぜか騒ぎに巻き込まれてしまう。
しかし、博多の逗留もそう長くはなく、今津屋のお佐紀が子供を産むまでには江戸に戻れそうである。とはいっても、すんなり江戸に戻れるのか…。
さて、今回は江戸での動きも色々とあって慌ただしい。
依田鐘四郎となった佐々木玲圓道場の師範・本多鐘四郎。佐々木玲圓と速水左近の考えによって、将軍家世子・徳川家基の近習衆に変えられそうである。
これには以前、日光社参(夏燕ノ道 居眠り磐音江戸双紙14)のおり、田沼意次が放ったと思われる刺客が家基を狙ったことが背景にある。
二人は再び、田沼意次が家基を狙うと考えているのだ。そこで、依田鐘四郎を
家基の身辺警護に当てることにしたということである。
徳川家基を巡る事件というのが、このシリーズの最大の山場であるのは分かっているので、着々と人物をしかるべきところに配置し始めているようである。
まぁ、あと十卷近く先の話だろうけども…。
すごく久しぶりに名前の出てきた、富山の薬売りの弥助。磐音が幕府のお庭番と睨んでいる人物であるが、この弥助の名前が再び登場し、弥助も徳川家基を巡る事件に絡んで重要な役割を与えられそうである。
また、これに絡むのかどうか分からないが、品川柳次郎の身辺にも変化が起きている。何となくではあるが、品川柳次郎にも重要な役割が与えられるのではないかと感じている。
久しぶりといえば、笹塚孫一の荒業が見られるのも、本書の魅力かもしれない。魅力というより、懐かしい感じがしてしまった。
内容/あらすじ/ネタバレ
黒田氏五十二万石の福岡城、別名舞鶴城を坂崎磐音は中ノ橋から眺めていた。磐音とおこんは豊後関前を発ち、博多の町に到着していた。博多の大商人・箱崎屋次郎平の招きに応えることにしたのだ。
その箱崎屋次郎平が磐音に頼みがあるという。番頭の一人が磐音が逗留していることをしゃべってしまい、前の国家老・吉田久兵衛保年が是非に藩道場で妙技を見物したいといっているという。
吉田久兵衛保年は無類の剣術好きで、佐々木玲圓道場の高弟がいるとわかると、いてもたってもいられないようだ。磐音は快くこれに応えた。
藩道場には佐々木道場に門弟として通っていた小埜江六がいた。吉田久兵衛保年は門弟十人を選び、磐音と対戦させることにした。だが、いずれも磐音の前には手足も出ない。
だが、磐音の人柄に、福岡藩の道場の雰囲気に溶け込んだ。
この後、おこんと一緒に箱崎屋を訪れ、末娘のお杏が磐音とおこんを散策の案内に連れ出した。そして、そこで磐音は五人の侍が若い侍を囲んでいる場に出くわす。そばに若い娘がいた。
江戸に磐音たちが博多にしばらく逗留する断りの手紙が届いた。同じ内容の手紙が老分の由蔵により今津屋経由で佐々木玲圓に届けられた。
佐々木道場には、さきに依田家に入った鐘四郎がいた。そして、磐音がしばらくもどってこないことがわかった上で、鐘四郎をしばらく鍛えるためにも道場通いを許すことにした。
鐘四郎は速水左近によって、近いうちに家基の近習衆に変わることが決まっていた。
その頃、磐音が救った若い侍が猪俣平八郎ということが分かった。側にいた娘は下中お咲。猪俣平八郎の上役の娘だという。どうやら身分違いの恋で、それがために揉めているようだ。
そして、磐音とおこんが江戸に戻る日取りが決まった。
品川柳次郎の心がどこか弾まない。当主の清兵衛が屋敷に戻らず、長兄の和一郎も家を出ていない。そこに小普請組組頭からの呼び出しである。このままでは御家人品川家の廃絶はいずれ決まる。
その柳次郎が幼馴染の椎葉お有に出会った。久しぶりにあり、柳次郎は心の中にあるわだかまりをお有に話した。お有はお有で、御書院御番組頭の八幡鉄之進のところとの縁談に気が進んでいないことを打ち明ける。
磐音は下中お咲と再び出会っていた。今度はどうやら猪俣平八郎と他国へ逃げる様子である。この二人をお咲の叔父・池内左門次が秘かに狙っているという。
品川幾代は覚悟を決めていた。そして、柳次郎は廃絶となったあかつきに住むための長屋を探すため、今津屋を訪れ、老分の由蔵に相談することにした。
この柳次郎を狙う刺客があらわれた。椎名お有から手をひけという。そのお有が柳次郎を呼び出した。どうしても八幡鉄之進に嫁ぎたくないようだ。だが、逃げる場所がない。柳次郎は考えた末、佐々木玲圓道場に駆け込むことにした。
八幡鉄之進はどうやら、賭博を開いているらしい。この話を知り、佐々木玲圓も速水左近も強く嘆いた。あろうことか御書院御番組頭が賭博を開くなんて…。
本書について
佐伯泰英
荒海ノ津
居眠り磐音 江戸双紙22
双葉文庫 約三四〇頁
江戸時代
目次
第一章 隠居老人
第二章 博多便り
第三章 大股の辻
第四章 恋の芽生え
第五章 幸せ橋
登場人物
吉田久兵衛保年…福岡藩の前の国家老
有地内蔵助…藩道場指南
小埜江六
平林豹助
母利圭吾
箱崎屋次郎平
お神亀…内儀
お杏…末娘
愛蔵…番頭
こい婆
太宰の勘十郎…十手持ち
猪俣平八郎
下中お咲
池内左門次…お咲の叔父
品川清兵衛…品川柳次郎の父
品川和一郎…品川柳次郎の兄
中野茂三郎…小普請組組頭
椎葉お有
八幡鉄之進…御書院御番組頭
浜村弾正