北方謙三「楊家将」を読んだ感想とあらすじ(最高に面白い!)

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覚書/感想/コメント

第38回吉川英治文学賞受賞。

文句なしに面白い。楊業に物語を書けと言われているような気がして、書き始めたと、北方謙三がいうように、何かが違う。

楊業と七人の息子。そしてライバルとなる耶律休哥の存在。

原作ではそれほどの重要な役割が与えられていない耶律休哥に、スポットライトを当てたことによって、全体がものすごく引き締まり、ドライな男臭さ全開の物語となっている。

「楊家将」は日本ではなじみが薄いが、中国では「三国志」「水滸伝」と並ぶ人気を誇る。ただし、原作となる本に恵まれなかった点が他の二つとの大きな違いになっているようだ。その代り、「楊家将」は京劇などの芝居や、講談の世界で語り継がれてきた。

「楊家将」は本書だけでは終わらない。この後には「血涙」が続く。

後半は七郎が調練で優れた才能を見せたところから始まっている。

このはじまり方は、本書の後に続く「血涙」を意識してのことに違いない。

「血涙」では、六郎、七郎、そして四郎が軸となる。

そのため、そうした始め方にしたのだろう。また、七人兄弟の中でのスポットライトの当たり方も結構違うのは、「血涙」を意識してのことだろうと思う。

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内容/あらすじ/ネタバレ

演習が行われていた。

先年の宋との戦いでは、宋軍六万に対して、楊家軍二万で対峙した。

楊家は北漢の臣であり、北漢随一の兵力を要する。それでも三万に満たない。

この国は乱れ、小国が乱立する時代に入っていた。今年になって呉越も宋に降った。残るは北漢と宋のみである。北に遼という国がある。そこと手を結べば、十分に宋と戦えるだろう。

北漢の帝は楊家を恐れている。長男延平は思っていた。帝の周りの廷臣たちは、楊家を遼へあるいは宋へ押しやろうとしてはいないか…。
宋軍が攻めてきた。楊業はすぐに準備をした。

楊家は北漢の軍人として生きてきた。戦えと言われれば、どこでも戦う。だが、戦いの最中に背中から矢が飛んでくることがしばしばであった。

政事は廷臣がやればよい。楊家は、兵を養うために北への塩の道をもっていた。これにだけは、帝といえども手を付けさせない。長い間楊家が保ってきた権限である。

自分の代で楊家を滅ぼすことはできない。不忠と言われることも避けたい。楊家の滅亡を防ぐために、北漢の滅亡を防ぐ。それが第一だった。

楊業の悩みは深かった。帝さえ英邁であったらなら…。

その中、北漢が遼へ使者を送ったという。楊家の助け入らないという事なのか。楊業は今すぐにでも廷臣の首を刎ね飛ばしてやりたいと思った。

今度の戦いは七人の息子全員が出陣する。

「令」の旗がたった。楊業の旗である。

呼延賛はさすがに楊家軍だと思った。こちらに与える威圧感がすさまじい。倍する兵力を擁しながら気圧され始めている。

戦いは、いったんは楊家軍が押し込んだものの、こう着状態になろうとしていた。楊業は兵站がどれくらい持つのかを調べていた。

殉ずるという考えが楊業には出てこなかった。力の限りたたかった後の話である。今は、敵を前にして帝に邪魔をされていた。楊業は側近の王貴を読んだ。幼いころから一緒に育ち、弟のように扱ってきた腹心である。

趙光義は考えていた。

楊家軍が北漢の役人の首を刎ねて、力づくで前線まで兵糧を運ばせたという情報が入ってきた。一方で、楊家軍の張文が帰順を申し出ている。張文の帰順は罠であると、確信を深めていた。

楊業は苦渋の決断を下した。不忠の汚名を負って生きる。北漢と「令」の旗を降ろさせた。掲げられているのは「楊」の旗だけである。
楊業四十九歳であった。楊家は宋に降った。

楊家はそのままで、開封府に館が与えられる。楊家が帰順することで、大幅に犠牲を少なくして、北漢を征服することができるのだ。

代州に戻って、楊業が命じたのは調練だった。長男延平が命じられたのは六郎を鍛え上げることであった。六郎は臆病だと考えられていたが、延平はそうとは考えていなかった。

六郎は調練のときには様々な考えが交錯してしまい、命令が遅くなることがしばしばであった。だが、実践では決断は早いだろう。
宋が燕雲十六州への北進を図った。

遼からは耶律奚低が大将として出てきている。全軍で6万だ。少なすぎると楊業は思った。これは埋伏だ。埋伏は三万にのぼり、帝が危うくなっていた。六郎延昭が帝を見つけた。

戦は負けた。北進の際には十五万だった兵が七万に減っていた。

䔥太后が燕京にやってきた。

宋は大敗したが、帝は命を拾っていた。遼は兵に困る国ではなかったが、あまり徴兵は出来なかった。軍の総軍は四十万と決まっていた。防衛を考えると十万が外征できる最大限だった。

最初の外征は大敗した。そして、すぐさま外征の軍を再編した。耶律奚低にやらせることにした。

耶律休哥は遼軍きっての将軍である。しかし䔥太后の不興を買っていた。三十四歳だが、若いころから白髪だった。髪も髭もだ。白き狼と呼ばれている。

その耶律休哥を耶律奚低が訪れた。外征軍に加わらせるためである。ただし、将軍としてではない。二千の軽騎兵を率いる将校としてだ。

三か月前に大敗した遼軍が再び現れた。楊業は兵を集めた。その数一万。総指揮は楊業、延平のほか、六郎と七郎が従う。

六郎は耶律休哥とやりあった。手ごわい。

勝敗は付かなかった。戦いの後、耶律休哥に多くの軽騎兵が与えられた。

耶律休哥の頭には、先の戦でぶつかった楊家軍の騎馬隊二千があたまにあった。自分が鍛え上げた騎馬隊とほとんど互角の戦いをしたのだ。

特にぶつかった六郎は、今後の成長を考えると末恐ろしいところがあった。

北から軍馬が届き始めた。六郎と七郎のたっての希望である。

宋はいったんの区切りをつけ、民政に力を入れ始めた。だが、北辺の守りは厳しい。遼軍は依然として強力で、中原に目を据えている。

宋は文官の力が強い。楊業は息子たちを都に長くは置きたくなかった。本当の軍人は前線にいるべきである。

だが、代州と開封府の通信手段は絶えず講じておかなければならない。

雁門関には四郎の軍が駐屯している。

四郎は兄弟の中で暗い性格が際立っている。戦の指揮をやらせても冷静だが果敢というところがない。自分の考えはいつも内側に秘めている。

宋に帰順するとき、四郎だけは別の考えを口にした。それは、北漢を押しつぶし、楊家がとってかわればよい。そのことを知っているのは延平だけであった。

四郎は人望がない。四郎のためには死のうとする兵が少ない。ぎりぎりのところで六郎に負けるだろう。

部下となじむために、四郎は北平寨に駐屯することになった。

䔥太后はいらだっていた。北平寨のあたりから宋領を侵そうとした軍が、壊滅的な被害を受けた。その中に、娘の瓊峨姫がいたのだ。

そばでは王欽招吉がうなだれていた。

耶律休哥は特に優れたものを選び出して、赤い具足をつけさせた。赤騎兵と名付けた。

王欽招吉が耶律休哥を訪ねてきた。

四郎が全身を汗で濡らしていた。

耶律休哥軍だった。わずか二百騎。四郎の三千の兵のうち、一千近くは戻らなかった。

開封府に戦の雰囲気はまるでなかった。

遂城攻撃軍に痛撃を与えた。それによって遼との戦は数年はないだろうというのが、文官のみならず、将軍たちの考えだった。

潘仁美は短いつぶやきを漏らした。あと五万、禁軍を増やしたいと願い出たところ、却下された。遼という国を北に抱えている。全体が戦のためにあるような国だ。そして、中原に目を向けているのは明らかである。

戦はそれほど遠くない、と楊業は思っていた。それも決戦という規模だろう。

耶律休哥軍に独立行動権が与えられたという情報がある。ほんとうなら、耶律休哥の非凡さが、即座に戦に反映されるという事だ。楊業は開封府から独立行動権を与えられているわけではなかった。

宋が大軍を編成中であるという情報が耶律奚低にもとに入った。

北平寨は時々敵の攻撃にさらされた。

四郎は、あの女が䔥太后の娘だったのかと知った。それならば、自分と最も遠いと、四郎は思った。遼王朝と楊家が相容れるところは、どこにもない。

耶律奚低は地図をつぶさに見た。燕京まで攻め込ませ、そこで決戦と考えていることが分かった。䔥太后が燕京にいることによって、宋軍をおびき寄せることができる。䔥太后自らおとりを買って出ていた。

ただ守る、だけの布陣ではない。攻めに転じることができる夫人にしている。耶律奚低に檄が飛んだ。「気力を奮い起こしなさい。すべての存在をかけて、闘うのです。」

曹彬は兵糧が尽きかけていると聞いて冷や汗が出るのを感じた。そして、耶律休哥軍がどこにいるのかが分からないのが無気味であった。
三十万の宋軍が、二軍に分かれて侵攻してきた。それを一つにまとめることが必要だった。

攻撃については、耶律奚低はすべてを頭らから拭い去っていた。そして、宋軍の兵站を探ることに力を注いだ。

曹彬と潘仁美がしばしば軍議で対立した。潘仁美の進軍が遅れた。それで攻撃の機会を逃した。

宋軍にとって、兵站が耶律休哥軍に襲われているのを食い止めるのが焦眉の急だった。楊業は六郎と七郎の騎馬隊にあたらせることにした。
耶律休哥軍に被害が出た。

六郎と七郎の騎馬隊が大きく成長していた。耶律休哥の副官を翻弄したのだ。通常の騎馬隊に襲われてでる被害の規模ではなかった。

宋軍が総攻撃をかけた。

楊家軍があたるところだけが、防御が五段になっている。他のところは三段だ。

最後の五段目、防御は厚くなっていたが、敗れる。だが、その時、別の動揺が起きた。潘仁美のいる本体のあたりだ。楊業は唇をかんだ。あと半刻、あと一押しだった。

今伝わってくるのは、味方の潰走の気配である。

右翼が耶律休哥の奇襲を受けた。

耶律休哥は、運がこちらにあったと思った。わずかな運だが、見逃しはしなかった。

潰走する宋軍を追った。

潘仁美の首はとれる。そう思った時、すさまじい圧力を感じた。楊家軍だ。耶律休哥は唇をかんだ。これが楊業の戦か。つぶやき、体の震えを止めようとした。

帝は親征を考えていた。今度の大敗は曹彬と潘仁美の対立による指揮の乱れだった。

その帝の息子七王の周りにおかしなものが現れていた。学識が豊かだが、盛んに申請を進めている。王欽招吉であった。

その頃、䔥太后は宋主の首を取ることで、一気に中原を制することを考えていた。そのために、王欽招吉を潜入させたのだ。

宋の親征が始まった。

だが、あろうことか、帝の軍が包囲された。帝の近くにいる延平と六郎、七郎が他の将軍へ伝えに行くことになる。六郎と七郎が闇にまぎれて包囲を突破するしかなかった。

謀略戦で、宋はすでに破れていた。

帝の危機を伝えた伝令が息絶えた。

楊業はすぐさま軍を動かした。楊業は三日で到着した。この間、二郎を失い、四郎が行方不明となっていた。

帝を脱出させなければならない。延平を帝に仕立てて、その間に帝を逃すことにした。延平には死んでもらうことになる。帝は楊業と七郎が守ることになった。

楊業の動きはすさまじかった。たえず、耶律休哥の先をいっている。

そのとき、ふいに陳家谷の地形が目に入った。耶律休哥の全身の毛が立ったように感じた。追いつめたつもりが、誘い込まれた。
だが…。

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本書について

北方謙三
楊家将
PHP文庫

目次

第一章 いま時が
第二章 北辺にわれあり
第三章 白き狼
第四章 都の空
第五章 遠き砂塵
第六章 両雄
第七章 前夜
第八章 遥かなる戦野
第九章 われら誇りこそが
第十章 やまなみ

登場人物

○楊家
楊業…主
楊延平…長男
楊二郎延定…次男
楊三郎延輝…三男
楊四郎延朗…四男
楊五郎延徳…五男
楊六郎延昭…六男
楊七郎延嗣…七男
八娘
九妹
呂氏
佘賽花
李麗
王貴…楊業の側近
張文…楊家武将
柴敢…六郎の将校

○北漢
劉鈞…帝
郭有儀
宋斉丘
丁貴

○宋
趙光義…帝
趙匡胤
八王
七王
潘仁美…将軍
呼延賛
黒山

○遼
䔥太后…皇太后
瓊峨姫…䔥太后の娘
耶律奚低…大将
耶律沙
耶律斜軫
耶律学古
耶律休哥…白き狼
麻哩阿吉
王欽招吉…䔥太后の側近

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