リンゼイ・デイヴィス(密偵ファルコ1)「白銀の誓い」を読んだ感想とあらすじ(最高に面白い!)

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覚書/感想/コメント

おれはマルクス・ディディウス・ファルコ。密偵だ。この常に「おれ」という一人称で進む物語は、ファルコの自虐的なジョークが方々にちりばめられて、ニヤニヤしながら楽しめる。

おれが住んでいるのはアウェンティヌス地区。まぁ、普通には近寄りたくない場所である。

舞台となるのは皇帝がウェスパシアヌスの時だ。ユリウス・クラウディウス朝断絶後に続いた混乱の四皇帝内乱時代(68年6月~69年12月)を終わらせた皇帝だ。

ウェスパシアヌスはフラウィウス朝を創始し、この後に二人の息子、ティトゥスとドミティアヌスが皇帝になる。

はからずも、おれはこのウェスパシアヌスとティトゥス、ドミティアヌスにお目にかかることになり、さらには皇帝の密偵になってしまう。

『世の中には生まれつき運のいい男がいる。そうじゃないのが、このおれ、ディディウス・ファルコというわけだ。』

気の強い女は周囲に多いからうんざりだ。おふくろ、一番上の姉…、そのどれにもおれは頭が上がらない。

これにもう一人加わってしまった。出会いは最悪。おれが傷心でつかれているのに、やたらと攻撃的だ。

気が強いだけでなく、おれとは身分も違う。相手は、元老院議員の娘だ。おれとは二つの階級差がある。

だが、おれはそのヘレナ・ユスティナに惚れてしまった。二つの階級差を埋めるには金貨四十万枚を貯めなければならない。おれは誓いをたてた。自分の力で貯めてみせると。

密偵ファルコシリーズ

  • 白銀の誓い 本書
  • 青銅の翳り
  • 錆色の女神
  • 鋼鉄の軍神
  • 海神(ポセイドン)の黄金
  • 砂漠の守護神
  • 新たな旅立ち
  • オリーブの真実
  • 水路の連続殺人
  • 獅子の目覚め
  • 聖なる灯を守れ
  • 亡者を哀れむ詩
  • 疑惑の王宮建設
  • 娘に語る神話
  • 一人きりの法廷
  • 地中海の海賊
  • 最後の神託

内容/あらすじ/ネタバレ

ローマAD70。ローマの内乱の間、帝国各地では反乱が相次いだ。ウェスパシアヌスが帝位についた時点で、国家財政は破綻に瀕していた。

二人の息子、ティトゥスとドミティアヌスとともに反対派を抑え込み、新王朝の基盤を固めることがウェスパシアヌスにとっての喫緊の課題だった。

石段を駆け上ってくる娘を見て、おれは駆けっこにしては大層ななりだなと思った。娘の視線をたどってみると、こいつはまずいことに気づいた。

娘のお願い助けての言葉に、おれはお安いご用だと引き受けた。路地を抜けて向かった先はアウェンティヌス、第十三地区にあるおれの仕事場だ。

建物の一階にはレニアの洗濯屋がある。レニアはどういうわけか、おれに味方して、家主のスマラクトゥスと顔を合わせないように気をまわしてくれる。

おれはファルコ。ディディウス・ファルコ。密偵だ。ウェスパシアヌス皇帝に雇われることはない。おれを雇うのは、身持ちの悪い女房と御者の仲を疑っている、哀れな中年男などだ。たまには女に雇われることもある。

娘の名はヘレナといった。十六歳だ。追いかけていた男達は、自宅で出会ったという。ヘレナを連れ出そうとしていたのだ。

話をしているときに、ペトロことペトロニウス・ロングスが入ってきた。アウェンティヌス地区の警備隊長だ。ペトロとおれの付き合いは長い。同じ日に軍隊に入隊し、第二アウグストゥス軍団の兵士としてブリタニアに遠征した。第二軍団の目を覆うばかりの戦績ゆえに、おれたちは八年前に軍隊を去った。二度と口にしたくない過去だった。

ペトロは女房もちだ。その女房はどこをどうしたものか、ペトロにぞっこんだ。

ペトロは元老院議員の屋敷で騒ぎがあって、若い娘が連れ去られたといった。彼女の名はソシア・カミリナ。

どうやら、ヘレナと名乗った娘のようだ。

ヘレナとはソシア・カミリナの従姉妹だ。ブリタニアに居る。離婚しているそうだ。

元老院議員のデキムス・カミルス・ウエルス邸を訪ねた。そして、ソシア・カミリナが安全でいることと、ついでにおれを雇わないかという申し出もしてやった。

その帰り、おれは襲われ、衛兵所に連れて行かれた。ホストは造営官のアティウス・ペルティナクス。造営官はこの世でおれが最も苦手とする肩書だ。

ソシア・カミリナがどこかと聞いた。おれはすぐに白状した。仕事場に戻ると、部屋にソシア・カミリナの姿はなかった。

ソシア・カミリナはおふくろが連れ出していた。

広場にあるソシア・カミリナの貸金庫に、伯父は何か大切なものを預けたのだという。金庫の番号を知っているのはソシア・カミリナだけである。それで男達が連れ去ろうとしたのだ。

おれとペトロでその預けたものを運び出した。大きさの割には驚くほど重い。

隠したがるはずだ。銀の仔豚、つまりは鉛のインゴットだった。ブリタニアの鉛の鉱石からは多量の銀が抽出される。そもそも、貴金属の取引は政府が独占している。これはやばい代物だった。

ソシアを返し、おれはデキムスに詰問した。あれは盗品だ。すると、デキムスはブリタニアで大掛かりな盗みが行われており、あれは証拠品として隠していたのだといった。

胡椒倉庫で、彼女は発見された。ソシア・カミリナは遺体で見つかった。

銀の仔豚を追っていけば、必ず犯人にたどり着くはずだ。おれはブリタニアに行くことにした。冬のブリタニアにだ。

表向きおれは、デキムス・カミルス・ウエルスの依頼で、娘のヘレナ・ユスティナを連れ帰るためにブリタニアに行くことになっていた。

皇帝ウェスパシアヌスを亡きものにしたがっているものは多い。謀反を成就するためには、息子のティトゥスがユデア遠征から戻ってくるまで待たなければならない。それまで時間があるということだ。

おれが向かったのはデキムスの義弟・ガイウス・フラウィウス・ヒラリス邸だ。ここにヘレナがいる。

ヘレナは最初からおれに攻撃的だった。

おれは銀山に奴隷としてもぐりこんだ。

鉱山で働いたのは三カ月ほどだ。軍隊時代を除けば、人生で最悪の時期だった。あそこでは思考力が停止する。

組織的な盗みに一端をかぎつけたのは、銀拾いをやっているときだった。その兆候に気付くと、あとは全体がすぐに見えた。

銀山からおれを抜け出させてくれたのは、あろうことかヘレナ・ユスティナだった。

ブリタニアからローマへの帰りにはヘレナが一緒だった。ヘレナにおれは雇われたのだ。

途中、ライン川沿いにあるアルゲントラトゥムにヘレナの弟がいるというので会いに行った。おれたちはたちまち意気投合した。互いに気の強い姉を持つ身だ。

この旅の途中で、おれ、ディディウス・ファルコは三十路に突入した。

ヘレナの元亭主はアティウス・ペルティナクスだった。忘れもしない、あの造営官だ。

ローマにもどり、ヘレナをデキムスに帰した。デキムスはその晩、つかんだ事実を皇帝に報告するという。もちろん、ドミティアヌスの関与が疑われることも。

翌日ヘレナがおれの仕事場を訪ねてきた。そして、おれが嫌がるにもかかわらず、ウェスパシアヌスの饗宴に連れだした。われわれを迎えたのは皇帝の長男・ティトゥスだった。

本書について

リンゼイ・デイヴィス
密偵ファルコ1
白銀の誓い
光文社文庫 約四一五頁

目次

第一部 ローマ 夏から秋 AD70
第二部 ブリタニア 冬 AD70-71
第三部 ローマ 春 AD71

登場人物

マルクス・ディディウス・ファルコ…密偵
ヘレナ・ユスティナ…デキムスの娘
デキムス・カミルス・ウエルス…元老院議員
プブリウス・カミルス・メト…デキムスの弟
ソシア・カミリナ…プブリウスの娘
ガイウス・フラウィウス・ヒラリス…財務官
アエリア・カミラ…ガイウスの妻
ペトロニウス・ロングス…第十三地区警備隊長
アティウス・ペルティナクス…第一地区造営官
ウェスパシアヌス・アウグストゥス…皇帝
ティトゥス・カエサル…第一皇子
ドミティアヌス・カエサル…第二皇子
レニア…洗濯屋
スマラクトゥス…ファルコの家主
おふくろ
ウィクトリナ…一番上の姉
マルキア…姪っ子、亡き兄・フェストゥスの娘
ユリウス・フォロンティヌス…親衛隊隊長
フルリウス・ウィタリス

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