井上靖の「額田女王」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

大化の改新後から壬申の乱までの、古代日本を描いている。

額田女王が重要な人物として取り上げられているが、話の多くは中大兄皇子、中臣鎌足、大海人皇子ら当時の政府の様子が描かれる歴史小説である。

大化の改新後の混乱した政局と、待ちかまえる国難にいかに中大兄皇子らが対応したかが描かれており、読み応えがある。

さて、額田女王はこの中で、中大兄皇子と大海人皇子の両方から求愛を受ける人物として描かれている。しかし、その巫女としての特殊な立場から、いずれの妃ともならず、不思議な立場を保っている。

この不思議な立場は、額田女王が巫女としての自分を第一と考え、中大兄皇子、大海人皇子のいずれにも心は渡さないと誓うところから来ている。

この額田女王を通じての中大兄皇子と大海人皇子の井上靖の見方が興味深い。中大兄皇子は火であり、大海人皇子は水であると評している。

両者のこの印象は小説全体を通じて感じられるようになっている。

また、小説の中には、万葉集で詠まれている歌が数多く載せられ、これに井上靖流の解釈と、それに合わせた当時の政治状況が見事に組み合わされて描かれている。

内容/あらすじ/ネタバレ

皇極四年(六四五年)の政変より五年が過ぎた。政変後直ちに孝徳天皇が即位した。政変の第一の殊勲者である中大兄皇子は中臣鎌足と謀って、皇太子の地位についた。

これは政治改革に自由に腕を揮うためのことであった。このように時代が急速に変わる中、大化元年に飛鳥から難波に遷都された。

大海人皇子は新宮での行事を抜け出してある女性を追いかけていた。名を額田女王という。額田は神事に奉仕する女官であり、つまりは神と人間の仲介者であり、天皇の代弁者でもある特殊な女であった。そして、同時に歌才に恵まれる美女であった。

この時、額田は大海人皇子に追われているのを感じていたが、同時にもう一人自分を追っているのに気が付いていた。それが何者かは分からないものの、額田は二人の求愛者をまいて、神の声を聞く作業に入っていった。

この後、額田は大海人皇子から招きを受けた。そして、大海人皇子の招きを受け、一夜を過ごすことになった。一方で、額田は中大兄皇子が自分に思いをかけているという話も聞いていた。

額田の腹部が目立ち始めると、誰彼なく腹部の責任者について噂が立ち上った。だが、すぐに大海人皇子であろうという推測が立った。やがて、額田は女児を産んだ。十市皇女である。

世間では遣唐使派遣の噂が流れていた。やがて現実のものとなったが、中大兄皇子と中臣鎌足は今こそ遣唐使を派遣し、唐の進んだ文化を取り入れる必要があると判断したのだ。まだ、混乱が続く政局にあって必要なことだった。しかし、遣唐使の派遣は上手く運ばなかった。

混乱する人心を一つにまとめるため、中臣鎌足は遷都を奨める。難波から大和に移すのだ。孝徳天皇はこれに反対したが、遷都は進められた。政府の中心は大和に移り孝徳天皇だけが難波に残った。そして、失意の内に孝徳天皇は亡くなるのである。

その後すぐに即位したのが、中大兄皇子、大海人皇子の生母である前皇極天皇であった。名を改め、斉明天皇となる。中大兄皇子は依然として皇太子のままでいた。まだなすべきことが終わってはいなかったからである。

有間皇子の事件があったあと、額田は中大兄皇子との関係が親密になっていく。大海人皇子との関係もあり、それは複雑なものであった。そして、世の中はさらに混迷を増していく。

それは、百済からの使者が発端であった。新羅が百済を滅ぼしてしまったというのだ。政府首脳は混乱した。そして、中大兄皇子の決断は派兵だった。

派兵の準備をしている中、斉明天皇が崩御した。中大兄皇子は皇太子のまま、政務を取り仕切り、新羅との戦いに備えた。やがて、派兵は白村江の戦いという結末を迎える。

本書について

井上靖
額田女王
新潮文庫 約四七〇頁
長編
飛鳥時代
主人公:額田女王、中大兄皇子、大海人皇子

目次

白い雉
わだつみ
有間皇子
月明
鬼火
水城
近江の海
兵鼓

登場人物

額田女王
十市皇女…額田女王の娘
中大兄皇子(後の天智天皇)
大友皇子…中大兄皇子の息子
大海人皇子…中大兄皇子の弟(後の天武天皇)
高市皇子…大海人皇子の息子
中臣鎌足
孝徳天皇
有間皇子

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