宮城谷昌光の「太公望(下)」を読んだ感想とあらすじ

覚書/感想/コメント


★★★★★★☆☆☆☆

本作は作者にとって、特別の意味合いを持つ作品である。

作者には太公望を扱った小説が二作ある。「王家の風日」「甘棠の人」(「俠骨記」収録)である。

前作が処女作で、後が三作目である。作者は商(殷)周革命から中国史にはいって作家となっていったのだ。

商周革命を扱ったのは、この革命こそが中国史の原点であると思われたからであるという。そして、二つの小説を書き終えたあと、商王朝は太公望一人に倒されたという感想を持ったのだ。

だからこと、太公望を正面から書かなければ、商周革命を書き尽くしたとはいえない。

そして書かれたのが本作である。

つまり、「王家の風日」「甘棠の人」「太公望」のすべてを読んでこそ、宮城谷商周革命記は終了することになる。

内容/あらすじ/ネタバレ

牧野の兵が沙丘に向かったということは周公を除く三公の陰謀が発覚したということだった。継を助けなければならない。

その継が生きていてくれた。

やはり三公は沙丘で誅殺された。驚くべき極刑だった。

望の目の眼底に涙がわいた。鬼公が殺された…。

そして、周公が捕らえられたとの情報が入ってきた。周公室の父子はそろって捕縛され、臣下は将兵と戦って死に、周公は獄へ投げ込まれ、嫡子の伯邑考の行方は分からなくなっていた。

周公を救う。

侠気とは違う。商王朝に対抗する力を持っているのが周だけで、ここで周公を失うと周も衰退してしまい、羌族が台頭するきっかけを失う。

望と小子旦が会った。周公の弟・南宮括も同席した。

望は小子旦に凶事を告げた。

その後、召へ向かうつもりになった。望の頭には常に召のことがあった。

時代の主役は沈黙し続けている。

周公である。かれこそ周王朝の基礎を築き、のちに文王と呼ばれる人物である。

いまは奴隷収容所内の獄につながれている。周公にとっての凶事は続く。嫡子が殺されたのだ。

その頃、周では二男の発を中心に対策が練られていた。かれこそはのちに武王と呼ばれる人物である。

発は望を知らない。発としてみれば、信用できないが賭するしかなかった。

馴が費中邸宅に出入りをしている。

その費中が妲己には自分でもはばからねばならないと漏らしていた。

望はそのことに興味を示した。権勢ならぶ者がいない費中をしてそう言わしめるほど妲己が大きくなっている。
望は会えないだろうかと思った。

恐ろしいものである。

妲己から光輝が放たれているような気がした。いまの艶麗さには直視できないほどの光がある。妲己は力を持ったのである。

望は妲己と話しているうちに、受王が祭祀の職を空洞化してしまおうとしていることがわかった。受王が王朝の体制を変革しようとしていることは明らかである。そのために妲己を利用している。

そして自分も妲己を利用しようとしていると望は思った。

望の戦いはようするに神と世間が相手である。その二つに勝てば、おそらく当面の敵は問題にはなるまい。目に見えぬ敵と戦うことがほんとうの戦いなのだろう。

蘇侯に望は知恵を授けた。

至上の策とは、それが策とは見えぬような策をいう。費中のような能吏を王宮の外から操るなど非凡さである。

西方の諸侯の訴えを費中がすすんで取り上げ、自分の過失をつぐなう。そういって蘇侯は費中に近づき、西方の斡旋者となり、周公に感謝される。

首謀者の望の影はどこにもない。

蘇侯は胸裡に寒気を覚えた。

小子旦は望の胸中に描いている未来図が見える男である。

周と商はいずれ戦う。その戦場の一つに何族の支配地がなるだろう。何族が周につけば、商は舟を使うことができない。逆もしかり。

小子旦はそれがわかるだけに、何侯には終始丁重に接した。

周公が獄から出された。

そしてやがて噂が流れ始めた。噂のもとと、伝播させているのは望である。虚空に受王像と費中像を描き、ことばにして世間へ流した。流言は飛語となる。

周公は商の東夷征伐の軍が十万と聞いて戦慄した。周軍は一万五千である。

双方が集めるだけ集めると、商が五十万、周が十万である。

周公には勝てる気がしなかった。いまは受王と戦う気はない。

周王は望に兵略の才があることはなんとなくわかる。だから軍事の意見を求めた。望は周王に戦いを見せた。模擬戦である。そして、一が三に勝つところを見せた。

周王は望に仕えてもらいたいと頼んだ。そして望は受けた。

勝った。

周軍の突風の様な攻撃で商の牙城が崩れた事実は受王の支配力に深刻な打撃を与えた。そして商王朝崩壊のきっかけとなる。

望が帰途につく中、ひとつの喬木に近づいた。十八年前、望たちがみた喬木であり、月下で黄金に輝いた喬木である。

喬木の下に剣が埋められているので、それをとりにいった。

望は召伯と会った。

召は周を完全には拒絶はしていなかった。そして羌族となら結んでいいといっている。

王朝内に反目がある。

その中で周王は崇を攻めた。それは崇侯たった一人を殺しただけの戦いだった。この戦い方を知った諸侯は周の軍門をおとずれ、帰属を乞うた。

周王は河水の両岸を制した。数年のうちに一大決戦が予想される状況になった。

受王は愕然とした。

だが、周王が崩御した。望はそれを聞き、目の前が暗くなった。受王の運の強さよ。太子発に諸侯がしたがうか。
望は太子の威光を知らしめる方法は一つしかないという。それは召伯を臣従させることである。

周召同盟が成った。

その出師は武王三年の冬に行われた。

長い商王朝を終わらせる出師であり、中国の古代史の中で一大異変を生じさせる出師でもあった。同時に神政下にある人々を宗教的呪縛から解放することにもなる出師だった。

周軍四十五万。商軍七十万である。

本書について

宮城谷昌光
太公望 下
文春文庫 約五〇〇頁

目次

高貴な囚人
西方の風
機略
西伯
征伐
周と召
周召同盟
決戦
斉の邦

登場人物

望…のちの太公望呂尚
彪…羌族の青年たち
班…羌族の青年たち
呉…羌族の青年たち
詠…羌族の青年たち
継…羌族の女 周の武王の婦となり成王を生む
員…馬羌族、望の配下になる
咺…逢尊の奴隷から望の配下となる
牙…羌族の童子、望の配下となる
受王…商王朝の王、紂王とも呼ばれる
箕子…箕邑の主、受王の叔父
費中、悪来…受王の腹心
周王…のちの文王
太子発…周公の二男、のちの武王
小子旦…周公の四男、のちの周公旦
召伯…召の君主
袁…召伯の臣
鄭凡…交易に携わる大賈
逢尊…望に協力する東方の豪族
伋…望の子
馴…闇の組織を率いる
蘇侯…妲己の父
妲己…受王の寵姫
洞人…商の王子、望に剣と文字を教える