坂岡真の「うぽっぽ同心十手綴り 第2巻 恋文ながし」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

★★★★★★★★☆☆

シリーズ第二弾。

第一巻で書かれているように、長尾勘兵衛には静という妻がいた。その静の姿をずっと追い続けている。

『失踪は二十年前の出来事だが、未だに、静という妻の面影を引きずっている。』

『静は十九、水茶屋の看板娘だった。色白で淑やかなうえに、芯の強さを感じさせた。
若い勘兵衛はひと目惚れし、所帯を持った翌年には玉のような女の子を授かった。
ところが、綾乃が初めての誕生日を迎えた年の暮れ、静は忽然とすがたを消したのである。
神隠しであれば、まだもあきらめもついていたかもしれぬ。
―すみません。綾乃をお願いします。
という書き置きをみつけ、勘兵衛は愕然とした。
失踪の理由は判然としない。死に物狂いで捜しつづけてきたが、二十年経った今も生死すらわからず、消息不明のままだ。』

この静はシリーズの中で、とても重要な役割を果たしていくことになる。単なる追憶の人物ではないのだ。

幻のような「静」という女性がいる一方で、勘兵衛の前には現実の女性として「おふう」がいる。

『年は三十路のなかば、色白でふっくらしており、長い睫毛を瞬く様子に何ともいえない色気があった。
客は常連ばかりで、みな、おふうの顔見たさに通ってくる。
勘兵衛もそうであった。』

さて、「恋文ながし」は映画「椿三十郎」を彷彿させる場面がある。

『「あっ、葉っぱ」
それも一葉ではない。
桶を伝ってつぎからつぎへ、たらようの葉が流れてくる。
「こいつはすげえや」
数珠繋ぎになった葉は桶から側溝に落ち、渦巻きながら筏となり、小名木川にむかって流れだす。やがて、側溝はたらようの葉で埋めつくされた。』

内容/あらすじ/ネタバレ

文化二年、小正月。

万年橋のたもとに、女の仏が浮かんだ。蛙だ。蛙は入水した死人をさす隠語である。

そこに本所廻りの宍戸馨之介とびんぞりの文七がやってきた。宍戸は公然と袖の下を要求する評判の芳しくない人物である。

女の仏から末吉鯉四郎が花模様の描かれた畳紙を出した。中には葉っぱが一枚。見かけない葉っぱだ。

やがて女の身元が判明した。元赤坂の型紙商・白子屋喜十の妾・おとせである。おとせは伊勢出身の芸者だったという。

白子屋に長次という手代がいる。この姿が目撃されていた。また、白子屋は紀州家の御用達でもある。これをかぎつけ、本所廻りが動いていた。

白子屋の主・岡山喜十は紀州家から名字帯刀を許されている。白子屋にはおさやという娘がおり、万年橋そばの下屋敷に奉公に出されていた。

長次を宍戸がしょっ引いた。

おふうはおとせを知っていた。そして、おとせが持っていた葉っぱを知っていた。たらようの葉っぱだ。

伊勢にはたらようの裏葉にしたためた恋情は、かならず叶うという言い伝えがある。

この一件について、薊の隠居こと根岸肥前守鎮衛も長尾勘兵衛に様子を聞いてきた。

たらようの木は紀州家の屋敷内にあった。

静に似た女を見た。如月の啓蟄。

愛宕下から溜池の東、霊南坂を下り、麻布市兵衛町を迂回した。我全坊谷と呼ぶ吹きだまりへ通じる道で見た。

それから幾度か同じ場所に足を運んだが、あの日以来静に似た女は見ていない。あれは幻だったか…。

長尾勘兵衛は物々しい捕り方装束で戻ってきた。め組の火消と柏戸部屋の力士らの大喧嘩のために総動員されたのだ。東の大関・四ツ車の大暴れ具合は圧巻だった。

勘兵衛のところに内与力の門倉角左衛門がやってきた。喧嘩のさなか、め組の纏が盗まれたというのだ。

め組の鳶頭は伝蔵という。芝の伝蔵なので、芝伝と呼ばれている。

思い当たることが一軒ある。伝蔵は一年ほど前にゑ組と消し口争いをしたことがあったという。以来、いさかいが絶えない。ゑ組の鳶頭は麻布の勝吾郎、通称「麻勝」だ。

他にあるとしたら、母子連れ鳥追を見たことくらいか…。

勘兵衛は勝吾郎を訪ねた。

勝吾郎は一年前の消し口争いの話をした。この時、め組の纏持ち龍二は大きな火傷を負い、め組をやめていた。半年ほど前のことだ。

勘兵衛は再び我全坊谷に向かった。そこには捨六という男がいた。元力士。しこ名は神室山。

勘兵衛は一年前の火事の事件を追いはじめた。

弥生清明、十日夜。

糞を運ぶへぎり舟。その一艘に人が乗っていない。しかも肥樽から足が出ている。

仁徳と一緒に船に乗っていた勘兵衛は、樽から死体を出した。刃物で一突きである。刃物は片刃である。

死体は汐留にある船宿・鈴木屋の亭主だった。

同じように殺された人物がほかにもう二人いた…。

殺された人間には共通点があった。女だ。名はおみの。

神楽坂に妾奉公だけを扱う口入屋がある。寿屋という。勘兵衛は知っていたが、余計な口ははさまない。

おみのには情夫がいるという。佐太郎という。

「黄金河岸」の占有権を巡る主張の食い違いから、殺された三人のうちの一人・川上儀介と稲垣庄左衛門という人物が争っていたことが分かった。

ついに四人目が殺された。天竺屋藤八である。

勘兵衛は寿屋のおもんを訪ねた。

夏が来ようとしている。

小僧が一人印字打ちに熱中している。勘兵衛は名を聞いた。吹越平一郎と名乗った。父は浪人だという。

勘兵衛には鍔の蒐集癖がある。道具屋の鉄五郎に声をかけられ、見たのは柳生鍔である。それも三十六歌仙の一つ笹の雪だという。まさか。

持ってきたのは吹越平内だという。勘兵衛は驚いた。

勘兵衛は吹越平内を訪ねた。吹越は蝋燭の流れ買いをやっている。

少々話し込んだ帰り、勘兵衛は鑑磨きの重吉という老人に会った。

七日ほどたち、法善寺の七面天女が盗まれたと聞き、勘兵衛は新宿の東大久保村に向かった。

盗まれた時分、寺に居たのは蝋燭の流れ買いと鑑磨きの職人だったという。

その二人のうち、盗んだのは鑑磨きの職人だった。勘兵衛が以前に会った重吉だ。

重吉を訪ねると、女が病に伏せていた。女は和枝と名乗った。武家である。重吉とは義兄妹の間柄だという。

重吉は馬場重衛門という。重吉は吹越平内を狙っていた。女敵としてだ。なぜそうなったのかを吹越は勘兵衛に話し始めた。

本書について

坂岡真
恋文ながし
うぽっぽ同心十手綴り2
徳間文庫 約三四〇頁

目次

恋文ながし
めぐみの纏
こがね汁
あばら一寸

登場人物

長尾勘兵衛
綾乃…娘
(静…失踪した妻)
井上仁徳…医師
銀次…岡っ引き、福之湯の主
三平…銀次の手下
おしま…銀次の女房
末吉鯉四郎
おふう…浮瀬の女将
根岸肥前守鎮衛…南町奉行
門倉角左衛門…吟味方与力
宍戸馨之介…南町本所廻り同心
文七…岡っ引き、びんぞりの異名
おこま
雁次郎
おとせ
長次…白子屋の手代
岡山喜十…白子屋主
おさや…白子屋の娘
仙吉
長助…長次の父
野上弥平…紀州家横目付
野上琢馬
四ツ車…東の大関
伝蔵…め組の鳶頭、「芝伝」
勝吾郎…ゑ組の鳶頭、「麻勝」
龍二…元纏持ち
捨六…神室山
柴山三十郎…与力
亀島廉平…同心
村越伊織
左源太
亀蔵
副島安之進
儀介
天竺屋藤八
おみの
佐太郎
稲垣庄左衛門
おもん…寿屋女将
鉄五郎
吹越平一郎
吹越平内
重吉
和枝

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