池波正太郎の「堀部安兵衛」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

高田馬場の決闘、吉良邸討入りで有名な堀部安兵衛を主人公とした小説。前半生はよく分かっていないようなのだが、そこは小説家の想像力で描ききっている。

いわゆる「忠臣蔵」を書くためのものではないので、吉良邸討入りに関する部分は全体の四分の一にとどまっている。

圧倒的に長いのは、高田馬場の決闘までである。

父が亡くなって、浪人となった安兵衛は、様々な人々の世話になりながら、徐々に一人前の剣客へと成長を遂げていく。

その成長の過程にあわせるようにいつも登場するのが、中津川祐見という剣客、お秀という女、鳥羽又十郎という盗賊の三人である。この三人は安兵衛の心の成長にあわせるかのように、登場するたびにその心情に変化が見えている。

特に安兵衛と対比的なのが中津川祐見である。この中津川祐見はもうひとりの安兵衛といってもいいのかもしれない。

この高田馬場の決闘が終わった後、安兵衛が顔に出来た傷をなおす場面がある。

チャンバラものではあまり見られない記述だが、本来、真剣を交えると、刀の欠片が顔の至る所に突き刺さったり、めり込んだりするものらしい。

その欠片をほじくり出すというのも闘いが終わった後の一つの作業となるようだ。

さて、物語の多くは高田馬場の決闘までの安兵衛の足取りをたどる小説だが、最後にいわゆる「忠臣蔵」を持ってきている。

池波正太郎氏は、「浅野びいきでも吉良びいきでもない」といっている。たしかに、ひいきはしていないかもしれないが、吉良嫌いではあるようだ。

嫌いではないのかもしれないが、堀部安兵衛や大石内蔵助、浅野内匠頭は好きなのは様々な作品を書いていることからもわかるし、本書などでも感じることが出来る。結果として、相対的に吉良嫌いに見える。

具体的な例も挙げ、吉良上野介の傲慢無礼な振る舞いを手厳しく書いている。吉良上野介については、その領地では評判が良かったらしいのだが、それすらも、『傲慢無礼な政治家などが我が家へ帰ると、良き夫、良き父親に変ずることは現代にも存在するのである。』と、容赦ない。よほどに嫌いなのではないかと思えてしまう。

一方で、吉良びいきに対する牽制として、昔からいわれている大石内蔵助と浅野内匠頭長矩との確執や、内匠頭の短気、癇癪などは、その文献が見あたらないとはねのけている。

池波先生。これで、「浅野びいきでも吉良びいきでもない」というのは、ちょいと…(苦笑)。

前半の高田馬場の決闘までが長かった理由は、次の部分で明らかになると思う。

『安兵衛には、少年のころから遭遇したいくつかの事件によって、
(これだ)
という生き方が直感的につかめている。
亡父・弥次右衛門切腹事件のときに自分がとった無謀にも思われる出奔も、…(中略)…大いに新発田藩の反省をうながした結果になっている。
さらに、菅野六郎左衛門が、死をかけて下劣な村上兄弟の挑戦をうけて立ったことも、松平家の政道に良き結果をもたらした…(中略)…
浅野内匠頭の刃傷事件をさばいた幕府という巨大な政権へ、小大名の家来たちが反省を求める手段といえば、
「吉良上野介を討つ」
ことが、もっともよいのだ。』

つまり、堀部安兵衛を通じて、権力者への痛烈な批判をしているのだ。

最後に、安兵衛と義理の叔父甥の関係を結んだ菅野六郎左衛門について。その六郎左衛門が安兵衛にあてた遺書は短いが、万感の思いが込められている。この短い文章を読んで、それまで読んだ本書の様々な場面が思い出された。

『さて、何と書きおこうか…。
ながながの厚誼を、ありがたく、うれしゅう思い存ずる。
末長う、こころたのしき酒をのみ候え。』

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内容/あらすじ/ネタバレ

天和三年。中山安兵衛はまだ前髪のとれていない少年だった。

父・弥次右衛門は新発田五万石溝口信濃守の家来で二百石の禄高をはんでいる。ある夜、父が突然帰邸してきた。

そして、父は腹を切った。

弥次右衛門は、受け持ちの辰巳櫓において火を出し、あやうく櫓を焼失させるところだったのを咎められ、謹慎を申しつけられていた。だが、安兵衛はこれを聞き納得がいかなかった。弥次右衛門は無骨者の業年寄だが、奉公に遺憾のあるはずがない。

安兵衛は祖父で元家老の溝口四郎兵衛盛政のところに厄介になることになった。祖父は安兵衛に長船清光の脇差しをくれた。生涯の伴侶となるものである。その後しばらくして祖父が亡くなった。

安兵衛は差し支えがあるということで、祖父の葬儀には参列できなかった。その無聊を慰めてくれたのが溝口家の侍女お秀だった。二人は深い仲となる。

このお秀が父の組下にいた福田源八を知っているかと訊ねてきた。失火の原因となったときにいた者で、どうやら源八が犯人のようだった。それが何の咎めもないばかりか、城下からいなくなり、江戸に向かっているという。

安兵衛はとるものもとらず福田源八を追うことにした。その源八を途中で見つけ、安兵衛は斬ってしまう。これで亡き父の汚名をそそぐための証人を失うことになる。

途方に暮れている時に出会ったのが、中津川祐見だった。

安兵衛と中津川祐見が別れて、四年が経った。義兄・町田新五左衛門の奔走もあり、安兵衛は旗本・徳山五兵衛重俊への奉公が決まった。

この頃、中津川祐見は心貫流を教えている窪田甚五郎の道場に暮らしていた。安兵衛は徳山五兵衛重俊の息子・右近に付き従って窪田道場に出入りすることになった。が、ここで中津川祐見の悪評を聞いて驚く。かつて、安兵衛を助けてくれた優れた人物からは考えられなかった。

その祐見が安兵衛を酒の席に誘った。だが、安兵衛は門限までに戻ることが出来ず、また安兵衛は言い訳をいさぎよしとせず、徳山家を無断で致仕することになった。

そのまま江戸をたち、小田原へ向かった。父の親友・浦上勘太夫を訪ねようと考えたのだ。この途中でかつて溝口家にいたお秀と出会う。どうやらお秀は溝口家をやめた後よからぬ世界に引きずり込まれていたようだ。

お秀は鳥羽又十郎という盗賊の頭の女として生きていたようだが、嫌になり逃げだそうとしたところを安兵衛と偶然再会したのだ。

安兵衛は京にいた。鳥羽又十郎に斬られようとしていたところを中津川祐見に助けられ、祐見の言葉に甘え、お秀と一緒に京に上ったのだ。だが、しばらくすると、お秀と祐見が通じ合っていることが分かった。暗い決意の中、安兵衛は二人を斬ると決めた。

二人が江戸に向かって立ったと思われる。路銀がないので、祖父の形見の脇差しを売ろうと考えた時、それを押さえ、金を貸してくれた人物がいた。赤穂藩の国家老・大石内蔵助だ。

借りた金で早速お秀と祐見を追い始めた安兵衛。途中で追いついたものの、返り討ちにあいそうになる。それを助けてくれたのが、松平左京太夫家臣の菅野六郎左衛門だ。

菅野は安兵衛の世話をしようという。六郎左衛門は安兵衛を林光寺の道山和尚に預けた。驚いたことに菅野六郎左衛門は浦上勘太夫と知己であった。そして二人して安兵衛を世に出そうと画策してくれた。

こうした中、安兵衛は菅野六郎左衛門と義理の叔父甥の関係を結んだ。

安兵衛が鳥羽又十郎に襲われているのを助けたのは北島雪山という老武士だ。北島雪山は側用人・柳沢吉保から扶持をもらって江戸に暮らしている。

雪山と知己を得、雪山のところに邪魔をしている時に、辻斬りを斬ったという少年がやってきた。どうやら雪山の馴染みらしい。この少年と見たのは女剣士だった。名を伊佐子という。

また、雪山を介して細井広沢という柳沢吉保の家臣とも知り合う。学者として柳沢家の禄をはみながら、剣術の腕も相当なもので、堀内源左衛門道場の四天王なのだそうだ。

細井広沢のさそいで、安兵衛は堀内源左衛門道場に入門した。そして、樋口十郎兵衛の元で馬庭念流を学んでいた安兵衛は、失意のどんぞこに落とされる。四天王どころか、半数の門人には勝てない。そんなある日、堀内源左衛門は安兵衛を呼んで変わった稽古を付けた。

安兵衛に再びの武家奉公の話があがった。旗本稲生七郎右衛門だ。

義理の叔父・菅野六郎左衛門が仕える松平右京太夫家ではお家騒動になりそうな気配だった。正夫人の産んだ子が嫡子となっていたが、その上の庶子を継がせようと画策する家臣がいるのだ。

この頃、中津川祐見はこの松平右京太夫の家臣で村上庄左衛門の妹と婚約が整っていた。祐見にしてみれば、己の過去を安兵衛を通じて知っている菅野六郎左衛門が目障りとなる。

そんな中、村上庄左衛門の弟・村上三郎右衛門が菅野六郎左衛門の下女が足蹴にされる事件が起きる。

これが発端となり、村上三郎右衛門は菅野六郎左衛門に果たし状を突きつける。場所は高田の馬場。

高田の馬場の決闘は世に広く知られることになった。安兵衛を召し抱えたいと申し出る家も多かった。その一つに、新発田五万石溝口家もあった。だが、安兵衛は断った。

すこしほとぼりが冷めた頃、安兵衛は赤穂藩の留守居役・堀部弥兵衛金丸とあった。どうやらこの弥兵衛老人は安兵衛を婿に望んでいるらしい。だが、安兵衛は中山の家名を復興させる望みがあった。

堀部老人はあきらめなかった。そして、ついに安兵衛は根負けして、堀部家へ婿入りする。

元禄十四年三月十四日。主君・浅野内匠頭長矩が江戸城中にて吉良上野介義央と刃傷におよんだ事件が起きた。

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本書について

池波正太郎
堀部安兵衛
新潮文庫 計約一〇二〇頁
江戸時代

目次

その日
冷雨

夏鶯
江戸奉公
稲妻

寒月


野客
波紋
剣と恋
星霜
新春多事
犬公方
その前夜
高田の馬場
後日
家名
歳月
浅野と吉良
赤穂にて
決起
切迫
吉良邸討入
一期

登場人物

中山安兵衛(堀部安兵衛)
中山弥次右衛門…安兵衛の父
虎松…安兵衛の友だち
溝口四郎兵衛盛政…祖父
以保…祖母
溝口三郎兵衛政俊…伯父
伊助…老僕
おなよ…中山家の下女
弥太郎
町田新五左衛門…義兄
さち…安兵衛の姉
里村伝左衛門…新発田藩側用人
福田源八
徳山五兵衛重俊…旗本
徳山右近…息子
窪田甚五郎…心貫流道場主
鳥羽又十郎…盗賊
お秀…元溝口家侍女
浦上勘太夫…大久保家家臣
菅野六郎左衛門…松平左京太夫家臣、安兵衛の義理の叔父
宇乃…六郎左衛門の妻、安兵衛の義理の叔母
大場一平…家来
道山…林光寺和尚
中津川祐見…剣客
村上庄左衛門…松平右京太夫の家来
村上三郎右衛門
北島雪山
伊佐子
細井広沢…(元)柳沢吉保家臣
堀内源左衛門…道場主
樋口十郎兵衛将定…馬庭念流
稲生七郎右衛門…旗本
大石内蔵助良雄…赤穂藩国家老
奥田孫太夫…赤穂藩武具奉行
堀部弥兵衛…赤穂藩江戸留守居役
幸…弥兵衛の娘
徳川綱吉…五代将軍
柳沢吉保…側用人
吉良上野介義央…高家
山吉新八

忠臣蔵・赤穂浪士もの

忠臣蔵ゆかりの地

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