藤沢周平の「夜の橋」を読んだ感想とあらすじ

覚書/感想/コメント

★★★★★★★☆☆☆

本作は市井ものや武家ものが取り混ぜられている短編集である。ベースになるのは江戸時代であり、時代小説が中心だが、中には「孫十の逆襲」のように関ヶ原の戦いの後を描いた作品や、「一夢の敗北」の吉田次左衛門一夢のように史実の人物を扱った短編もある。

バラエティに富んだ内容となっている。また、暗い結末のものと、希望のある結末のものとが、ほぼ同じくらいあり、バランスがとれているように思える。

内容/あらすじ/ネタバレ

鬼気

奉納試合は今年も雨宮道場が勝った。徳丸、鳶田、平野という高弟が一人も欠けなかったからである。

その彼らが数日後に酒を飲んだ。驕るというわけではないのだが、今の彼らに勝てる者は城下にいないと思っていた。年上の人々の中でも優れた人はいるのは確かだろうが、なにせ年を取っている。その中で徳丸がふと細谷久太夫を話題にのせた。

この酒席の隣部屋にたまたま物頭の保科弥五兵衛がおり、三人の話を聞いていた。保科は細谷久太夫に関する噂や自ら見た事柄を話した。
三人は細谷に関する話を半信半疑で聞いていたが、それならと、ある事を考える…
 

夜の橋

民次が裏店に戻ると、おきくが来ていたという風に隣の女房が話しかけてきた。おきくは民次のところを出たのだが、出たくて出たわけではなかった。

民次は自分が悪いのが分かっている。誘われて博奕に手を出したのが悪かったのだ。民次はおきくに一度会ってみようと思った。

おきくが民次に話したのは、おきくに縁談が持ちあがっているというものだった。相手は薬屋の番頭だそうだ。いい話じゃないかと思っていたが、その番頭をあるところで見かけることになった。
 

裏切り

幸吉は研師である。その親方の娘・おまちは出戻って、実家にいる。嫁ぎ先で体を壊したのだ。幸吉は、それを考えると、自分の女房・おつやにもあまり長くは働かせておけないなと思うのだった。

家に幸吉がもどると、まだおつやは戻っていなかった。じきに戻ってくると思っていたが、おつやが戻ってきたのは死体となってだった。殺されたのだ。一体誰に?
 

一夢の敗北

吉田次左衛門一夢は米沢藩で一刀流の達人として知られている。一夢にはいろいろな逸話があり、それらを藩主・上杉鷹山にも話していた。

その一夢が六八の時。藩には色々なことが起きていた。その中の一つで、江戸の儒・細井平洲を招くという話があった。

一夢にはそのあたりの学問の話は分からないが、藩にとって好ましく思われない人物がやってくるというのだけは分かった。そこで、この話を邪魔してやろうと思った。
 

冬の足音

叔母のおよしがやって来た。またお市に縁談を持ってきたのだ。以前に二回ほど断っている。だから、今度は断りにくかったが、お市は気が進まない。

一度、時次郎に会ってみよう。そうお市は思った。時次郎は以前家で働いていた職人だった。だが、ある日突然辞めたのだった。お市は時次郎を探す間に様々な事柄を知ることになる。
 

梅薫る

娘の志津がやってきた。またかと奥津兵左衛門は思った。妻の波江がいうには身籠っているらしい。それにしても、と思う。娘は保科節蔵に嫁いだ身である。度々実家に戻っては相手に申し訳ないと思うのだった。

もともと志津は江口欽之助の所に嫁に行くはずだった。それがある理由により取りやめになり、保科に嫁いだのだ。その理由は志津には教えていない。そのことが志津にわだかまりを残しているようだった。
 

孫十の逆襲

関ヶ原の戦いがあった後のこと。孫十が村の世話役である仙右衛門に呼ばれた。何の話かと思っていると、野伏せりが現れて近く野村が襲われたという。

そこで、頼りになるのは孫十だという。びっくりする孫十だが、なにせ戦にいったことのなるのは孫十だけだからというのだ。
だが、孫十には村人も知らない過去があったのだ。だから、頼られても困ってしまうのだが…
 

泣くな、けい

相良波十郎は、酒の勢いもあってけいを無理矢理に手籠めにしてしまった。そのことはすぐに波次郎に後悔の念を呼び起こした。妻の麻乃が病に倒れている時のことだった。麻乃はしばらくして死んだ。

このことがあってからしばらくしてのこと。藩の蔵にあったはずの剣が一振り見あたらないことが判明した。その原因は波十郎にあった。剣は研ぎに出して返したはずなのだが、その時の返却には妻の麻乃にまかせたのだ。だが、麻乃が返していなかったらしい。

剣の所在は知れた。だが、隣国であり、また、このことがもとで波次郎自ら掛け合いに行くことが出来ない。そこに突然頭によぎったのがけいだった。そうだ、けいに掛け合いをさせてみよう。
 

暗い鏡

鏡職人の政五郎を姪のおきみが訪ねてきた。用があるというわけでもないようだが、伯父の家だから顔を出しているという程度なのかも知れなかった。おきみは木綿問屋で住み込みで働いているということだった。

そのおきみが殺された。そして、おきみが実は木綿問屋で住み込みとして働いているのは嘘だったのが分かった。おきみは自分の家に客をとる娼婦になっていたのだった。政五郎は今まで親身になっておきみを思ってこなかったことを後悔した。しかし、一体誰が?

本書について

藤沢周平
夜の橋
中公文庫 約三二〇頁
短編集
江戸時代
 

目次

鬼気
夜の橋
裏切り
一夢の敗北
冬の足音
梅薫る
孫十の逆襲
泣くな、けい
暗い鏡

登場人物

鬼気
 徳丸弥一郎
 鳶田勇蔵
 平野作之丞
 保科弥五兵衛…物頭
 細谷久太夫
 
夜の橋
 民次
 おきく
 兼吉…番頭
 
裏切り
 幸吉
 おつや…幸吉の女房
 おまち…親方の娘
 長次郎…幸吉の幼馴染
 
一夢の敗北
 吉田次左衛門一夢
 細井平洲
 
冬の足音
 お市
 お辰…母
 およし…叔母
 時次郎
 
梅薫る
 奥津兵左衛門
 波江…妻
 志津…娘
 保科節蔵…志津の夫
 江口欽之助
 
孫十の逆襲
 孫十
 ちよ…娘
 助蔵…婿
 仙右衛門…村の世話役
 平作
 
泣くな、けい
 相良波十郎
 けい
 中津清之進
 牧弥一右衛門…御納戸奉行
 
暗い鏡
 政五郎
 おはま…女房
 おきみ…姪
 亀次郎