ノア・ゴードンの「千年医師物語Ⅲ: 未来への扉」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

「千年医師物語」の最後を飾る第3部。

舞台は現代のアメリカ。クリントンが大統領になる時期が物語りの舞台である。

主人公はRJ。今までのロブ・Jという男の医者ではなく、女医である。共通するのは、「コール家の贈り物」がRJにもそなわっていることだろう。

今回作者がRJという女医を主人公にしたのには、理由がある。

それは、この物語で大きく取り上げられているテーマと関係する。

一つには中絶問題。宗教的な理由や道徳、倫理的な理由から論争の絶えないこの問題を取り扱っている。おそらくこの問題の深刻さは、日本では実感できないだろうが、ヨーロッパやアメリカでは上記のような理由から度々大きな問題となっている。日本であまり大きな問題とならないのは宗教的な側面からの問題提起がなされないからであろうか。

そして、もう一つはフェミニズム問題。まぁ、いまではジェンダーといった方がいいか。これはそれほど大きく取り扱っているわけではないが、最初の部分ではこの問題が、ちょっと頭を覗かせている。

これらが、女医を主人公としている大きな理由だろうと思う。

この他に、作者が大きなテーマとして取り上げているのがアメリカの医療保険制度と、極端に専門化した医療である。

日本のように国民皆保険制度ではないのがアメリカ。そのため、保険に入っていないからという理由で医療を受けられない人が多数いる。

おそらく先進国といわれる国で、国民皆保険制度が取られていないのはアメリカくらいだろう。一面では優れて進んでいるアメリカだが、このように社会保障制度の面に大きな問題を抱えているのだ。

それと、極端に専門化した医療。スペシャリストであることはいいのかもしれないが、効率を重視した結果たどり着いたシステムのように感じられてしまった。

RJがはじめに勤めていた大病院が、工場のように思えてしまい、何ともいわれない嫌な感じを持った。RJが田舎の町医者に自分の居場所を見つけたのも、うなずける話である。

この「千年医師物語」は小説としての面白さとしての側面もあるが、医者とはなにか、医療とは何か、ということを語りかけているように思う。

これを読んで、何も感じない医者は、人としてあるべき何かを置き忘れているのだろう。そして、これを読んで、そんなことをいっても現実はねぇ…という医者は患者よりも自身の出世や、そのほかの保身に気を取られているのだろう。

この物語は、現在の医療に対する、警告であり、注意であり、喚起をうながしている。

さて、この「千年医師物語」の大河ドラマは、本書で終了する。だが、ロブ・Jの系譜は続くのである。

シリーズは3部作になっている。

  1. 千年医師物語Ⅰ: ペルシアの彼方へ
  2. 千年医師物語Ⅱ: シャーマンの教え
  3. 千年医師物語Ⅲ: 未来への扉 本作
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内容/あらすじ/ネタバレ

ロバータ・ジャンヌダルク・コール(RJ)に、大病院での出世のチャンスが回ってきた。

大病院での出世は願ってもいないことだったが、その反面、医療行為の歓びを失っていた。それは、保険請求書類に目を通しサインをするのにあまりにも多くの時間を取られていたからでもある。このおかげで、患者と人間らしく接し、真の救済者たる医者になるために時間も機会もなかった。

そして、RJは結婚生活に破綻を来していた。

…RJはもっと若い頃にはたくさんの政治的主張を行ってきた。そして今はその数少ない主張をすべく、家族計画クリニックで働いていた。それは、様々な事情から中絶を選ばざるを得ない女性のためのクリニックだった。だが、アメリカでは中絶論争が巻き起こっていた。

過激な中絶反対論者もおあり、廃業に追い込まれるクリニックも多数存在していた。

…RJの大病院での出世はなくなった。それは、RJが論争の対象となっている中絶クリニックで働いているというからである。そのことは決して表には現れないが、間違いなくそうであった。

これに追い打ちをかけたのが、離婚であった。

…結婚生活の遺産を整理するために訪れた町で、RJは偶然医療行為に関わることになった。そして、この町に長いこと医者がいないことを知る。

RJはここに引っ越して医者として改行することを決意した。

…RJは医者として生きてきたわけではなかった。もともと弁護士として働いていたのだ。

それが医師を目指すことになったのは、恋人との死別、そして、自身の流産だった。

RJは恋人との死別の直前に、人の死を確信できるようになった。後で、父親から「コール家の贈り物」と呼ばれるものであることを知った。

…町に移り住んだRJは医者として頼られる存在になりつつあった。

そして、この町で知り合ったデビッド・マーカスと親しくなる。彼とのつきあいは順調にいっていた。

だが、この関係に破綻が来すのは、彼の娘・サラが妊娠してしまってからである。サラは中絶をRJにお願いし、RJは中絶クリニックにサラと同行することになった。だが、この中絶手術がもとでサラは死んでしまう…

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本書について

ノア・ゴードン
未来への扉
千年医師物語Ⅲ
角川文庫 計約505頁
20世紀 アメリカ

目次

第一部 先祖がえり
 第一章 指名
 第二章 ブラトルストリートの家
 第三章 ベッツ
 第四章 決断の瞬間
 第五章 舞踏会への招待
 第六章 競争者
 第七章 言い分
 第八章 同僚たちによる陪審
 第九章 ウッドフィールド
 第十章 近所の人々
 第十一章 天命
 第十二章 法律との離反
 第十三章 別の道
 第十四章 最後のカウガール
第二部 一歩手前の家
 第十五章 変性
 第十六章 診察時間
 第十七章 デビッド・マーカス
 第十八章 猫のような関係
 第十九章 一歩手前の家
 第二十章 スナップ写真
 第二十一章 自分の道さがし
 第二十二章 歌い手たち
 第二十三章 使うべき贈り物
 第二十四章 新しい友だちたち
 第二十五章 腰を落ちつける
 第二十六章 降雪線の上で
 第二十七章 冷たい季節
 第二十八章 上昇する樹液
第三部 ハートロック
 第二十九章 サラの頼み
 第三十章 短い旅
 第三十一章 山を下りて
 第三十二章 アイスキューブ
 第三十三章 遺産
 第三十四章 冬の夜
 第三十五章 隠された意味
 第三十六章 遊歩道にて
 第三十七章 もうひとつだけ渡らなければならない橋
 第三十八章 再会
 第三十九章 命名
 第四十章 アグーナが怖れたもの
 第四十一章 似たもの同士
 第四十二章 元少佐
 第四十三章 赤いピックアップ
 第四十四章 早朝のコンサート
第四部 田舎医者
 第四十五章 朝食語り
 第四十六章 キドロン
 第四十七章 ふたたび腰を落ちつける
 第四十八章 化石
 第四十九章 招待
 第五十章 彼女たち三人
 第五十一章 解けた疑問
 第五十二章 墓参りのしるし
 第五十三章 光と影
 第五十四章 種蒔き
 第五十五章 雪のおとずれ
 第五十六章 発見

登場人物

ロバータ・ジャンヌダルク・コール(RJ)
ロバート・ジェームソン・コール…父親
デビッド・マーカス
サラ・マーカス
トビー・スミス…救急救命士、RJの診療所の受付
グヴェン・ゲーブラー…RJの友人
サマンサ・ポッター…RJの友人
エバ・グッドヒュー…ウッドフィールドの老女
トム・ケンドリックス…RJの夫
エリザベス・サリバン(ベッツ)…トムの昔の恋人

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