佐伯泰英の「居眠り磐音江戸双紙 第29巻 冬桜ノ雀」を読んだ感想とあらすじ

覚書/感想/コメント

★★★★★★★★☆☆

シリーズ第二十九弾。

徳川家基の命を狙う最強の剣客が佐々木磐音の前に現る!

伝説と化したタイ捨流の丸目喜左衛門高継と、孫娘と思しき歌女の二人である。

この二人の攻撃を磐音は防ぐことができるのか?

タイ捨流は丸目蔵人長恵創始の流派である。

丸目蔵人長恵は剣聖・上泉伊勢守信綱の高弟の一人で、九州は阿蘇の付近を本拠とした相良氏の家臣である。兵法の要領は、身を打捨てて無きものとして、無我夢中に戦うところにあると悟り、自らの流派を「体捨流」と名付けている。「タイ捨流」とも書く。

丸目蔵人長恵は上泉伊勢守信綱の弟子であるが、流派の名前に「陰」または「影」の字を入れていない。

このタイ捨流の流れの中に、薩摩の示現流がある。示現流は体捨流の影響を最も強く受けている剣法である。

同じ丸目姓を名乗る丸目喜左衛門高継の本作の登場は、顔見せのような感じで、軽いジャブとでもいうべきであろうが、このジャブからして強烈である。今まで登場した剣客のいずれよりも強敵であるのは間違いない。

今後どのように絡んでくるのかは…次回作以降の楽しみとして残しておこう。

ちなみに、タイ捨流の丸目蔵人長恵を描いた作品として海音寺潮五郎氏の「おどんな日本一」がある。面白く、かつ、短い小説であるので興味をもたれた方は一読されることをおススメする。

内容/あらすじ/ネタバレ

佐々木磐音はおこん、霧子、早苗を伴い、千鳥ヶ淵一番町に冬桜を見に行った。高家瀬良播磨守定満の屋敷の冬桜である。

その瀬良家の前で騒動が起きた。御家人・神沼平四郎の家臣・古賀継之助らが、千宗易ゆかりの鼠志野の茶碗霞紅葉を返してほしいと訴えているのだ。

これに対して瀬良家では返却していると答えた。磐音はこれを聞き、仲裁に入った。

高家瀬良家の評判は悪い。九段上では昔本所の吉良上野、今一番町の瀬良播磨、犬も嫌うて寄りもせず、などと噂されている。

磐音はいつものように門弟との早朝稽古を終えた。

弥助が姿を見せた。瀬良家の一件である。神沼家の家臣・古賀継之助が自裁したという。磐音はすぐさま古賀の亡骸がある青山原宿村の長谷寺に向かった。

ここには徒目付の伊佐村八兵衛が姿を見せていた。伊佐村は志野茶碗の賃借があった事実を告げた。そして今は無役の神沼家がいかにしてこの茶碗を手に入れたかを説明してくれた。

磐音は今一度神沼家の墓所を訪ねた。すると四人の男が墓石を動かそうとしている。一人は瀬良家の老用人である。一体何をしようとしていたのか…。

佐々木道場の定期戦の審判方を倉橋伝蔵と長瀬監物が手伝ってくれることになった。

瀬良家用人・香田釜之助が浪々の武芸者六人を連れ磐音の前にあらわれた。武芸者どもを束ねているのは土壇場の久助と名乗る男だ。

磐音は事のいきさつをすでに速水左近の耳に入れていた。それを香田に告げると動揺した。

南町奉行所の年番方与力・笹塚孫一が木下一郎太を連れてやってきた。おこんは多弁な笹塚になにやらよからぬ気配を感じ取っている。果たして、笹塚は頼みごとを磐音に持ち込んできた。

佐渡に送られた無宿人の能楽の丹五郎が仲間とともに役人に怪我を負わせて逃げだしていた。凶悪な悪党である。それが江戸に舞い戻ってきた。昨夜鉄砲洲で火事があったのは丹五郎による火付けである。

丹五郎らは舟を乗っ取って上方に逃げるつもりのようである。

半刻後、磐音は笹塚とともに駿河台富士見坂の豊後関前半上屋敷を訪ねた。中居半蔵にある頼みごとをするためである。そして、次に訪れたのは読売屋の早耳屋である。ここで番頭の伴蔵にある記事を書いてほしいと依頼をした。

すべては能楽の丹五郎一味をおびき寄せるための方策であった…。

盲目の剣術家が孫と思しき娘を連れて佐々木玲圓を名指しで一手ご指南といってきた。

日向生まれのタイ捨流丸目喜左衛門高継と名乗った。磐音は驚きを隠しきれなかった。子供のころから聞いた丸目高継は神格化された存在だった。

丸目は玲圓の代わりに磐音が相手をするとわかると、孫娘と思われる歌女に磐音の相手をさせた。

長い対決が始まった。歌女の腕前は生半可なものではなかった。

霧子が歌女は下忍の技を持った女ではないかという。肥後・阿蘇に遊摩衆なる忍び集団がいるそうだ。

早耳屋伴蔵が腕をふるった読売が江戸中に売り出された。その日、磐音は姿を消した。

この読売に目をとめたのが武村武左衛門であった。なんとも金の匂いがするではないか、そう呟いた。

佃島にやってきた武左衛門は人足仲間の茂十爺と酒を飲んで一隻の苫船に寝転んだ…。

磐音は徳川家基の稽古のために西の丸にあがった。

家基は最近同じ夢を見る。盲の老剣客が娘に手をひかれ、家基に向かって御命頂戴と繰り返すのだという。

これを聞いた磐音は背筋に悪寒がはしった。タイ捨流の丸目喜左衛門高継と歌女が家基の枕元に現れ悩ましているのだ。

尚武館に戻ると松平辰平からの文が届いていた。辰平は対馬にわたっているようだ。

その頃、重富利次郎は父・百太郎とともに土佐高知の国境に差し掛かっていた。

磐音が義母おえい、おこん、早苗と共に猪鍋を食して帰ってくると、桂川甫周国瑞からの伝言で至急西の丸に登城してほしいという。俄かに高熱を出したというのだ。国瑞は医学の知識を越えた怪奇な現象かもしれないという。

磐音は無の境地へはいって行った。するとそれを破るようにして現れたのは丸目喜左衛門高継と歌女であった。二人が家基を苦しめていたのだ。

本書について

佐伯泰英
冬桜ノ雀
居眠り磐音 江戸双紙29
双葉文庫 約頁
江戸時代

目次

第一章 鼠志野の茶碗
第二章 盲目の老剣士
第三章 武左衛門の外泊
第四章 師走の話
第五章 加持祈祷

登場人物

佐々木磐音
おこん…磐音の妻
佐々木玲圓道永…養父、師匠、直心影流
おえい…玲圓の妻
(佐々木道場関係)
依田鐘四郎…師範
重富利次郎…通称・でぶ軍鶏
霧子
田丸輝信
曽我慶一郎
早苗…竹村武左衛門の長女
白山…犬
季助…老門番
井筒遼次郎
重富百太郎…利次郎の父
倉橋伝蔵
長瀬監物
(幕府関係)
徳川家基…将軍家後嗣
速水左近…御側御用取次
弥助…密偵
桂川甫周国瑞…御典医
(南町奉行所関係)
笹塚孫一…年番方与力
木下一郎太…定廻り同心
伴蔵…早耳屋の番頭
(品川家、竹村家など)
品川柳次郎
幾代…柳次郎の母
竹村武左衛門
勢津…竹村の女房
(今津屋関係)
由蔵…番頭
宮松…小僧
(豊後関前藩)
中居半蔵
早足の仁助
瀬良播磨守定満…高家
香田釜之助…瀬良家用人
土壇場の久助
神沼憲兼無易…御家人
古賀継之助…神沼家家臣
伊佐村八兵衛…徒目付
能楽の丹五郎
丸目喜左衛門高継…タイ捨流
歌女
茂十