井川香四郎の「梟与力吟味帳 第5巻 雪の花火」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第五弾。

前作の最後に戻ってきた茜。仙人こと宮宅又兵衛が喜んだのはもちろんのこと、藤堂逸馬、武田信三郎、毛利八助も喜んだ。

ただ、武田信三郎にとって面白くないのは、茜がどうやら逸馬を好いているらしいのだ。茜どころか女公事師の真琴も逸馬に惚れているようだ。それだけなら嫉妬しない信三郎だが、これに全く気が付いていない逸馬に腹を立てており、面白くない。

だが、この逸馬を巡る恋模様も本書の最後にて変化が現われてくるようで…。今後どうなるかが楽しみである。

頻繁に役職が異動になって、その度に周囲は出世だと祝うのだが、本人だけは左遷だと思いこんでしまう毛利源之丞八助がまた異動となった。

シリーズ第二巻の日照り草で、奥右筆になってから一年もたたずに、勘定吟味方改役に出世した八助が、今度は台所奉行となった。

将軍の御膳を任される役職であり、なによりも「奉行」が付いているのだから、間違いなく出世なのだが、本人はいつものように「左遷」だと思っている。

それでも、握ったことのない庖丁を持って佐和膳で料理の修業をするのは、まがりなりにも自分の職務について少しでも精通しようとする八助の心がけであり、こうした所が評価されているのだ。

いつの日か、本書で語られるように八助が町奉行になる日が来るのだろうか。

さて、同心の原田健吾だが、いつも「大変です!」と言っているので、最近では「たいへん同心」とからかわれるようになってしまった。

最後に。

藤堂逸馬は浅山一伝流柔術の達人でもある。

浅山一伝流は浅山一伝斎重晨(浅山一伝一存、浅山三五郎一伝の説もある)を開祖とする総合武道の流派。剣術、居合、柔術、棒術、短棒などがあったそうだが、現存の伝承内容は柔術が中心である。

内容/あらすじ/ネタバレ

第一話 熟し柿

板橋宿の中宿脇本陣近くに藤堂逸馬が立った。

逸馬は悟助に十年ほど前の話を聞きに来た。悟助の兄・丹野屋宗右衛門が十年前の一件で改めてお縄になったのだ。

十年前。盗賊一味が板橋宿を荒らしていた。その時に浮かび上がったのが神楽の権八という顔役である。それが殺された。

これで捕らえられたのが、丹野屋宗右衛門だった。宗右衛門は善行を施したことで評判の人物である。

吟味は数日で終わり、解き放たれた。板橋宿にいたという証言のおかげだ。

藤堂逸馬はその時に証言した四人のことを知りたがっていた。内三人はなくなり、一人生きている者も頼りない。

逸馬は判決の出たものをほじくり返している理由を知りたかったのである。追っているのは谷津重兵衛。当時の担当だった同心だ。これが宗右衛門と真琴を引っ張ってきた。

この一件は、南町奉行所の詮議所で北町・南町双方の吟味方与力が同席して尋問を行うことになった。

この矢先、宗右衛門が自身番から逃げた。知らせてきたのは武田信三郎だ。

武田信三郎は谷津重兵衛が宗右衛門に個人的な怨みがあることを調べていた。

こうした情報を得て、逸馬は宗右衛門がいないまま吟味に入った。

この吟味の裏には鳥居耀蔵の思惑が働いていた。宗右衛門を推してきた遠山金四郎を追いつめることが出来るからだ。

逸馬は神楽の権八が殺された事件から洗い直すことにした。そのために事件のあった場所へと行く。そして殺された場所を見て逸馬はなぜ権八はここで殺されなければならなかったのかを推測した。

第二話 極楽と地獄

毛利源之丞八助は近頃全くついていないとぼやいた。そうした帰り道に賊に襲われた。まさか千代田城の内堀近くで賊に襲われるなんて。

そこを助けてくれたのが秦聡明だった。江戸で一番人気のある霊媒師である。八助は日を改めて秦聡明を訪ねた。そして秦から壺を買った。

藤堂逸馬と武田信三郎はこの話を聞いて腹を抱えて笑った。佐和膳の女将佐和も苦笑して、騙されたのではないかという。

植木職人・釜蔵の一件に解せない所があると真琴は逸馬にいう。殺された刻限に岩五郎が近くの旅籠にいたのだ。

二人が一緒に飲んでいたのは不思議ではないが、他の誰かと会うことになっていたらしい。

毛利八助が鳥居耀蔵に呼び出されたのは秦聡明に除霊をされて数日後のことだった。

鳥居耀蔵は八助に秦聡明の一件を触れ回れば、奴の騙りに加担していることになると脅した。

その上で、秦聡明を連れてくることが出来たら、出世させると約束した。

逸馬は岩五郎を吟味した。逸馬は岩五郎が殺していないと考えている。そして、二人が会うはずだったのは政吉という男だったという。

政吉は十年ほど前に川崎宿で押し込みを働いた一味の頭目だった。岩五郎と釜蔵はその時に見張りをしていたのだという。

秦聡明を呼び寄せた鳥居耀蔵は、騙りを騙りにせぬように罠を仕掛けたといった。大きな仕掛けだという。それが大きければ騙りではなく真実になる。

数日間気分の優れなかった将軍の機嫌を直したということで、秦聡明は一挙に本物の霊媒師となった。上様お墨付きが付いたのだ。

こうなると北町奉行としても手が出しにくい。鳥居耀蔵の狙いはそこにあった。鳥居は重要な会議に秦聡明を出席させた。

遠山は近頃改革に対する方針の違いから水野と鳥居が不仲になったことを小耳に挟んでいた。

第三話 花おかめ

藤堂逸馬が娘とぶつかりそうになった。娘の名はお花という。二十五、六になるという。病弱な父親を支えている明るい気性の娘だ。そう教えてくれたのは木綿問屋「稲葉屋」の主人・智右衛門だ。

中年の侍がお花を訪ねてきた。伊予松山藩城代家老の家臣・伊藤祐三郎と名乗った。

お花に母の名を訪ねた。お花の母はお雪という。

これを聞いた伊藤祐三郎は、お花の父親は伊予松山藩城代家老なのだといった。城代家老は先月亡くなり、お花に一万両の金を残したという。

この話しはあっという間に巷に広まった。

武田信三郎はこれを母・香澄に知らせた。香澄はお花のことを知っている。

俄然お花に興味を持った香澄の姿に、信三郎は余計なことをしないでくれと頼んだ。香澄は妙に儲け話の鼻だけは利くのだ。

「一風堂」に茜が戻ってきた。

信三郎は茜がどうも逸馬のことを好いているようなのが気に入らない。女公事師の真琴も逸馬に惚れているようだし、一体どうなっているのだ。

お花に色々な男が嫁にもらいたいといってきているらしい。逸馬は稲葉屋の智右衛門から人払いを頼まれていた。

こうした騒ぎの中、香澄がお花の家に乗り込み、お花は信三郎の許婚だと言い放って他を威圧した。これで事態は収拾した。

お花には行く末を誓った若者がいた。木彫り細工師の芳吉だ。

お花に与えられる一万両は稲葉屋智右衛門と芳吉が管理することになった。これに真琴が立ち会った。

ある夜。智右衛門は芳吉を呼び出した。

原田健吾が藤堂逸馬の部屋に飛び込んできた。芳吉がお花の金二百両を盗んで逃げたという。挙句の果てには吉原の遊女を殺したとも言う。

だが、これに逸馬は疑問を抱いた。

逸馬は毛利八助に死んだ城代家老のことを調べてもらうことにした。その八助は精気のない顔をしている。役職が変わって台所奉行になったのだという。上様の御膳を扱う職で奉行なのだから出世だ。

後日、八助が城代家老とお花の関係について調べてきたことを語った。そして…。

第四話 雪の花火

拐かしの事件が起きた時、藤堂逸馬は佐和膳で真琴と一緒に初鰹を楽しんでいた。

調理場では毛利八助が料理の修業をしている。台所奉行になった以上、一通りのことは知っておきたいからだ。

そこに遠山金四郎が現われた。その遠山が材木問屋「加治屋」の主人・周兵衛の娘が拐かされたことを知らせた。また戸が開き、原田健吾が飛び込んできた。

加治屋周兵衛は近頃めきめき頭角を現してきた材木問屋である。

この周兵衛の姿を見た真琴は、それが周次であることに気が付いた。向こうも真琴だということが分かったようだ。

犯人から脅迫状が届いた。

それにしても逸馬はこの事件に遠山自ら陣頭指揮をとっているのが気になっていた。遠山は水野の命令だという。加治屋には裏があるらしい。

公儀普請に絡んで材木問屋の儲けが幕閣の誰かの懐に入っているらしいのだ。この繋ぎ役を捕まえたいのだ。

そこに現われたのが鬼蔵だ。必ず加治屋と繋がりのある相手と接するはずだ。

脅迫状を送ったと思われる相手が殺された。飛松という渡世人崩れで、南町が追っていた。

一方、鬼蔵を追っていた逸馬は取り逃がしてしまう。鬼蔵が井戸に逃げ込んだのだ。その井戸がどこにつながっているのか…。近くには鳥居耀蔵の別邸がある。

拐かされた娘を取り戻した周兵衛だったが、娘の安否よりも、娘の着ていた着物のことを心配していた。なぜなら…。

内容/あらすじ/ネタバレ

井川香四郎
梟与力吟味帳5 雪の花火
講談社文庫 約三一〇頁

目次

第一話 熟し柿
第二話 極楽と地獄
第三話 花おかめ
第四話 雪の花火

登場人物

藤堂逸馬…北町奉行所吟味方与力、梟与力
武田信三郎…寺社奉行吟味物調役支配取次役
毛利源之丞八助…勘定吟味方改役→台所奉行
武田香澄…信三郎の母
真琴…公事宿「叶屋」の主人
梅吉…「叶屋」番頭
仙人(宮宅又兵衛)…一風堂の師匠
茜…女先生
左吉…一風堂の生徒
佐和…佐和膳の女将
遠山左衛門尉金四郎…北町奉行
原田健吾…北町同心
房蔵…岡っ引き
鳥居耀蔵…南町奉行
中島勘解由…南町奉行所筆頭与力
水野越前守忠邦…老中首座
悟助
宗吉…悟助の子
みゆき…兜屋女将
丹野屋宗右衛門…悟助の兄
神楽の権八
谷津重兵衛…南町同心
新島久兵衛
秦聡明
釜蔵…植木職人
岩五郎
政吉
お花
米八…お花の父親
芳吉…木彫り細工師
智右衛門…木綿問屋稲葉屋の主人
伊藤祐三郎…伊予松山藩城代家老の家臣
周兵衛…材木問屋「加治屋」の主人
鬼蔵
飛松
鷹蔵

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