宮本昌孝の「将軍の星-義輝異聞」を読んだ感想とあらすじ

覚書/感想/コメント

★★★★★★★★☆☆

短編集。足利家に絡む話が七話中六つ。

「前髪公方」は関東は伊豆にあった堀越公方の話。「妄執の人」は十代将軍であり同時に十二代将軍でもあった足利義材の話。冠に「義輝異聞」がついているのは、「剣豪将軍義輝」の外伝である。

足利家に絡まない「紅楓子の恋」は山本勘助を主人公としている。

この中で一風変わっているのが、前代未聞の将軍に再任した足利義材であろう。

十代将軍になったあと、明応二年(一四九三)に、畠山義豊を討伐するために河内に出陣していたところを、京都で細川政元と日野富子が義政・義視の弟に当たる足利政知の子・足利義澄を新将軍として擁立してしまったため、義材は将軍職を廃されることとなった(明応の政変)。

その後、永正五年(一五〇八)に大内義興の支援を得て中国地方や九州の諸大名と共に上洛し、義澄を廃して再び将軍になる。

小説などであまり取り上げられない将軍だが、波瀾万丈の人生を考えると、小説化すれば面白い人物かもしれない。

本書のメインは何と言っても冠に「義輝異聞」がついている四作品だろう。前提として、「剣豪将軍義輝」を読んでいることが挙げられるが、「剣豪将軍義輝」を読んでいるのなら、外伝としてとても面白い作品である。

「義輝異聞 丹波の黒豆」は「剣豪将軍義輝」の上巻くらいにおける外伝である。義輝もまだ義藤と名乗っている自分の話で、廻国修行に出る前の話である。

「義輝異聞 将軍の星」は「剣豪将軍義輝」の中巻くらいにおける外伝であり、廻国修行の中での逸話の一つという形式を取っている。

「義輝異聞 遺恩」「義輝異聞 三好検校」は「剣豪将軍義輝」の後の話となっている。

さて、本書に収録されている作品の中で、風魔小太郎が「前髪公方」と「義輝異聞 将軍の星」に登場する。風魔小太郎は相州乱波、つまり忍者である風魔一党代々の頭領の名前である。

本書で登場するのは恐らく同一人物という設定であろうが、作者はこの風魔小太郎を主人公とした小説を書いているので、あわせて読むと面白いかもしれない。

ともあれ、本書を読む前に是非「剣豪将軍義輝」を読むことをオススメする。

内容/あらすじ/ネタバレ

前髪公方

茶々丸と関戸播磨守吉信は狩りを楽しんでいた。茶々丸は堀越公方・足利政知の子である。堀越公方の実態は飾り物にすぎない。

その足利政知が正室として武者小路隆光の娘である徳子を迎えてから問題が生まれてきた。それは、徳子が虚栄心の強く、堀越公方の家督を我が子に継がせたいと考えたのだ。

足利政知が死に、急いで駆けつけた茶々丸はそのまま幽閉されてしまった。だが、破牢に成功した茶々丸はそのまま徳子を切り捨ててしまう。

妄執の人

斎藤妙椿に率いられた美濃勢が尾張に攻め入った。織田大和守敏定を攻めるためである。この戦に一人の貴人がついていた。

応仁の乱で甥の足利義尚と将軍の座を争った足利義視の嫡男・足利義材である。足利義材はこの戦で恐慌を来たし、逃げてしまう。

庇護者だった妙椿が死んでしまうと、世間から忘れ去られた。だが、幸運が舞い降りたのは、将軍義尚が病没してしまったことである。義尚には男子がいない。京へ向かうが細川政元の反対にあい近江大津で足止めを食らった。

だが、足利義材は十代将軍となることを得た。しかしそれも長く続かなかった。

紅楓子の恋

勘助は幼い頃から鬼子と呼ばれていた。だが、兵法に優れた資質を示し、廻国修行にでた。そして、紀州高野山に登って摩利支天堂に籠っている時に霊験を得た。

放浪十五年で勘助は兵法家として自信を得た。この勘助が生涯唯一無二の女性にあったのは上洛した時のことであった。それは六、七歳とおぼしい童女であった。

時が流れ、勘助が武田晴信に仕えるようになった。晴信の正室は三条の方と敬称されていた。

義輝異聞 丹波の黒豆

百余名の落人が山間を歩いていた。三好長慶と細川六郎晴元、上野民部大輔信孝が争った結果のことである。この一行の中に足利義藤がいた。後の足利義輝である。

義藤の寝間に若い女が立った。あるじよりの命だという。伽を命ぜられたのだが、いまの義藤にはその気がない。るいと名乗った女の持ってきた黒豆を食べるだけであったが、この後前後不覚の状態になった。

翌朝、義藤は女に眠り薬のようなものを飲まされたのを知る。だが、一体何の目的で…。

義輝異聞 将軍の星

梅千代王丸と母・芳春院が連れ去られた。梅千代王丸は古河公方である。これを助けたのは霞新十郎と名乗る廻国修行中の若者だ。霞新十郎とは足利義輝の偽名である。助けた母子は一色宮内大輔直朝に預けた。

塚原卜伝を常陸国鹿島に訪ね、教えを請うことが目的であったが、従者の石見坊玄尊が大薙刀を巻き上げられたというので、それを取り戻しに寄り道したところこのような事件に遭遇してしまったのだ。

事情が分かってくると、母子を襲わせたのは芳春院の兄・北条氏康のようである。だが、一体何のために…。

義輝異聞 遺恩

山路を急ぐ一団がいる。一人は頭巾をつけた人を背負っている。足利義輝が弑逆されてから二月あまりしか立っていない。頭巾の人はこの足利義輝の弟・覚慶である。後に足利義昭となる。

一行は六角承禎の所に逃げ込むことが出来た。覚慶はすぐさま上杉輝虎が駆けつけてくれるものだと思い、同時に各地の大名にも手紙を出し上洛をうながしていた。

この様子に覚慶を連れ出した明智十兵衛光秀と細川與一郎藤孝は暗澹たる思いになる。年があらたまり、覚慶は還俗して足利義秋と名乗った。

義輝異聞 三好検校

池田小三郎は悪夢にうなされていた。それは足利義輝を襲った時のこと、義輝に襲いかかろうとした時に天井から燃えた木が落ちてきて小三郎の目を焼いてしまった。

松永弾正久秀の軍にいた小三郎だが、目が見えなくなり、弾正からも見捨てられてしまう。だが、弾正からの褒美で金貸しをはじめ、検校へとのぼっていった。

そうした中、小三郎の屋敷へ「仇討ち所望 光源院党」と書かれた文が投げられた。光源院党とは義輝の法号である。一方で、義輝の寵姫・小侍従ノ御局の首をはねた中路勘之丞が何者かに殺された。

本書について

宮本昌孝
将軍の星 義輝異聞
徳間文庫 約三〇〇頁

目次

前髪公方
妄執の人
紅楓子の恋
義輝異聞 丹波の黒豆
義輝異聞 将軍の星
義輝異聞 遺恩
義輝異聞 三好検校

登場人物

前髪公方
 茶々丸
 関戸播磨守吉信
 足利政知…堀越公方
 徳子…正室
 外山豊前守
 秋山蔵人
 風魔小太郎
 伊勢宗瑞(新九郎)

妄執の人
 足利義材(義尹、義稙)
 細川政元
 日野富子
 斎藤妙椿…美濃守護代
 織田大和守敏定

紅楓子の恋
 山本勘助
 三条の方
 武田晴信
 快川和尚

義輝異聞 丹波の黒豆
 足利義藤(義輝)
 朽木鯉九郎
 上野民部大輔信孝
 細川六郎晴元
 美千(るい)
 浮橋
 偐左
 上杉典膳…安国寺上杉衆

義輝異聞 将軍の星
 霞新十郎
 石見坊玄尊
 小四郎
 真羽
 甚内(浮橋)
 足利晴氏
 梅千代王丸…古河公方
 芳春院
 一色宮内大輔直朝
 風魔小太郎
 北条氏康

義輝異聞 遺恩
 明智十兵衛光秀
 細川與一郎藤孝
 覚慶(足利義秋、義昭)
 六角承禎
 美千
 上杉典膳…安国寺上杉
 風箏(九条稙通)

義輝異聞 三好検校
 池田小三郎
 松永弾正久秀
 奈々
 中路勘之丞
 大森伝七郎
 亀松三十郎