五味康祐の「柳生武芸帳」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

★★★★★★★★☆☆

未完であることを念頭に置いたほうがいい。それを念頭に置き、さらには複雑な印象を受ける作品だということも念頭に置いた方がいい。

緻密に構成されているものの、話がかなり錯綜・拡散し、場面の転換が頻繁であり、登場人物も多いので、「全体像」が把握しづらくなっている。その上、未完なので「全体像」が把握しづらくなっている。こうしたことを念頭に置かなければならない作品である。

面白い作品ではあるが、わかりやすい小説ではない。これは娯楽小説であるのかどうか…。未完ゆえに判断が難しい。

雑誌連載当時、絶賛された作品だったようだが、これは当時の純文学好みにマッチングしたという面も強いだろう。
現在この様な作品を書いて支持されるかというと個人的には難しいと考える。

この作品は本来、「大」長編小説となる可能性のあった小説である。

そもそも、話が始まるのは唐津の藩主・寺沢堅高が自殺する六日前であるが、そこからすぐに十二年前に遡っている。そして、語られるのは十二年前のことであり、そこから話の出だしには戻ってこない。

寛永十二年(一六三五)~寛永十三年(一六三六)までの、わずかな期間しか書かれていないにもかかわらず、この分量であるから、十二年分を書いていたらどれだけの小説になっていたのだろうと思ってしまう。

柳生武芸帳の秘密というのは、早い段階で明かされることになるのだが、これが果たして本当の秘密なのかは謎である。

結局のところ「未完」ゆえに、読後感はスッキリしない。

登場人物の運命もどうなるのかが気になるし、最後の最後に登場する朝鮮使節団が柳生とどう関わってくるのか?

そもそも、このまま話が進んでいって、一番最初の唐津の藩主・寺沢堅高が自殺する六日前にたどり着いたのだろうか?

そして、この寺沢堅高が自殺したあとにも、武芸帳をめぐる攻防というのがあるのだろうか?

鍋島元茂が早い段階で登場するので、鍋島元茂の鍋島柳生が物語の大きな軸になっていったのだろうが、結局はちょこちょこ登場するレベルで終わってしまっている。鍋島元茂と柳生宗矩が会うこともないので、その真意がわからないままなのだ。

最後に登場した朝鮮使節団と鍋島柳生が結びつくような印象は受けたが、実際はどうするつもりだったのだろう。

内容/あらすじ/ネタバレ

正保四年。唐津藩主寺沢堅高が自殺する六日前。生死は一人の兵法者にゆだねられていた。

山田浮月斎は公儀に於いて企みありと見破っているという。浮月斎は疋田陰流を継ぐ者。公儀には同じ陰の流れをくむ柳生がいる。そして柳生は忍びの術が本体だという。

寛永十二年。唐津城の評定から十二年前。

肥前の佐賀で龍造寺の遺児・夕姫と霞多三郎が出会った。多三郎は巻物を手にしていた。

鍋島勝茂の長子・鍋島元茂は柳生の実態を知る者である。そのため何かと九州に来た柳生十兵衛の便宜を図ってきた。

江戸小石川の水戸藩邸の幼君・千代松(後の徳川光圀)は八重洲河岸の柳生屋敷を訪ねた。ここで千代松は床柱に仕組まれた空洞から巻物が転げ落ちたのを見た。

このことを柳生友矩は父・宗矩に告げた。すると、宗矩は又十郎宗冬を呼べという。宗冬にくの一の術を施すべく、口の歯を全部抜かせたのだ。

大久保彦左衛門から柳生宗矩は神矢悠之丞という男の世話を頼まれた。相当の使い手だ。しかも新陰流。石舟斎宗厳の相弟子・猪上惣之助の弟子であった。

宗矩は友矩に武芸帳を見せた。そこに記されているのは、人名を記した忠の連盟状にすぎなかった。これが一体なぜ多くの者の争い狙う所になるのか。武芸帳は藪左中将嗣長卿、弓削三太夫のもとにもあるという。同じものなのか。そして同じなら、なぜ禁中の奥深くにしまわれているのか。

大久保彦左衛門の屋敷に霞多三郎が大月多三郎、霞千四郎が中月千四郎と名乗って厄介になっていた。大久保彦左衛門は二人の正体を知らないでいる。

山田浮月斎は江戸に入っていた。柳生も門弟を招集していると聞くが、対決までにはまだ日がありそうだ。

神矢悠之丞は中ノ院大納言の嫡男である。それを知った霞多三郎は、藪左中将嗣長の手元にあった武芸帳の在処を知っているのかと聞く。悠之丞は知っているというが、教えなかった。

柳生宗矩は徳川家光に武芸帳の噂を知っているかとたずねた。だが家光は知らないようだ。

この武芸帳は柳生の秘密が詰まっている。話は徳川秀忠の娘・和子が入内して、二ノ宮・昭子内親王を産んだ時から説き起こさなければならない。そして皇子二人が何らかの手段によって幼にして命を絶たれている。それを柳生宗矩が知っている。これは何らかの形で真相に関わりがあることを意味する。

この時の密命を蒙った者の姓名が武芸帳に記されているという。それは三つの武芸帳を揃えなければわからないという。

天下に騒擾をおこさせぬためにも、武芸帳を余人に渡してはならない。そして、武芸帳をめぐってここまで事が大となっては、密命を蒙った者を斬らねばならぬという。

霞多三郎は尾張へ行くことにした。柳生兵庫のもとへ行かねば謎が解けないと思ったのだ。

その頃、悠之丞は僧坊の一室で中ノ院大納言に対面していた。

大久保彦左衛門の庭から函がでてきた。中には巻物が入っており、それは江戸より大和・柳生までの道程を仔細に明記したものだった。その巻物は大久保彦左衛門と霞千四郎が奪い合ったため、途中から切れてしまった。

この後、彦左衛門は登城し、家光に柳生宗矩の大目付役罷免を願った。だが何故そうせねばならぬのかの仔細は話せない。

柳生十兵衛、友矩、宗冬が使命を帯びて上洛の途中にある。

同じ頃、虚無僧姿で永井信濃守尚政の娘・清姫が京を目指していた。清姫は天道法眼と名乗る人物から夕姫に間違われた。その夕姫も同じ道中にあった。そして、様々の思惑が入り乱れて、清姫の虚無僧服は夕姫に渡り、互いが入れ替わるような形となる。

尾張の柳生兵庫介は恐ろしいことを聞いた。それは武芸帳の一巻が鍋島から島津の手を経て淀の永井家に移ったという。そして娘の清姫が武芸帳を所持しているという。本人はそうとは知らずに東海道を道中している。困ったことに、霞多三郎が清姫に近づいている。幸いなことに多三郎は気がついていない。

それよりも、清姫が京へゆき、藪左中将嗣長の息と婚儀が準備されていることを考えると、禁中で武芸帳探索の索が仕組まれているとしたら恐ろしいことである。

柳生宗矩は直門の弟子十八人の内、一の武芸帳に記されてあった面々だけを江戸に集結させた。

ただし、柳生源太夫はお杖師玄斎となり奈良三条にある。小瀬源内はすでに霞多三郎に斬られた。丹生将監は姉婿であり、門弟でない。弓削三太夫は鍋島元茂のところにいる。

したがって、江戸に集結したのは福井の出淵平兵衛、肥後細川の田中甚兵衛、毛利の馬木家六、伊達の狭川新九郎、加州の笠間又兵衛、蜂須賀家の佐々木左門、泉州の多羅尾又兵衛の七名だった。

大久保彦左衛門も京へ上ってきていた。彦左衛門は京都所司代の板倉重宗と双方の知りうる情報の全てを交換することにした。

ことは、彦左衛門が想像する以上に大事になっているのかもしれない。

その頃、柳生宗矩は非常な決断を下していた。密命を蒙った者がわからぬ以上、武芸帳に列挙された面々を宗矩と十兵衛で斬ることにしたのだ。つまりは高弟全てを亡き者にするということだった。

柳生十兵衛と霞多三郎が対決した。二人はそれぞれに深手を与え、互いに瀕死の重傷を負う。そして柳生宗矩も山田浮月斎と対決をし、右足首を切り落とされた。

十兵衛は武田道安のところで治療を受けていた。横には夕姫がいた。夕姫もまた道安の治療を受けていたのだ。

この十兵衛を新免武蔵が訪ねてきた。武蔵はあることに疑問を持ち、これが武蔵をして柳生武芸帳へと関わらせていくことになる。

この頃、宗矩は江戸へ戻っていた。そして、宗矩は水練で試されることになった。

宗矩は家光に真実を告げ、どの二月後、大目付役をとかれた。大目付をとかれた宗矩のもとを新免武蔵が訪ねてきた。

柳生宗矩を糾弾する大評定が行われようとしていた。それは尾張の徳川義直の邸宅で行われ、土井利勝が糾問の中心となった。

皮肉なことに、追いつめられた宗矩を救いに来たのが大久保彦左衛門であった。

彦左衛門が到着した時はまだ柳生武芸帳の内実が暴露されていなかった。あわやというところであった。

そのころ、屋根裏では柳生十兵衛と霞千四郎との対決が激しさを増していた。

本書について

五味康祐
柳生武芸帳
文春文庫 計約一三七〇頁
江戸時代

目次

柳生武芸帳

登場人物

柳生但馬守宗矩
柳生十兵衛三厳…長兄
柳生友矩…次弟
柳生又十郎宗冬…三弟
於季…娘
誠玄…伊豆の忍者
りか…誠玄の娘
徳川義直…尾張藩主
柳生兵庫介(汀佐五右衛門)…尾張柳生
紅…娘
柳生連也斎厳包
高田三之丞
柳生源太夫(玄斎)
柳生松吟庵
出淵平兵衛
田中甚兵衛
馬木家六
狭川
笠間又兵衛
佐々木左門
多羅尾又兵衛
霞多三郎(大月多三郎)
霞千四郎(中月千四郎)
山田浮月斎
井元庸之介富江
秋葉佳助
寺沢半平
夕姫
賀源太
天道法眼
大久保彦左衛門
川野黎左衛門
中ノ院大納言通村
神矢悠之丞
桔梗
鍋島元茂…鍋島勝茂の長子
弓削三太夫
小野玄人…口科医
徳川光圀
徳川家光
於万…家光の側室
天海…大僧正
春日局
松平伊豆守
土井利勝
阿部豊後守忠秋
板倉重宗…京都所司代
永井信濃守尚政
清姫
坂和田喜左衛門
日夏蓮真
後水尾帝
武田道安
新免武蔵
沢庵
浅野安芸守光晟
奈良屋茂左衛門
お舜

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