風野真知雄の「耳袋秘帖 第1巻 赤鬼奉行根岸肥前」を読んだ感想とあらすじ(面白い!)

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覚書/感想/コメント


★★★★★★★★★☆

鬼平犯科帳」の長谷川平蔵に、桜吹雪の遠山の金さん、それに水戸黄門の助さん格さんといった家来を加え、「耳袋」の珍談・奇談をからめる。隠し味にピリリと笑いなんかも。これで面白くないはずがない。

時代小説のツボを押さえまくったキャラクター設定と筋書き。よくぞ、こうした設定を考え込んだ!

根岸肥前守鎮衛は珍談・奇談をあつめた随筆「耳袋」の著者として知られる。「耳袋」は佐渡奉行になった頃から書き始め、五、六冊になっている。写本を作り、望まれた者に閲覧させている。根岸は、妖かしとか、物の怪が好きで、それがなぜ、現われるのかを考えるのは、もっと大好きといった人物。

この「耳袋」とは別にもう一冊ある。「秘帖耳袋」と題し、こちらは閲覧を許すつもりはない。

また、刺青の噂があるところから、赤鬼奉行と呼ばれた。左の上腕から肩にかけ、大耳の赤鬼の顔が彫られている。これは、若い頃に相場を張るのに、もう一人の仲間と一心同体の気持ちで入れた。もう一人は目の大きな青鬼を入れた。

根岸と出世を競い合った相手に長谷川平蔵がいる。火付盗賊改方の長官として功績を残したが、町奉行にはなれず、病に倒れた。

根岸肥前守鎮衛を支える助さん格さん的なのが、坂巻弥三郎と栗田十左衛門の二人。

坂巻弥三郎は十年ほど前に剣の腕と、それに反したおっとりした人柄が気に入って、召し抱えた家臣。当時十八で少年の面影を残していた。背は高いが、痩せていて、色白。まず、剣が遣えるとは見られない。左利きの凄腕の二刀流遣い。年を越えて二十八となる。

栗田次郎左衛門は臨時廻りの同心だったが、根岸直属の同心となる。奉行所内で一、二を争う一刀流の遣い手。相当な人情家で、坂巻と同じ年。

しかしこの二人、いまひとつしっくり来ない関係が続く。

こうしたキャラクターに、怪談風の事件をからめて物語が進んでいく。一方で、根岸に町奉行の職をとられた吉野監物とその一派、そして薬種問屋・鴻巣屋徳兵衛との対立が最初から最後まで大きな軸として語れていく。特に、薬種問屋・鴻巣屋徳兵衛の真の意図というのが意外で、この物語に深みを与えている。鴻巣屋徳兵衛は必ずしも悪者とはいえないのだ。

怪談風の事件も、実際は怪談とは言いきれない。というより、はなから根岸は信じていない。その裏にある現実の方に興味があるのだ。そういう意味では合理的な人物といえる。だが、いっぽうで、亡き妻のたかが幽霊として自然に登場するのだから面白い。

笑いの部分では、例えば、南町奉行をやれという下命に悩んでいる時に、体力を確認するために素振りをして走り回る場面。

『「わっせ、わっせ」と、当初の声こそ勢いがあったが、「あうっ、あうっ」と、声ではなく、牛のお産のような音が出始めた。』
だとか、目付の矢波清右衛門を訪ねた時
『「その手は露骨だろう」
と、矢波が文句を言った。
「そうかな」
「はしたないと言ってもいい」
「そんなにひどいか」
「このあと、王手飛車取りだろうが」
「そうなるかな」』

といった、とぼけた場面がクスリと笑いを誘う。

他にも、栗田がむさ苦しい浪人ふうの格好をしているの対して、栗田が手札を与えている岡っ引きの辰五郎は着物や頭をすっきりとさせている。格好を気にしている栗田が嫉妬のあまり叩きたくなるほど、辰五郎の月代は青くつるつるしている。ここで、叩けば、ぺしっ!という音が聞こえてきそうだ。

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内容/あらすじ/ネタバレ

勘定奉行・根岸肥前守鎮衛は迷っていた。南町奉行をやれという下命があったのだ。根岸は還暦を超えた六十二だ。やりたい気持ち半分、ことわりたい気持ち半分だ。そこに元老中の松平定信がやってきて、わしの顔を潰すなと釘を刺した。

何とか五年くらいはやれるか。そう思って引き受けたが、まさかそれから十八年もやることになるとは思わなかった。根岸は南町奉行を引き受けた。

南町奉行所の臨時廻り同心・栗田次郎左衛門が奉行所にもどり、新任の南町奉行・根岸、根岸家に仕える家来と奉行所の役人との顔合わせの宴に出た。そこで、栗田は根岸から臨時廻り同心から直属に入るように言われた。

数日後、奉行所内の私邸で、女中たちが騒いでいるのを根岸がどうしたのかと聞いた。猫がしゃべるだの幽霊が出るだのといっているようだ。「秘帖耳袋」を開いて、奉行所内にしゃべる猫が現われたことを記し、ひそかににんまりとした。さて、裏がありそうだ。

根岸の南町奉行昇進祝に様々な商人が駆けつけた。その一人に薬種問屋・鴻巣屋徳兵衛もいた。根岸が警戒している人物だ。奉行所内でも根岸に鋭い視線を投げる人間がいた。与力の竹内源五郎だ。竹内は旧田沼派の首領格の吉野監物にかわいがられているという。吉野のことは若い頃から知っている。少々厄介なことになるかも知れない。

根岸が心を休めるのは深川芸者の力丸と過ごす時だ。その帰りに根岸は襲われた。だが、連れていた坂巻弥三郎が退治してくれた。

吉野監物は町奉行になりたくて、ずいぶん金を使ったらしい。その後ろ盾となったのが鴻巣屋徳兵衛だという。まさか、二人がつるんでいるとは思わなかった。

根岸が無頼の日々を送っていた頃の友人のどろ亀の又八が訪ねてきた。なにやら用事があったようだが、いわずに別れた。

渋谷村にある井戸で今まで五人が死んでいる。そこに坂巻と栗田の二人を向かわせ調べさせることにした。この二人、今ひとつしっくりといっていない。そこで分かったのは、死んだ五人の内四人は庄屋の砂五郎と喧嘩をしたが、都合の悪い人間だったということだ。

この事件を考えている最中、どろ亀の又八が斬り殺された。一体誰が?

死んだはずの小侍と橋の上ですれ違ったという話がある。旗本・若狭左馬之介に仕えていた新藤菊之助という十六の少年だ。十日ほど前に大川に落ちて死に、葬式も挙げたという。

ちょうどその日、若狭家では家宝の仏像を骨董屋に引き取ってもらい、代金の三百両をもらうはずだったが、その三百両が消えた。死んだ新藤菊之助が取りに来たのだとか。小侍があの世に持って行ったにちがいないと、皆納得してしまった事件なのだが…。

力丸が根岸に原二三郎という御家人の話をした。年を越して八十三歳となった新妻を娶ったのだとか。その新妻の閨房が凄いのだそうだ。新妻は回春妙珍丸という薬をつかっており、これが噂を呼び飛ぶように売れているのだとか。鴻巣屋の薬かと思ったが、上野三宝堂の薬だという。商売敵の商品だ。

だが、そもそも他人の閨房を誰が知り得ているのか?そう思っているころ、坂巻と栗田はこの八十三歳の新妻を見に来ていた。

狐が奉行所内に紛れ込んできた。狐といえば、ろうそく問屋川野屋の主・万右衛門の妾・おふうが狐に憑かれたようなので、お祓いをするために若い巫女を呼んだ。だが、見習いの巫女ということもあり、新しい霊を呼び込んでしまったのだとか。すると、物騒なことをいいだした。

この一方で、根岸が失脚するかも知れないという噂がたつ。加賀鳶三吉の事件の裁きがまちがっていたかもしれないというのだ。

本書について

風野真知雄
耳袋秘帖1 赤鬼奉行根岸肥前
だいわ文庫 約二九五頁
江戸時代

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目次

第一話 もの言う猫
第二話 古井戸の主
第三話 幽霊橋
第四話 八十三歳の新妻
第五話 見習い巫女

登場人物

根岸肥前守鎮衛…南町奉行
坂巻弥三郎…根岸家の家来
栗田次郎左衛門…根岸直属の同心
たか…根岸の亡き妻、幽霊
おさだ…奥女中
雪乃…奥女中
力丸(新郷みか)…根岸の恋人
馬蔵(珍野ちくりん)…船宿「ちくりん」主
お紋…「ちくりん」女将
五郎蔵…海運業者の顔役
久保田兵庫…根岸の親友
吉野監物…旗本
竹内源五郎…与力
鴻巣屋徳兵衛(善堂)…薬種問屋
どろ亀の又八
宗匠与三郎…盗賊
砂五郎…庄屋
水野忠義…老中
若狭左馬之介…旗本
新藤菊之助…小侍
桃右衛門…骨董屋浜中堂の主
高麗屋長兵衛…異国の調度品を扱う店の主
矢波清右衛門…目付
原二三郎…御家人
お蝶
向井将監…御船手組の頭領
角右衛門…薬種問屋の上野三宝堂若旦那
万右衛門…ろうそく問屋川野屋の主
おふう…万右衛門の妾
津之吉…川野屋番頭
おたみ…見習い巫女