宮本昌孝の「風魔(下)」を読んだ感想とあらすじ

覚書/感想/コメント


★★★★★★☆☆☆☆

この小説で描く風魔小太郎は、言い伝えとはかなりイメージの異なる人物像である。

描かれている小太郎像とは次の文に書かれているとおりである。

『風魔の小太郎とは、この武士の世で、戦闘者として恐るべき能力をもちながら、自由に生きたいと願い、実際にそうしているという、信じがたいほど稀有な存在なのである。(略)
そんな孤高の存在に、為政者側が抱くのは怒りと不安である。不安はやがて強い恐怖となり、屈服を拒むなら、殺すしかないという結論に達する。』

本書のように、伝承に登場する忍者たちを上手く組み合わせて、物語を創っていくというのは、新しい試みのように思われる。

伝承には結末やら、事績などがついてまわるわけで、それを上手く処理しながら、組み立てていくと、よりリアリティのある物語になると思う。

架空の人物を登場させてしまった方が早いのは分かるが、そこをできるだけ我慢して登場させないことによって、新たな時代小説の可能性が見えるのではないかと思う。

かつて、こうした試みをして惜しまれた亡くなった作家が数名いた。この系譜を蘇らせることができたら、それは時代小説にとって大きな財産となるだろう。

内容/あらすじ/ネタバレ

小太郎は偽物の風魔の悪風を退散させていたころ、甲賀組頭領の山岡道阿弥が鎌切組に小太郎と風魔衆を見つけてくるように命じた。風魔で風魔を闘わせるつもりだ。

古河を出奔して以来、風魔衆の行方が分からなくなっていた。甲賀組が鎌切組の道案内で箱根に風魔狩りを行ったが、徒労に終わった。

風魔衆は小太郎を除いて庄甚の遊女屋、もしくは鳶甚の下で商売を手伝っていた。小太郎は陽動策としてひとり山野に起臥している。

小太郎は家康を襲い、告げた。風魔を騙る兇賊は二度と現れない。頭目の唐沢玄蕃は小太郎が足を折ったから二度と起てない。それでも風魔狩りを止めぬなら、本物の風魔が江戸を襲う。

去った小太郎を見て、家康はやはり殺さねばなるまいと呟いた。

征夷大将軍の内旨を奉受した家康はその足で大坂に向かった。孫の千姫と豊臣秀頼の縁組も決まっている。

その秀頼が家康に「こたろう」を所望じゃ、といった。風魔の小太郎と遊びたいという。家康の顔は凍りついた。

鎌切組に隻腕の神崎甚内と、足を折られた唐沢玄蕃が現れた。

二人は、風魔衆の仕業に見せかけ、江戸で押し込み強盗を働いた。

征夷大将軍となり幕府を開いた徳川家康は氏姫を登城させることにした。それは古河公方が平伏して祝詞をのべれば、家康を真の武門の棟梁であることを認めることになるからだった。

そのために、柳生又右衛門が京から江戸へ向かうことにした。又右衛門はそうそうたる柳生一門を引き連れていた。ところが、箱根で風魔衆に襲われ、多くの門弟を失う。

風魔は、顔の半面の額際から耳下へかけて斜めに、目の周りを真っ白に塗っている。脛巾と足袋も左右で白黒にしている。これが風魔の正式な軍装「うらかん」である。

正装で挑んできたのは、風魔の決意の表れであった。それは柳生一門の殲滅である。

柳生又右衛門以下五名にまでなった柳生一門の前に小太郎が立ちはだかった。小太郎も「うらかん」の軍装だ。

又右衛門はなぜ風魔がここまでの覚悟をして襲ってきているのかが解せなかった。そしてようやく、笹箒がかどわかされたことを知った。これには柳生は一切絡んでいない。

だが、小太郎は柳生の仕業と決めつけている。実は笹箒をかどわかしたのは神甚の発案だった。

氏姫が江戸城に登城する日がきた。小太郎は氏姫に一緒に着いていくつもりでいたが、ぴしりとはねつけられてしまう。茫然とした小太郎は、いったい姫はどうしたのだと思う。氏姫にはある覚悟があったのだ。

本書について

宮本昌孝
風魔(下)
祥伝社文庫 約四四五頁

目次

第十三章 晨風
第十四章 風魔ヶ時
第十五章 野分
第十六章 しなとの風

登場人物

風間小太郎
笹箒
紅雲斎
鳶沢甚内(鳶甚)
氏姫
庄司甚内(庄甚)
唐沢玄蕃
湛光風車
曽呂利新左衛門
徳川家康
山岡道阿弥
柳生又右衛門宗矩
神戸厳心
徳川秀忠
江与
鈴木右近
神崎甚内(神甚)
沙邏…梓衆