宮本昌孝の「夏雲あがれ」を読んだ感想とあらすじ

この記事は約9分で読めます。

覚書/感想/コメント

藩校早春賦」の続編。

あれから六年。筧新吾、曽根仙之助、花山太郎左の三人にも少しずつ身辺の変化が起きている。

今回、仙之助の江戸出府が決まり、太郎左も将軍台覧の剣術大会への出場が決まって江戸に行くことになった。

一人取り残された新吾は心に寂しさを隠しきれない。なんとなく二人において行かれたような気がするのだ。

だが、二人が出発してすぐ、藩内で不穏な動きが見られ始めた。またもや蟠竜公が動き始めたのだった。

今回の舞台は東海の小藩を離れて江戸になる。

江戸に着くまでに掏摸にあったり、吉原では花魁・関屋の禿・梅の拉致騒動に巻き込まれたりと、蟠竜公の陰謀どころではなかったりする新吾だが、このすべてがやがて蟠竜公の陰謀へとつながっていく。

物語の後半。

花魁・関屋の禿・梅に執着する旗本の嫡男・天野重蔵。そして、江戸への道中で新吾たちから金を盗んだ掏摸・稲妻の粂を捕えたところから、蟠竜公へとつながっていく。

蟠竜公は今回将軍へ書を見せるためという目的で出府してきた。いよいよ黒幕本人が江戸に乗り込んできたのだ。その蟠竜公だが、病を得ており、余命いくばくもない。焦りからか、自ら乗り出してきたと思われる節がある。

だが、蟠竜公の真の狙いとは一体何なのか?それは白十組も把握できていなかった。

蟠竜公の陰謀を阻止しようとする筧新吾らは、その陰謀の矛先と手段を何とか探り出そうとするが、それが判明するのは最後の最後である。

さて、まだ続きをかけそうな設定を残している。

最大の興味は、筧新吾である。曽根仙之助と花山太郎左は嫡男として家督を継ぐのが分かっているが、三男である新吾の身がどうなるのか?そして、恩田志保との関係は?

また数年後の筧新吾、曽根仙之助、花山太郎左の姿に会ってみたい。

内容/あらすじ/ネタバレ

二年前の二十歳から曽根仙之助は出仕している。この日、仙之助は筧新吾と花山太郎左衛門と地蔵山の頂で会う約束になっている。

明日、藩主河内守吉長の江戸参勤の供として仙之助は国を出立する。その別れの宴である。

実は太郎左も出府する。将軍家台覧の武術大会が挙行されることになったのだ。藩の代表として太郎左が選ばれたのだ。江戸にはすでに弟の千代丸が遊学中である。

一人取り残される新吾だが、二人の出府を心の底から祝っている。

藩主参勤の行列を藩主たちが見送っている。新吾もこの列の中にいた。仕切っているのは組頭の湯浅才兵衛である。旧名・筧精一郎。新吾の長兄である。筧家は次兄の助次郎が継いでいる。

見送ってから、新吾は言い知れぬ寂しさに襲われた。太郎左と仙之助とはほとんど毎日のように顔を合わせてきた。高田道場で汗をともに流してきた。

そんな心を振り切るように、新吾は鉢谷十太夫を訪ねることにした。風邪で伏せっていると聞いたからだ。

新吾が鉢谷家を訪ねると、十太夫が牢人態の武士二人に襲われていた…。

五十年ほど前にさかのぼる。将軍家御書院番、天野掃部助が藩の行列に突っ込んできたことがあった。これを遮ったのは徒組足軽の長畑五平であった。これに気がついた馬廻り組神尾伊右衛門が天野の馬の足を斬った。

この事件の処分は藩にとって酷いものとなった。神尾伊右衛門と長畑五平の処分を求めてきたのだ。この当時、江戸詰藩史の中に若き日の鉢谷十太夫がいた。そして、十太夫と伊右衛門は友であった…。

十太夫を襲ってきたのは神尾伊右衛門の忘れ形見、芳太郎であった。

その神尾芳太郎が殺された。死の間際、「し…しん…みょう…」と言い残した。

隣家の恩田志保は一度婚期を逃している。以来、志保に縁談はない。

新吾は志保が愛おしい。そのことにはっきりと気が付いているが、養子先が見つからない身で望むことではなかった。

武徳館教導方介添・赤沢安右衛門が新吾に何をかぎまわっていると聞いてきた。安右衛門は藩の隠密白十組の手練れである。神尾芳太郎の出現が白十組を動かしたというのか?

芳太郎が言い残した「しんみょう」とは真明寺のことではないか。そこには神尾家の墓がある。新吾は国家老石原織部の嫡男・石原栄之進と真明寺に向かった。

真明寺は浮浪の徒の巣窟となっていた。寺社奉行を抱き込んだらしい。ここの住職・全円に話を聞こうとしていたところ、矢で殺されてしまう。

殺した相手は頭巾をかぶっていた。だが、その声に新吾は聞きおぼえがあるような気がしていた。

新吾は仙之助の母・綾を訪ねた。千早蔵人に会いたいので、その取次を願ったのだ。綾は野入湖で御前踏水の稽古をしなさいと命じた。

千早家は千石。役職には就かないが、藩主家に直に意見できる格別の家柄である。そして白十組の頭でもある。

仙之助は六年ぶりに蔵人に会った。そして鉢谷十太夫の身に起きた事件などを手短に話した。新吾はこの事件の裏に蟠竜公がいるのではないかと思い始めている。

千早家御用取次の阿野謙三郎が新吾に話をし始めた。それは藩主庶子・篤之助のことであった…。

新吾は城に呼び出され、石原織部から江戸行きを命ぜられた。太郎左が江戸で謹慎を命じられたのだという。武術大会に新吾が代わりに出ることになったのだ。

新吾は石原家の家士・井出庄助と小者の三次郎の三人で江戸に向かった。

江戸に向かう日の前夜。新吾は志保に心の内を明かそうと考えたができなかった。志保はその新吾に「関屋の帯」を土産にと望んだ。

道中、新吾たちを監視する気配がする。蟠竜公の手の者か。

江戸に着くまでに、藩主の親戚筋・三浦備後守の一行に出会い、碁狂いの膝付源八と知り合ったり、江戸を目前にして掏りにあうなど、様々なことがあったが三人は無事に藩邸の門をくぐった。

仙之助が新吾を待っていた。仙之助には若党の木嶋廉平が着いてきている。千代丸こと花山淵二郎も新吾の出府を喜んでくれた。

武術大会までは一月ほどしかない。

新吾と仙之助が謹慎中の太郎左を訪ねた。

太郎左は吉原で旗本をぶん殴ってしまったのだ。旗本は天野重蔵という。天野は花魁・関屋の禿・梅に執着しており、関屋を脅していたのだ。それを見ていた太郎左が仲裁しようとして殴ってしまったのだ。

新吾は武術大会までに蟠竜公の陰謀を暴こうと考えていた。太郎左のいる下屋敷に庶子・篤之助が押し込められている。乱心とも狐憑きとも言われている。

下屋敷の帰り際、新吾は太郎座から花魁・関屋への土産を渡された。その関屋を訪ねる途中で、梅と思われる少女を攫った猪牙舟をみた。

梅がさらされてから六日。

行方を捜しているのは新吾だけではなかった。吉原の銀次も行方を追っていた。梅を攫ったのは権助、鉄五郎、法印であることは知れていた。だが、行方が分からない。

昨夜襲われた新吾は関屋の療養している家にかくまわれた。窮地を助けてくれたのは銀次であった。

帰ってきた新吾を仙之助は涙目で迎えた。それだけ心配していたのだ。新吾は梅の件だけでなく、すべてを仙之助と太郎左に打ち明けようと思った。

下屋敷に向かった新吾と仙之助。新吾は昨夜西泉寺で襲ってきたのが安富左右兵衛であることを知った。

太郎左の部屋で話そうとしていたところ、聞き耳を立てているものがいる。隣の古木寅八郎だ。新吾は紙に書いて二人に告げた。蟠竜公に陰謀あり、と。

江戸への道中で新吾たちから金を盗んだ按摩を装った掏摸を見つけた新吾は追いかけ捕まえた。この掏摸・稲妻の粂は法印と関係があることが分かった。

この粂に法印らが隠れているところを案内させた。梅を取り戻すのだ。

銀次らと梅を取り戻しに武家屋敷に忍びこむと、別の一行が法印たちの口封じに現れていた。出世欲の塊となっている天野能登守が遣わした刺客に間違いない。この刺客の一人があろうことか、安富左右兵衛だった…。

同じころ、太郎左は篤之助の病間に近づこうとしていた。

七日後。

天野能登守と蟠竜公のつながりは一体何なのだろうか?その蟠竜公が江戸出府するという。将軍家に書を披露するためだ。推挙したのは恐らく天野能登守であろう。

蟠竜公の真の目的は一体何なのか?

膝付源八が新吾に江州屋という材木商のことを話した。これが天野能登守と西泉寺と関係している。もとは武士だったという。山野辺縫殿助。昔、蟠竜公の小姓をつとめていた人物である。

蟠竜公が藩主の座を奪おうとしていることは明白である。だが、どのようにして?

仙之助は妙馗を還俗させて継がせるつもりなのではないかという。となると、狙いは藩主の命となる。

藩主の両国行きが取りやめになった。舅の三浦備後守と河内守吉長は折にふれて親交を温め合う。今回もそのはずだったが、反対したのは村垣嘉門である。これで嘉門は蟠竜公一味とみていいようだ。

新吾は志保が願った土産の「関屋の帯」が花魁・関屋の帯であることを知って絶望した。関屋の帯には哀しい話がある。

その話を聞いた後、新吾は梅が牢人に抱えられているのを見た。あろうことか、天野重蔵自ら梅を攫おうとしていたのだった。

天野重蔵を取り押さえた新吾は、これで蟠竜公たちへの切り札になると考えた。

藩主吉長は三日後に下屋敷に篤之助の見舞に出かけることになっている。

新吾は天野家に向かった。重蔵を預かっていることを知らせるためだ。

この天野家訪問で新吾は思わぬ拾いものをした。それは能登守の本性であった。それまで考えていたほど悪い人物ではなかったのだ。

開口一番、倅はどこにいる、怪我をさせずに連れ戻してくれたのであろうな、とわが子の身を案じた言葉が出たのだ。

反対に野心一杯の発言をしたのは用人の目賀多刑部であった。

鉢谷十太夫が江戸に出てきた。

江戸の白十組が新吾に接触してきた。提灯番の宮部太仲だ。とっくに蟠竜公の陰謀の全貌を把握していると思っていた白十組が、全容を把握できていないと知り、新吾は声を失った。

そして、蟠竜公の病が篤いことを知った。十太夫は必ず仕掛けてくるといった。

市ヶ谷の藩上屋敷では蟠竜公の出府を祝う酒宴が催された。重臣がことごとく並び、鉢谷十太夫も列席した。

新吾は隙を狙って土屋白楽を捕えた。篤之助を乱心させた人物である。

口を割らない白楽に新吾は賭け碁の誘いをした。だが、対局が始まる前に伯楽が殺された。白楽は何も白状しないまま、江州屋に襲われて命を落としたのだった。

仙之助はすべてを家老の梅原監物に打ち明けようと考えていた。そして監物を探しに向かった途中でとんでもないものを見てしまう…。

その頃、藩主一行は下屋敷に向かっていた。往路は何事も起きずに無事に終わった。となると、危険なのは帰りなのか。

だが、蟠竜公の考えが分かった鉢谷十太夫と仙之助は急いでそのことを知らせる必要があると考え、仙之助を何とかして上屋敷から脱出させて下屋敷に向かわせた。

一体、蟠竜公はどのような手段で藩主吉長を葬り去ろうとしているのか?

本書について

宮本昌孝
夏雲あがれ
集英社文庫

目次

第一章 別れ
第二章 凶兆
第三章 蚯蚓出る
第四章 白十組、動く
第五章 旅立ち
第六章 道中異変
第七章 三友、再会
第八章 吉原往来
第九章 次善の剣
第十章 陰謀の輪郭
第十一章 竜の跫音
第十二章 決闘、山谷掘
第十三章 天野父子
第十四章 嵐の前
第十五章 千両対決
第十六章 暗殺の秋
終章 戻り夏

登場人物

筧新吾
曽根仙之助
花山太郎左衛門
花山淵二郎(千代丸)…太郎左の弟
鉢谷十太夫
お花
湯浅才兵衛(筧精一郎)…新吾の長兄
筧助次郎…新吾の次兄
なお…助次郎の妻
恩田志保…新吾の隣家の末娘
曽根綾
木嶋廉平…若党
千早蔵人業亮…千早家当主
阿野謙三郎…千早家御用取次
赤沢安右衛門…武徳館教導方介添
宮部太仲…提灯番
河内守吉長…藩主
篤之助…藩主庶子
石原織部…国家老
石原栄之進…織部の倅
井出庄助
三次郎
渋田弥吾作…小姓
梅原監物…江戸屋敷の執政
安富左右兵衛
蟠竜公
建部神妙斎
土屋白楽
妙馗…蟠竜公の倅
長沼四郎左衛門…直心影流
神尾芳太郎
全円
膝付源八
関屋…花魁
梅…禿
銀次
天野重蔵
法印
権助
鉄五郎

タイトルとURLをコピーしました