風野真知雄の「耳袋秘帖 第6巻 両国大相撲殺人事件」を読んだ感想とあらすじ

覚書/感想/コメント


★★★★★★★★☆☆

今回の事件の発端は、前作の谷中の猫屋敷の騒ぎが起きる以前という設定である。相撲を題材に、最強の力士といわれる雷電為右衛門を主要な登場人物にしている。

相撲は江戸の娯楽の一つである。

本場所は現在と異なり十日間の興行である。晴天の日だけにしか開催されず、日程はなかなか進まなかった。千秋楽の十日目を迎えるまでに二月かかった事もあったという。

江戸時代において、横綱は強さを示す位ではなく、名誉職のようなものであった。強さの位としては大関が最高峰だった。

横綱は谷風を四代目として、初代明石志賀之助、二代綾川五郎次、三代丸山権太左衛門をおく数え方が人口に膾炙しているし、深川八幡の横綱力士碑にもそう記されているそうだ。

が、吉田司家によって与えられる横綱の免許は、谷風と五代目とされる小野川を最初とする説が有力だという。

吉田司家は、肥後熊本藩の細川家に仕えていたが、後鳥羽上皇の時代から相撲行司としての勅命を得たという家系である。

江戸相撲の行司として今もその名を知られる木村庄之助も式守伊之助も、吉田司家の弟子でしかない。

吉田司家から横綱の免許が与えられるという慣習は、明治以後も続き、戦後になってようやく相撲協会が横綱免許を与える事になった。だが、横綱は熊本にある吉田司家に挨拶に行くという習慣は未だに続いている。

江戸時代において、そして現在においても最強の力士といわれる雷電為右衛門は出雲松前藩の松平不昧公のお抱え力士だった。

この松平不昧公と並んで相撲に熱心だったのが、肥後熊本藩藩主の細川斉玆公。互いに相撲に関しては譲れないところがあったようである。横綱の免許を与える吉田司家は肥後熊本藩細川家の家中である。

相撲においてはライバル関係の出雲松前藩松平家に対して、そのお抱えの雷電為右衛門に横綱の免許を与えなかったのは、上記のような関係から来ていると考えるのが自然である。

さて、本作で、初めて明示された事がある。それは、根岸肥前守鎮衛の赤鬼に対して、五郎蔵の青鬼である。以前の作品の中で、それとなく書かれてはいたが、今回明確に青鬼が五郎蔵である事が判明した。

この赤鬼と青鬼の二人が若い頃にどんな事をしてきたのか…とても興味がある。いつか、外伝的なもので、若き日の根岸と五郎蔵の姿を描いてもらいたいものである。

そして、赤鬼の根岸であるが、部下の育成にも力を充分傾けてくれる。坂巻はともかくとして、単なる武闘派と自認する栗田に頭を働かせるチャンスを与える。栗田は単なる武闘派から脱却できるか。今後が楽しみだ。

内容/あらすじ/ネタバレ

矢沢金吾、村井佐兵衛、近松晋五郎の三人が集まって田畑という男を待っていた。旧暦の十一月。田畑がやってきて、三人はある計画を田畑に話していた。

寛政十一年(一七九九)。番付にも載らない若い力士の伊佐二が神田川沿いの柳原土手に案内された。そして、そのまま何者かに殺された。

事件の発端は、谷中の猫屋敷の騒ぎが起きる以前の事だった。

根岸肥前守鎮衛は楽しみにしていた相撲見物に来ていた。その見物の最中、栗田がやってきて事のあらましを告げる。伊佐二が殺された一件だ。

夜鷹が「てめえ、…雷電」というのを聞いたという証言。そば屋が雷模様の着物を着た雲を突くような大男が走り去るのを見たという証言。

しかも、走り去った先には雷電為右衛門一行が来ていた料亭がある。そして、伊三次の死因は、相撲の技の鉄砲、かんぬき、張り手であったという。

下手人は雷電為右衛門であるのを示していた。

南町奉行所定橋掛かり同心の昼間匠が、気になる店を見つけた。薬屋のようだが、薬を買って帰る客が一様に嬉しそうな機嫌のいい顔をしていたのだ。

なにかひっかかる。店で売っていたのは、「完爾丸」と書いて「にっこりがん」と読む薬だった。笑い茸が入っているのだという。

この話を聞いた根岸は興味をそそられた。調べをまかされたのは坂巻だった。さっそく、坂巻は以前に笑い茸を食べたという勘吉という下男を訪ねてみた。そして笑い茸というものがどのようなものであるかを知る。

一方で、栗田は殺された伊佐二が入門していた笈川部屋を訪ねていた。そこで、栗田はなぜか伊佐二が雷電を憎んでいた事を知る。

五郎蔵が正三という若者を連れきた。正三は霊岸島に落ちた雷の話を持ってきたのだ。この雷が落ちた時に、落ちた家から人が転げ落ちたのだとか。泥棒のようでもある。だが、泥棒としてはおかしな点が多い。

根岸と五郎蔵は、この現場を二人で訪れていた。恐らくは博打か相場に絡む男なのだろう。そう思っていると、果たして賭博場を見つけた。

五郎蔵はその中にゲス円こと月円和尚の姿を見つけた。これを捕まえてみると、月円和尚は豪華絢爛な袈裟が盗まれたという。

年があらたまった。松平定信が根岸を呼びつけ、とびきりの話があるという。ろくろ首である。だが、根岸は内心ひどくがっかりした。ろくろ首というのは若い旗本の当主で、本人もそう思っている節がある。根岸はこの裏に何があるのかを考え始めた。

二月半ば。伊佐二を殺したのが雷電で、雲州公が国許に雷電を引き入れたという噂が立った。いよいよ動いてくれた。根岸はそう思った。

坂巻は噂の出所を探っているうちに、その出所の一人と思われる人物を見たという娘に出会った。おせいという娘は、房州から出てきて、女相撲の力士になりたいといっている。

田畑の使いで三次という男が矢沢金吾、村井佐兵衛、近松晋五郎を訪ねた。そして、三人同時の帰藩は無理だが、二人なら可能だと伝える。三人は茫然とした。

このころ、どくろが家の前に置かれるという一風変わった事件が起きていた。

根岸の友人でホラ吹き石黒こと石黒弁二郎がやってきた。今回も朝顔にちなんだホラを吹いたと話してくれたが、このホラがどうやら黒牡丹組という連中に知られたらしい。石黒は平然としているが、根岸は坂巻に石黒の警護をさせる事にした。

両国界隈で、不思議な瓦版が出た。絵の代わりに手形が押してあるのだ。雷電の手だという。だが、それほど大きな手ではない。再び動きがあった。

本書について

風野真知雄
耳袋秘帖6 両国大相撲殺人事件
だいわ文庫 約二九五頁
江戸時代

目次

序 触れ太鼓
第一話 わけありの微笑
第二話 屋根裏の雷
第三話 夢見るろくろ首
第四話 どくろの朝
第五話 ホラ吹き石黒
結び けたぐり

登場人物

矢沢金吾
村井佐兵衛
近松晋五郎
細川斉玆…肥後熊本藩藩主
田畑長右衛門…用人
三次
伊佐二…若い力士
おうめ…伊三次の母親
笈川実之吉…伊佐二の親方
雷電為右衛門
松平治郷(不昧)…出雲松江藩藩主
昼間匠…南町奉行所定橋掛かり同心
勘吉
長寿堂…薬種屋
正三…五郎蔵の下働き
月円和尚(ゲス円)
おせい
大工の金五郎
煮売り屋の為三
錠前職人の喜助
白酒売りの良太
仲居のおみつ
又六
石黒弁二郎

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