宮本昌孝の「風魔(上)」を読んだ感想とあらすじ

覚書/感想/コメント


★★★★★★☆☆☆☆

文字通り、風魔小太郎を主人公とした小説。豊臣秀吉の時代から、徳川幕府開幕時期までが物語の時代である。

この時期の社会風俗については史料が少なく、よく分かっていないことが多いようで、小説でも扱っているものが少ない。

おそらくだが、時代が急激に変化した時期のため、それこそ数年ごとに色んな社会風俗が生まれては消えといった状況だったのではないだろうか。

さて、風魔小太郎とは北条家に代々仕えた忍者衆の頭目の名である。この中で、最も有名なのが本作の主人公となっている、五代目風魔小太郎である。

背丈は七尺二寸あったともいわれ、口は耳まで裂け、牙をむき、といった異相であったという。

北条家の滅亡後は、風魔一党は江戸近辺を荒らし回る盗賊になり、一六〇三年に処刑されたとされる。

内容/あらすじ/ネタバレ

少年と龍姫が風穴の入り口にいた。少年は魁夷と言うほかはない。異相でもある。南蛮人と見紛うばかりである。少年は小太郎という。一党の人々は小太郎を風神の子と呼ぶ…。

箱根の尾根道を三人の山伏がやってきた。修行ではなさそうだ。その三人が小太郎を風間入道峨妙の倅と知って襲ってきた。三人は湛光風車の配下であった。

この後、二人のところに駆けつけてきたのが庄司甚内であった。甚内は龍姫の守り役だ。そして甚内は古河公方が亡くなったことを告げた。

龍姫の顔に不安が出ていた。小太郎にはどうしようもない。古河公方の息女の処遇は関東の覇者・北条氏の決めることであった。

北条氏綱の息女を母とし、氏康の息女を正室とする五代古河公方足利義氏はもはや北条一族であった。この義氏の逝去は、本能寺の変から七カ月余り後の天正十一年(一五八三)一月二十一日のことであった。

家督を継ぐ者がおらず、血が絶えたのだが、義氏の血を引く者に龍姫がいた。

しょせん、古河公方は飾りものである。なら女公方の方がそれらしい。北条一門の最長老・北条幻庵がそう考えた。それに幻庵は龍姫をかわいがり、後見のような立場であった。

古河への出立の時、小太郎は龍姫に餞別を送った。一匹の猿である。龍姫は「ふうじん」と名付けた。

龍姫は名を氏姫に改めた。女公方の誕生である。

徳川家康が甲斐山中に入ったのは、関白豊臣秀吉の命令だからである。平岩親吉や鳥居元忠を連れていた。後ろでは歩き巫女が五人ほど歩いている。

歩き巫女たちは親吉の配下である。あつさ衆という忍びの者たちだ。

そこに爆発が起きた…。

京の町。風魔一党の頭領風間峨妙が曽呂利新左衛門を訪ねていた。二人が会ったのは、互いに幼いころである。

風魔のような忍びは、諸国の情勢を知るため、あらゆる職能人とつながりを持つ。新左衛門は鞘師の子であった。

それが今は豊臣秀吉直属の忍び集団の首領である。

峨妙が京に来たのは、湛光風車に関係する。湛光風車とは峨妙と長きにわたって敵対が続いている。普化宗の僧であった。一時はこの湛光風車に風魔一党が乗っ取られそうになった。

この湛光風車が徳川家康を襲った。峨妙は風魔の仕業でないことを家康に分かってもらうためには張本人を捕えるしかなかった。

そして、湛光風車に命令を出したのが秀吉方ではないかと考え、新左衛門に会いに来たのだった。

小太郎の従者・鳶沢甚内は六年前、龍姫と一緒にいた小太郎を襲った山伏の生き残りであった。

二人は上州沼田城をめざしている。沼田城代の猪俣能登守邦憲に宛てた書状を託されている。

すでに秀吉によって日本全土に惣無事令が発せられている。書状には決して真田の挑発に乗るなと書かれている。

途中、小太郎は真田の猿飛こと唐沢玄蕃に出会った。

小太郎と鳶沢甚内が出浦対馬守盛清に捕えられ、名胡桃城に連行された日、沼田城を真田方の中山九郎兵衛が訪ねていた。

九郎兵衛は名胡桃城代鈴木主水が沼田城を急襲することを告げた。にわかには信じられない。惣無事令が出ているのだ。

九郎兵衛は主張する。機先を制して名胡桃城を攻めよと。その時には内応しようと言った。

北条方が名胡桃城を攻めてきた。小太郎は名胡桃城にいたが、ここに湛光風車と笹箒が出現した。笹箒は湛光風車を追ってここにやってきたのだ。

北条が名胡桃を襲ったことを知った豊臣秀吉は激怒し、征伐軍を起こす通達を出した。

一方、名胡桃城を北条に奪われた鈴木主水は自害した。名胡桃にいた時に小太郎になついた倅の右近の気持ちを思うと小太郎はいたたまれなかった。

北条氏は主戦派の北条氏政と、非戦派の北条氏直に分かれていた。大軍議が行われ、小太郎も風魔一党の頭領として末席に連なった。

北条の諸将の大半は徳川家康が必ず秀吉から離れると信じていた。これまでの秀吉との敵対関係や、北条との姻戚関係を思ってのことであった。

だが、北条氏邦は徳川は北条を討つ気であると断言した。

結局、北条は籠城することになった。

隻腕の男が徳川家康を襲った。神崎甚内である。下総の神崎生まれの海賊である。武田に仕えていた男であるが、家康を強く憎んでいる。

秀吉の軍勢が北条を攻めてきた。

秀吉は小太郎に懸賞金をかけていた。その小太郎の前に現れたのは甲賀の多羅尾四郎兵衛だった。服部半蔵の配下である。そしてその半蔵も現れた。

この半蔵によって小太郎は捕えられた。

小田原城が囲まれている中、小太郎は土蔵にとらわれていた。

そこに曽呂利新左衛門が現れ、父・峨妙が死んだことを告げた。誰に殺されたのかは分からないという。

次に現れたのが、笹箒である。笹箒は小太郎を助けに来た。それは沼田で助けてもらったことの礼であった。小太郎は笹箒と供に脱出し、従者の鳶沢甚内(鳶甚)と合流した。

鳶甚は小太郎が捕らわれている間に、湛光風車が風魔衆の多くを引き連れて徳川家康に投降したことを告げた。

関東戦乱の中、下総古河城は穏やかなたたずまいを見せている。

氏姫の前には細川幽斎がいる。秀吉は古河公方家に礼を尽くして降伏を勧めたのである。その使者が細川幽斎であった。

夜になって、氏姫は城を抜け出した。小田原をめざすのだ。供はふうじんと庄司甚内だ。

この前に現れたのが、家康を襲って失敗した神崎甚内であった。襲われるところに、七年ぶりに風神の子が立っていた。

北条氏直が降伏した。

古河公方・氏姫は鴻巣の館に居を移した。この氏姫の前に曽呂利新左衛門が現れた。

今回の北条攻めで秀吉は家康の力を弱めようとたくらんでいた。それは家康を関東に移すにあたり、この戦いで北条を家康の手によって真向から激突させて兵力を減らし、同時に恨みを家康に向かせたかったのだ。

秀吉を支える曽呂利新左衛門は、家康が関東で力をつけることを恐れている。そこで家康に恨みを持つ者を暗躍させる必要がある。つまりは北条の残党である。最も適しているのが風魔衆を率いる風間小太郎だった。

天正十九年(一五九一)、氏姫は秀吉の命により、足利国朝との縁組を命ぜられた。国朝は喜連川に与えられた知行地に移ったが、氏姫は依然として鴻巣館に留まった。

鴻巣館には小太郎と風魔衆が帰農者として移り住んでいた。

新たに開かれた江戸ででは鎌切組が取締りを行っていたが、江戸の人々の恐怖の的となっていた。そして、その多くは小太郎から離れていった風魔衆であった。

もう一人、江戸に現れたのは唐沢玄蕃であった。玄蕃は遊女屋にあがった。そこにいたのが笹箒であった。そして主は庄司甚内であった。

遊女屋ほど世の中の情報が集まる場所はなかった。小太郎は江戸に基地をつくったのだった。

徳川家康の影武者が殺された夜、伊賀組の服部半蔵、甲賀組の多羅尾四郎兵衛、鎌切組の湛光風車の三人が集まっていた。徳川の影の軍団の首領たちだ。

本書について

宮本昌孝
風魔(上)
祥伝社文庫 約四四五頁

目次

第一章 風神の子
第二章 風雲、急
第三章 上方颪
第四章 悍馬の風
第五章 江戸の風波

登場人物

風間小太郎
鳶沢甚内(鳶甚)
氏姫(龍姫)
ふうじん…猿
庄司甚内
簗水局
風間入道峨妙…小太郎の父
湛光風車
北条氏政
北条氏直
北条氏邦
北条氏規
松田憲秀
北条幻庵
猪俣能登守邦憲
中山九郎兵衛
徳川家康
村越茂助
平岩親吉
鳥居元忠
笹箒…あつさ衆
曽呂利新左衛門
唐沢玄蕃
鈴木主水
鈴木右近…主水の子
神崎甚内
多羅尾四郎兵衛…甲賀の忍び
服部半蔵
細川幽斎