佐伯泰英の「鎌倉河岸捕物控 第13巻 独り祝言」を読んだ感想とあらすじ

覚書/感想/コメント

★★★★★★★★☆☆

シリーズ第十三弾。
いよいよ政次としほの祝言である。長屋で小さな頃から犬っころのように育った政次、亮吉、彦四郎にも「放埒な独り者の時代は過ぎ」て新たな生活が始まろうとしている。

享和元年弥生三月三日のことである。

政次としほが祝言を挙げたあと、亮吉と彦四郎のどちらが先に所帯を持つのだろうか?

本書の中で気になる発言があるので、注意して読まれたい。

この亮吉と彦四郎だが、幼い頃から一緒に育っているだけに遠慮がない。

「彦四郎、おれたちは餓鬼の時分から助けたり助けられたりした間柄だ。冷たいことを言うねえ」

「亮吉、おれはおめえに迷惑をかけられた覚えはある、助けた記憶もある。だがな、迷惑をかけた覚えも助けられた記憶も指先ほどもねえ」

さて目出度いことがあろうがなかろうが金座裏の面々が集まるのはご存じ豊島屋である。

この豊島屋の酒が安いのは酒の値を抑えて樽酒の樽を売ってかせいでいるからである。

酒樽は水を溜め、野菜のぬか漬け、などに重宝される道具だった。

最後の最後で気がついたのだが、このシリーズで登場する北町奉行は小田切土佐守直年であり、南町奉行は根岸肥前守鎮衛である。

根岸肥前守鎮衛というと風野真知雄氏の「耳袋秘帖」シリーズや坂岡真氏の「うぽっぽ同心」シリーズ、平岩弓枝氏の「はやぶさ新八御用帳」シリーズなどが思い浮かべられる。

近年、特に注目の集まっている「お奉行様」なのである。

このシリーズの中でも活躍してくれるととても楽しい。でも、金座裏は北町奉行所と繋がりが深いからなぁ…。無理そうだ。

内容/あらすじ/ネタバレ

江戸の春は豊島屋の白酒が運んでくるといっても過言ではなかった。

寛政から享和へ改まった年(一八〇一)。金座裏の若親分政次と、手先の亮吉、綱定の船頭・彦四郎、しほの四人が内藤新宿に向かった。宗五郎が武蔵国総社六所明神社に代参してくれと頼まれたのだ。

途中で一行は深大寺に寄り道した。そこで山門をくぐってきた爺様と孫娘らしい二人連れを見かけた。

不意に深大寺境内前に駕籠が乗り付けられ、やくざ渡世の親分と子分が現われた。親分は老人に話しかけた。親分は彦蔵、老人は石塚の父つぁんと呼ばれていた。

六所明神の門前町に着き、再び四人は深大寺で見かけた爺様と孫娘を見かけた。孫娘はおふさといった。老人は後ほど四人の泊まる宿に伺うと言って別れた。だが、老人は現われず、あろうことか死体で発見された。

老人は八王子を縄張りにしていた渡世人、石塚の八策親分だった。十年ほど前に足を洗っていた。今回は彦蔵が石塚の八策が貯めていると睨んだ金を狙っての犯行のようだった。

政次らの府中旅は一晩泊まりのつもりだったが、騒ぎに巻き込まれ留まらざるを得ない状況になった。そして、彦蔵の兄弟分の闇の笙助という男が政次の前に現われた。

三月もすぐそこだ。いよいよ金座裏にしほが嫁に行く。十日もない。

それまで政次は普段通りの暮らしを続けようと誓っていた。いつものように直心影流神谷丈右衛門道場に稽古に行く。

この道場に修験道者七人が乱入してきた。最近、町道場や神社仏閣に悪霊が憑いたと言いがかりをつけては金子を要求する集団がいた。こやつらの相手を政次がすることになった。

神谷家に三人の武家が客としていた。会津藩国家老の田中三郎兵衛玄宰、魚津昌吾らだ。会津藩は親藩松平家、禄高二十三万石である。当代は松平容頌である。

田中玄宰は金座裏に内密の相談があって、神谷丈右衛門に仲介を頼みに来たようだ。

国家老が江戸に出てきているということは、御家騒動の火種があるということなのか。この件について、政次は北町奉行所の手付同心・猫村重平に聞いてみた。

金座裏に戻ると、しほの伯母たちが揃っていた。

寛政三年、会津藩松平家は四代が二十七歳の若さでなくなり、当代の松平容頌が七歳で家督を継いだ。

そこで天明元年まで叔父・容章が補佐する形になった。だが、補佐とは名ばかりで牛耳ってきたのだ。やがて藩財政は深刻きわまる危機に陥った。

三十年にわたる叔父の専横から松平容頌が改革に乗り出したのが十四年前だった。改革の中で容章一派を排斥してきたのだ。

だが、江戸を舞台にして会津藩物産会所の金子が紛失する事件がたびたび起きた。この一年余のことである。これで息を吹き返してきたのが容章一派である。

そして事件が起きていた。勘定方二人が内蔵で殺されたのだ。

会津藩邸に田中玄宰が連れてきた青地十太夫という護衛が入った。ぼうっとした表情で、頼りになるのか不安を感じさせる護衛だ。

金座裏に鼻緒屋の主・六右衛門が訪ねてきた。番頭の津蔵が詐欺に引っかかったという。

津蔵そっくりの筆跡で、津蔵の母に手紙を書き、八十五両をだましとっている。金を取りに来た男は信太郎と名乗ったという。

この事件は宗五郎と八百亀が調べることにした。なにせ政次が別の御用で金座裏を留守にしていたからだ。

宗五郎と八百亀は北町奉行所に向い似た話がないかを猫村重平に聞いてみた。すると、あった。

青地十太夫が警備について二晩が過ぎた。その中、物産会所に五百両の入金があった。

そして江戸家老用人の高村采女が見回りに来た。

その姿が消えると、青地十太夫の脳裏に明日の祝言はどうしたものかという考えが浮かんだ。青地は政次が変装した姿だった。

本書について

佐伯泰英
独り祝言
鎌倉河岸捕物控13
ハルキ文庫 約三二〇頁
江戸時代

目次

第一話 六所明神
第二話 内密御用
第三話 内蔵の謎
第四話 偽書屋
第五話 蔵の中勝負

登場人物

政次…金座裏の十代目
しほ(志穂)…政次の許婚
亮吉…宗五郎の手先
彦四郎…船宿綱定の船頭
宗五郎…金座裏の九代目親分
おみつ…女房
八百亀…金座裏の番頭格
稲荷の正太…手先
常丸…手先
左官の広吉…手先
髪結いの新三…手先
菊小僧…仔猫
清蔵…豊島屋の主人
庄太…小僧
繁三…駕籠屋
梅吉…駕籠屋
松六…松坂屋隠居
おみつ
親蔵…大番頭
園村幾
佐々木秋代
静谷春菜
静谷理一郎
神谷丈右衛門…直心影流神谷道場
生月尚吾…住込み弟子
青江司…住込み弟子
永塚小夜
寺坂毅一郎…北町奉行所定廻り同心
猫村重平…北町奉行所手付同心
牧野勝五郎…北町奉行所与力
石塚の八策…おふさの祖父
おふさ
徳兵衛…おふさの祖父
彦蔵…やくざ渡世の親分
闇の笙助
猿渡忠寧…六所明神の宮司
茂兵衛…十手持ち
法印一角坊…修験道者
松平容頌…会津藩主
田中三郎兵衛玄宰…会津藩国家老
魚津昌吾
青地十太夫
高村采女…江戸家老の懐刀
勇みの権八…戸田家の火消
参之助
六右衛門…鼻緒屋
津蔵…番頭
おきち…津蔵の母
峰村信之助(信太郎)
赤岩月旦(赤岩松五郎)
鯉三郎
田之倉総右衛門
蓑之助
宮川与之輔

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