諸田玲子の「其の一日」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

★★★★★★☆☆☆☆

第二十四回吉川英治文学新人賞受賞作

どこにでもある一日を描いたのではなく、まさに特別な一日を描いた短編集。もし、どこにでもある一日をテーマにしているのなら、題名は「ある一日」にでもなっていただろう。

日にちを限定するために、「其の」としたのだろう。感覚的には英語のaとtheの違いといったところか。

「立つ鳥」では徳川綱吉により抜擢された勘定奉行の荻原重秀を主人公とし、その荻原重秀が新井白石によって権力を奪われる日の前日を描いている。権力者が権力を失う直前の姿を描いている。

「蛙」は、箕輪心中として知られる事件を題材とした作品。

主の藤枝外記が遊女・綾衣と相対死してからの一日を描く。この一日で妻・弥津は、今まで知らなかった事実を次から次へと突きつけられることになる。

「小の虫」は寛政時期の戯作者・恋川春町の息子を主人公とした作品。

息子の寿一郎がそれまで知らなかった自分の出生にまつわる話や、父の話を聞き、衝撃を受けるという物語である。

「釜中の魚」は桜田門外の変の前日を題材としている。

このように、四人の主人公にとって、まさに「特別な一日」を描いた作品集である。

内容/あらすじ/ネタバレ

立つ鳥

彦次郎は追いつめられていた。将軍も体調がすぐれず、彦次郎をかばいきる力はなさそうだ。

そのことが家臣たちにも伝わり、中間などは辞めるに際して行きがけの駄賃とばかりに蔵あらしをする始末。古参の下僕・吉蔵までが立ち働かなければならないということは、相当浮き足立っている証拠である。妾たちも、子を連れて屋敷を出した。

世間では、彦次郎の行った改鋳を悪くいう。あまつさえ、それで私腹を肥やしたとの噂まででているそうだ。そんなことはない…はずだった。これを新井君美(白石)が糾弾して、彦次郎を追いつめている。

屋敷の中で一人、彦次郎を心から心配している人物がいた。正妻の登勢である。

四千石の旗本藤枝家。この日、突然玄関の方が騒がしくなった。弥津は一体何事だろうと思う。昨年(天明四年)、殿中で若年寄の田沼意知が斬られるという事件があったばかりである。

慌てて表にでた弥津。すると、藤枝家の主であり、弥津の夫である藤枝外記教行が腹を切ったという。しかも、吉原の馴染みの女を斬り殺したあとのことだという。弥津は夫が廓通いをしていることすら知らなかった。

ともかくも、今は藤枝家を存続させるために奔走すべきである。弥津の実父が駆けつけたりし、善後策を練っていた。

そうした中で、弥津は姑の本光院の本当の気持ちを知り、驚愕する…。

小の虫

小島藩に仕える倉橋寿一郎。幼い頃に父が死に、相次ぐように祖父までを亡くしている。最近はこの事について何となくすっきりしないことが多い。というのは、江戸詰家臣の多くが自分を回避し、または忌避、扱いかねている節がある。なぜだかわからない。

この日、寿一郎は長馴染みの外木長右衛門に誘われ、外出することにした。

すると寿一郎は見慣れない町人から声をかけられた。その町人は鱗形屋孫兵衛と名乗った。そして、孫兵衛は父のことをよく知っているという。

そこで初めて寿一郎は孫兵衛から父の知らない側面を知ることになった。父・倉橋寿平は黄表紙を多く書いており、人気もあった恋川春町だという。

謹厳実直な父しか知らない寿一郎にとって、このことは驚くべきことだった。そして、この日、寿一郎は次々に新しい事実を知ることになる。

釜中の魚

可寿江は足早に走っていた。そして井伊家の上屋敷の表門が見える場所まで北。可寿江はおとつい江戸に来たばかりである。

可寿江は井伊直弼の懐刀・長野主膳に連絡を取って、直弼に危機が迫っていることを知らせに来たのである。だが、肝心の長野主膳をつかまえられない。

可寿江は心が落ち着かなかった。というのも、直弼は可寿江にとって忘れられない恋の相手だったからだ。寵愛されたのは、二十年も昔のことである。

本書について

諸田玲子
其の一日
講談社文庫 約二五〇頁
短編

目次

立つ鳥

小の虫
釜中の魚

登場人物

立つ鳥
 彦次郎(荻原重秀)
 吉蔵
 大木左馬之助
 登勢…妻
 幸
 志津江


 弥津
 富江…側仕え
 本光院(淑子)…姑
 山田肥後守利濤…弥津の父
 藤枝外記教行
 綾衣…遊女

小の虫
 倉橋寿一郎
 倉橋寿平(恋川春町)
 外木長右衛門
 佐代
 鱗形屋孫兵衛
 おたみ
 平沢常富(朋誠堂喜三二)
 みさご

釜中の魚
 可寿江
 帯刀
 井伊直弼…大老
 長野主膳

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