藤沢周平の「回天の門」を読んだ感想とあらすじ(面白い!)

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覚書/感想/コメント

★★★★★★★★★☆

清川八郎。幕末の志士の中で、策士、山師、ペテン師のイメージが出来上がってしまっている人物を主人公としている。

あとがきで、藤沢周平はこうしたイメージははなはだ誤解されたものであると言っている。本書を読めば、その言わんとしていることは分かるはずである。それでは、なぜこのようなダークなイメージが出来上がったのか。

それは、一つには清川八郎が幕府や藩といった組織の中の人間ではなかったこと。つまり草莽の志士だったためであると藤沢周平はいう。

清川八郎よりもたちの悪い策を弄した志士たちはいた。だが、いずれも藩の人間であった。この差が決定的に清川八郎に不利に働いたのだ。

藩に属する人間の言説は、もしかしたら藩が動いてくれるかも知れないという期待感を抱かせる。仮に藩が動くことがなくとも、それは藩上層部のせいであると転嫁できる。不満を藩上層部へ逸らすことが出来るのだ。

それに比べて、何のバックグラウンドも持たない清川八郎の言説は、実現の可能性のない砂上の楼閣に映る。不満は清川八郎にしか持って行きようがない。

もう一つは、登場する時代が早すぎた。まだ倒幕の気運が高まっていない時期に、清川八郎は倒幕をもくらんでいた。早すぎる思想には一部の人間しかついていけない。その他大勢の人間には感覚的に理解できないのだ。時代に先んじる人間の不幸がここに出ている。

だが、気運が高まってから登場していたのでは、歴史にその名を残すことはなかったであろう。その他大勢の志士に埋もれてしまった可能性が高い。皮肉なものである。

内容/あらすじ/ネタバレ

羽州田川郡清川村の斎藤元司は村の素封家で酒造りをする家の跡取りである。この土地は十四万石酒井家が支配する荘内藩の土地である。元司は後年、清川八郎と名乗る。

元司は若年から遊郭に出入りするような遊蕩児であった。本人にもその自覚がある。とうてい斎藤家の跡を継ぐことが出来ないと思ってもいる。その一方で、そんな己に怖さも覚えている。だから、進んで学問を修めようと思った。

元司は学問をする傍ら、家を訪ねてきた絵師・藤本津之助に様々のことを聞いた。それは学問のことのみならず、江戸のことであり、さらには外国のことであった。藤本津之助はこれらにとどまらず元司に影響を与えた。それは、元司に剣術を学ばせることに繋がる。

剣術を始めた元司は道場の人間から阿部千万多の話を聞く。阿部千万多は足軽の軽輩の出だが、学問が出来た。それを成就させるため、藩を欺き江戸へと遊学してしまう。元司はこの話を聞いて興奮した。

江戸に出た元司は阿部千万多もいた東条塾に入塾した。やがて元司は東条塾において頭角を現わすようになった。しかし、学問だけに没頭できる時間はすぐに消え去った。弟の熊次郎が死んでしまったのだ。故郷に戻り、鬱々とした日々を過ごす元司は、やはり学問の道が忘れられなく、期限を区切って遊学を許してもらう。

元司は江戸に直接は向かわず、いったん諸国を巡ることになった。その中で痛切に感じたのが、剣術のことである。一時は剣術にも熱を入れた時期があったが、最近はめっきりと稽古をしていない。

江戸に戻って元司は東条塾の隣の千葉道場に入門する。激しい稽古をしつつも、学問をおろそかにすることはなかった。元司は剣術も学問も長足の進歩を遂げていく。元司は胸に一つの願望を抱いていた。剣術と学問の両方を教える塾の看板を掲げる。これである。

江戸にペリー提督が率いるアメリカ東インド艦隊が現れた。幕府は混乱状態になり、庶民の混乱はさらにひどかった。この頃、元司は清川八郎と名乗り始めた。自分の塾を開くときのために名を改めたのだ。そして、念願の清川塾を開く。だが、清川八郎は、塾を開いているような時勢だろうかと思う。時代は変わろうとしているのではないだろうか。そう思えるのだ。

安政の大獄を断行した大老・井伊直弼が水戸浪士に殺される事件が起きた。この話を聞いた清川八郎は慄然とした。名もなき者たちが天下を動かしつつある…。

そして、清川八郎に見えてきたものがあった。それは幕府にかわる新しい政治の仕組みであった。そして虎尾の会という志を同じくするものの密会を作った。八郎の心にあるのは倒幕であった。

本書について

藤沢周平
回天の門
文春文庫 約五六〇頁
長編 江戸時代 清川八郎

目次

遊蕩児
旅絵師
色町の秋
出奔
定めなく
北辰一刀流
江戸清河塾
めぐり逢い
遠い嵐
淡路坂
大転回
土蔵の中
男の首
逃避行
妻恋い
星ノ湯宿
風雲の時
伏見寺田屋
東方の策
浪士組西へ
勅諚一件
麻布一ノ橋

登場人物

清川八郎(斎藤元司)
蓮(高代)…妻

斎藤治兵衛昌義…祖父
斎藤豪寿…父
熊次郎…弟
熊三郎…弟

畑田安右ェ門…給人
藤本津之助…絵師

山岡鉄太郎…幕臣
松岡万…幕臣
樋渡八兵衛…薩摩藩士
伊牟田尚平…薩摩藩士
神田橋直助…薩摩藩士
西川
北有馬(中村貞太郎)
安積五郎…東条塾の後輩

田中河内介…諸大夫

村松大成…肥後藩士
平野次郎国臣…肥後藩士
宮部鼎蔵…肥後藩士
河上彦斎…肥後藩士
真木和泉守

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