米村圭伍の「風流冷飯伝」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

★★★★★★★★☆☆

軽妙洒脱な文体のおかげで肩肘張らずに読め、読後感が清々しくホッと出来る作品。

主人公となる幇間の一八と飛旗数馬という二人の持つ雰囲気もどこかのんびりしており、舞台となる風見藩自体がのんびりしているのもこうした読後感になるのかもしれない。

この舞台となる四国讃岐にある風見藩、先々代の藩主光猶院が決めた奇妙なしきたりが多く、江戸者の一八には戸惑うことばかり。どのようなしきたりがあるのかは本書で確認頂きたい。

のんびりした田舎の小藩で冷飯たちの生活を描いた作品なのかと前半では思っていたが、後半で「将棋」が重要なキーワードになる。

この将棋をめぐっても奇妙なしきたりのある風見藩なのだが、この将棋をめぐってドタバタが繰り広げられ、怒涛の展開となる後半には一気に読み進めることになる。

さて、なぜ将棋は指すといい、囲碁は打つというのか。

一八が言うには、

「そりゃ簡単で。将棋は最初にすべての駒を盤に並べます。盤面にある駒を動かすのを指すと申します。囲碁は始めは盤に石が置いてございません。交互に黒石と白石を置きますが、これを打ちおろすという意味で打つと称します。そうそう、将棋でも駒を打つと申しますが、これは駒台にある、相手から奪った駒を使う場合に限られます。盤にある駒を動かしたのではなく、盤になかった駒を置くのですから、これを打つと言って区別するのでございます」

いやぁ、目から鱗の話だ。

また、「将棋無双」という七世将棋名人三代伊藤宗看の著した詰将棋集で、奇趣妙想の傑作詰将棋百番が登場するが、これも重要なキーワードになる。

もともと将軍家に献上された献上図式で、解答を付けて献上しているのだが、庶民には問題が伝わったのみで、あまりにも難解で詰むのか詰まないのかわからないので、「詰むや詰まざるや」の異名があるそうだ。双璧として伊藤宗看の弟看寿が著した「将棋図巧」がある。

この「将棋無双」、将棋を覚えて十年以内全問を解答できたら天才ということらしい。挑戦してみては如何だろうか?

最後に、さらっと書かれているのだが、幕府隠密は命を受けたら自宅には戻らず、大丸の奥部屋で着替えてそのまま任地に向かった。この大丸とは現在のデパートの大丸である。

だが、こうしたことが後世に知られるということは、当時においては公然の秘密だったということなのだろうか?

内容/あらすじ/ネタバレ

四国讃岐の風見藩二万五千石の城下には、幇間の一八が巣くうような花街はありません。それがなぜ四国讃岐くんだりでまごまごしているのか。

時は宝暦十四年。一八が歩いていると、行き会った人々が皆一様に仰天顔をします。妙な具合になってきたと思っていますが、そこは余所者ということでしょうがないのかもしれません。

その一八が鶏を数えている若い侍と知り合いました。小腹も空いてきたことですし、ここはこの若い侍に取り巻き、飯をせしめようという魂胆。若い侍は飛旗数馬と申し、冷飯だとか。

一八は数馬に仰天顔をされたことを話しますと、数馬はこう申します。男は左回り。先々代の藩主光猶院が生前に男は城を左回りに、女子は城を右回りに回るのを習わしにしたというのです。

そもそも、この風見藩は天守閣からして二層半という奇妙なつくりで変わっております。そして、城の玄関とでも言うべき大手門と裏門の搦手門の向きが通常とは逆になっております。

腹を空かした一八はどうにもたまらず蕎麦屋に入りました。飛旗数馬も一緒でしたが、蕎麦屋にはいることを躊躇します。

ここでも奇妙なしきたりがあり、武士は手ぬぐいで頬かむりしてはならないため、町人のはいる店に入るには度胸がいるのだとか。これも先々代の藩主光猶院が定めたことだとか。

一八は蕎麦を食べ始めましたが、じっと数馬に見られきまりが悪くてしょうがありません。とうとう根負けをして数馬の分の蕎麦も頼むことにしました。ですが、数馬は見ることが道楽、眺めることが心から好きなようで、かえって戸惑っております。

翌日も一八は数馬を待ち受けています。二人で連れ立ってぶらぶらしておりますと、西の馬場で凧が揚がっております。人並みはずれた巨躯の若い武士が凧をあやつっています。数馬の友で、おじょもという渾名の鳴滝半兵太です。数馬と同様の冷飯です。

おじょもと別れ、二人は数馬の屋敷に向かいます。数馬が屋敷に入ったと思ったら、一八の目の前に菅笠をかぶった数馬がいるではありませんか。

驚いた一八ですが、今度は後ろから声をかけられ、そこにも数馬がいるではありませんか。数馬は双子で、もうひとりは兄の隼人だったのです。飛旗家は代々記録方右筆筆頭の家柄です。

一八と数馬が数馬の部屋に入るとしばらくして今崎庄平と山田忠蔵が将棋盤と駒を持ってあらわれます。一八は二人の将棋を見て目を覆いたくなるほどのへぼ将棋です。

この将棋も一家の家長と長男は控えなければならない決まりがあるそうです。これも先々代の藩主光猶院が決めたことなのだとか。だから、風見藩で将棋を指せるのは冷飯の次男坊、三男坊ということになります。

江戸から来たと見える小間物屋に一八が声をかけています。倉知政之助という幕府隠密です。一八はこの倉知の手先なのです。さて、この二人は一体なぜ風見藩に入り込んできたのでしょう。

二年ほど前に江戸で流行った手毬唄を一八は数馬に披露します。この唄にはどうも風見藩のことを唄っているようなふしがあるのです。ですが、これが一体何を意味しているのかは分かりません。

ある日突然数馬に将棋を指せるのかという質問をしてくる人が増えました。将棋所という役職が新設されるのだそうです。

そして、一八の旦那、倉地政之助が帯びてきた役目とは、風見藩で一番将棋の強い藩士とその実力の程を探り出せというものでした。言い渡したのは田沼意次です。

このお役目と手毬唄。これから考えて一八が下した結論とはこうです。将棋の腕自慢の将軍家治と賭け将棋をしたのではないか。そして風見藩が勝ったあかつきにはある願いをするというのでは。

一方で、田沼意次が考えているのは、負けた場合にはこれを機に風見藩お取りつぶしというのではないでしょうか。

そして、風見藩の将棋所を決める大会が始まりました…。

本書について

米村圭伍
風流冷飯伝
新潮文庫 約三四〇頁
江戸時代

目次

その一 桜道なぜ魚屋に嗤われる
その二 あれもうもうたまりませんと娘連
その三 のどかさや凧をあやつる怪物かな
その四 眉に唾たいこ狐に化かされて
その五 手毬唄つまらぬ殿は雪隠に
その六 もてあます葛籠の底の春画本
その七 大暴れ冷飯どもが夢の跡
その八 詰将棋はたして詰むや詰まざるや
その九 あれごらん凧のおじちゃん右回り
その十 入婿の閨を怖がる情けなさ
その十一 締められて蛤に泣く俄医者
その十二 へぼ将棋待った反則咲き乱れ
その十三 だるまさん田沼転んで都詰め
その十四 帰りなん薫風に袖なびかせて

登場人物

一八…幇間
飛旗数馬…飛旗家次男
飛旗隼人…飛旗家長男
志織…隼人の妻
飛旗喜久…母
鳴滝半兵太(おじょも)
樋口忍
樋口清右衛門…忍の父
池崎源五
今崎庄平
山田忠蔵
神波剣四郎(不成の剣四郎)
狛犬三次
難波の金六
伊橋宗雪
榊原拓磨
榊原香奈…拓磨の姉
おふく…飯盛
倉地政之助…御庭番
時羽直重…風見藩藩主
光猶院…風見藩先々代藩主
徳川家治
田沼意次

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