宮本昌孝の「剣豪将軍義輝」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

★★★★★★★★☆☆

塚原卜伝から一の太刀を授けられた剣豪であり、足利十三代将軍である足利義輝を主人公とし、その十二歳の時から、松永弾正と三好三人衆に殺されるまでの生涯を描いた小説。

足利義輝の最期は、伝えられている事柄だけでも凄まじい戦いである。館にあるすべての刀を畳に突き刺し、刀がだめになると、次の刀、それもだめになるとその次というように、すべての刀を使って相手に立ち向かっていったという。もちろんこの場面は本書でも語られており、この場面の描写はスゴイ。

剣豪小説というと、一本の刀で、次から次へ敵を倒していくのが常である。

だが、実際は、刀は斬り合いをすれば、ひしゃげたり、刃こぼれをしたりして、二、三人斬れば使いものにならなくなる。更に血脂が刀身に付着して乾いて固まると、切れ味は極端に鈍る。

本書ではこのことを物語の最初の方に書き、剣戟シーンにリアリティをもたせている。そして、これらの伏線があって、本書の最期の場面がある。

すべての剣戟シーンはこの場面のために用意されたものでしかないというくらいのものである。

小説では様々な個性的な登場人物が活躍する。義輝を護る真羽、朽木鯉九郎や浮橋らを筆頭にした味方。

それと同様に義輝のライバルも用意されている。とくに剣豪・義輝にスポットを当て、これにライバルを用意しているのが良い。このライバルは熊鷹といい、物語でも最初に登場する。一方で将軍としてのライバルには松永弾正らが用意されている。

この松永弾正だが、戦国時代の三大梟雄に数えられる。残りは北条早雲、斎藤道三。

松永弾正は摂津の百姓の倅とか、京都西岡の商人くずれだとか、様々にいわれている。が、三好長慶に右筆として最初仕えている。教養のある人間だった。それなりの出自のものであるはずだ。作中で、三好あるいは細川の被官で、阿波の出身と見るのが自然としている。

三大梟雄の内、もう一人、斎藤道三も本書で登場するのだが、松永弾正とは異なり、好意的な書かれ方をされている。

本書の特徴だが、無駄な登場人物が少ない。最初に登場して、あとになって重要な役回りを演じる人物が幾人もいる。登場人物の使い捨てをしない姿勢は個人的に好きである。

そして、様々な謎を散りばめている点も面白い。試みに次の点に注意して読むのも面白いかもしれない。

・鹿島で義輝を襲った多羅尾ノ杢助を裏で操っていたのは誰?

・鹿島の修行で義輝の前に現れた能面士は誰?

・風箏とは誰?

さて、興味深かった点を一つ。

本書の中巻「孤雲ノ太刀」は義輝の修行の旅を描いているが、様々なところを立ち寄り、目的地の鹿島にたどり着くことになる。

旅の最初に心ならずも九州へ向かうことになってしまった義輝。その同行中に梅花(めいふぁ)が言う次の言葉は印象的である。

「新十郎さま。あなたさまのお国は、海の国にございます」

そう、徳川幕府の鎖国体制および、明治維新後の歴史教育のおかげで、日本は農業の国という認識が強く植え付けられている。

日本は四方を海に囲まれている島国である。だから、実は海運や漁業といった海を生業とする部分はかなり大きかったのであるが、これが目に蓋をされたようにして見えなくなってしまっている。

考えてみれば農業だけの国であるはずがないのに、そう思ってしまうのは先入観によるものだ。

こうした点を指摘した網野善彦氏ら歴史学者と同じ考えを、本書で述べているので興味を覚えた。

最後に、明治以前の馬について。

たてがみの付け根の骨から地面までの馬尺が五尺に満たないのがふつうだったそうだ。だから四尺五寸あれば大馬と呼ばれた。六尺四寸(一九〇センチ強)あったといわれる加藤清正などは、鐙がなければ、馬に乗っても両足のつま先が地面をこすったそうだ。

現在時代劇などで見られる馬上の姿からは想像できない。そりゃそうだ。時代劇で使われているのはサラ系なのだから。

本書の外伝として「将軍の星 義輝異聞」がある。あわせて読むことをオススメする。

鹿島神宮の紹介はこちら。

【式内社】鹿島神宮の参拝録(茨城県鹿嶋市)日本建国・武道の神様と剣豪が集う常陸国一之宮「東国三社巡り」[国の史跡]

おすすめのスポット。関東最古の神社。全国約600社ある鹿島神社の総本社。香取神宮と対になっている。古社中の古社で、平安時代から伊勢のほかには、神宮と呼ばれたのは、鹿島神宮と香取神宮だけである。

内容/あらすじ/ネタバレ

足利義藤、十二歳の征夷大将軍の初陣は名ばかりの総大将で、惨めな敗北に終わった。この戦いは、義藤の後見役である足利義晴と幕府管領のの細川六郎晴元との仲違いから始まった。実権を欲した義晴と、最高実力者たらんとする六郎晴元との確執がきっかけを得て火を噴いたのだ。

この戦いの中ではぐれてしまった義藤は真羽という少女、そして熊鷹という少年に出会う。少年は姿を消し、義藤は自分を探しに来た供のものに見つけられ救出された。この時、真羽を義藤は伴っていた。

仮御所での生活は真羽には少々窮屈なようだ。すでに戦いの大勢は決し、六郎晴元の主力の三好長慶が相手をさんざんに打ち破っていた。

この戦いで、幼き頃お玉に武芸を仕込まれ、それなりの自信があった義藤は、その自信を見事に打ち砕かれ、天下一の武人になると決意する。だが、目下武芸以上に心を奪われるのが真羽の存在だった。

その真羽と仮御所を抜け出し、坂本へ行こうとした義藤だったが、真羽に使いをまかせ仮御所に戻る。だが、これっきり真羽は戻ってこなかった…

近習の細川與一郎に命じて真羽の行方を捜させた。そして、どうやら真羽に似た娘が下京悪王子の妓楼歓喜楼にいるということがわかった。

與一郎と連れだって真羽の救出に向かった。楼主の鬼若はすでに小娘は事切れているといい、逆上した義藤は鬼若と対決するが窮地に立たされる。この時、義藤と與一郎の窮地を助けたのが朽木鯉九郎であった。

知らずとはいえ、自分が仕えることになる人物を助けた鯉九郎は将軍・義藤を見直していた。義藤は鯉九郎が思っていたような将軍ではなかったからだ。

結局、事切れていた娘は真羽ではなかった。真羽はいずこかへ逃げて消えていた…

義藤は剣の師に朽木鯉九郎を得てめきめきと腕を上げた。鯉九郎の眼からも非凡の遣い手に成長している。

大器である。

そう鯉九郎は思った。この戦乱の世を終息に向かわす英雄の資質をもっている。あとは、義藤の補佐になりうる有力守護大名が必要である。

この頃の近畿は細川六郎晴元の勢力をしのぐ形で、細川家の家宰である三好長慶が勢力を伸ばしていた。こうした緊張した中で、義藤の父・義晴が惨劇を引き起こしてしまう。そして、一色触発の状況になっていた。

堺の湊に続々と船団が入ってきている。四国から渡ってきた三好の軍勢である。率いるのは三好長慶の弟たち、安宅冬康と十河一存の二人である…。

…天文十八年(一五四九)。織田信長が十六歳で家督を継ぎ、松平竹千代(のちの徳川家康)も八歳で家督を継いだ年。

京では細川六郎晴元の幕府軍と三好長慶が率いる三好軍とが一進一退の攻防を繰り広げていた。義藤は相変わらず武芸三昧の日々であった。

やがて、細川六郎晴元がおされはじめ、義藤は京を棄てて落ち延びなければならなくなった。

そして、十九歳になった春。義藤は名を義輝に改める。

細川六郎晴元と三好長慶との戦いが事実上の決着をつけた戦より五年を経ていた。

隠密理に旅に出た義輝は霞新十郎と偽名をつかい、供に浮橋を伴っていた。浮橋も甚内と名乗っている。義輝は剣聖と称賛される塚原卜伝のもとで修行を積むべく常陸国鹿島へ向かっていた。

だが、その思いとは別に、義輝は梅花(めいふぁ)と名乗る女に連れられ、九州は平戸へ連れてこられてしまう。そして五峰王直に出会う。

この平戸への寄り道のあと、義輝と浮橋は東へと舞い戻り、美濃にたどり着く。美濃では斎藤道三に会い、甲斐で武田晴信に会う。いずれも一介の旅の武芸者霞新十郎としての出会いであった。

武田晴信の所では奇跡的な出会いがあり、そして義輝の家臣になる者達との出会いがあった。と同時にとんでもない謀略に巻き込まれてしまう…。

そして、念願の鹿島につき、塚原卜伝の教えを乞うのに胸をふくらませた。だが、塚原卜伝が義輝を教えることはなかった。もはや教えるべき所がないからである。あとは、義輝自ら開眼するしかない。

失意にある義輝はそれでも鹿島に留まり、足かけ三年が過ぎた。世は改元があり天文から弘治二年になっていた。義輝はやむなき事情により修行を打ち切り京へ戻らなくてはならなくなった。

その修行の最後の日、義輝の前に一人の能面士が現れた…。

京へ戻った義輝と対面していたのは長尾景虎であった。頼みになる大名の一人である。義輝はもう一人頼みにしている人物がいた。それは織田信長である。

近畿では三好長慶の勢いが強く、中でも松永弾正の専横は目に余るものがあった。義輝と松永弾正との暗闘が開始された…。

本書について

宮本昌孝
剣豪将軍義輝
徳間文庫 計約一二二〇頁

目次

鳳雛ノ太刀
壱 初陣
弐 お玉
参 鬼若
肆 京
伍 歓喜楼
陸 血宴
切 刺客
捌 堺
仇 父子
什 炎上
孤雲ノ太刀
壱 海へ
弐 異国の風
参 美濃暮色
肆 諏訪の雨
伍 躑躅ヶ崎
陸 烈女たちの夜
切 鬼神城夜討始末
捌 鹿島の空
仇 蝮の遺言
什 織田信長
流星ノ太刀
壱 悪御所
弐 竜鳳の契り
参 虎、来たる
肆 大牙の謀事
伍 鬩牆(げきしょう)の間
陸 宿敵
切 麒麟児、盟す
捌 修羅、簇(むら)がりて
仇 三好崩れ
什 洛陽の暗雲
十一 雲の上まで

登場人物

足利義輝(義藤)
真羽
朽木稙綱(弥五郎)
朽木鯉九郎…稙綱の息子
浮橋(甚内)…忍び
石見坊玄尊
小四郎
明智十兵衛光秀
細川與一郎
覚慶…義輝の弟
周暠…義輝の弟
熊鷹
鬼若
足利義晴…義輝の父
伊勢貞孝…政所執事
多羅尾ノ杢助…忍び
三好長慶
三好之康…長慶の弟
安宅神太郎冬康…長慶の弟
十河又四郎一存…長慶の弟
松永弾正久秀
小笠原湖雲斎(長時)
磯良…黒京衆
風箏
三好宗三(政長)…長慶の大叔父
細川六郎晴元…幕府管領
六角江雲(定頼)
細川(典厩)二郎氏綱
足利義維
足利義栄
梅花(めいふぁ)
五峰王直
趙華竜
織田信長
木下藤吉郎(日吉丸)
斎藤道三
武田晴信
諏訪御寮人
真田幸隆
長尾景虎
松平元康
橘屋又三郎
塚原卜伝
松岡兵庫助
上泉伊勢守秀綱
(お玉)

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