風野真知雄の「耳袋秘帖 第7巻 新宿魔族殺人事件」を読んだ感想とあらすじ

覚書/感想/コメント

★★★★★★★★☆☆

松浦壱岐守清、号を静山という。松浦は「まつら」と読む。江戸時代を代表する随筆集「甲子夜話」を記した人物。「甲子夜話」は文政四年の甲子の夜に執筆したということ名付けられた。

その松浦壱岐守が登場するのが本書。

「甲子夜話」によると、当時の陸尺や中間は気が荒く、他家の駕籠を見ると駆けくらべをしてしまう。挙句の果て、転倒してしまい、中にいる大名が駕籠から放り出されることもあったようだ。

この松浦壱岐守が後年記す「甲子夜話」にも登場する赤い犬に絡んだ事件や、他に河童に絡んだ事件、鉄の木の話などが本書で語られる。それぞれ題名にあるとおりである。

これらの事件以上に深刻なのは松浦壱岐守の中間・伍助が天狗に攫われたという話し。

根岸肥前守鎮衛は、真相を「こうであろう」と推測するが、突き止めることをしない。そして、この事件のなぞを「あえて解かない」ことにした。少しでも糸口を見せてしまうと、鋭敏な松浦壱岐守はすべてを知ってしまうだろう。だから、あえて解かなかった。

が、逆に「勘が鈍ったか」と松平定信に本気で心配され、要らぬ贈り物まで送りつけられてしまうのには、困ってしまうのであるが…

とはいえ、勘が鈍った振りをしているうちに、多少は本当に勘が鈍ってしまったようでもある。根岸が佐渡奉行だったのは、天明四年(一七八四)から三年間。金山堀のことを熟知しているはずだったが、そのことに思い当たらなかったのだ。

元禄の頃までは佐渡にも流人が来たが、以降来ていない。軽微な罪で捕まったりした無宿者たちである。島流しは八丈島、隠岐の島であり、重罪人と無宿者は別物である。

前作で登場した狆。下のしつけがうまくできないというので、狆は根岸の所にもらわれた。だが、葵の御紋を見ると下のことがしたくなってしまうのは、別の意味で躾が上手くいきすぎたようである。

さて、栗田にはおめでたい話が待っている。

対して、坂巻弥三郎は女には振られっぱなし。そんな坂巻が根岸に命じられた用事を済まし、伊豆から戻ってきた場面。

どんなに浪人めかしても、どこかすっきりとしている好男子の坂巻弥三郎が、大晦日のぞうきんのようになって戻ってきたものだから、奥女中は大騒ぎとなる。

根岸が裏のどぶから這い上がってきても、これほど騒いでもらえないかもしれない。

お奉行様よりも、好男子の坂巻弥三郎の方が奥女中には人気があるのだ。

近いうちに坂巻にも幸せが訪れるのを願う。

内容/あらすじ/ネタバレ

内藤新宿は荒んだ、血腥い雰囲気が色濃くなっていた。宿場で羽振りの良かった大橋本一家の陣五郎親分が卒中で倒れ二派にわかれて抗争が始まろうとしていたからだ…。

深川八幡の料理茶屋で大石田一家の千蔵が遊んでいる。通称ブケの千蔵という。座敷には力丸が上がっていた。

この座敷を別の座敷から見ている者がいた。大橋本一家の陣五郎の息子・岩吉である。岩吉は弦を強く張った楊弓でブケの千蔵を狙おうとしていた。だが、黒っぽい着物を着た二人組が現われたかと思うと、岩吉の喉を切り裂いた。

根岸肥前守鎮衛は元老中松平定信に呼び出された。同席していたのは、松浦壱岐守、のちに静山を名乗り「甲子夜話」を記す人物だ。この時四十一歳、平戸藩五万千七百石の藩主であった。

その松浦壱岐守が、中間が天狗に攫われた話をした。いなくなったのが昨年の三月で八ヶ月近くたって信濃の善光寺の門前にいたという。

だが、と根岸は思った。話の中に天狗は出てきていない。そして、話に出てきた木の実というのが妙に気になった。はたと思いつくことがあり、平戸に難破船があったという話はないかと訊ねた。

老人は昌三といった。その昌三を若い女と男の二人連れが秘かに訪ねた。女はブケの千蔵、大橋本甚五郎、岩吉と昌三、それにもう一人いた人物のことを聞いた。

昌三という老人が殺された話題が持ち上がった。根岸は昌三が元やくざというのがひっかかる。深川で殺された岩吉もそうだったはずだ。

栗田次郎左衛門と坂巻弥三郎が内藤新宿に出張ってきていた。二人は大橋本甚五郎か大石田千蔵のところに直接乗り込む算段をしている。

別々に雇ってもらい内側から動静を探るという作戦だ。やがて、昌三がいたということが判明する。しかもなにやら理由を知っている節がある。

おゆうは自分の運の良さを感謝した。探していた五人のうち、わからなかった最後の一人がわかったのだ。近くのそば屋の万作が探していた最後の一人だった。

おゆうは弟の庄太郎と一緒に敵討ちを狙っていた。自信はあった。自分たちは「ふまのもの」なんだから。

根岸はブケの千蔵の身元を洗うことにした。すると廃絶になった旗本の玉木源吾の家来だったという。玉木は伊豆に知行所を持ち、その伊豆の山奥にある隠し金山を見つけて私するつもりだったらしい。計画が露見して廃絶となった。

根岸は早速坂巻弥三郎に伊豆に行かせた。

坂巻は伊豆で一家皆殺しがあったことをつかんできた。その一家の中で二人の幼い姉弟が逃げ延びたこともつかんでいた。

松浦壱岐守が国許に戻るので松平定信とともに挨拶に来た。根岸が佐渡奉行だった頃に噂話が持ち上がった。秘密の坑道があるというものだ。佐渡から間もなく新潟へ通じるのだという。根岸はそうした話が出回る裏には、なにか別の思惑があるのではないかと思った。

ブケの千蔵は大橋本陣五郎と共同戦線をはろうと考えた。だが、向こうはそう簡単に手を結ぼうとはしない。そうしている中、白昼堂々と千蔵が殺された。

本書について

風野真知雄
耳袋秘帖7 新宿魔族殺人事件
だいわ文庫 約二七〇頁
江戸時代

目次

序 空っ風
第一話 天狗に連れ去られた男
第二話 つくられた忠犬
第三話 河童の誘い
第四話 佐渡の穴
第五話 鉄の木

登場人物

根岸肥前守鎮衛…南町奉行
坂巻弥三郎…根岸家の家来
栗田次郎左衛門…根岸直属の同心
雪乃
たか…根岸の亡き妻、幽霊
お鈴…根岸の愛猫、黒猫
力丸(新郷みか)…根岸の恋人
馬蔵(珍野ちくりん)…船宿「ちくりん」主
お紋…「ちくりん」女将
五郎蔵…海運業者の顔役
久助…幇間あがりの岡っ引き
辰五郎…栗田が手札を与えている岡っ引き
松平定信…元老中
陣五郎…大橋本一家の親分
岩吉…息子
狼の松次
ブケの千蔵…大石田一家
お千代…千蔵の娘
昌三
そば屋の万作
松浦壱岐守…後の静山
伍助…中間
おゆう…姉
庄太郎…弟
小田切土佐守…北町奉行
花谷欽八郎…北町奉行所筆頭与力
馬次郎
玉木源吾…旗本、故人
村上善兵衛…元目付
種助…中間
俣野豪助…根岸家家来
赤耳の守蔵

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