天野純希の「桃山ビート・トライブ」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

第20回小説すばる新人賞。

舞台は安土・桃山。まだ天下の帰趨が完全には決まっていない時代。荒々しい気風があり、傾き者と呼ばれる者達がいた時代である。その時代を生きた、反骨心溢れる若者の青春群像である。

きっとロック小説とかバンド小説いわれるんだろうけど…なんだかなぁ。バンドならではの、あつい友情や、音楽性の相違による対立などが描かれている…どこかで聞いたような話だ。

そうそう、発想は面白くなくはない(いいかたがまどろっこしい)。出雲のお国などを登場させるなどの工夫もいい。織田信長の家来だった黒人の弥助を使うのもうまい。だが、一風変わった歴史上の人物を、もう一人か二人くらい登場させてもよかったような気がする。

題名にはビートがついているから、ロックを意識しているのだろうが、グルーブにしてもよかったのではないかと思う。

というのは、後ろのつくのがトライブなのだから、民俗音楽的な意味合いを強く出して、グルーブにした方がよかったのではないかと思うのだが。

そうはいっても、やっぱり、ロックを意識しているんだろうねぇ。なんせ、ビートだから。

映像化や音楽化のイメージ化がしやすい感じだが、やめたほうがいいだろう。読者にとっても作者にとっても想像とは全く違うものになるのを確約する。

冷静に想像をしてみたほうがいい。

登場するのは、三味線のペンペンペンに笛のピーヒャラと太鼓(というよりパーカッションのようだが)のポンポンである。

私は音を想像してみたが、ロックにはならなかった。せいぜいポップスにしかならなかった。

ロックバンドというのは、デビュー前やデビュー直後というのは、攻撃性を持っている。それは権力や権威への怒りや反発である。

もしくは(彼らのいうところの)本物への志向であり、理解されない事への不満だったり、商業ベースへの反発だったりする。それが表現される。

きっと本書もこうした雰囲気を出したいのだろう。

だが、ビッグネームへ成長すると、彼らはいつの間にか反発していたはずの権力や権威側にいることになる。それは、とりもなおさず、商業ベースにどっぷり浸かる事を意味する。伝説のバンドが至る所でしょっちゅう再結成されるのは、そういう商業ベースが念頭にあるからではないのか?

本書を読んでいて、ロックにつきまとう欺瞞を思ってしまった。かつて私は復活する伝説のバンドの姿を見て、白けたものだった。

ようするに、私は本書を読んでかつての白けた感覚がよみがえってしまったのだ。

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内容/あらすじ/ネタバレ

藤次郎は脇目もふらず逃げていた。十一歳にすぎない藤次郎には不釣り合いに大きな荷を背負っている。藤次郎は掏摸や置き引きを生業としていた。その藤次郎が盗んだのはどうやら楽器だったらしい。

その藤次郎の後ろで勧進興行が始まろうとしていた。舞台には童女がふたり混じっていた。年かさの方がお国、若い方がお加賀。出雲大社の巫女だという。お国は十一歳だという。

同じ舞台を五歳のちほが見上げていた。そして、十一歳の小平太も同じ舞台を見ていた。小平太の父は笛職人だ。

身の丈が六尺二分の弥助がこの国に来て約三年。突如として、謀叛の声があがった。惟任日向守が謀叛だという。ここは本能寺だった。

名護屋城本丸での舞台。シテを演じたちほを豊臣秀吉は気に入ったようだった。その様子を金春座の暮松新九郎はみて、何とかしなければならないと考えた。

日本軍が釜山に上陸してから十ヶ月が経つ。最初こそ勢いがあったものの、徐々に押され、兵站をずたずたにされている。今や状況は泥沼と化していた。

一方でちほを抱える源八は、感慨にふけっていた。ここまでこれたのはちほのおかげといっていい。だが、そのちほの関心が猿楽にない事を知っていた。きっかけは半年前に見たお国一座のややこ踊りだった。

文禄二年(一五九三)。ひどい身なりの若者が現われた。若者は飲み屋に入った。そこには小平太という笛役者がくだをまいていた。若者は藤次郎。六年ぶりに都に戻ってきたところだった。

小平太は酒を飲みながら不満をぶちまけていた。これまで彼の一座を招いた都の貴顕を思い浮かべていた。芸など何もわかっていない。偉そうに座り、ただ流行ものを見て話の種にしたいだけだ。そんな小平太を藤次郎は全く聞いていなかった。

藤次郎が袋から取り出したのは弦楽器だった。三味線である。三十年ほど前に琉球から三線が伝わり、琵琶法師たちによって改良が加えられ、新しい楽器に生まれ変わった。最先端の楽器である。

それを藤次郎は胴の両端につけられた革ひもを首にかけて右腕を前に通した。立ち上がって弾くつもりのようだ。わずか数小節だけ弾いたが、小平太を戦慄させるに十分だった。

小平太は自分の一座に誘った。出雲のお国一座だ。

小平太がお国一座に加わったのは二年ほど前だ。出雲のお国と名乗っているが、生まれは京である。座にも出雲出身者などいない。

一座を宰領しているのは三九郎という鼓打ちだった。腕はいいわけではないが、商才があった。

だが、そのおかげで以前の粗野だが人を熱くさせるような力強さはどこにもなくなっていた。

こんなお国一座に藤次郎が居続けられるはずもなく、舞台でぶちぎれてしまった。その後、三九郎からの怒鳴られる事になったのだが、仲裁に入ったはずの小平太が三九郎を殴ってしまう。二人とも一座を追い出された。

弥助は堺湊で納屋才助の元で働いていた。才助の跡取り息子の助左衛門は弥助に親しく話しかける。弥助は銭を貯めて故郷へ帰るのが夢だった。弥助はアフリカのモザンビークで生まれ、奴隷として日本にやってきて、織田信長に献上された。

仕事の休憩に弥助はせがまれて太鼓を叩きはじめた。掌を器用に使って叩く。鼓や日本の太鼓とは違う軽やかな音色がある。

弥助はある時、納屋才助が弥助を手放す気がないことをしり、かっとなってしまう。そして飛び出した。

お国一座を追い出されて一月が経つ。藤次郎と小平太は五条河原にいた。

藤次郎は九条河原に河童が出るという噂を聞きつけ、小平太を無理矢理連れて見に行った。二人が見た河童はでかくて黒かった。そして太鼓を叩きはじめた。とてつもない速さだ。

あっという間に三日が過ぎた。藤次郎は考えた末に、河童を自分たちの一座に迎え入れると決めた。

河童と勘違いされた弥助を仲間に加えて一月。だが、三人では味気ない。

藤次郎が清水坂界隈をうろついているときに、追いかけられていえる小柄な女に助けを求められた。だが、助けを求めた藤次郎よりも女の方がはるかに強く、結局は藤次郎が助けられる羽目となった。

女はちほ。小平太はその名を聞いて驚いた。京の女猿楽の中でも一、二を争う役者だ。

そのちほを仲間に加える事になった。アホな上に食費もかさむが、すさまじい踊りを見せつけてくれたのだ。

文禄四年(一五九五)正月。又一郎は舞台裏から客席を見て不機嫌だった。気に入らないのは客の入りではなく、舞台の上の芸だった。

接客させているおみつという娘が噂話を聞かせてくれた。近頃、都近くの村で祭荒らしというのがでているのだという。呼ばれてもいないのに、勝手に演奏をはじめる一座だそうだ。

それが又一郎の舞台に現われた。何もかもが掟破りだった。あんな速さの太鼓も、笛と三味線を立ったままで演奏する者もいない。踊り子の娘は唄も唄わず踊りだけを客に見せている。この一座には、人の心をつきうごかすなにかがある。又一郎は確信した。

この一座を追いかけ、又一郎は小屋に出続けないかと誘った。

又一郎はじっと待っていた。噂は積極的にながしている。一座はちほ一座と命名し、衣装は都で流行っている傾き者と呼ばれる連中の衣装だ。又一郎は従来のように貴顕に取り入って庇護を得ようとは考えていなかった。庶民走の人気を不動のものにすれば、誰に取り入る必要もない。

三月一日。河原に詰めかけた人の多くは林又一郎の小屋を目指していた。その中には田中与兵衛もいた。

シテを演じている豊臣秀次に石田三成は心の中で皮肉を浴びせていた。秀次は一昨年に生まれた拾と名付けられた秀吉の子のため立場は微妙なものになっている。三成の課題は、秀次の失脚を早急に実現させる事である。

一方で、秀次はちほ一座を見られるのではないかと期待していたが見られなくて残念だった。

藤次郎と小平太の価値観の相違が表面化した。互いに平行線となり、小平太がいなくなった。

数日後、石田三成の配下が現われ、又一郎の小屋の撤去を命じてきた。抵抗しているところに現われたのが豊臣秀次だった。秀次はちほ一座を自分のところに匿った。

小平太は新しいお国一座にいた。その小平太の耳に河原で起きた一件が耳に入った。その頃、聚楽第では藤次郎らは竜宮城にいるかのような生活を送っていた。

小平太がいなくなってから何人かの笛役者を聚楽に招いて合わせたが、しっくり来る者がいない。

やがて、聚楽にいるのに飽きたちほはここをでると宣言した。

秀次に謀叛の嫌疑がかけられ高野山に追われた。

小平太はちほ一座にいたころとは比べものにならないくらい懐が温かかったが、心の中に満たされないものがあった。藤次郎にあった頃と同じである。

秀次が腹を切らされるかもしれないという話を聞いて藤次郎は京に戻る事にした。そして秀次切腹の知らせはすぐさま駆けめぐった。

又一郎は事を起こすのは今しかないと思った。本当に、やるつもりなのか、と聞いてきたのは助左衛門だ。今では呂宋助左衛門といった方が通りがいい。

秀次の家族の処刑に秀吉が立ち会う事になった。やはり来たかと又一郎は思った。

同じ場所にちほと藤次郎、弥助の姿もあった。そして、処刑が始まり、しばらくするとちほが踊り始めた…。

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本書について

天野純希
桃山ビート・トライブ
集英社 約三一〇頁
安土・桃山時代

目次

イントロ
序の譜
破の譜
急の譜
アウトロ

登場人物

藤次郎
ちほ
小平太
弥助
お国
三九郎
源八
暮松新九郎
豊臣秀吉
豊臣秀次
石田三成
納屋才助
納屋助左衛門(呂宋助左衛門)
林又一郎
治兵衛
おみつ
三次…楽器職人
田中与兵衛
前田玄以…京都所司代
吉岡主膳

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