藤沢周平の「時雨みち」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

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覚書/感想/コメント

「帰還せず」と「滴る汗」は藤沢周平には珍しい公儀隠密もの。

印象に残る作品は「山桜」と「亭主の仲間」。

「山桜」は嫁いだ先とうまくいっていない女性が主人公となり、この女性の身を案じている男性との出会いが主人公の運命を変えていくというものである。慎ましく咲く山桜を選んでいるところが、作品の流れと相まって、作品の印象を決定づける効果的な小道具になっている。

「亭主の仲間」では、不気味な男の存在がだんだんと肥大化していく恐怖を描いている。最後は主人公が放り出される形になり、その後どうなるのかがわからない。

もしかしたら、恐怖は去るのかもしれないし、もしかしたら、恐怖は更にふくれあがるのかもしれない。その判断は読者に委ねられているが、どのように捉えるかは読むたびに異なるような感じの作品である。

「山桜」が2008年に映画化された。

映画「山桜」(2008年)の観賞備忘録(感想とあらすじと情報を添えて)
藤沢周平の同名短編を映画化。原作のイメージぴったりというわけではないが、かなり忠実に映画化されている。原作はかなり短い短編なので、一読してから見てもいいと思う。

内容/あらすじ/ネタバレ

帰還せず

公儀隠密の塚本半之丞は加治藩における五年の探索を終えて江戸に戻った。が、江戸に戻って組頭が山崎勝之進が戻ってきていないと告げる。山崎も半之丞と同時期に戻ってくるはずだった。

それなのに戻ってきていないのは、消されたか、それとも本人の意志で戻らないかである。すぐさま半之丞は山崎勝之進の消息を確かめるために赴いた。

飛べ、佐五郎

新免佐五郎は敵持ちの追われる身である。佐五郎を狙うのは貝賀庄之助である。しかし、この貝賀庄之助は余命幾ばくもない状態らしい。そのことをしかと確かめた佐五郎はようやくに心が落ち着いてくるのを感じ始めている。

そして、佐五郎が現在世話になっているおとよにも迷惑をかけなくてすむ。というより、別れることが出来る。しかし…

山桜

野江は墓参りの帰りに見事に咲いている桜の枝を折ろうとしたがなかなかうまくいかない。それを助けてくれたのは手塚弥一郎であった。手塚は野江が夫が病死したために家に戻ってきた時に舞い込んだ縁談相手の一人だった。

この出会いがあった後しばらくして手塚弥一郎が城中で諏訪平右衛門を刺殺した。野江はその後の手塚の処遇が気になって仕方がなかった。

盗み喰い

酔った弟弟子の助次郎を送っていった政太。その話を聞いて夫婦約束をしたおみつは腹を立てた。助次郎が甘ったれているというのだ。助次郎は腕はよいのだが、体が弱い。労咳にかかってしまったのだ。

その助次郎が親方とは別のところで仕事をしているのが発覚する。親方に助次郎を見てくるように頼まれた政太は助次郎に問いただした後、おみつに助次郎の飯を一晩だけ作ってやってくれないかと頼む。しかしこのことが…

滴る汗

森田屋宇兵衛が城に入ろうとするといつもとは異なりなにやら物々しい。訳をそれとなく聞いてみると、出入りの商人の中に公儀隠密がいるのがわかったというのだ。森田屋は動悸が高鳴るのがわかった。公儀隠密とは自分しかいない。

しかし、どこでばれたのだろうか。考えている内に、一人の男が頭をよぎった。かつて森田屋の下男をしていた茂左衛門である。

幼い声

新助は櫛職人である。気に入らないことがあって一人で蕎麦をすすっていると、幼馴染の富次郎が現れた。

そして、富次郎はおきみを覚えているかという。おきみも幼馴染であるが、そのおきみが男を刺して牢に入っているという。

夜の道

おすぎを見つめる女がいる。その女がおすぎに声をかけた。女は伊勢屋の女将であると名乗った。おすぎは貰い子である。そのことは皆が知っている。伊勢屋の女将は、十五年前に人に攫われた娘ではないかという。

しかし、おすぎには伊勢屋の女将がいう様々なことの記憶はなかった。おすぎは当惑するばかりである。

おばさん

およねは亭主が死んでから老け込んでしまった。長屋の人間はそれとなく気を遣うのだが、元気になる様子がない。そのおよねのところにひょんなことで若い男が居候することになった。

名は忠吉といった。およねは、忠吉が居候している間に、自分の養子になってくれないかと考えるが…

亭主の仲間

上機嫌で戻ってきた辰蔵の様子を見ておきくはどうしたのかと聞くと、辰蔵は仲間が出来たという。その仲間は安之助というらしい。

そのうち連れてくるからといって連れてきた安之助は感じの良い若者だった。何度か遊びに来た安之助はある時金を貸して欲しいという。これが全ての始まりだった。

おさんが呼ぶ

おさんは無口な娘である。そのおさんが奉公する伊豆屋に兼七という紙漉屋がやってきた。商売をまとめにきたのである。毎日いそがしそうにしている兼七であるが、今ひとつ商売はうまくいっていないようである。

しかし、その商売に目鼻がたちそうなある日のこと、おさんは伊豆屋の手代が話していることを偶然聞いてしまう。

時雨みち

機屋新右衛門を市助が訪ねた。新右衛門と市助は奉公人仲間であったが、今では差が開く一方である。新右衛門は市助に損得を抜きにして品物を卸してあげている。そのことを知りながら市助は礼すら言わない。そのことを含めて新右衛門は市助に少なからず不満があった。

しかし、市助が話題にしたのはおひさという昔新右衛門が捨てた女のことだったのである。市助はおひさの名を出すことによって新右衛門からいくらかの金を引き出すつもりだったらしいが、今となっては新右衛門にとっておひさのことは何の問題にもならない。

だが、市助が言ったおひさが苦界に身を沈めているという話は新右衛門の気持ちを動かした。

本書について

藤沢周平
時雨みち
新潮文庫 約三一〇頁
短編集
江戸時代

目次

帰還せず
飛べ、佐五郎
山桜
盗み喰い
滴る汗
幼い声
夜の道
おばさん
亭主の仲間
おさんが呼ぶ
時雨みち

登場人物

帰還せず
 塚本半之丞
 山崎勝之進
 おみち

飛べ、佐五郎
 新免佐五郎
 貝賀庄之助
 おとよ

山桜
 野江
 手塚弥一郎

盗み喰い
 政太
 おみつ
 助次郎

滴る汗
 森田屋宇兵衛
 茂左衛門
 鳥谷甚六

幼い声
 新助
 おゆう
 富次郎
 おきみ

夜の道
 おすぎ
 おまつ
 伊勢屋の女将
 幸吉

おばさん
 およね
 忠吉
 おはる

亭主の仲間
 おきく
 辰蔵
 安之助

おさんが呼ぶ
 おさん
 兼七
 民蔵

時雨みち
 機屋新右衛門
 市助
 おひさ

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