宮本昌孝の「夏雲あがれ(上)」を読んだ感想とあらすじ

覚書/感想/コメント


★★★★★★★★☆☆

藩校早春賦」の続編。

あれから六年。筧新吾、曽根仙之助、花山太郎左の三人にも少しずつ身辺の変化が起きている。

今回、仙之助の江戸出府が決まり、太郎左も将軍台覧の剣術大会への出場が決まって江戸に行くことになった。

一人取り残された新吾は心に寂しさを隠しきれない。なんとなく二人において行かれたような気がするのだ。

だが、二人が出発してすぐ、藩内で不穏な動きが見られ始めた。またもや蟠竜公が動き始めたのだった。

今回の舞台は東海の小藩を離れて江戸になる。

江戸に着くまでに掏摸にあったり、吉原では花魁・関屋の禿・梅の拉致騒動に巻き込まれたりと、蟠竜公の陰謀どころではなかったりする新吾だが、このすべてがやがて蟠竜公の陰謀へとつながっていく。

内容/あらすじ/ネタバレ

二年前の二十歳から曽根仙之助は出仕している。この日、仙之助は筧新吾と花山太郎左衛門と地蔵山の頂で会う約束になっている。

明日、藩主河内守吉長の江戸参勤の供として仙之助は国を出立する。その別れの宴である。

実は太郎左も出府する。将軍家台覧の武術大会が挙行されることになったのだ。藩の代表として太郎左が選ばれたのだ。江戸にはすでに弟の千代丸が遊学中である。

一人取り残される新吾だが、二人の出府を心の底から祝っている。

藩主参勤の行列を藩主たちが見送っている。新吾もこの列の中にいた。仕切っているのは組頭の湯浅才兵衛である。旧名・筧精一郎。新吾の長兄である。筧家は次兄の助次郎が継いでいる。

見送ってから、新吾は言い知れぬ寂しさに襲われた。太郎左と仙之助とはほとんど毎日のように顔を合わせてきた。高田道場で汗をともに流してきた。

そんな心を振り切るように、新吾は鉢谷十太夫を訪ねることにした。風邪で伏せっていると聞いたからだ。

新吾が鉢谷家を訪ねると、十太夫が牢人態の武士二人に襲われていた…。

五十年ほど前にさかのぼる。将軍家御書院番、天野掃部助が藩の行列に突っ込んできたことがあった。これを遮ったのは徒組足軽の長畑五平であった。これに気がついた馬廻り組神尾伊右衛門が天野の馬の足を斬った。

この事件の処分は藩にとって酷いものとなった。神尾伊右衛門と長畑五平の処分を求めてきたのだ。この当時、江戸詰藩史の中に若き日の鉢谷十太夫がいた。そして、十太夫と伊右衛門は友であった…。

十太夫を襲ってきたのは神尾伊右衛門の忘れ形見、芳太郎であった。

その神尾芳太郎が殺された。死の間際、「し…しん…みょう…」と言い残した。

隣家の恩田志保は一度婚期を逃している。以来、志保に縁談はない。

新吾は志保が愛おしい。そのことにはっきりと気が付いているが、養子先が見つからない身で望むことではなかった。

武徳館教導方介添・赤沢安右衛門が新吾に何をかぎまわっていると聞いてきた。安右衛門は藩の隠密白十組の手練れである。神尾芳太郎の出現が白十組を動かしたというのか?

芳太郎が言い残した「しんみょう」とは真明寺のことではないか。そこには神尾家の墓がある。新吾は国家老石原織部の嫡男・石原栄之進と真明寺に向かった。

真明寺は浮浪の徒の巣窟となっていた。寺社奉行を抱き込んだらしい。ここの住職・全円に話を聞こうとしていたところ、矢で殺されてしまう。

殺した相手は頭巾をかぶっていた。だが、その声に新吾は聞きおぼえがあるような気がしていた。

新吾は仙之助の母・綾を訪ねた。千早蔵人に会いたいので、その取次を願ったのだ。綾は野入湖で御前踏水の稽古をしなさいと命じた。

千早家は千石。役職には就かないが、藩主家に直に意見できる格別の家柄である。そして白十組の頭でもある。

仙之助は六年ぶりに蔵人に会った。そして鉢谷十太夫の身に起きた事件などを手短に話した。新吾はこの事件の裏に蟠竜公がいるのではないかと思い始めている。

千早家御用取次の阿野謙三郎が新吾に話をし始めた。それは藩主庶子・篤之助のことであった…。

新吾は城に呼び出され、石原織部から江戸行きを命ぜられた。太郎左が江戸で謹慎を命じられたのだという。武術大会に新吾が代わりに出ることになったのだ。

新吾は石原家の家士・井出庄助と小者の三次郎の三人で江戸に向かった。

江戸に向かう日の前夜。新吾は志保に心の内を明かそうと考えたができなかった。志保はその新吾に「関屋の帯」を土産にと望んだ。

道中、新吾たちを監視する気配がする。蟠竜公の手の者か。

江戸に着くまでに、藩主の親戚筋・三浦備後守の一行に出会い、碁狂いの膝付源八と知り合ったり、江戸を目前にして掏りにあうなど、様々なことがあったが三人は無事に藩邸の門をくぐった。

仙之助が新吾を待っていた。仙之助には若党の木嶋廉平が着いてきている。千代丸こと花山淵二郎も新吾の出府を喜んでくれた。

武術大会までは一月ほどしかない。

新吾と仙之助が謹慎中の太郎左を訪ねた。

太郎左は吉原で旗本をぶん殴ってしまったのだ。旗本は天野重蔵という。天野は花魁・関屋の禿・梅に執着しており、関屋を脅していたのだ。それを見ていた太郎左が仲裁しようとして殴ってしまったのだ。

新吾は武術大会までに蟠竜公の陰謀を暴こうと考えていた。太郎左のいる下屋敷に庶子・篤之助が押し込められている。乱心とも狐憑きとも言われている。

下屋敷の帰り際、新吾は太郎座から花魁・関屋への土産を渡された。その関屋を訪ねる途中で、梅と思われる少女を攫った猪牙舟をみた。

梅がさらされてから六日。

行方を捜しているのは新吾だけではなかった。吉原の銀次も行方を追っていた。梅を攫ったのは権助、鉄五郎、法印であることは知れていた。だが、行方が分からない。

本書について

宮本昌孝
夏雲あがれ(上)
集英社文庫 約三六〇頁

目次

第一章 別れ
第二章 凶兆
第三章 蚯蚓出る
第四章 白十組、動く
第五章 旅立ち
第六章 道中異変
第七章 三友、再会
第八章 吉原往来
第九章 次善の剣

登場人物

筧新吾
曽根仙之助
花山太郎左衛門
花山淵二郎(千代丸)…太郎左の弟
鉢谷十太夫
お花
湯浅才兵衛(筧精一郎)…新吾の長兄
筧助次郎…新吾の次兄
なお…助次郎の妻
恩田志保…新吾の隣家の末娘
曽根綾
木嶋廉平…若党
千早蔵人業亮…千早家当主
阿野謙三郎…千早家御用取次
赤沢安右衛門…武徳館教導方介添
宮部太仲…提灯番
河内守吉長…藩主
篤之助…藩主庶子
石原織部…国家老
石原栄之進…織部の倅
井出庄助
三次郎
渋田弥吾作…小姓
梅原監物…江戸屋敷の執政
安富左右兵衛
蟠竜公
建部神妙斎
土屋白楽
妙馗…蟠竜公の倅
長沼四郎左衛門…直心影流
神尾芳太郎
全円
膝付源八
関屋…花魁
梅…禿
銀次
天野重蔵
法印
権助
鉄五郎