風野真知雄の「耳袋秘帖 第10巻 神楽坂迷い道殺人事件」を読んだ感想とあらすじ

覚書/感想/コメント


★★★★★★★☆☆☆

シリーズ第十弾。今回は牛込の神楽坂を舞台に、七福神を題材とした事件。神楽坂にある善國寺は毘沙門天で有名であり、池上本門寺の末寺にあたる。

今回のキーとなる七福神だが、その由来は意外と知らない。

『七福神は足利時代の終わりごろから信仰が始まったらしい。それぞれの神さまの出身は、天竺あり、唐土あり、わが国ありとさまざまだ』

『恵比寿は古くは漁業の神だった。よく鯛を釣り上げているのは、そういうわけだ。やがて、商売繁盛、五穀豊穣の神とみなされた』

『大黒天は、天竺の神と、わが大国主命が混じり合った神で、食物と財福を司る。毘沙門天は、天竺の神が、仏教の多聞天になり、わが国では毘沙門天と呼ばれるようになったらしい』

『紅一点の弁財天は、やはり天竺の女神が元になった。それと、布袋は、唐の末期に明州に実在したという仏教の僧だ』

『面白いのは、福禄寿と寿老人さ。寿老人は、道教の神で、南極星の化身の老子。福禄寿は、道教の神で、南極星の化身の老子』

『寿老人も福禄寿も、その出自をさかのぼると、同一の神になってしまう。このため、七福神に寿老人か福禄寿のどちらかを抜いて、かわりに吉祥天女を入れるところも出てきたほどだった。』

…寿老人と福禄寿が同じ神様だったとは…。

さて、今回は第7弾の「新宿魔族殺人事件」で登場した「おゆう」が再登場。

最後に。このシリーズは本作を最後(たぶん)に文藝春秋社に移ることになった。どんなシリーズが幕を開けるのか楽しみである。

内容/あらすじ/ネタバレ

明日からは九月。

岡っ引きの辰五郎が栗田次郎左衛門に神楽坂の寿老人が死んだといった。牛込の神楽坂には毘沙門天の善國寺があるが、老人は寿老人の役を担当していたという。

なんでも神楽坂七福神めぐりというのが流行っているんだとか。毘沙門天だけはほんとの神さまで、あとは食いもの屋だとか飲み物屋だとかだという。

神楽坂にいる若い岡っ引きの梅次が辰五郎に相談によく来るので知っているらしい。

寿老人は店の棚に載っていた寿老人の石像が頭に当たって死んだそうだ。評判の悪い爺さんだったという。

辰五郎に坂巻弥三郎を手伝わせることにした。

栗田は生まれてくる子供のために手柄を立てようと思っていた。最近、大泥棒の品川左衛門が現れたという。

品川左衛門を有名にしたのは、自分の悪事をご政道批判と結び付けたからである。

 わしの盗みは、お上が愚かなせい
 お上が賢くなるなら
 わるも盗みをやめられるのにのう
 寿老人の爺さんは銀作といった。太巻き寿司を売っていた。

石の寿老人が直撃して死んだという。そう上手くいくものだろうか。根岸もおかしいと思ったらしい。

周辺の評判を聞いてみると、よく太巻き寿司を買いに来ていた飾り職人は、嫌な年寄りではなかったという。わざとそう演じていたのではないかというのだ。

足をくじいた坂巻にかわって栗田が神楽坂を担当することになった。

ちくりんで飲んでいると、栗田が神楽坂の恵比寿天という天ぷらが人気だという。神楽坂名物になりつつあるくらいだそうだ。

だが、いさかいが起きているという。栗田が現場に出くわしていた。

布袋の定吉と恵比寿の長次郎が店の前で二人の男とにらみ合っている。新しい店にも恵比寿天の看板が掲げられている。こちらは品川ですでに始めていたという。互いに相手を猿真似呼ばわりして剣呑な雰囲気だ。

二日後、根岸肥前守鎮衛は力丸と一緒に恵比寿天の食べ比べに出かけた。その後、根岸は双方の店を奉行所に呼びつけて、裁きを言い渡した。

品川左衛門を追っている坂巻の前におゆうが現れた。内藤新宿のやくざの抗争を端に発した事件で関わった娘だ。

善國寺の和尚が根岸に相談があると言ってきた。和尚は恵比寿の長次郎と大黒の金助の二人は札付きの悪で、善國寺に伝わる秘宝を狙っているという噂があるといった。だが、そもそも秘宝はないという。

布袋の定吉は江戸には湯屋がそこらじゅうにあるからいいと思った。大坂は不便だった。

十五年ぶりに江戸に戻ってきたのは、ある話がきっかけだ。定吉は大坂では布袋小僧と呼ばれた泥棒だ。その耳に品川左衛門が最後に大きな仕事をしたいという話が飛び込んできた。場所は神楽坂の善國寺…。

神楽坂のちょっと北外れにある芙蓉神社の神主が大儲けしたという。その儲けた金で祭りのための神輿をつくりたいと言い出している。おかしなことに担げない神輿にするそうだ。

大坂の東町奉行所の隠密同心、岡田文蔵と佐野松次郎が根岸肥前守に挨拶をした。

二人は大坂で何度も品川左衛門の顔を見ているという。

弁天のおみつの店は神楽坂の奥まったところにある。おみつの店に行くと、みなぼけーっとしてしまい、いい匂いをさせて帰ってくるという。

栗田が確かめに行って、木乃伊取りが木乃伊になって帰ってきた。根岸は天女の口吸いのようなものかなと思った。

おみつは十七だった。この若さで店を持てたのはうれしかったが、忙しすぎた。

坂巻はおゆうを連れて神楽坂に来ていた。

坂巻は寿老人の店があったところに孫がうどん屋をはじめていた。そこにいた孫は、坂巻が品川の快全寺で見かけた怪しい若者だった…。

神楽坂に幽霊が出る。どこからともなく、せがれぇえ、という声が聞こえてくるのだ。

根岸は慈悲心鳥の話を思い出していた。そうえいばと神楽坂の岡っ引きの梅次が、福禄寿が鳥が好きでいっぱり鳥かごを並べているといった。

福禄寿は竜造という。焼き芋屋をやっている。

竜造は孫をもう少し見続けたいと思っていた。だが、孫には名乗れるわけがなかった。

そこへ弁天のおみつがやってきた。

寿老人の首に大きな黒子があったときき、大坂東町奉行所の同心二人がうなった。寿老人が品川左衛門だというのだ。しかも事故死ではなくて殺されたに違いないという。

根岸はその報告を受けて、もう一度洗い直させるかどうか迷っていた。そこに、下手人を捕まえたとの知らせが届いた。

布袋小僧と仲間だという。

岡田と佐野の二人は大坂へ戻っていった。

根岸は主だったものたちを待機させた。栗田などはすべて解決したはずではと首をかしげている。

だが、と根岸はいう。何一つ解決していない。すべての騒ぎは仮の解決にすぎず、何一つ解決していないのだ。そもそも寿老人が品川左衛門というのが、ちと違う。

本書について

風野真知雄
耳袋秘帖10 神楽坂迷い道殺人事件
だいわ文庫 約二九〇頁
江戸時代

目次

第一話 寿老人の死
第二話 贋の恵比須
第三話 布袋の神輿
第四話 弁財天の口吸い
第五話 福禄寿の声
第六話 震える大黒
第七話 毘沙門天の秘宝

登場人物

根岸肥前守鎮衛…南町奉行
坂巻弥三郎…根岸家の家来
栗田次郎左衛門…根岸直属の同心
雪乃…栗田の妻
たか…根岸の亡き妻、幽霊
お鈴…根岸の愛猫、黒猫
力丸(新郷みか)…根岸の恋人
馬蔵(珍野ちくりん)…船宿「ちくりん」主
五郎蔵…海運業者の顔役
久助…幇間あがりの岡っ引き
辰五郎…栗田が手札を与えている岡っ引き
松平定信…元老中
梅次…岡っ引き
品川左衛門…大泥棒
おゆう
銀作…寿老人
定吉…布袋
長次郎…恵比寿
金助…大黒
おみつ…弁天
竜造…福禄寿
岡田文蔵…大坂の隠密同心
佐野松次郎…大坂の隠密同心

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