海音寺潮五郎の「列藩騒動録(下)」を読んだ感想とあらすじ

この記事は約8分で読めます。
スポンサーリンク

覚書/感想/コメント

上下巻ともに、江戸時代に起きたいわゆる「お家騒動」を取り上げているが、上下巻で取り上げられている事件は、本質的には現代にも当てはまるようなものが多いのではないだろうか。藩というものを、会社や役所などの「組織」におきかえてみると、本質的には同じ事件は起きているはずである。

そういう視点で読んでいくと面白く読めるのではないだろうか。

現在でも週刊誌のタイトルとして「お家騒動」が踊ることがある。大概はオーナー企業が絡んだもので、創業者が騒ぎを起こすというより、継いだ二代目、三代目やその妻、親戚が欲を丸出しにしたために起きているケースが多いように感じられる。

愚かなのは、そうした恥ずかしい内幕を週刊誌に当事者が語ってしまうことである。週刊誌や読者としてはそのほうが面白い。反論が載ればなおさら面白い。誰も当事者に同情なんかしていない。むしろ、もっともっと泥沼になれとも思っているのかも知れない。

このように、世間には見世物のように扱われるのが「お家騒動」だというのは、わかりきったことなのに、懲りずに方々で起きるというのは、昔から人の性質は変わっていないということなのだろう。

さて、本格的なお家騒動は継嗣問題を中心として党派の抗争が絡む。だが、そうした騒動は少なく、多くは変形だという。

黒田騒動は主人と家老の抗争。加賀騒動は新進の権力者と門閥重臣の争い。生駒騒動、越前騒動や越後騒動は党派の抗争。越前騒動や越後騒動は親藩での事件のため、取り潰しにはならなかったが、生駒騒動は家中の士らの党派争いで、それによって生駒家が滅びてしまう。

興味があったのは「阿波騒動」。阿波騒動の蜂須賀重喜は失敗した上杉鷹山といわれることがある。鷹山を書いた本であれば、蜂須賀重喜を記すというのは多いようである。

鷹山は重喜と時代を同じにしている。ただ、ほんの少し鷹山の方が上杉氏を継ぐのが遅い。実家が小大名であるのも似ている。上杉の家臣らが家老を含めて鷹山を侮ったのも似ている。改革政策に反抗的だったのもそうだ。だが、鷹山は成功した。

重喜は鷹山に劣っていたのだろうか?海音寺氏はそうは思わないという。鷹山と同じくすぐれた知恵と志を持っていた人だったが、鷹山には柔軟性があり、重喜は鋭敏剛強に過ぎた。鷹山は説得し、籠絡したが、重喜は強圧した。成否の原因はおそらくここにあるだろうと述べている。

また、鷹山が重喜の失敗を他山の石にしたということも考えられる。後進の前人に勝る利点だという。

「阿波騒動」に限らず、「お家騒動」というのは他山の石とすべきものなのだろう。

スポンサーリンク

内容/あらすじ/ネタバレ

仙石騒動

十代仙石美濃守政美が危篤となった。重臣らは色を失った。後継がいなかったからだ。政美には弟が多数いたが残っているのは妾腹の道之助だけだった。数え年五つ。老臣らはこれを推したが、首席家老の仙石左京久寿が幕府がそれを許すか不安だと言い立てた。

江戸の伺いを立てるために左京が出発したが、なぜか子の小太郎を連れて行った。老臣らはこれを怪しみ、先手を打った。ここまでは良かったが、この後はことごとく左京にしてやられる。

左京は老臣を怨み、復讐した。老職ではなかったが、その割を食った一人に河野瀬兵衛もいた。この河野が後年お家騒動暴露の導火線となる。

左京は国許でたいそうな贅沢をしていること、江戸の道之助は手習い用の紙にも不足する始末だった。だが、勢いのある左京はさらに権勢を凄まじいものとした。

これを見て腹を立てたのは河野瀬兵衛だった。左京に追い落とされた老臣らをけしかけ、隠居の久道へ上書を書かせた。が、これは失敗した。だが、河野瀬兵衛は江戸の分家等へ文書を送りつける。こうした中、河野瀬兵衛は良き同士として神谷転を得る。

河野は左京に睨まれ、天領へ逃げ込んだが、ここに左京が踏み込んで捕縛する。また、神谷転は虚無僧となっていたのを町奉行所が捉えてしまう。いずれも越権行為である。

寺社奉行の一人、脇坂中務大輔安董が待っていましたとばかりにこの事件に乗り出す。後に老中となった人物である。そして脇坂が事件に直接当たらせたのが、幕末の最も有能な官僚の一人・川路聖謨となる川路弥吉だった。

生駒騒動

生駒正俊が死に、遺子の後見として藤堂高虎と高次がついた。さっそく高虎は西島八兵衛之友を諸事の目付として讃岐につかわした。一件が落着したと思っていると、高虎の所に生駒家の前野助左衛門と石崎若狭がやってきて家老首席の生駒将監の権勢が強くなり、家中で不興を買っているという。高虎は注意することにした。

高虎は将監をやめさせるのが一番だと思っているが、将軍家にも御目見得している者であるから公儀の諒解を得ねばならず、面倒だと感じた。

だから、将監に匹敵する家老を作って、権力を分かつ工夫をする必要がある。ということで、元服した生駒高俊の叔父に当たる生駒左門を家老にし、目付として前野助左衛門と石崎若狭をおくことにした。

やがて、前野と石崎は高虎のお気に入りとなり、高虎死後に継いだ高次にも上手く取り入った。やがて、二人の権勢は日の出の勢いとなる。これを苦々しく思う者もおり、党派となって対立の形となる。

やがて、事態が深刻となり、藤堂高次や幕府の土井利勝などはことを穏便に済ますために、各党の主要どころを切腹を申しつけて終わりにしようと考えていた。だが、お膳立てが出来たところで、生駒高俊がこれをひっくり返すようなことをしてしまう。

檜山騒動

盛岡の南部家は戦国時代末期に青森県の西半分を津軽家に横領された。この横領が二百三十年後の騒動の根本原因となる。この騒動は檜山騒動といわれるが、実際の騒動は檜山とは全然関係がない。

事件の主人公は相馬大作、本名を下斗米秀之進将真という。十八のおり出奔して江戸に出た。夏目長右衛門信平という旗本に入門した。この夏目は実用流の武術家として最も有名だった平山行蔵の高弟だった。やがて夏目が蝦夷へ派遣されることになったので、秀之進は平山行蔵の門弟となった。

南部利敬が死んだ。これが秀之進の運命を大きく変えていく。

津軽家は従来柳の間詰だったが、金銀をばらまいて大広間詰に家格が昇進することになった。南部家は家格の上で大広間詰であるが、もし津軽家が大広間詰になると、次期藩主の利用は位階が低いため、津軽家の下にすわらなければならない。これが大きく南部藩を刺激し、また秀之進を大きく刺激した。

そこで、秀之進は大胆な計画を練る。津軽家の行列を待ちかまえ、君臣の義を説いて、隠居してもらおうというのだ。

宇都宮騒動

本多佐渡守正信、上野介正純の家は本多平八郎忠勝と同祖から出て、ずっと以前にわかれたということになっている。本多佐渡守正信は若い頃から多難な人生を送ったため、ふくらみのある人柄であった。

一方、正純はこうした経験を経ていないため、才気が鋭く出過ぎてふくらみのない人柄だったようだ。

親子で老中となり、父正信は江戸で、子の正純は家康の大御所付の老中となった。家康と正信が立て続けに死んだ頃には、正純は江戸の秀忠らにいい感情を持たれていなかった。

正純が江戸の老中となった頃、家康の遺言により、宇都宮の十五万五千石を領することになった。これを喜ばなかったのは、前の宇都宮城主の奥平家の人々だ。奥平家には将軍秀忠の姉・亀姫が嫁いでおり、現当主の祖母にあたる。亀姫ばあさまは腹を立てた。

奥平家にお預けになっている者に堀伊賀守利重というのがいた。これも故在って本多正純を恨んでいた。この利重が亀姫に拝謁を申し出て、正純の悪事を探ってみるという。すると、鉄砲密造と、鉄砲を関東に運び込んだこと、本丸の無断修理など、次から次へとでてくる。

秀忠が日光へ参拝にでた。その秀忠を歓迎しようと正純は張り切った。日光参拝が終わり、江戸へ向かう秀忠に亀姫から文が届けられた。

阿波騒動

「阿淡物語」「泡夢物語」という書物がある。小説であるが、嘘ばかりでもない。ある目的があって、具合の悪いことは除いている点がある。だが、それを除くと、この事件はお家騒動にならず、単なる藩政改革の失敗談になってしまう。

阿波徳島の蜂須賀家は十代宗鎮からは初代小六正勝の血を伝えないで現在に至っている。

佐竹分家から重喜を迎え、家督を継ぎ阿波へ入部した。二万石の小大名から家に来たという観念もあり、重喜も軽蔑されまいとして気張ったところがあり、これが騒動を生む最大の原因となる。

重喜は独裁制をしこうと考えていた。その第一手として家柄家老の稲田九郎兵衛植久の洲本仕置を免職した。阿波で百姓一揆が起きた。藩の藍の専売制と藍玉製造業者の暴利をいきどおって起こされたものだ。

こうした中でも重喜は改革を進めるために厳しい倹約令をだした。これくらいでは藩財政の立て直しの大効果は望めない。もっとも効果のあるのは行政整理であるが、これは封建制度の根本であるため、手が出せない部分であった。そこで、重喜は職班官禄の制を考え出した。しかし、これは反対にあい一端引っ込めることにした。

厄介なことが生じた。平島公方といわれる足利将軍家ゆかりのものが阿波にいる。それが加増を望んだ。重喜ははねのけたが、国許の重臣が加増してしまう。重喜は政務が出来ないと引退を宣言してしまう。

スポンサーリンク

本書について

海音寺潮五郎
列藩騒動録 下
講談社文庫 約四一五頁
江戸時代

目次

仙石騒動
生駒騒動
檜山騒動
宇都宮騒動
阿波騒動

登場人物

仙石騒動
 仙石道之助
 仙石左京久寿
 小太郎…左京の子
 河野瀬兵衛
 神谷転
 脇坂中務大輔安董
 川路弥吉

生駒騒動
 藤堂高虎
 藤堂高次…高虎の子
 西島八兵衛之友
 生駒高俊
 前野助左衛門
 石崎若狭
 生駒将監…家老首席
 土井利勝

檜山騒動
 相馬大作(下斗米秀之進将真)
 夏目長右衛門信平…旗本
 平山行蔵…武術家
 関良助
 下斗米惣蔵
 一条小太郎
 赤坂市兵衛
 喜七
 徳兵衛
 大吉

宇都宮騒動
 本多上野介正純
 亀姫
 堀伊賀守利重

阿波騒動
 蜂須賀重喜
 稲田九郎兵衛植久
 山田織部真恒
 足利義根…平島公方

Do NOT follow this link or you will be banned from the site!
タイトルとURLをコピーしました