ノア・ゴードンの「千年医師物語Ⅰ: ペルシアの彼方へ」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

この物語は、「千年医師物語」とあるように、千年に及ぶ”コール一族”の医者としての大河ドラマである。

大きく三部構成になっており、本作は、その第一部というべき作品で、初代”ロブ・J”を主人公としている。

“コール一族”に備わった”贈り物”。その”贈り物”によって医者となるべく宿命づけられた一族の運命はどのようになっていくのか。現代まで続く壮大なドラマの幕開けである。

この作者の特徴なのだろうか?目次を見れば分かるように、章がとてつもなく多い。逆にいうと、一つの章は短い。それなりの厚さの本だが、意外と読みやすい。

さて、俗に暗黒の中世と呼ばれる時代のヨーロッパ。医療水準も低く、何かあると血をぬく瀉血という方法がとられていた。この時代のヨーロッパは後進国だったのだ。対して、先進国だったのがイスラム圏。文明的にも文化的にも、当時の世界最高水準だった。当然、医療も最先端である。

こうした時代を舞台にした小説。

もともと馴染みのない時代に加え、扱っているのが医療。話が小難しくなるのかと思いきや、専門的な医療の話はそれほど多くは出てこない。

もちろん、医療の話は多く出てくるが、この医療の話は、当時のヨーロッパとイスラムの文化水準の差をクッキリと浮かび上がらせるのに役立っている。どれだけ文化水準が違うのかが、本当に良く感じられる。

とても印象的なのは、ペルシアからイギリスに戻った後。とんでもない後進国に舞い戻ったかのような錯覚すら覚える。前半部分のイギリスとさほど変わるはずはないのに、そう感じてしまう。それだけ、当時のイスラム圏の水準が高かったのが、分かるような構成になっている。

こうしたヨーロッパとイスラムの対比の中に、ユダヤの人々を登場させることによって、さらに物語の深さを持たせている。

この当時から、東西の貿易に従事し、先端の医療を学ぶようなユダヤの人々。その血が連綿と受け継がれて、各種の天才が生まれるのも当然かなと思ってしまう。

シリーズは3部作になっている。

  1. 千年医師物語Ⅰ: ペルシアの彼方へ 本作
  2. 千年医師物語Ⅱ: シャーマンの教え
  3. 千年医師物語Ⅲ: 未来への扉

内容/あらすじ/ネタバレ

11世紀のロンドン。ロバート・ジェレミー・コール(ロブ・J)は続けざまに親を亡くしてしまう。そして、兄弟とも離ればなれになる。

ロブ・Jは母親の死に際して、その死を感じ取った。それは、母親の身体から伝わってくるある知覚であった。まだ、ほんの子供だったロブ・Jはその知覚におそれを抱いた。

ロブ・Jは、他の兄弟と別れ、外科医兼理髪師のヘンリー・クロフトにもらわれていった。ヘンリー・クロフトは別名を”床屋さん”といった。

“床屋さん”はイギリス中を巡り、見世物をしながら客を呼び、その見世物の後に診察を行っていた。だから、ロブ・Jが最初に覚えなくてはならないのは、見世物の技術であった。”床屋さん”はロブ・Jにジャグリングを仕込み始めた。

外科医兼理髪師は下層階級と貧乏人が商売相手である。上には内科医と呼ばれる人々がおり、もっと実入りの良い料金を請求していた。

ロブ・Jは”床屋さん”に鍛えられ、ジャグリングの腕を上げ、”床屋さん”とともに見世物の舞台に立つようになった。それとともに、”床屋さん”から、医術の基本をたたき込まれていった。

やがて、”床屋さん”もロブ・Jに備わっている特殊な能力に気がつくようになる。それは、神からの贈り物のようなものである。特に医術に携わるものにとっては、またとない贈り物なのだ。

…ロブ・Jは”床屋さん”との旅の中で出会ったユダヤ人医師の技術力の高さに驚愕することになる。

彼は、はるか遠くのペルシアという国で医術を学んだということを知った。そのことはふかくロブ・Jの胸に刻まれることになる。

やがて、徒弟奉公が終わり、”床屋さん”とロブ・Jは雇用条件を結んだ。そのまま日々が流れていくかと思ったが、ある日突然”床屋さん” が死んでしまった。

ロブ・Jは”床屋さん”の遺産を引き継ぎ、外科医兼理髪師としての旅を続けていたが、やがて奥の方から、さらなる医術への欲求がロブ・Jを突き動かし始めた。

ペルシア。そう、ペルシアだ。世界で最も傑出した内科医、イブン・シーナの元で学びたい。

イブン・シーナの服のへりにさわるんだ!

…イギリスからフランスへ渡り、言葉の違う国へと入っていく。途中で旅の仲間となったユダヤ人に、ペルシアの言葉を習いながら、ロブ・Jはペルシアを目指した。そして、ロンドンを出発してから二十ヶ月後、イスファハンを見た。

ロブ・Jはペルシアではユダヤ人として通すことにしていた。その方が何かと都合がよさそうだと言うことがわかったからである。

すぐにでもイブン・シーナの元で学べると思っていたが、上手くはいかなかった。だが、あることがあって奇跡的にイブン・シーナの元で学べることになった。

驚いたことに、イブン・シーナもロブ・Jと同じような能力があることが分かった。ペルシアでの勉強が思った以上に大変で、挫けそうだったロブ・Jに、イブン・シーナは、その贈り物をもつ者は、医者になることが宿命であると励ます。

黒死病と闘うべく派遣された医療隊の仲間に、ロブ・Jは得難い友を二人得る。彼らとの勉強の日々はつらくもあったが、楽しいこともまた多かった。

こうしたペルシアの生活の中で、ロブ・Jは結婚する。

本書について

ノア・ゴードン
ペルシアの彼方へ
千年医師物語Ⅰ
角川文庫 計約980頁
11世紀 イギリス、ペルシア

目次

第一部 床屋の小僧
第一章 ロンドンの悪魔
 第二章 組合の家族
 第三章 離散
 第四章 外科医兼理髪師
 第五章 チェルムズフォードの猛獣
 第六章 色のついた球
 第七章 ライム湾の家
 第八章 芸人
 第九章 贈り物
 第十章 北部地方
 第十一章 テテンホールのユダヤ人
 第十二章 試着
 第十三章 ロンドン
 第十四章 レッスン
 第十五章 職人
 第十六章 武器
 第十七章 新たな取り決め
 第十八章 死者のための祈り
 第十九章 道をふさいでいた女
 第二十章 食卓を囲む帽子
 第二十一章 老騎士
第二部 長い道のり
 第二十二章 最初の一歩
 第二十三章 見知らぬ国の異国人
 第二十四章 異国の言葉
 第二十五章 合流
 第二十六章 パールシー
 第二十七章 静かな見張り番
 第二十八章 バルカン諸国
 第二十九章 トラヤヴナ
 第三十章 勉強会館での冬
 第三十一章 小麦畑
 第三十二章 申し出
 第三十三章 最後のキリスト教都市
第三部 イスファハン
 第三十四章 最後の一歩
 第三十五章 塩
 第三十六章 狩人
 第三十七章 レブ・エッサイの町
 第三十八章 カラート
第四部 マリスタン
 第三十九章 イブン・シーナ
 第四十章 招待
 第四十一章 マイダーン
 第四十二章 シャーの宴会
 第四十三章 医療派遣隊
 第四十四章 黒死病
 第四十五章 殺された男の骸骨
 第四十六章 謎
 第四十七章 口頭試問
 第四十八章 郊外での遠乗り
 第四十九章 西へ五日
 第五十章 チャティル
第五部 軍医
 第五十一章 信頼
 第五十二章 エッサイ作り
 第五十三章 四人の友
 第五十四章 メアリーの妊娠
 第五十五章 脚の絵
 第五十六章 指令
 第五十七章 ラクダ騎兵
 第五十八章 インド
 第五十九章 インド人の鍛冶屋
 第六十章 四人の友
第六部 ハキム
 第六十一章 任命
 第六十二章 ほうびの申し出
 第六十三章 イジャージの診療所
 第六十四章 ベドウィンの少女
 第六十五章 カリム
 第六十六章 灰色の町
 第六十七章 二人の新参者
 第六十八章 診断
 第六十九章 緑のメロン
 第七十章 カシームの部屋
 第七十一章 イブン・シーナの間違い
 第七十二章 透明人間
 第七十三章 ハマダンの家
 第七十四章 王の中の王
第七部 帰還
 第七十五章 ロンドン
 第七十六章 ロンドン・リュケイオン
 第七十七章 灰色の修道士
 第七十八章 いつか来た道
 第七十九章 羊の出産
 第八十章 守られた約束
 第八十一章 大いなる輪の完成

登場人物

ロバート・ジェレミー・コール(ロブ・J)
メアリー・カレン…妻
ヘンリー・クロフト…外科医兼理髪師、”床屋さん”
イーディス・リプトン…お針子、床屋さんの愛人
イブン・シーナ…ペルシアの偉大な内科医
デスピナ…イブン・シーナの妻
アブ・ウバイド・アル=ユジャニ…外科医
カリム・ハラン…マリスタンの医学研修生
ミルディン・アスカリ……マリスタンの医学研修生
ファラ…ミルディンの妻
アラー・アル・ドーラ…ペルシアの王
クフ…王の城門の長

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