火坂雅志の「全宗」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

秀吉には戦における軍師としての竹中半兵衛、黒田官兵衛がいた。これに対して、外交や政策立案に関わる参謀として、安国寺恵瓊、千利休とともに秀吉の知恵袋になったのが施薬院全宗である。

医師という立場で様々な立場の人間に接することが出来たというのも、全宗に活躍の場を与えることになる。

この全宗だが、小説では甲賀の下忍出身となっている。これが、意外に説得力があり、上手い設定になっているのだ。

この全宗と医師という立場で権力闘争をするのは曲直瀬道三の一門である。曲直瀬道三も、一癖ふた癖ある人物で、足利学校でも学んだという。権力欲のある医者である。

下野国足利にある足利学校。本邦第一の学問所であり、漢学、儒学、天文学、医学、兵学、易学などを教えており、学問を志す者の間では有名であった。

なかでも兵学、易学は盛んで、足利学校出身者で軍師として重宝された者が多かった。鍋島直茂の不鉄桂文、小早川隆景の玉仲宗琇、直江兼続の涸轍祖博、徳川家康の天海大僧正らがいる。

個人的には、この足利学校を舞台にした面白い時代小説・歴史小説が出来るのではないかと思って期待している。

さて、話がずれたが、この曲直瀬道三と全宗の対決、それに道三の孫娘・雪乃のかなわぬ恋などが入り交じって話に花を添えている。

後半、秀吉が天下を取ってからの全宗の行動も面白い。比叡山の復興運動に、施薬院の再興運動。これは自らの権勢を高めるためのものである。

これに対して、キリスト教の禁止と秀吉の子作りは豊臣家の権力を盤石にするための施策である。

全宗は自らの権力を強めはしたが、それはあくまでも秀吉の権力あってのことと割り切り、それを超えて自らが頂点に立つつもりはなかったように思われる。そういう意味で名参謀といえる。

だが、この名参謀を描いたこの小説の最後は、権力を握った人間の悲哀が感ぜられ、諸行無常を感じさせる。この終わり方が印象的で良かった。

内容/あらすじ/ネタバレ

比叡山坂本の薬樹院で寝ていた全宗の所に侍者の刈萱丸が飛び込んできた。織田信長の軍勢が焼き討ちをしてきたという。全宗はすぐさま逃げる準備に入った。

全宗が住持をつとめる薬樹院は薬の知識が豊富な僧侶が選ばれた。この年四十二の全宗も薬に通じていた。

…全宗は近江国甲賀郡三大寺村に生まれた。忍びの里である。父も忍びで薬に通じていた。その父が忍びの仕事で命を失い、母は新しい夫を迎えた。その継父とうまが合わない全宗は、あることがきっかけで継父を殺し逃げ出す。その先で出会ったのが深泥無仁斎であった。

深泥無仁斎は甲賀の忍びで、寄る辺のない少年達を拾ってきては忍びの術を仕込み、甲賀の上忍の家に高値で売りつけていた。

深泥無仁斎の元で修行を続ける全宗はやがて忍びの奥伝を伝えられる。それは薬である。深泥無仁斎の教える薬は人の命を奪う冥府魔道の薬、つまり陰薬である。

全宗はどうしても世に出たいという欲望があった。そのために忍びをぬけることにした。甲賀を裏切ったのだ。

世間に出るためには、薬の知識を武器にしようと思ったが、簡単にはいかなかった。それに甲賀の追っ手が執拗に命を狙う。やむなく逃げ込んだのが比叡山だった。

薬樹院の名の坊舎があるのを知ったのは、比叡山に入ってから一年近く経ってからである。教えてくれたのは、心空という名の行者である。全宗の数少ないうまの合う人間だった。

全宗は薬樹院に移ることを得る。そして、並ならぬ知識欲で次々へと薬の知識を得ていった。そして、ついに薬樹院の住職となった。

…比叡山の焼き討ちの後で、全宗は木下藤吉郎秀吉に会うことにした。権力に近づきたい全宗としては織田信長が天下を取るのが目に見えていた。だが、比叡山を焼き討ちした信長の前に比叡山の坊主である自分が出るのはまずい。

そこで、明智光秀と並ぶ出世頭の秀吉に会うことにした。それに、立場もよく似ている。

秀吉につないでくれたのは、竹中半兵衛だった。半兵衛は全宗であることを見破っていた。それでもつないでくれた。

戦国時代、日本の医学界に革命を起こした人物がいた。曲直瀬道三である。曲直瀬道三はこの時代の最新の医術を学んでいた。その知識を生かして京で活躍し、有名になっていた。

啓廸院という学舎を開き、一大勢力を築いていた。ここに全宗は入門した。秀吉が勧めたからでもある。全宗はここで曲直瀬道三から最新の医術を学んだ。

こうしている間にも、全宗は秀吉の命を受け、甲斐の国に武田信玄の動静を探りに行ったりした。武田信玄が上洛の軍を動かそうとしている気配があったからである。

…織田家が危機を脱し、秀吉は十二万石の大名となった。この頃には全宗は曲直瀬道三から学ぶべきものはなくなり袂を分かつことにした。

そして、竹中半兵衛からは帷幄(いあく)の臣になってもらいたいといわれる。いずれ、血で血を争う戦の世は終わるだろう。そうなってから必要なのは軍師ではなく、参謀だという。そうした役割の臣になってもらいたいというのだ。

そして、本能寺の変が起き、秀吉が天下人となる。秀吉四十七歳。全宗五十四歳である。

全宗はここに天下人の侍医となった。だが、まだまだ全宗にはやらねばならないことが多かった…

本書について

火坂雅志
全宗
小学館文庫 約五九五頁
戦国時代 主人公:施薬院全宗

目次

第一章 比叡山炎上
第二章 秀吉
第三章 啓廸院
第四章 秘命
第五章 信玄隠し湯
第六章 波乱
第七章 湖国の風
第八章 帷幄の臣
第九章 密謀
第十章 天下人の侍医
第十一章 施薬院
第十二章 九州攻め
第十三章 帰去来
あとがき

登場人物

全宗
刈萱丸(宗朴)…弟子
津留
豊臣秀吉(木下藤吉郎秀吉)
竹中半兵衛
黒田官兵衛
安国寺恵瓊
千利休
石田三成
淀君
曲直瀬道三
雪乃…孫娘
玄朔
心空
柊屋宗兵衛…薬種問屋
武田信玄
深泥無仁斎
八雲
青切

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