北方謙三の「血涙 新楊家将」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

楊家将」から二年後。

楊家の中で生き残ったのは六郎と七郎の二人。楊業を失い、兄三人を失った楊家軍の再興から物語は始まる。裏切りによって壊滅的な打撃を受けた楊家がいかにして立ち上がるのか。新楊家将と銘打った本作に流れる雰囲気は、悲壮感でしかない。

それにしてもこの物語の中で描かれる宋という国は、あまりにも酷い。

それは組織的の構造的な酷さなのかもしれない。だが、こうした酷さは、現代においてもあらゆる組織の中に起きていることに違いない。

楊四郎が生きていた。

だが、それがために、哀しい戦いが始まる。

それは兄弟同士での戦い。

さて、「楊家将」と比べてなにが決定的に違うのだろうかと思う。

詠んでいる中で感じるのは、そのスケール感が小さくなっていることである。

最大の原因は、登場人物が少なくなってしまっていることであろう。これは筆者のせいではなく、原作の限界というしかない。様々な個性が活躍することによってうまれるスケール感というものが、登場人物が少なくなることによって失われてしまっている。

そして、楊業という男のスケールの大きさに対して、息子の六郎と七郎のスケール感が小さいということもあるだろうと思う。

結果としてこじんまりとしたものになってしまっている。

内容/あらすじ/ネタバレ

遼は燕雲十六州を抑え抑えた。宋とは休戦状態だ。一昨年の戦は両国共に疲弊された。

耶律休哥の軍だけは独立行動権が与えられたままだった。

麻哩阿吉が戻ってきた。石幻果が一緒である。麻哩阿吉は副官としての力をつけてきたが、まだ石幻果には及ばない。

耶律休哥は石幻果を麾下に加えたかったが、それは許されない。

いま、耶律休哥がやらなければならないのは、兵の調練だ。軍は耶律斜軫が頂点に立っている。

六郎は八騎で開封府に入った。

父は死んだ、上の三人の兄も死んだ。四郎と五郎の行方は分からないが、恐らく死んでいるだろう。

生き残ったのは自分と七郎、妹の八娘と九妹だけだ。

楊家軍は父が生きていたころは三万に達していた。楊家軍は一から作り直しだった。今は各地に散って目立たないようにしている。三千ほどいるはずだった。

六郎は宮殿から呼ばれていた。

帝や朝廷がどう出るのかを時をかけて見定めようとしている。

楊家軍の塩の道は断たれていた。その代わり、兵を養うための銀は分散して蓄えられていた。それは兵三万を二年養えるものだった。

六郎は母から吹毛剣を授けられた。父・楊業の剣だった。

楊家の長は六郎になった。

石幻果はかつて自分が宋の将軍であることを一年ほど前に知らされた。だが、何も覚えていなかった。

側には瓊峨姫がいた。はじめて見た時から、他人とは思わなかった。瓊峨姫が好きだった。

七郎は六郎と話し合うために山を降りて西に向かった。

王志が一番西にいる。牧をやっている。蓄えはいつかは尽きる。新しく銀を産む方法が牧をやることだった。

王志の従兄・王貴は山に隠棲してしまっていた。楊家にはあと、長男の息子・延光しかいなかった。

最後の最後に、味方の裏切りで、勝てる戦を失った。

それが楊家にとって全てだった。

そして、王貴にとってもそれが全てだった。王貴にとって、楊業は全てだった。

その王貴を七郎たちが訪ねてきた。七郎は楊家の誇りをかけて立ち上がるという。宋は義で楊家に応えてくれさえすれば良かった。

石幻果は耶律休哥の武将となった。そして、瓊峨姫との結婚も認められることになった。

結婚後、一年半で息子が生まれた。名を䔥英材とした。

石幻果はよく耶律休哥の軍と調練を重ねた。まだ耶律休課には勝てない。だが、副官の麻哩阿吉なら翻弄することができた。

宋と遼は、互いに大きなぶつかりあいを避ける状況が続いていた。

遼には楊家軍が八千に達したとのうわさが流れてきた。

耶律休哥は戦がしたかった。戦の中で老いる前に死にたかった。耶律休哥が恐れているのは老いだけといってよかった。

九妹は唇を噛んでいた。

どんなに機敏に動こうと、七郎の軍の相手にはならなかった。七郎からは予備隊だといわれた。

九妹は兵の死を恐れた動きをしていた。

耶律休哥と楊家軍が対峙した。

八千の騎馬隊のうち、二千は潰しておきたいと耶律休哥は思っていた。

その頃、六郎のもとには、耶律休哥の部下に宋軍の指揮官がいるとの情報が伝わってきた。

石幻果を見た六郎はそれがどうしても兄・四郎延朗にしか思えなかった。

石幻果が楊四郎であるのかどうかを、方礼をやって調べさせた。だが、その方礼の死が伝わってきた。

六郎は四郎が死んだと思い定めることにした。

石幻果が何者であるかはどうでもよくなってきた。

宋と遼が戦った

その中で、六郎は石幻果と戦うことになった。

二人の剣がぶつかり合った。六郎の吹毛剣が石幻果の吸葉剣とふれ合った。その時、剣ではない別のものにふれたという気がした。

宋軍がじわじわと押し始めていた。

占領地からの撤退という命令が宮廷から出ていた。だが、遼軍はたやすくは下がれなかった。

石幻果に何かが起きた。

耶律休哥は石幻果に息子にたいするような思いを抱いていた。石幻果も似た感情を自分に抱いていたような気がする。

心が騒いだ。

石幻果は全てを思い出した。

代州にもどると、すぐに兵の補充の手配をした。

楊家軍は耶律休哥軍との戦いで負けはしなかったが、犠牲が大きかった。

楊家軍は春までに一万にする。それが六郎と七郎の考えだった。

六郎は一人で石幻果が四郎かどうかを確かめに行くことにした。

六郎は石幻果である四郎と、ただ話したかった。石幻果なの四郎なのかを確かめたかった。

石幻果は六郎に告げた。

楊四郎は死んだ。いまは石幻果であり、死ぬ時も石幻果でしかない。

女真の地に耶律休哥は向かっていた。

叛乱がおきていた。やむにやまれず起こした反乱だった。

宋の帝はまだ燕雲十六州の快復の悲願を待ち続けていた。

今や宋軍の頂点にいる柴礼は、軍権のすべてを軍に取り戻すつもりであることを六郎に隠そうとはしなかった。戦を続けることで、軍の力を取り戻す。それしか文官をしのぐ手段はなかった。六郎も柴礼と力を合わせるしかなかった。

六郎が代州に戻ると九妹が飛び出してきた。

兄が戻ってきたという。

行方不明になっていた五郎延徳であった。左腕をなくして僧形になっていた。

四郎は俺が斬ろうといった。

十年間。五郎は五台山で片手で剣を遣う。それだけをやってきた。

耶律休哥はどうにもならないような疲労感に襲われるようになっていた。

血を吐いた…。

四郎だけは斬らなければならない。四郎は楊家軍の前に亡霊として立ちふさがっている。

自分も亡霊だった。五郎はそう思っていた。亡霊は亡霊が斬らなければならない。

途中、潘仁美の息子に遭遇した。

やつも亡霊だった。亡霊は斬るしかなかった。

五郎には予感があった。四郎は自分を待っている…。

宋の帝は不退転の決意だった。

死ぬ前に燕雲十六州を回復する。軍には遂行する権限だけを与え、止める権限を与えなかった。

六郎は柴礼から独立行動権のようなものを与えられた。

六郎はふと思った。帝の命はあと数カ月なのではないかと。

柴礼は楊家軍に死に兵になれと言っていた。崩御となれば、服喪のために軍を引く。それまではひたすら勝ち続ける。楊家軍の犠牲を顧みないということだった。

戦は一つの段階を進めたと石幻果は思っていた。

最前線が楊家軍に突破され、潰走している。

六郎は耶律休哥軍と三日間にわたって戦い続けた。

延光が討たれた。それでもかまっていられなかった。

宋の帝が死んだ。

楊家軍の損失がようやく回復してきた。

あの時、楊家軍は負けていた。不意に攻撃の手が緩んだ。それがなければ楊家軍は総崩れになっていた。

遼では石幻果が禁軍三万を率いることになったという。

遼は疲弊していた。

あと一度だけ。一度だけ民を命ぎりぎりのところまで耐えさせるしかない。

遼の中に物資は悲惨というほどに無くなってきていた。

宋の国力は年々上がっている。そのつもりなら、再び遠征軍を起こせるだろう。

賭けしかなかった。

それは宋軍の裏をかいて、一気に開封府を攻略することだった。

本書について

北方謙三
楊家将2 血涙 新楊家将
PHP文庫

目次

第一章 砂の声
第二章 それぞれの冬
第三章 会戦の日
第四章 幻影の荒野
第五章 剣の風
第六章 その日
第七章 死生ともにありて
第八章 黄塵
第九章 砂上の幻
第十章 哭く旗
第十一章 秋がいま
第十二章 旗なき者たち
終章 草原

登場人物

○遼
石幻果…宋の将軍、記憶を失っている
䔥太后…皇太后
瓊峨姫…䔥太后の娘
䔥英材…石幻果と瓊峨姫の長男
耶律休哥…白き狼
麻哩阿吉…耶律休哥の副官
耶律斜軫…禁軍の総帥
耶律学古
䔥逸理…石幻果の従者

○楊家
楊六郎延昭…六男
楊七郎延嗣…七男
楊四郎延朗…四男、行方不明
楊五郎延徳…五男、行方不明
延光…長男延平の息子
八娘
九妹
王貴…楊業の側近
張文…楊家武将
柴敢…六郎の将校

○宋
趙光義…帝
八王
七王
潘仁美…将軍

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