井川香四郎の「梟与力吟味帳 第1巻 冬の蝶」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

★★★★★★☆☆☆☆

シリーズ第一弾。主立った登場人物達の紹介などを兼ねている。主役は梟与力こと藤堂逸馬である。これを幼馴染みの武田信三郎、毛利源之丞八助が助ける。

天保の改革真っ只中のこのシリーズの敵役は鳥居耀蔵である。鳥居耀蔵が南町奉行であったのは天保十二年(一八四二)から天保十五(一八四四)までの期間である。

さて、このシリーズの主な登場人物を紹介してみよう。

藤堂逸馬(とうどういつま)は北町奉行所吟味方与力で、通称「梟与力」。独り者で、その鷹揚な態度と威風堂々とした風貌から「大将」と呼ばれている。

もともと人形町の町名主の次男坊だったが、御家人の藤堂家の養子となった。神道無念流の腕前は相当な物で、並み居る剣客を唸らせ、大名の御前試合でも名をはせた。養子に入った藤堂家は町方与力の家柄で、勤め始めたのは五、六年前である。

それまでは家禄と道場師範として糊口を凌ぎながら、諸国を旅して回っていた。その旅で学んだのが、弱い者が強きものに虐げられ、正直者が馬鹿を見るという理不尽な世の中であり、正義感が人一倍強い逸馬は、悪への怒りを正々堂々と法に則ってぶつけることが出来る吟味方与力に俄然張り切っている。大坂に行った時には、大塩平八郎の屋敷に世話になったことがある。

ちなみに、吟味筋とは刑事訴訟事件である。吟味方与力には検事と裁判官の両方の権限があった。一方で民事事件は出入筋と呼ばれた。

武田信三郎(たけだしんざぶろう)は寺社奉行吟味物調役支配取次役という舌を噛みそうな役職に就いている御家人。女房と二人暮らし、しかも四度目の女房で髪結いをしている。

「黄表紙」のあだ名があるが、これは子供の頃から助平で黄表紙を読んでいた所から来ている。

酒を飲むと泣き上戸になる。

毛利源之丞八助(もうりげんのじょうやすけ)は、本作では奥祐筆仕置係。本作ではという註釈をつけたのは、シリーズの中で頻繁に役職が変わっていくからである。本人はいつも左遷だと思っているが、周りからみれば栄転続きであり、己が思っている以上に有能な人物。逸馬や信三郎とは違って旗本。

あだ名は「パチ助」。算盤に長けていたからついたあだ名である。

酒を飲み出すと、仕事に対する鬱屈や、家出は女房の尻に敷かれ、六人の子持ちということを忘れたいがためなのか、はじけるように踊り出す。

佐和(さわ)は小料理屋「佐和膳」の女将。

元辰巳芸者で北町奉行の遠山金四郎の若い頃の妾だったとか、名のある侠客の娘だとかという噂のある女である。

仙人こと宮宅又兵衛は逸馬達が通った寺子屋「一風堂」の恩師。

石門心学の学者で、和算家の千葉胤秀や農政家の大原幽学らとも交流があった。

茜は一風堂で仙人を助ける女先生。二親を失って、信州馬籠から江戸に出てきたが、その親戚も身体を悪くして、自立を考えていたところに一風堂の案内を見たという。いつも明るい笑顔を絶やさない娘で、口元にはえくぼが出来る。

だが、実の正体は…。

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内容/あらすじ/ネタバレ

第一話 仰げば尊し

人事権を持つ奥祐筆に毛利源之丞八助が呼びつけられた。人減らしをすることになったというのだ。八助は愕然となった。奥祐筆仕置係の八助は、そつなく役職をこなしていたつもりだが、肩叩きされるのかと思うと情けなくなった。

だが、八助のことではなかった。差し出された書類には北町奉行所吟味方与力の藤堂逸馬、寺社奉行吟味物調役支配取次役の武田信三郎の名があった。二人とも八助の幼馴染みである。

いずれかを選ぶ役目を八助が負うことになってしまった。

その日の五つ(午後八時)。芳町の小料理屋「佐和膳」を八助が訪ねた。すでに藤堂逸馬が一人でちびりとやっている。

逸馬は一風堂の仙人こと宮宅又兵衛が倒れたという。仙人は逸馬達の恩師である。

逸馬はかつて大坂に長逗留していた折、大塩平八郎の屋敷に世話になったことがあり、大塩も若き頃仙人の薫陶を受けたことがあったため、最近では幕閣上層部から仙人もその教え子の逸馬も睨まれていた。

男が火付盗賊改方同心に追われていた。その男が一風堂に逃げ込んできた。一風堂では子供達が手習をしていた。折りよく藤堂逸馬もいた。仙人は男を匿うことにした。

すぐに火付盗賊改方同心の黒岩辰兵衛が追って入ってきた。黒岩は男が葛籠の半蔵という盗賊の一味だという。

黒岩は逸馬の名を知っていたようだ。あだ名の、梟与力と呟いたからだ。

仙人は逃げてきた男を知っていた。河村伊左衛門、丹波篠山藩蔵役人だった人だ。

葛籠の半蔵一味・鮫次の死体が大川に浮かんだ。現場には見習同心から本勤並になったばかりの北町同心の原田健吾がいた。

河村伊左衛門について武田信三郎がすぐに調べてきた。この信三郎の様子がいつもと違うのを逸馬は不思議そうに見つめていた。

河村伊左衛門を火付盗賊改方同心の黒岩辰兵衛が捕まえたが、連れて行ったのは火付盗賊改の中島勘解由宅ではなく、南町奉行所だった。
南町奉行は鳥居耀蔵である。

この鳥居耀蔵が裁決を導こうとした矢先、原田健吾が怪しい浪人を捕縛してきたと逸馬に報告した。その浪人が鮫次を殺したのだが、頼まれたことであり、頼んできたというのが意外な人物であった。

第二話 泥に咲く花

仙人の顔色が良くなってきたのは、茜という女先生が来てからである。仙人から見れば孫のような娘である。

茜が教鞭を執るようになってから、藤堂逸馬、武田信三郎、毛利源之丞八助の三人もちょくちょく顔を出すようになった。その様子を見て、仙人は三バカ奉行がと軽口を叩いた。

茜と同じ年頃の、同じような仕事をしている娘が殺された。殺された女先生は佐織といった。事件をあたっているのは原田健吾と熟練の岡っ引き・紋蔵である。

部屋を荒らされた様子もなく、何度も刺されている所から、怨みではないかと健吾はいった。だが、と逸馬はいう。刺されたにしては血の跡が少なすぎる。

佐織と親しかったおしのは、佐織が母の形見として大事にしていた柘植の櫛がないといった。

佐織は二親を亡くしており、特に父親の死の時には医師に見捨てられたのだといっていたという。その医師とは小石川の御薬園近くの桂庵である。大層流行っている医師である。

桂庵を逸馬が訪ねると、奧からしょんぼりと毛利八助が出てきた。

逸馬は桂庵に佐織のことを聞いたが、得る物がなかった。

原田健吾らが新たな情報を得てきた。佐織には許婚がいた。忠吉という薬種問屋・嵯峨屋の手代である。嵯峨屋はつい先頃公儀御用達になったばかりで、桂庵が仕入れている店でもある。

武田信三郎が五年前の幕閣絡みの騙りの記録を持ってきた。十一代将軍家斉の御落胤という事件で、男は葵龍之介と名乗っていた。御落胤は嘘であるが、老中水野忠邦の縁者であることがわかったという事件だ。これが、関係しているという。

第三話 幻の女

両国橋西詰の路地で若い町娘が酔っぱらいの中年男に絡まれていた。これを止めに入った若い男と揉め、酔っぱらいが倒れ、打ち所が悪かったのか死んでしまった。この時に駆けつけたのが原田健吾だった。

逸馬はこの事件に当惑していた。若い男は大工の弥八、死んだ中年男は浅草蔵前の札差・常磐屋の二番番頭・又兵衛である。又兵衛は常磐屋主・菊右衛門の実弟である。

一方、絡まれていた娘の行方がわからないでいた。

武田信三郎がやってきて、殺された又兵衛に関して、勧進札に絡んでいる可能性を示唆した。寺社方では前々から勧進札を内偵していたという。勧進札とは一種のネズミ講だ。

元締が誰かはわからないが、表に立っていたのが又兵衛だったという。それが殺されたのだから聞きに来たのだと信三郎がいった。

弥八には妹がいる。おかよという。また、弥八には入れあげた女がいた。両国橋西詰の水茶屋・笹舟に奉公している喜代だ。

逸馬は札差・常磐屋を訪ねた。主の菊右衛門に話を聞くためだ。その菊右衛門は牧助という元手代のことを話した。

その牧助に聞きに行こうとした所、牧助は殺されていた。この場に武田信三郎も毛利八助もいた。それぞれ勧進札に絡んで、牧助を怪しいと睨んでいたのだ。

信三郎は一枚の書付を出して見せた。牧助と大検使の小笠原徳内が交わした密書である。

第四話 冬の蝶

牢屋奉行・石出帯刀から知らせを受けた藤堂逸馬は小伝馬町へ向かった。咎人が逸馬に会いたいといっているのだという。

おけいという遊女を殺した咎で、死罪が決まっている飾り職人の勇次である。

勇次は京橋にある油問屋・清洲屋の娘・お光の様子を一言でいいから知らせて欲しいという。

逸馬は貫吉という岡っ引きに調べさせた。

清洲屋は何故か闕所になっていたという。近所の話しでは主人が油問屋組合の金を不正に融通して焦付いたため責任をとらされたという。その人物とは勘定吟味役・本多修理の倅・数右衛門だという。二年ほど前の話しである。

この後、お光は前田伴之進という御家人の女房になったという。これはつい先頃のことのようだ。

逸馬は殺された遊女・おけいについて調べ始めた。調べていくうちに、勇次はおけいのことを余り知らないのに、殺したのだという。二人の間には何があったというのだ。

そして、お光が嫁いだ前田伴之進はお光の父から随分金を借りていたことがわかった。他には本多数右衛門らがいたという。

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内容/あらすじ/ネタバレ

井川香四郎
梟与力吟味帳1 冬の蝶
講談社文庫 約三〇五頁

目次

第一話 仰げば尊し
第二話 泥に咲く花
第三話 幻の女
第四話 冬の蝶

登場人物

藤堂逸馬…北町奉行所吟味方与力、梟与力
武田信三郎…寺社奉行吟味物調役支配取次役
毛利源之丞八助…奥祐筆仕置係
仙人(宮宅又兵衛)…一風堂の師匠
茜…女先生
左吉…一風堂の生徒
佐和…佐和膳の女将
原田健吾…北町同心
遠山金四郎…北町奉行
鳥居耀蔵…南町奉行
大条綱照…奥祐筆筆頭
田野倉…奥祐筆寺社係
河村伊左衛門…元丹波篠山藩蔵役人
黒岩辰兵衛…火盗改方同心
中島勘解由…火盗改
沢本孝之助
佐織…女先生
おしの
紋蔵…岡っ引き
桂庵…医師
忠吉…薬種問屋の手代
古坂平四郎
弥八…大工
おかよ…弥八の妹
又兵衛…札差・常磐屋の二番番頭
菊右衛門…札差・常磐屋の主、又兵衛の実兄
喜代
牧助
小笠原徳内…大検使
石出帯刀…牢屋奉行
勇次…飾り職人
おけい…遊女
お光…油問屋清洲屋の娘
貫吉…岡っ引き
本多数右衛門
前田伴之進…御家人

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