藤沢周平の「喜多川歌麿女絵草紙」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

★★★★★★★★☆☆

連作短編。それぞれの短編には基本的に歌麿が描く美人絵の女が登場する。その女たちの素顔が、様々な出来事を通して現れるのを、歌麿の視点から見るという構成になっている。

一方で、太い幹が別にある。それは、後に南総里見八犬伝の著者としても有名になる滝沢馬琴を歌麿の相方として登場させ、歌麿のいた時代の絵師の移り変わりを描こうとしているものである。

本作は歌麿が人気・実力ともに絶頂にある時分を描いている。だが、歌麿自身は筆が痩せているのを感じている。長い間の血の滲むような研鑽の重ねて掴んだものが、掴んで自分のものにした瞬間から、離れていくような感覚を感じている。

そこに、写楽という非凡な絵師を登場させることによって、再び歌麿に情熱を吹き込んでいくのである。それは、本書の最後の場面にとても印象的に描かれている。最後の場面で、淫靡な情念の炎が歌麿の中に静かに灯るのを感じてもらいたい。

内容/あらすじ/ネタバレ

歌麿はおこんを描いている。おこんは鈴屋の茶汲み女である。今日は、おこんを描くのをこれくらいにして歌麿は家に戻った。

帰ったら、耕書堂の番頭がやって来たという。番頭は戯作者になるのがのぞみの滝沢馬琴という名前だった。馬琴の用事は、歌麿に役者絵を描かないかという打診だった。だが、歌麿は美人絵にしか興味がない。そこで、この話を歌麿は断っている。

蔦屋が役者絵を描けといっているのは、老中松平定信の改革による影響で、役者絵と相撲絵が取締りの対象外となったからである。美人絵などは取締りの対象になるのだ。

そこで、他の版元は役者絵に本腰を入れ始めている。蔦屋は他の版元の動向を見て、売れると確信しているのだ。だからこそ、自分にも役者絵の打診をしてきたのは歌麿にも分かっている。

馬琴の主人である蔦屋重三郎によって歌麿は世に出た。その恩義は忘れていないが、それとこれとは話が別だとも思っている。

蔦屋は改革の時に一度大きな痛手を受けている。その時以来、何やらかわったように歌麿には思えた。咎めを受けた人間でないと分からない恐さを見たのかもしれなかった。

しばらくして、久しぶりに馬琴に会うと、蔦屋重三郎はまだ役者絵を諦めていないという。他に絵師を見つけたらしい。だが、馬琴はそれ以上のことを知らなかった。

というのも、馬琴は耕書堂を辞めて婿入りすることになったからである。馬琴の婿入りは物書きに専念するためのものであるという。歌麿はこの内に鬱々としたものをためながら、戯作者になる夢を見続けている馬琴という男を不思議に思うのだった。

…その後、歌麿は蔦屋重三郎と会う機会を得た。蔦屋が歌麿を呼んだのは、ある絵を見てもらうことが目的だったようである。歌麿の絵師としての評価を聞きたかったのである。その絵は、蔦屋が役者絵を描かせているという絵師のものだった。

絵は、絢爛たる役者絵ではなかった。いきなり役者の素顔を突きつけられるような絵だった。だが、そこにあるのは間違いなく非凡の絵であった。絵師の名は写楽といった。

本書について

藤沢周平
喜多川歌麿女絵草紙
文春文庫 約二四五頁
連作短編 江戸時代

目次

さくら花散る
梅雨降る町で
蜩の朝
赤い鱗雲
霧にひとり
夜に凍えて

登場人物

喜多川歌麿
千代…女弟子
花麿…弟子
竹麿…弟子

蔦屋重三郎…耕書堂の主人
滝沢馬琴…耕書堂の番頭
辰次…岡っ引

石蔵…若狭屋の番頭

おこん…「さくら花散る」
おくら…「梅雨降る町で」
お糸…「蜩の朝」
お品…「赤い鱗雲」
おさと…「霧にひとり」

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