山本周五郎の「赤ひげ診療譚」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

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覚書/感想/コメント

★★★★★★★★☆☆

白茶けた灰色なのだが、逞しい顔つきが赤髭という印象を与え、年は四十から六十の間で、四十代の精悍さと、六十代のおちつきと少しの不自然さもなく一体となっている。それが「赤髭」こと新出去定である。

主人公の保本登は、はじめの頃こそ新出去定のやり方などに反発していたが、医員見習として小石川養生所で働く内に、徐々に赤髭に惹かれるようになっていく。

新出去定という医者は、その使命感や考え方のみならず、全体としての個性が強烈である。その新出去定がいう言葉に次のようなことがある。

「現在われわれにできることで、まずやらなければならないことは、貧困と無知に対するたたかいだ、貧困と無知とに勝ってゆくことで、医術の不足を補うほかはない、わかるか」

これは、ある意味、知識というものは特定の人たちだけで独占するものではなく、すべからく共有すべきだという考えでもある。

医療に関しても同じ事がいえる。間違った説が流布するのを是正し、正しい知識を広めるのも医者の務めであると思う。同時に、最新の医療を幅広く知ってもらうのも医者の務めであると思う。

患者に質問されるのを嫌がる医者がいるが、この本を読んで考えを改めてもらいたいものだ。

舞台となる小石川養生所。現在の小石川植物園内にあった施設である。ちなみに小石川植物園の正式名称は東京大学大学院理学系研究科附属植物園である。

元々、小石川御薬園とよばれ、江戸で暮らす人々の薬になる植物を育てる目的で開設されたものである。徳川吉宗の時代に敷地全部が薬草園にとして使われるようになり、御薬園内に診療所を設けた。

見学も出来るので、一度行かれるといいかもしれない。

こうして開かれた小石川養生所だが、小説の中で、かよい療治の停止と、経費三分の一を削減が命ぜられる。実際に、経費が削減されたことはあったらしい。

だが、その理由が酷い。

将軍家に慶事があり、諸入用がかさむからということなのだ。本来なら、こうした慶事があった場合には、恩赦・特赦があり、金穀を施与するのが当然なのだが、弱者を助けるための施設への経費を削ってでも金を捻出するというのは、新出去定ならずとも怒りを覚えるというものだ。

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内容/あらすじ/ネタバレ

保本登が小石川養生所にやって来たのは、ただ単に呼ばれたからである。長崎で修行をしてきて帰ってきたばかりだから、なにか参考に訊かれるのだろう。養生所の医長は赤髭と呼ばれている新出去定であった。

この新出に保本登はここで見習として詰めると宣告された。登の反論に一切耳を傾けない。

保本登はまったく不服のまま小石川養生所に住み込んで医員見習として働き始めることになった。本来なら御目見医の席が与えられ、ゆくゆくは幕府の御番医になるつもりなのだ。

小石川療養所で病気の女主人・ゆみに付き添っているお杉という女と登は親しく口をかわすようになった。このお杉の付き添っている女主人のゆみだが、いろじかけで男の自由を奪い、そして殺すという癖がある。登がお杉と親しくなったのには純粋な気持ちだけではなかった。ゆみの病気にも興味を持っていたというのもあるからだ。

そんなある日、酔った登の前にお杉が現れた…。

蒔絵師の六助という病人が死んだ。

登が新出去定について外診に出た時、六助の身寄りの者がわかったという。診療先の関係から登が六助の身寄りのところに行くことにした。

待っていたのは四人の子供であった。六助の孫たちだという。登が聞いたのは、この子供達の母親おくにが小伝馬町に入れられたということであった。

この事を知った新出去定は早速に小伝馬町の牢屋に向かった。そして、そこでおくにの口から聞いたのは複雑な家庭の話であった。

伝通院の前にむじな長屋と呼ばれる一画があり、極端に貧しい人たちが住んでいることで知られていた。登はここに佐八という労咳にかかった病人を受け持っていた。

佐八は稼いだものを惜しげもなく長屋の人たちのために遣っているという。差配の治兵衛は神か仏の生まれ変わりのような男だというが、登にはもっと人間くさいなにかの理由があるのではないかと思っている。

ある日、佐八が聞いてもらいたいことがあると話し始めた。

登が新出去定の供をして藤吉という大工の家で猪之という男を診察した。具合が悪いせいだろうか、目はとろんとして動きが鈍いし、唇にもしまりがない。診察が終わるとすぐに横になり、怠けたような声で、藤吉の女房に茶の催促をした。

藤吉の話では、猪之は昔から女にもてていたそうだ。だが、自分から寄ってくる女には全く見向きもしなかったという。それがある時、藤吉に嫁にもらいたい娘がいるから話を付けてきてくれという。

話をまとめて半月後、今度は縁談を断ってくれという。あの娘はだめだ、てんでなっちゃいねえんだという。

こうしたことが三度ばかり続いたという。

日光門跡の下屋敷のあるみくみ町に小さな娼家の固まった一画がある。岡場所である。新出去定は十日に一度くらいの割合で、外診にいき、強制的に女達を診察して治療していた。ある日、登が去定の供をしている時に、数人の男に囲まれた。

伊豆さま裏と呼ばれる一帯にある長屋に登がいったのは、鶯ばかとよばれる男の診察をした時のことであった。

この長屋の五郎吉の家族が殺鼠剤をのんで一家心中を図ったという知らせが飛び込んできた。夫婦はどうやら助かりそうだが、子供達は長次を残してだめだった。そして、この長次も予断を許さない状態である。

外診からの帰り道、新出去定と登は怪我人を拾った。男は角三といった。角三は高田屋松次郎を殺すつもりで、逆にやられたという。

音羽にある長屋はある事情から高田屋の先代が無償で貸し付けている長屋であった。無償であるのは息子の松次郎の代までということになっていた。

なぜ無償なのかはわからなくなっているが、突然松次郎が長屋から出て行けと言い始めた。

本書について

山本周五郎
赤ひげ診療譚
新潮文庫 約三〇五頁

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目次

狂女の話
駈込み訴え
むじな長屋
三度目の正直
徒労に賭ける
鶯ばか
おくめ殺し
氷の下の芽

登場人物

保本登
新出去定…赤髭
森半太夫…医員見習
津川玄三…医員見習
竹造…小者
お雪
お杉
ゆみ
六助
おくに…六助の娘
富三郎
金兵衛
佐八
おなか
治兵衛
おこと
猪之
藤吉
とよ
十兵衛
おみき
おきぬ
卯兵衛
五郎吉
長次
角三
高田屋松次郎
おえい
天野まさを
ちぐさ